表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/7

草刈り

 一行は峠道を徒歩で登り山の中に分け入ると麓から見えた草原地帯を目指す。


「ああ……当たりだな。痕跡が山程有りやがる」


「それよりも草原地帯が思ったよりも背丈があるな。コボルトの背丈よりも高いから接近に気付きにくいな。おいバンドこの草むらを魔法で焼き払え無いか?」

「山火事でお尋ね者になっても良いなら頑張るけどねぇ」


 パーティーの戦力としては長物、遠距離魔法、弓使いがいるので出来れば拓けた場所での戦闘が望ましいが、戦闘と言うものは常にこちらの都合通りには進まない物である。ストックは一度森林の中まで引き返す事を考えていると、デオルグがまたおずおずと手を挙げた。


「あの……この草むらくらいでしたら、草むしりのアルバイトをよくやっているので僕が……」


「いやいや、気を使ってもらうのはありがてぇが、今は危険地帯に入り込んでんだ。アルバイト感覚でいられると……」

「デオルグ頼むわ」


 ストックがデオルグの甘い考えを諌めている途中でバルブが遮る様に指示を出す。


「バルブ!」

「いいから……デオルグやってくれ」


 デオルグはストックとバルブの顔を交互に見ながら躊躇をしていると、ストックの諦めた様な溜息と頷きをGOサインが出たと判断をして一人で草むらに分け入った。

 デオルグの後ろ姿が草むらで見えなくなるとストックがバルブの胸倉を掴み上げ、山の中で木霊しない様に声を潜めて怒鳴りつけた。


「バルブ! 手前ぇ何のつもりだ?」


「すまねえストック。だが今回だけだ。今回だけは俺の勝手を許してくれ、デオルグの重要性は現場に出て奴を自由に動かさないと解らないんだ。あいつの元居た腐れパーティーの内偵で張り付くまでは俺も解らなかった。こんな我儘をストックが許してくれるのは今回だけだと俺も自覚している。だから……頼む」


「ちっ……。良いか?指示を出すのは俺だ!俺はその指示に命を賭けているんだ。間違った指示を俺が出してお前らの命が脅かされた時には俺が命を賭けてお前らを逃す。そこまでの覚悟でやっているって事を忘れるなよ」


「あの……」


 一触即発の二人の空気を分かつ様にデオルグの弱々しい声がかけられた。


「あの……草刈りなんですが……」

「諦めたか?」

「いえ、終わりました」

「それ見た事か、じゃあさっさと……終わった?」


 ストックがデオルグの言葉を聞いて草原地帯に振り向くと、広大な草原地帯の半分が綺麗に刈り取られて、さっきまでは見えていなかった湿地部分や突出した岩までが露わになっていた。


「何があったんだこれは?」


 信じられない光景にストックがワナワナと唇を震わせていると、一部始終を見ていたらしい魔法使いのバンドが説明を始めた。


「いやあ初めて見たよ、広域の複合魔法だねこれは、土属性の魔法で地形をスキャンしながら風属性魔法で一気に刈り取ったんだね、見てよ凹んだ所も盛り上がった所もみんな一定の長さで刈り取られているよ。芸が細かいねえ……しかも兎が数頭逃げて行ったのが見えたから草だけを狙って刈り取ったのかな?僕には真似出来ないね」


「いえ……威力が弱くて兎を殺す程の力も無いんです……だから雑草刈りや麦の刈り取り位しか役に立たなくて……」


 恥ずかしそうにデオルグは頭を搔くが珍しい魔法を見たバンドはご機嫌だった。


「まあ、何と言うか、助かりはするんだが素直に褒めにくい仕事なんだよなあ……」


 ストックは驚いてはいるが複雑な表情である。


「ああ、デオルグよ、このままここで待ち狩をしてある程度の数を削ってから集落にと思うんだが、何か俺達に注文と言うか……作戦みたいな物があるか?無ければいつも通り突っ込もうと思ってるんだが」


 今回に限って様子のおかしいバルブの我儘に付き合おうと決めたストックはデオルグに狩の方針確認をする。


「なあ、デオルグ。もしお前がこのパーティーに居て俺達を活かそうと考えたらどんな作戦があると思う? お前は今自由なんだ!失敗しても俺達が全力で協力してやるし、役立たずと罵って怒鳴ったり殴ったりする奴は一人も居ない。俺達はお前を信じるからお前も俺達を信じてくれ、お前の戦力は解っているし敵を殺せないからと言ってサボっているなんて絶対に言わないから、お前なりの出来る仕事を見せてくれないか?」


 デオルグがバルブの迫力にタジタジと後ずさりしながら、ストックに助けを求める視線を送るがストックも腹をくくったらしく口を真一文字に結び目を瞑っている。


「あ、あのじゃあ……引き狩とかどうでしょう?」

「引き狩か?俺が囮になって引いて来れば良いのか?」

「あ、いえ、相手はコボルトなので引き寄せの方法はいくらでもありますので、これから下準備だけしちゃいましょう」


 気のはやるバルブを落ち着ける様にデオルグは森の中にゆっくりと入って行った。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ