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ハウスキーパー

短め

 一夜明け男鰥(おとこやもめ)の吹き溜まりである『閃光』パーティーの借家では朝から何時もと違う様相にリーダーのストックは戸惑っていた。

 広くて家賃が安いだけが取り柄の借家がピカピカとまでは言わないが、普通の人間が普通に暮らせる程に掃除がなされている事に『閃光』の面々は驚かされていたのだ。


「一宿一飯の恩がありますので、金も技術も無い僕が皆さんの為に返せるとしたらこれ位しか無いのです」


 デオルグは恥ずかしそうに麦粥をテーブルに並べた。


「朝に外の掃除をしていたら以前収穫のアルバイトをした時にお世話になった旦那さんと出くわしまして、『赤い風』を抜けたお祝いにと分けていただきました」


 朝から食事をする習慣の無い面々も鍋から立ち上る湯気に気圧される様にもそもそと食べ始めた。


「美味ぇ……」

「本来農家さんしか食べられない新鮮な野菜が入ってますからね力が出ますよ」


 エルフのウエイト以外は野菜が苦手な連中ばかりだが、野菜と言えば家畜の餌としか考えていなかった連中にはカルチャーショックを与える様な食事だった。


「精霊達が喜んでいる」


 食事を終えたウエイトがお礼なのか報告なのか解らない言葉をかけてデオルグに手を合わせた。


「お兄さんご馳走様! ハウスキーパーとしてうちのパーティーに雇われない?」


 昨日ソファーで寝ていた十代後半に見える若い魔法使いのバンドが人懐っこい笑顔でデオルグの背中をパンパンと叩いてお礼を言うが、端っからハウスキーパーとしか見られていない事にデオルグはチクリと胸の奥を痛めた。






『閃光』の面々はギルドにてCランクでも難易度の高い部類に入るコボルト集落の殲滅依頼の受注登録を済ませ、山二つ向こうにある現場へと向かっていた。


 馬車を借り切って。


「いやあ、デオルグ良かったなあ、俺も見兼ねてギルドに何度か伝えていたんだがな、本人の訴えが無ければ動けないとかぬかしやがるんだ。商工会の集まりでもデオルグの話題ばかりでよう、みんな心配してたんだぜえ?」


 御者の中年男が前も見ずにしきりにデオルグへと話しかけている。

 そもそも身体が資本の冒険者達が馬車をチャーターすると言う事は余程の事である。


 金と時間と距離の擦り合わせで、馬車が無くてはどうしようもない事態にならなくなってはじめて値切りに値切ってチャーターする物である。

 ギルドで受注登録をかけた途端ギルドの表で馬車が横付けされていたので『閃光』の面々は驚きで言葉を失った。



「デオルグ! 話は聞いたぜ! 俺からの祝いだ今回は無料で乗せて行ってやるから、偶にはウチの店にもアルバイトに来てくれよ!」




 リーダーのストックはデオルグと御者の話の端々を聞きかじり今朝の朝食の事を思い出す。


「俺、依頼で馬車に乗るなんて初めてだ」

「当たり前だ。リーダーの俺が初めてなんだからな……」


 何処か居辛そうにストック達がもじもじとしている間に山二つ分の時間は過ぎ去って行った。


「じゃあなデオルグ!帰って来たら顔出せよ!怪我なんかするなよ!」


 騒々しい御者の中年男が町へと引き返して行き、山の中で残されたストック達は予定を大幅に短縮された事に戸惑いを隠せなかった。


「と、取り敢えずまだ日は高いしな……コボルト集落の下見でもして野営場所でも探すか……バルブ、集落の方向は大まかにでも解るか?」


「解る訳無いだろう?まだ山の中の痕跡一つ見つけて無いんだ。半日山の中を駆けずり回って痕跡を探した結果、集落の位置を大まかに割り出すのが斥候だぜ?」


「まあ、そう言うもんだよな、解ってて言ったから気にすんな。取り敢えず安全な街道沿いに拠点を張るか」


 ストックが背中に背負った荷物を降ろそうとした時にバルブがデオルグに向かって話題を振った。


「デオルグ、どう思う?」


 素人同然のデオルグに意見を求めるバルブにストックはポカンと口を開けて呆れてしまう。


「お、おいバルブいくらなんでも……」

「あ、あの……」


 デオルグがおずおずと手を挙げて何かを言おうとしているのを見て、生き死にのかかる現場で素人同然の男が意見を言う事にストックは一瞬頭に血が上ってしまうが、実際今朝からデオルグの恩恵にあずかっている事を思い出すと、ぐっと言葉を飲み込んだ。


「行商人の方々が結構被害に遭われていて、皆さんが言うには走っている最中では無く。小休憩や馬に水を与えている時に襲われているんですよ……」

「だからどうしたって言うんだ?」


 ストックが苛つきを抑えながらデオルグに話を合わせる。


「いえ、あの。峠道で小休憩や馬に水を与える時って、これから急斜面を越える時なので……峠道の中腹の辺りで馬の脚を溜めているる所を襲われたのかな?とか……中腹近辺ってあの辺ですよね?少し左に山に入って行くと平らで木の少ない草原みたいな場所が見えるな……って」


 デオルグが指を指す方向を全員見て頷く。


「だ、だからってコボルト集落があそこに在るって言うのには弱いな」


 ストックは首を振る。


「あ、いえ……あの草原の際のあたりに群生している木って……サトウカエデの木に見えませんか?」

「何!?」


 デオルグの言葉にストックが目を凝らして見ると確かにサトウカエデの群生地に見える。

 コボルトと言えばサトウカエデの樹液が大好物で、その群生地には大抵コボルトがウロウロしているのは子供でも知っている事である。


「あ、あの余計な事を言って……」


「デオルグ! ここではお前の意見を聞いて殴り飛ばす奴は居ない! 大丈夫だ。ありがとう大収穫だ。な? ストック」


「あ? お、おう確かにな。依頼を受けてから集落の場所の目当てがつくのに五日は覚悟していたが、依頼を受けてから半日も経ってねぇ、正直助かったぜ」


 デオルグの肩を叩いて励ますバルブの勢いにストックは戸惑いながら礼を言った。



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