ホモ禁止
その日Cランクパーティー『閃光』のリーダーであるストックは苛ついていた。
Cランク以上のパーティーに課せられる義務であるところのギルド指名依頼に、パーティーの目とも言える斥候担当を一ヶ月間も引き抜かれていたと思ったら、その斥候担当がお荷物を拾って帰って来たのである。
パーティーのリーダーとして運営上必要なのは何と言っても金だ。
生臭い話ではあるが金が稼げなくてはパーティーが成立しない、金が稼げないのが原因でパーティーが潰れる事も良くある事なのだ。
それなのに無駄飯食いと言っても良いくらいの気弱そうな男を引き連れて、明日Cランク依頼であるコボルト集落の殲滅に行くと言い出したのだ。
リーダーとして沢山言いたい事はあるのだが、ストックの口からこぼれ落ちた言葉は一つだけだった。
「舐めた事を言ってるとぶっ殺すぞ」
グイッと酒を呷ると斥候担当のバルブを睨み付ける。
「聞いてくれよストック! これは同情や感情の話じゃ無ぇ! 『閃光』の未来の話だ! もし、デオルグが使えない奴だって言うなら俺が責任をとって『閃光』を辞めても良い! と言うよりもデオルグの必要性を理解出来ないリーダーなら『閃光』の未来は無ぇ!」
バルブの煽るような台詞にストックはギロリと目を剥いた。
「それだけ推しているのにも関わらずだ。ソイツの役割を説明出来無ぇお前にも理解が出来ないんだよ」
「明日だ! 明日一日だけで良いデオルグの動きを見てやってくれ! それでもまだデオルグの仕事が理解出来ないって言うのなら……俺も考えさせてくれ……」
斥候と言う職種柄なのか何時もは口数の少ないバルブが、熱に当てられた様に大声を張り上げる姿に若干気圧されたストックが渋々頷くと、バルブはヒョロリとした体型のデオルグの肩を抱き寄せて無邪気に喜んでいる。
当の本人はオドオドとして明日のコボルト殲滅依頼に対しても消極的である事から、バルブのコネを使って無理に『閃光』に参加する事を願った訳では無い様に見えるので益々ストックは混乱していた。
「はあ……それでお前はパーティー内でどんな仕事をこなせるんだ?」
ストックが殲滅依頼にむけて擦り合わせを始めると更に不可解な事が浮かび上がる。
魔法は各属性使えるが、火属性は焚き火を起こせる程度、水属性は掃除洗濯に使える程度、土属性は一メートル程の穴を掘る程度、風属性に至っては雑草を刈る程度。
「金持ちの家でハウスキーパーでもやってた方が良いんじゃ無ぇのか?」
ストックの率直な意見にデオルグは恥ずかしそうに頭を掻いた。
「武器は何を使うんだ?」
武器と言える様な物は何一つ使えずにロープの先にフックが結び付けられた物を見せられた。
「離れた所にある薬草や討伐済みの魔獣の死骸を引っ掛けて引き寄せる? それは武器じゃ無ぇだろ? ああ、それと今懐から出したそのナイフは武器じゃ無ぇ解体用のナイフだ」
そこまで話した所でストックはデオルグの性能を粗方理解して、明日のコボルト殲滅依頼は接待討伐として割り切った。
接待討伐とは貴族や金持ちのお坊ちゃんの粉飾履歴のお手伝いである。
勇ましい履歴を公的に残したいお坊ちゃん達と、金銭的に美味しい依頼を受け付けたいギルドの利害が一致する事によって生まれた特殊な討伐依頼であるが、お坊ちゃん達に怪我をさせない事が第一とされる難易度の高い依頼の一つである。
「あー……大体理解した。こっちの面子も紹介しておくぞ。先ずはお前を引っ張り込んだ斥候担当のバルブだ。得物は短剣と投げナイフだな」
バルブがデオルグに向かってヒラヒラと手を振った。
「そしてさっきからお前さんの横で眠っている様に目を瞑っている無駄に顔の良い男がエルフのウエイトだ。得物は弓と偶に精霊魔法を使う」
ウエイトはデオルグに視線を向けずにこっくりと頷くだけで挨拶をする。
「そしてソファーの上でガチで寝てやがるのが魔法使いで火と水と土属性を持つバンドだ……起きろこの野郎!」
ストックがバンドに向かって木製カップを投げつけると、こちらに背中を向けているのにも拘らず空中に石版を出して木製カップを弾き飛ばした。
「そして俺が『閃光』のリーダー。ストックだ。得物は剣と盾……明日は宜しくな」
ストックは大きく溜息を吐き天井を仰ぎ見る。
デオルグは居た堪れない空気に俯くとバルブが上機嫌で甲斐甲斐しく食い物を運んでデオルグに勧め始めた。
「ああ、後、うちのパーティーは男色も禁止だからな……」
バルブに対する精一杯の嫌味の答えは首元を掠めた投げナイフだった。