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第九話 マンドレガ学長の友人たち

 エリサを家へと送った後、市街地の中央付近にあるマンドレガ学長のお屋敷へと向かった。


 ちなみに、エリサの家は事前の予測通りというべきか、当たり前と言うべきか、非常に金がかかっていそうな、城塞と称すべきようなお屋敷だった。

 なんでも、父親の首都での拠点らしい。

 さすが、半独立国家ともいえる辺境伯爵の中でも強大な力を持つ御仁、ともいえる。

 ちなみに我がユンカース家には、そもそも、領地以外の拠点はなく、首都なんぞには、今までの人生で足を踏み入れたことはなかった。

 そう考えると、今、僕がこうして首都で勉強ができるのは師匠のお陰かもしれない。感謝しないと……、と思った数秒後に悲惨としか形容しようがない弟子時代を思い出して、美化されていきそうな思い出、綺麗な感傷を頭からあっさりと振り払う。


 さて、今日、僕が向かっているのはマンドレガ学長のお屋敷だけど、さすがに、エリサの家と較べると小さい。まぁ、比較しちゃダメだとは思う。

 しかし、それでも、一般的な貴族の屋敷と比べてみれば、かなり大きな屋敷だと思う(そんなに多くを知っているわけではないが)。


「ごめんください」


 入り口から、庭を抜けて、玄関のドアをノックすること、暫し待つ。

 少し時間が経った後に、玄関が開き、中から初老の男性が現れた。


「お待ちもうしておりました、ホイラー様。どうぞ、中にお入りください」


 この男性はマンドレガ学長に仕える家令だそうな。

 そして僕はこの家令に促されて、屋敷内へと案内された。

 僕が案内されたのは、奥にある応接間。すでに、先客として、部屋には三人のお客さんがいた。

 みんな、各々ソファーに座って寛いでいる。

 でも、残念ながら若い人は一人もいない。結構なお年をめしていた。

 なんとなく、学長と同年代のような気がする。あと、皆さん、結構偉そうだったり、常人ではなさそうな気を発していたりして、なかなかどうして、存在感を発揮している。

 はっきりいって、皆さん、ただ者ではない。

 そして、皆、僕の知らない顔なので、話しかけづらく、結局、会釈をして、部屋の端の方でぼーっと、突っ立っていることにした。


「……ふむ。君、そんなところで立っていないで、私の隣に座りたまへよ」


 身だしなみがきっちりとしている白髪をオールバックにした初老の男性が、隣の席を示して、声をかけてきてくださったので、断りを入れて座らせてもらった。


「一杯どうかね?」


 男性が酒(たぶん、蒸留酒だと思う)を勧めてきたが丁重にお断りした。

 この世界では、僕くらいの年で、祝い酒くらいは飲むが、それでもあんまり、普段から子供が酒を飲むことが推奨されているわけではない。

 僕は学生なので、その辺りは慎重に行動する。


「そうか。ところで、君の名は?」


「はっ、失礼いたしました。ホイラーと申します。マンドレガ先生に本日、お誘いいただき、こうして夕食会へと参上いたしました」


 立ち上がって挨拶をした。


「おぉ、君がホイラー君か! マンドレガから聞いているよ。優秀な学生が入学してきてうれしいとな。……そういえば、まだ名乗っていなかったな。私は首席宮廷魔術師を拝命しているコンスタンツというものだ。まぁ、よろしく頼む」


 そういって握手をしてきた。

 僕はその手を握り返しながら、ふと思う。

 首席宮廷魔術師といえば、十人ちょっとしかいない宮廷魔術師の中でも、そのナンバーワンだ。

 コネとしては悪くないが、変に注目されるのも避けたい。

 この場だけの知り合いにしないといけないと、心の中で気を引き締める。


「コンスタンツ様。お会いできて光栄です」


「そんなに緊張しなくてもいいよ。あと、マンドレガとは実は同級でね。あいつから、すごい入学生が入ってきた、と今回、君のことを聞いてね。是非とも一度、会いたいと思っていたんだよ。というかそもそも、今回のパーティーも君をみんなで一目見ようと開いてもらったんだ!」


 あのくそばばー。

 僕の知らないところで勝手に話を進めて!

 しかし、なんとなく、釈然としないものを感じる。

 なんで、僕なんかに、この人たち会いたいんだ?


「あと、そこで、寛いでいる、剥げて身体中が傷だらけの男は、トニック元准将だ。『鉄鬼神(アイアンオーガ)』という名前には聞き覚えはないかね?」


「あ、あの前大戦の英雄の!」


 子供の頃に聞いたことがある、四十数年前に起こった、北方の新興軍事帝国との紛争で活躍したという軍の英雄の二つ名だ。

 王国の子供で知らぬものがいない名だ。


「あー、ちなみに私も従軍したんだがねー」


 コンスタンツさんが、ちょっと悲しそうに呟いた。

 すみません、名前を聞いたことがないです。


「コンスタンツよ。そんなことで拗ねるのは大人げないぞ。……ホイラー君。自分はトニックと申す退役軍人だ。君は現役だろうから、何かわからないことがあったら、自分になんでも聞いてくれ」


「閣下にお会いできて光栄に、存じます」


 一旦座ったものの、またもや、反射的に立ち上がってしまう。

 ずっと立っていた方が良いのかな?

 あと、敬礼をしようかとも思ったが、まだ学校で正式に習っていないので、変な挨拶をすると恥ずかしいと思いやめておいた。


「あと、そこに座っている女性は……。あー、どう紹介しましょうかね?」


 コンスタンツさんが、ちょっと困ったように初老の女性に声をかけた。


「別に普通に紹介しても構いませんよ。でもまぁ、せっかくだから、自己紹介しましょうかね……。ホイラー君。私はゼラエラ・オーハイム。一応、前国王の妻でしたので、王太后という称号がありますが、今は、一介の老婆ですよ。よろしくね」


 からからと笑う女性。

 薄桃色の短めの髪の毛がなかなかに上品な感じだ。


「は、拝謁の機会を賜りまして……」


「そういうのはいいから。私たちは、まぁ、同じ師を抱く同門だから」


「へ?」


 ついつい、アホな声を出してしまう。


「みんな揃ったかしら。あら? もう自己紹介終わっちゃったの?」


 こ、こいつ……。

 遅くないかね、登場が?

 やっと、学長のマンドレガ女史が現れた。

 お盆に飲み物のグラスをいくつも載せている。


「まぁ、ホイラー君。こんばんわ。もうみんなから紹介されたかも知れないけど、みんな私の知り合い。前大戦の戦友たちね」


 ここで、学長は一息つき、僕の方に笑いかける。


「というよりも、こういった方が早いかしら、私たちは同じ師を抱く同門。……そう。みんなガンフール様のあの地獄の特訓を生き残った元弟子たちよ」


 学長が、片目を器用にウインクしながら言った。


「そして、君が久しぶりの私たちの兄弟弟子、というわけ」


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