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第六話 彼女との再会

「お前、学長のコネで編入学してきたというのは本当か?」


 つまらない入学式が終わり、教室の自分の机でうとうととしていたら、偉そうな男がいきなり、居丈高に聞いてきた。

 それにしても入学式はつらまなかったものの、新入生代表として挨拶をしていた黒髪の女の子は結構可愛い感じだったな。

 で、そんなアンニュイな気分をぶち壊してくれた、目の前で居丈高に聞いてくるこの男に対しては、あまり良い印象をもてそうもない。


 しかも目の前のこいつは、一人でおしゃべりにきたわけではなく、左右に、でかいのと、お調子者っぽいお供を引き連れてやってきている。

 君たちは団体行動がお好きなんですね。


「そういうわけではないんだけどね。どこから、そんなデマを仕入れたの?」


 僕としては肩をすくめるしかない。

 より正確にいうと学長のコネではなく、師匠のコネだが。


「学長が、俺たち中等部進学組に対して、なにかとお前の事を気にかけてやってくれ、なんて直々に頼みにやって来たからな。でも、違うとなるとなんでそんなことをわざわざ学長が、直接、俺たちに言ってきたんだ? おかしくないか?」


 おいおい。ばーさん。余計なことをしてくれるなよ!

 変に目立つじゃないか……。

 しかも、僕に聞かれてもわからないし。


「ぼ、僕の元の学校の先生が、学長と知り合いだったらしくて。……もしかしたら、変に気を聞かせてくれたのかも。全然気にしなくていいよ」


「……とりあえず、高等部編入組のお前たちは、うちの学校のしきたりがよくわかっていないと思うが、あんまりでしゃばるような真似をするなよ! 特にっ! ……いやなんでもない」


 最後の方はちょっと言葉を濁していたので、真意はよくわからないが、まぁ、とにかく、彼等は僕のことが気に入らないらしい。

 そして、先程の言葉を捨て台詞として残して、自分たちのクラスへと戻っていった。

っていか、別のクラスかよ。


「入学早々、チョイスク達に絡まれるとは災難だったな」


 そういって、前の席の、がたいがしっかりした男が声をかけてきた。

 薄い金色の髪を短く刈り込んでおり、見た感じ魔導師というよりは、軍人といった風情だ。


「チョイスク?」


「あぁ。さっきお前に絡んできた、あまり、頭のよくなさそうな男さ。真ん中で、お前に話しかけていたやつ。あいつ侯爵家の出身で、なおかつ、資産家のボンボンというろくでもないやつさ。……あ、俺の名前はバクスター。一応、中等部からの進学組なんで、この学校でわからんことがあったらなんでも聞いてくれ」


 そういって、はにかみながらごつい手を差し伸べてきた。

 見た目は怖い感じだが、人当たりは良いらしい。こいつは出世するタイプだな。


「僕はホイラー。高等部へと編入してきた新参者だ。まぁ、よろしくたのむよ」


 友達になれそうだったので、喜んでバクスターと握手をした。

 やっぱり、ごっつい手だ。

 握手をしたと同時にバクスターが、ふむ、と唸った。


「お前。素人じゃないな……」


 バクスターが、ちょっと警戒した視線を向けてきた。

 さすがに何か言わないといけないと感じる。


「……実は冒険者ギルドに冒険者として登録しているんだ。あんまり、おおっぴらにしたくないので、皆には内緒にしてくれよ」


「あぁ、なるほど、だから戦闘慣れしている幹事なのか。しかしなんでまた、隠しておくんだ? 冒険者としての経験はうちの学校では、マイナスに見られないぞ?」


「単に興味本位で、回りに聞かれたくないんだよ」


「あぁ、なるほどな」


 にやりと、バクスターが笑いかけてきた。

 まぁ、これくらいは情報提供してもいいだろ。全部はしゃべれないが、一部真実を暴露することで、情報を操作するのは基本だ。

 ……ま、まぁ、クラスB(熟練レベル)の冒険者ですとは、言いにくいもんなー。


「あれ? バクスター、新入生ともう仲良くなったの?」


 うーん、男の制服を着ているので、男子生徒だとは思うが、えらく可愛い奴が声をかけてきた。

 薄い青色のショートの髪の毛。ちょっと幼い感じで、中性的な美貌だ。

 いわゆる、男の娘と表現するのが、もっともしっくりするだろうか。


「おう。あ、紹介するぜ。こいつは、プラム。中等部からの腐れ縁だ。別のクラスのやつなんだが、色々と耳が早いやつなんで、何か情報が必要ならば、聞いてみるといいぜ。で、こいつは……」


「ホイラー君だね。よろしく。中等部では、君の事で、色々と噂が立っていたよ。なにしろ、我らが『姫』が、君の事を根掘り葉掘り、調べていたからねー」


「姫?」


「そうそう。我らがオーハイム魔法学校中等部での首席様さ。容姿端麗。性格もいい。それでいて、成績抜群ときて、ついたあだ名が『姫』さ」


 バクスターが、ごつい肩をすくめた。

 しかし、こいつが肩をすくめてもあんまり、かわいくないな……。


「でね。姫が大好きな自称騎士たち、あぁ、さっきからんできた連中とかがね、とにかく面白くないもんだから、色々と僕に聞いてくるわけだよ。その原因を」


「ふーん」


 僕はプラムの言葉を聞き流す。


「で、僕としては間もなくやってくるであろう、姫と君との会合を見物するために、ここにこうしてやって来たわけ。そうすれば真相がわかるかと思ってね」


「僕との会合?」


 割とアホっぽい聞き方になってしまう。

 こいつの言っていることがよくわからなかったから仕方がないと思う。


「そうそう。姫は間もなく、先生方との打ち合わせが終……」


「ホイラー!」


 僕たちが話をしていたちょうどその時、教室の扉が、がーんっ、と大きな音をたてて、勢いよく開かれた。

 クラス中の視線が、扉の方から、まっすぐに僕の方へと小走り近づいてくる少女、いや、美少女と形容すべき女の子に集中した。


 黒髪のセミロング。ところどころ髪の毛が跳ねているのが、チャーミングポイントか。

 この女の子の姿かたち。たしか、式典で挨拶していたなー、などと思い出す。

 でも、どこか、そう、どこか懐かしい感じもする。

 そして、僕の思いでの中のある女の子の姿とダブル。

 あれ、君は、もしかして……。


「も、もしかして、……エリサ?」


 僕の子供の頃の、女の子の友達。

 辺境伯の娘。

 四年も前に別れた女の子の姿に重なった。

 僕の前で立ち止まったその美少女、エリサは、一度だけ泣き笑いの表情を浮かべると、僕にがしっと抱きついてきた。

 さすがに回りの連中から、おぉっ、という歓声とも、ため息ともつかない声があがった。

 しかし、顔を合わせたエリサは、周囲のそんな雑音など気にするそぶりも見せず、目に涙をためながら、僕に向かって満面の笑みを浮かべた。


「ホイラー! 運命が、運命がやっと私たちに微笑んだよ!」


 え? エリサ、何言ってるの?

 とっさに思ったのは、エリサの脳みそが大丈夫か、という問いかけだった。


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