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第四話 奴隷ゲットだぜ!

「世話になったなポスカル。また頼むぞ」


「ガンフール様もお達者で」


「うん。……よし、ホイラー行くぞ」


「は、はい、師匠」


 こうして僕たちは辺境伯の家をあとにした。

 先程までエリサが、師匠に対して一生懸命に弟子入りを願い出ていたが、拒否されていた。

 僕の方をえらく恨みがましい目で見つめていたけど、こればっかりはどうにもならない。

 視線だけで謝罪しておいた。


「ホイラー様。また、私たちお逢いできますよね?」


 ちょっと寂しそうな感じに、エリサが、僕の服の裾を引っ張りながら、上目遣いで聞いてきた。


「はい。エリサ様。またの機会を楽しみにしております」


 そう言って僕たちも別れた。

 ちなみに、今回の骨休めが、まさに骨休めだったと気づくのは、これから続く、地獄のような四年もの長きにわたる師匠の特別訓練の期間、身体と心とがボロボロになるまで痛め付けられている最中に思い知らされたことであった。


◆◇◆◇◆◇


「くっ、ここまでか……」


「諦めたら皆、全滅だよ!」


 とある地下迷宮。

 とある冒険者たちは、いつもより、ほんの少し深い階層を探索していた。

 自分たちはもう何度もこの地下迷宮に挑戦していたので、もっとやれる、という少しだけの慢心だったのかもしれない。


「あと少し、あと少しで階段までたどり着くっていうのに!」


 地下迷宮の大広間の向こう側には上層への階段がもう見える。

 あそこまでたどり着けば、彼ら冒険者パーティー四名は助かる。

 ……だが、残酷な地下迷宮では、そのような場合に、だいたい罠がある。そう。その目前の脱出口までに、最悪な生き物が立ちふさがっていた。

 ミノタウロスキング。

 クラスB(騎士団級)にカテゴライズされる、迷宮のボスモンスター。

 通常のミノタウロスを古代魔法帝国の錬金術師たちが改造した個体。

 魔法で増強された魔剣をふるい、その尻尾は、毒をもった蛇である。

 普通の地下迷宮では、まず、出会えない、最悪のモンスターの一つ。


「くそくそくそ! あと、もう少しで助かるって言うのに」


 恥も外聞もなく泣き叫ぶ。

 あんな絶望、回避することなど不可能。

 無表情に、ミノタウロスキングが、魔剣を振り下ろす、

 その、衝撃波で、冒険者たちは、なすすべもなくなぎ倒される。

 そして無情にも、彼ら冒険者の頭上に魔剣が振り下ろされそうになる。


「神様!」


 彼ら冒険者に出きることはもはや神に祈ることのみ。

 彼等は目をつぶり、頭上に死の一撃側振り下ろされるのを覚悟した。

 ……が、いつまでたっても、一向に彼等の頭上へと魔剣は振り下ろされない。


 不思議に思った冒険者が目を開け、頭上を見上げると、首がないミノタウロスキングが、その首筋から噴水のように紫色の血を吹き出していた光景が目に入った。

 そして、立ち去っていく少年の背中。

 冒険者たちは呆然としながら、その背中を目で追いかける。

 その少年、ホイラーがぼそっと、呟いた。


「くそ。道を間違えた。上層に上がりすぎたか」


 彼等冒険者たちは、下の階にはもう降りるまいと心に決めた。


◆◇◆◇◆◇


 僕ももう十五歳になった。

 そういえば、実家にはずっと帰っていないな。


「師匠。で、どうするんですか、こいつ」


「あ? そんなもん、自分で考えろ」


 さすがに、四年もこんな鬼と一緒にいると、身も心もともに荒んでくる。

 師匠と出会う前の十年間と、日本での記憶を足し会わせても、ここまで酷い扱いをされた記憶は思い出せない。

 しかし、まぁ、何だかんだと言いながら、今日まで生き残ってこれたのは、師匠のさじ加減が上手なのかもしれなかった。

 あまり、慰めにはならないけども。


 で、目の前に視線を戻す。

 ギルドからの依頼であった、強盗団を叩き潰す、というクエストはえらく簡単に終わった。

 見せしめに首領一人の首をはね飛ばしたら、強盗団の皆さんが非常に協力的になり、静かにしてくれるようになった。

 で、師匠のお目当ては盗まれた一枚の羊皮紙だったらしく、それ以外は眼中になし。

 というわけで、目の前の男達をそのまま、官権に引き渡せば僕たちの仕事は終了。

 それで、万々歳かと思いきや、半獣人の一人の娘が捕まっていた。

 犬人(フントメンショ)の娘だ。

 小柄な少女で栗色のショートカットに、獣耳が生えている。

 見た目はかなり幼いようにも見える。実年齢はわからないが。

 通常、半獣人には人権がなく、人間のご主人様が必要だ。

 そして、この獣人の主人はすでに殺されており(僕が殺った。そこには躊躇はない)、所有者がいない。

 まぁ、官権にそのまま渡して、引き取り人を探してもらうのが筋だろうなー、とは思う。


 しかし、この獣娘。なぜに僕の足元にじゃれてくるかなー?


「どうやら、そいつ。お前の事が気に入ったみたいだな。身の回りの世話人として、一匹飼ってみても良いのではないか?」


 師匠は、実に他人事な口調だ。


「師匠。食事代とかもただではないんですよ」


 僕はジト目で睨み付ける。


「何言っているんだ、お前。最近、ギルドの報酬でかなり懐が温かいのは知っているんだぞ。なんなら、バイトを増やしてやってもいいんだぞ」


 師匠はバイトと称して、ギルドからの依頼を持ってくることがある。実地訓練を兼ねていると豪語している。

 しかも大概はろくでもない依頼だ。

 この前、ギルドの受付嬢と話していて気づいたが、師匠は、僕に内緒でピンはねもしているらしい。

 泣ける。

 でもまぁ、今では僕も、クラスB(最高のクラスSから最低のクラスFまである)の冒険者だ。

 それなりに稼ぎがあるのも事実。

 うーん。

 気は進まないが、荷物持ち兼身の回りの世話係として雇うか。

 僕は半獣人の娘に手を差し伸べて挨拶をした。


「(僕はホイラー。魔術師。今日からよろしく)」


 一応、習いたての獣人語で話した。


「ご主人様。大丈夫です。人間の言葉をしゃべれます。私はシニカと申します。御用を何なりと申し付け下さい」


 そして、礼儀正しく挨拶をしてきた。

 しかも、作法がしっかりしている。


「あれ? 君、その作法、どこかで習ったの?」


「はい、ご主人様。前の前のご主人様に仕込まれてございます」


 なんとなんと。

 しっかりと訓練された奴隷だったか。

 これは、お買い得だったやもしれぬ。


「以前のご主人様には、性的なご奉仕は求められておりませんでしたが、もし、ご所望ならばなんなりとお申し付け下さい」


 そういってペコリと頭を下げた。

 って、おいおい、僕にはそんな趣味はないよ。


「いやいや、そんなことはしなくていいから。とりあえず、官権が来るまで、ここで、こいつら見張っていてくれる?」


「はい。ご主人様!」


 ほほを赤らめてシニカが元気よく返事をしてきた。

 しっぽをぶんぶんとふっている。

 なんだか、成り行きでお手伝いさんを雇っちゃったけど、良いのかなー?

 ……ま、いいか。


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