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第三十二話 撃退成功

 続いて何発かの乾いた音が山中に響く。

 その度に、帝国軍の兵士たちが、物言わぬ死体へと変わっていく。

 動くものがなくなった静寂の中、物影からごそごそと何かが近づいてきた。

 アケイナは用心深くそちらの方に顔を向ける。

 帝国軍の脅威がなくなった次の瞬間に、野生の動物に襲われたのではたまらない。

 しかし、顔を出したのは野生の動物ではなく、もっと珍妙なものだった。


「すまない、アケイナ。遅くなった……無事か?」


 そこには、顔中に、泥をつけ、頭や身体中に草を巻き付けた珍妙な姿のホイラーが立っていた。

 しかも、奇妙な鉄の棒も手に持っている。


「た、助かったわ。……ぷっ。でも、なによその格好」


 笑ってはいけないときだとは思うのだが、ついつい笑ってしまう。


「やっぱり変かな、この格好? でも、目立たずに狙撃するにはこれが一番いいんだよね」


 ぶつぶつとホイラーが呟いている。

 言っていることはよく分からない。

 しかし、遊んでばかりもいられない。


「エリサたちを早いところ救いにいかないと! まだ戦闘は続いているわ」


「ん? あっちの方は、あらかた僕の方で屠っておいたよ。今は、エリサたちには小休止をさせているから、しばらくは大丈夫だと思うけど」


「じゃ、じゃあ、私たち。連中を撃退したの?」


 さすがに呆然とした声をアケイナは出してしまう。時間稼ぎが出来れば御の字、自力で撃退できるとは思っていなかった。


「まぁ、なんとかね。僕達の班から、犠牲がでなかったのが不幸中の幸いだね」


 そんな風にホイラーは肩をすくめた。そしてなれた手つきでアケイナの戒めをほどいていく。その後、簡単にアケイナの身体中の傷を確認した。


「切り傷や打撲傷はそれなりにあるけど、致命傷はないみたいだね。簡単な治癒の魔法をかけておくけど、無理はしないでね。あ、立てるかい? ほら、つかまって」


 アケイナにホイラーが手をさしのべる。アケイナはその手につかまって立ち上がろうとするが、足首を捻ったのか、ホイラーに抱きつくように寄りかかってしまう。そして、そのまま暫く固まったあと、肩口を強くつかんで、荒い息を吐き出した。少し震えている。


「……だ、大丈夫かい?」


「か、カッコ悪いところを見せるわね。でも、ごめんなさい。もうちょっと、もうちょっとだけ、こうしていて良いかしら?」


「そ、それは構わないけど。しかし、アケイナにも可愛いところあるんだねー」


「わ、私にだって、怖いって思う瞬間くらいはあるわよ!」


「まぁ、うん。アケイナ、頑張ったね。お疲れ様」


 アケイナはホイラーにきつく抱きつくと、静かに嗚咽を漏らし出した。

 ホイラーとしては、学校の連中に、このかわいらしいアケイナを見せてやりたいな、などと思った。


◆◇◆◇◆◇


「バカな、包囲班が全滅だと!?」


 ゼクサス帝国第六○一対魔法特殊中隊の中隊長ハインツ少佐は耳を疑った。

 巣の中に立てこもるキツネたちを一方的に狩るだけのゲームのはずが、正体不明の敵に撃退されたグリフォン三だけでなく、キツネ狩りをしていたグリフォン四をも半壊させる事態になるとは。

 戦力が半減した今、帝国軍の先鋒を努めて、一撃を王国軍の連中に喰らわしてやる作戦はもはや絶望的だ。


 そんな中、帝国軍上層部から連絡があった。


「こちらグリフォンリーダー。狩りの最中だ。……なに、作戦中止? 理由は……。ば、バカな、秘密兵器の情報が漏れていた疑いがあるだと?」


 だが、そう考えると辻褄があう。

 こちらの火薬投擲器を見越したような陣地構築。

 こちらの居場所を事前にわかっていたような奇襲攻撃。

 ハインツは、ぎりっと、奥歯を噛み締めた。

 帝国軍内部に卑劣な裏切り者がいたのだ。

 今回の先制攻撃すら、罠だったかもしれぬ。

 早速帝都に戻り、卑劣な裏切り者を見つけ出さなければ腹の虫が収まらない。


「撤退だ!」


 短く部下たちに号令をかけ、前線基地を放棄する。

 存在しない裏切り者を見つけ出すために、熾烈な魔女狩りが帝国内で行われるのは、すぐ後のことである。


◆◇◆◇◆◇


「アケイナ様! ご無事ですか!」


 しばらく動かない方が良いだろうとの判断で、陣地内にて待機していた僕達は金属鎧に身を包んだ集団が現れたので、一息ついた。


「ほ、ホイラー! 怖かったよー」


 取って付けたように言った後、エリサが抱きついてくる。

 君、何気にタフだよね。


「ぼ、僕達助かったの……」


 気が抜けたのか、プラムが尻餅をついている。


「まぁ、今回は人間が相手だったから、戦えたな。アイアンゴーレムに比べれば可愛いもんだ」


 バクスターも一丁前なセリフを口にするようになったな。


 兵士たちが、僕達には、脇目をふらずにアケイナの周囲を固め、傷の介抱をする。


 エリサにそっと、耳打ちする。


「なぁ、エリサ。あれってやっぱ」


 エリサは、ちょっと困ったようなはにかんだ顔をして首を降る。


「一応、箝口令がしかれているので、私の口からはちょっと。でも、まぁ、ご想像の通り、かな? 今回の襲撃もアケイナ狙いだったかも……」


 まぁ、十中八九そうだろうな、と。

 僕達は警護の兵士たちに護衛されながら、下山することになった。

 下山中、最後までアケイナとは、一緒に行動することはなかった。


次回は3/27(月)更新です。第一章完になります。

第二章以降の更新は未定です。

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