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第二十四話 アケイナとの模擬戦

「よーし、次、アケイナとバクスターだ!」


 魔法戦闘の実技訓練。

 その基礎として、まずは魔法を使わない対人格闘訓練をさせられている。

 僕達は、小一時間ほど、ランニングや筋トレをさせられた後、二人一組になって近接格闘のトレーニングをしている。

 僕もクラスメートの一人と、お互いに短杖をもちあって、ぽかぽかとやりあっている。なかなか楽しい。

 相手の動きを見切って、わざと、大袈裟に当たってやり、盛大に痛がるふりをすると、相手もニヤニヤと笑ってくれて油断するので、そこを反撃して、一勝一敗にするのが楽しい。

 こうするとみんなを敵にせずに、かつ、コミカルな役どころを手にいれることができる。やはり、道化の役回りが一番楽なのである。


 そんな風に楽しんでいたら、模範演技として、バクスターとアケイナとが、やりあうことになった。

 バクスターは、我がクラスでも格闘戦闘においては、右に出るものがいない程の実力者だ。

 アケイナの実力を皆に知らしめるのにちょうど良い出しものなのかもしれない。

 僕達は車座になって中央で向かい合っている二人を見た。

 そして、すぐに模擬戦が始まった。


 バクスターの怒涛の連撃を、柳のように次々に受け流していくアケイナ。

 だがバクスターの気合いの入った一撃を受け流すことができないのか、一撃にあわせて大きく後ろに飛び去るアケイナ。

 そして、同じような攻撃をバクスターがしてしまったときに、今度はアケイナがわざと大ぶりで、短杖と短杖とを当てた。

 そして、無理矢理打ち込もうとバランスを崩し、少し前のめりになったバクスターの隙を見逃さずに、手首をひくと同時に足をかけて、バクスターを投げ飛ばす。うまい!


 キレイにバクスターが前のめりで地面に叩きつけられ、その首筋に短杖を突きつけるアケイナ。


「ま、まいった」


 バクスターのいっそ清々しい声で模範演技が終わった。


「手に捕まってください」


 アケイナが手を貸してバクスターを立ち上がらせる。


「強いね、君。もしかして士官学校でも君みたいな猛者がたくさんいるの?」


 ちょっと自信なさそうにバクスターが聞く。


「いえ。私が士官学校では、最優でした」


「あ、そうなんだ。うん。それはよかった」


 バクスターは、ほっとしたように息を吐いている。

 まぁ、世の中あんな化け物ばかりじゃ、やっていられないよね。


「二人ともご苦労だった。じゃあ、そろそろ授業を……」


「待ってください」


 ウーバッハ先生が授業を終えようと口を開いたところで、アケイナが制止する。


「……なにかな?」


「はい、先生。私、もう一人試合をしたい人がいるんですが」


「ふむ。まぁ、もう一人分の試合ならばな……。で、誰だ?」


 アケイナが指名する学生は誰なのか、ちょっと興味がある口調だ。

 そう思っていると、アケイナと目が合う。

 は?


「ホイラーと試合がしたいのですが。魔法の全力使用を許可していただいた上で」


 おいおい。

 こいつ、何を言っちゃってるの!


「いや、さすがにそれは許可できない。君はBクラス冒険者で、魔力もBランクだと聞いている。ホイラーはEランク魔力しかない普通の学生だ。安全上からも許可できない」


 僕は先生の言葉にほっと一息つく。


「……では、格闘だけでいいです。それならば、文句無いですよね?」


 そう言うやアケイナは短杖を構え、こちらが何かを言う前に殴りかかってきた。

 ちょっ!

 僕としても、ノーモーションの攻撃は回避しにくい。

 それでも、後ろに転がって初撃をやり過ごす。

 割とみっともない感じに見えなくもない。


 そしておいかけっこが、始まった。


「くっ、ちょこまかと!」


 珍しく気色ばんだ感じで僕を追いかけるアケイナ。


「ふふふ。僕は魔法にはあまり自信はないが、体力には自信があるのだー!」


 そう言って、逃げ続ける。

 そして、時間いっぱい逃げ切れたので引き分けと相成った。


「ははは、ホイラーがアケイナから一本取った感じだな! 二人の健闘に拍手!」


 楽しそうにウーバッハ先生が言うと、皆が思い思いに拍手をしてくれる。

 僕はその拍手に応えて、片手をあげてやる。

 それに引き換え、アケイナはちょっとつまらなさそうだ。

 そして、僕の近くに来てぼそりと呟いた。


「なんで、実力を隠すの?」


 不満そうだ。


「せっかく実力があるのに、皆に、馬鹿にされた感じで悔しくないの?」


 回りの連中はもうみんな着替えに帰ってしまったので、今は、アケイナと二人きりだ。

 割と真剣にアケイナが僕に言ってきたので答えてやる。


「能ある鷹は爪を隠す、ということさ。僕には言いつけがあるから、皆の前ではばらさないよ」


 アケイナにニヤリと嗤いかけた。

 それをみて呆れた表情のアケイナが、少し考えた素振りを見せ呟いた。


「じゃあ、二人きりのときには全力で戦ってくれる?」


「うん? まぁ、二人だけならね……」


「そう……。じゃあ、今度試合をしてもらおうかしら、二人きりで」


「えー、やだよー。僕になんのメリットがあるのさ?」


 僕としては、只働きというか、面倒な運動なぞしたくはない。


「うーん。じゃあ、こういうのはどう? 私に勝ったら、あんたの好きなように私で遊んでいいわよ。あ、私、処女だからね」


 そういって、片目をつぶりながら、僕のほっぺたを撫でてくる。

 僕はごくりと唾を飲み込みながら掠れた声で呟く。


「……い、いや、遠慮しとくよ」


 非常に魅力的な提案ではあるが、ちょっと大人の階段を登るのは早いと思うのである。

 さらに、エリサの手前、はい、とも言いづらい。


「まぁ、すぐに返事くれなくてもいいけどね。あ、ホイラー?」


「なに?」


 帰ろうと踵を返す、その直前、アケイナに呼び止められる。


 振り向いた瞬間に、ちょっと顔が赤いアケイナと目が合う。


「私ね、どうやらあんたのこと気に入ったみたい。私、欲しいものは絶対に手に入れる主義だから!」


 そういって、良い笑顔を浮かべながら走っていってしまった。


次回は3/11(土)に更新予定です。

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