表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/33

第二話 師匠との出会い

「ただいまご紹介にあずかりました、ホイラーと申します。どうぞ、よろしくお願いいたします!」


 神殿近くの休憩所。指定された昼どきよりもちょっと早い時間。

 先生にご紹介いただいたお知り合いの方に挨拶をした。

 名をガンフールと称する年齢不詳のお姉さんだ。

 紫色の長い髪の毛。

 紫のローブを纏い、木製の杖を持っている。

 若いと言えば若いし、年を食っていると言えばそのようにも見える。まさに美魔女といった印象。

 ガンフールは、僕のことを頭のてっぺんから、爪先までジロジロと観察をしている。


「あ、あのー……」


 先生は僕を紹介すると、用事があるとばかりにどこかへと直ぐにいなくなってしまった。

 一人取り残され、沈黙の中、見ず知らずの女性にじろじろと監察されることは、さすがに耐えきれない。

 居心地が悪くなり、つい、声をかけてしまう。

 そんなとき、いきなり、ガンフールが、杖をむんずと掴むと、僕の方に杖の先を突きつけてきた。


爆炎(エクスフレイマ)


 杖の先から、僕の方に、火炎放射器みたいに、大量の勢いをもった炎が吹きだされる。


 あ、これはいけない。


 死ぬなー、なんて、思いながらも、体が勝手に動いて、手で炎を遮るような動きをする。

 とっさの自然体の反応だ。

 動物が本能で持っている、防御の動き。

 僕の前に向かっていた焔の噴射が泡のように掻き消えた。


 え?


「これは本物だねぇ……。魔法の障壁ではなく、エーテルレベルでの絶対障壁か……。そう考えると、こいつが予言されていた……」


 ガンフールは、顎をさすりながら、ぶつぶつと呟き、一人頷いている。


「……お前、名前は?」


 ガンフールが鋭い視線を向けてきた。

 え、えーと、さっき名乗ったはずですが。


「ホイラーです」


「よし、ホイラー。お前を今日から私の弟子にしてやる! さくっと一人前にして、自爆しないように力を制御する術を教えてやる」


 言ってることはさっぱりわからないが、僕はこうして、このおかしな魔女の弟子になった。


◆◇◆◇◆◇


「し、師匠ぉー。た、助けてくださいよー!」


 二十キロばかり林の中の特設障害コースを走らされて、へとへととなったところで、さらに湖で小一時間近く泳がされ、その後、食事もなく二時間ばかり瞑想した後、今、目の前に体長三メートルを越えようかという石の巨人(ゴーレム)さんと、ちゃんばらをさせられている。


 マジ死ぬ。


 師匠と過ごして、まもなく半年になる。

 ついこの間、僕は十一才になったばかりだが、師匠の無茶ぶりが、だんだんとひどくなってきている。


 最初の頃は、瞑想が主で、呼吸の鍛練ばかりさせられていた。

 それと、体力が魔法の基本だとばかりに、登山と水泳を延々とさせられた。

 一ヶ月が過ぎた頃から、骸骨兵士(スケルトンゴーレム)を相手にひたすら近接戦闘の訓練が追加された。

 骸骨は、情けがないらしく(当たり前だ)、少しでも気を抜くと、木刀(かなり硬い)で容赦なく殴り付けてきた。

 実戦を繰り返していって、やっと、魔法の基礎を開始した。

 基本はエーテル界を知覚すること、特殊な呼吸でエーテルを制御しやすい魔力へと変換すること、変換した魔力を溜め込み、意思の力で魔法を具現化するための魔法式を創造すること。そして、最後に魔法式に魔力をつぎ込み魔法を発動すること。

 僕が苦手なのは、実はエーテルを魔力に変換するところだ。

 なぜか、エーテルが魔力に変換する前に、魔法が発動してしまうことが多くあり、規模が想定よりも大きくなりがちだった。


「小さい松明の炎をつけるつもりが、城一つ燃えるような炎を、毎回出していたら困るだろ?」


 師匠が呆れたように言ってきた。


 意識を現在に戻す。

 今は、杖の先に光刃(ライヒクリン)を発生させながら、ゴーレムと相対して、にらみあっている。

 まぁ、さっき、ゴーレムの本気パンチをなんとかいなしたときに、その衝撃で意識を刈り取られそうになったが。


「死んだらちゃんと墓を作ってやるから、安心しろー」


 師匠に何かを期待した僕がバカだった。

 僕は意識を目の前のゴーレムに集中させる。

 ゴーレムの身体中を走るエーテルの流れを視て、相手の動きを先読みする。僕にはこんな特技があるのだ。


 ゴーレムが、力任せに殴り付けてきたのを余裕を持ってかわし、その腕の付け根目掛けて、光刃を振り下ろす。

 キレイに、切れた。

 やった! と、ガッツポーズをする時間をくれずに、ゴーレムは反対の手で殴り付けてくる。

 これだから、痛みを感じないゴーレムは嫌いだ。

 今度は余裕なく、頭を引っ込めて、必殺の一撃をなんとかかわし、返す刀で反対の腕も切り落とす。


 さすがに、両手を失ったゴーレムなぞ敵ではない。

 足を払い、倒れたところを、体の中心にある魔法球(コア)を破壊して戦闘終了。


 はぁはぁ。


 さすがに肩で息をする。


「遅い! もう少しエレガントに倒せ、ホイラー」


「し、しかし師匠。さすがに、近接戦闘だけでストーンゴーレム倒せってむちゃくちゃですよ! 射撃魔法なんかを使わせてくれればリスクとらずに勝てるのに……」


「はぁ? そんなのは修行にならんだろう」


 こ、こいつ……。


「まぁ、いい。今日は、もう時間がない。私の古い馴染みに合わないといけないからな。喜べ。今日の飯はそこで食べることになっているぞ。早いところお前も着替えてこい」


「はい、師匠」


 誰だ、手に職をつけたいから、魔法を勉強したいなんていったやつは!

 ……まぁ、僕だが。

 しかし、屋根のあるところでまともにご飯を食べるのはどれくらいぶりだろう。

 久しぶりに布団で寝れるかも。


 とりあえず、訓練用の服を脱いで、木陰においてある服に着替える。

 訓練用に、鉄板や、鎖かたびら、煮固めた皮で色々と補強している服を使っている。

 というか、これくらい防御を固めていないと死ぬ可能性が高い訓練ばかりだ。

 今回のストーンゴーレムにしても、師匠渾身の一作で、モンスタークラスだとCレベル(大隊級)の代物だ。

 まかり間違っても、個人で戦うべき相手ではない。


「ぐずぐすするな!」


「は、はい!」


 師匠。もしかして、僕に殺意がありませんか?


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ