第十三話 戦い終わって一休み
「大丈夫、ホイラー?」
エリサが、隣から僕の顔を覗きこんできた。
「だ、大丈夫だよ」
全力の一撃を自分自身に叩き込んだ結果、僕は、なかなか、悲惨な風体になっていた。
耐魔術の術式が編み込んであるはずの戦闘服がぼろぼろだし、切り傷や打撲傷なんかも、目立つ。
まぁ、全部、わざと自分でやったんだけどね。
もう少し加減をすればよかったかなー、なんて今さら思う。
「しかし、あの規模の魔術で、これだけダメージを受けるのも不思議な感じがするがなー。まぁ、たまたま、運が悪く、魔法の作用が強めに働いたのかもな」
バクスターが、渋い声で不思議そうに呟く。
君はなかなか、見る目があるね。バクスター。
「まったく運がなかったね、ホイラー君」
男の娘のプラムが、僕の傷の手当てを素早くやってくれている。
なかなかに手際がいい。
しかし、プラム。近くにいる、ちょっといい臭いがするな。
なんとなく、いけない方向に僕を連れていってくれそうになる。
いけない、いけない……。
「ちょっ……これって……」
手当てをするために僕の上半身を丹念に見ていたプラムが、僕の背中の古傷を見てぎょっとしている。
「あ、ごめんねー。プラム。気持ち悪い思いをさせちゃったかなー」
うーん、あまり人に見せて気持ちが良いものでもないしねー。こういった古傷は。
まぁ、師匠との厳しい修行の勲章みたいなものなので、個人的には気にならないが、他人に見せびらかしたいというものでもない。
「まぁ、今回の試合でも、色々と当たりどころが悪かったんだろうね。きっと。僕は昔から運が悪いから……」
特に師匠と知り合ったこととかね。
僕はそう言って、肩をすくめた。
「しかし、勝ったはずのチョイスクだが、顔が真っ青だったな。俺たちにも、なんにも声をかけずに帰っていったのが不思議と言えば不思議だな。俺としては万歳三唱でもするかと思っていたんだが」
バクスターがふむと、顎を撫でて訝しげに呟いた。
「たしかに、不思議よねー。てっきり、調子にのって変なことを言ってくるかも、とちょっと警戒していたのよね、わたし」
エリサが、うんうんと頷きながら同意する。
「まぁ、彼も、少しは大人になったんじゃないのかな、きっと」
僕は他人事のように言った。
「なにはともあれ、お疲れ様、ホイラー。今から打ち上げがてら、どこかで夕食とかを食べない? ……あ、バクスター君やプラム君も一緒にどう?」
エリサが提案をしてくる。
最後にとりあえず、二人に気づいてあわてて付け加えてくるのもどうかと思うけど。
……うーむ。家に帰れば半獣人のシニカが、きっと夕飯を用意してくれているんだよなー。
さすがに悪いか。
……ま、まぁ、軽くならば良いかな。軽くならば。
「エリサ。僕、夕飯は家で準備されているはずなので、軽食なら付き合うよ」
とりあえず、同意をしておく。
そして、バクスターとプラムの方を向いて彼らの意思を確認する。
「僕もご一緒しようかな。あ、バクスター。逃げないでよ?」
プラムが、隣のバクスターに視線を向ける。
「わかったわかった。俺も行くよ」
こうしてプラムとバクスターも一緒に食べに行くことになった。
「じゃ、行こ!」
元気なエリサを先頭に、僕たちは学校をあとにした……。
◆◇◆◇◆◇
「……ちょっとおかしいんだが」
「え? どこが?」
学校の職員室。
測定会にて記録した、生徒たちの成績を分析するため、羊皮紙に報告をまとめている分析担当の教官が、分析途中で妙なことに気がついた。
「このホイラーという学生を見てくれ」
「ん? 俺のクラスのやつだな。別段、普通の成績じゃないか。入学生の中でも、特段、目を引く要素はないが?」
クラス担任のウーバッハが首を傾げる。
「じゃあ、この数値を見てくれ。俺が先程、各生徒の数値から求めた平均の数値なんだが……」
ホイラーの成績と、平均値の両者とを比較すると、エーテル・魔力変換速度や魔力蓄積量などの全ての指標で、両者がほぼ一致している。
つまり、このホイラーという学生の能力は全ての点でほぼ平均値ということだ。
「な、何かの偶然じゃないのか……?」
気味が悪いものでもみるようにウーバッハが羊皮紙に記載された無機質な数値を見つめる。
平均値とは、あくまでも各生徒の実力を均した数値であるだけで、全ての数値が平均の生徒など普通は考えられない。
「ホイラーって学生が、意図的にいたずらでこの数値にしたということはあり得るのか?」
分析担当の教官が気味が悪いものでも見つけたように聞いてきた。
「ばかを言うな。測定会の間中、俺は不正がないようにちゃんと見張っていたぞ。手を抜いたり魔力を制御していたら、すぐに見破れるように、訓練をちゃんと受けている!」
ウーバッハは同僚の指摘を一蹴する。
彼とて、軍の特殊魔法部隊出身。彼を出し抜ける学生など考えられない。
「それじゃあ、この数値は偶然の産物ということか……」
分析担当の教官の呟く。
だが、その呟きに答えてくれる言葉はない。
部屋内にいた二人の教官は、なんとも気持ちが悪いものを感じながらも仕事を続けた。




