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第十二話 チョイスクとの模擬戦

 むぅ、困った……。

 これがまさに今この瞬間、僕の心の中を占めている嘘偽らざる、僕の気持ちだ。

 勝っても、負けても目立つことこの上ない。

 しかも、格技場に行かないという選択肢も選びづらい。

 どうするかなー。

 困ったなー。

 ……ちょっと思案する。


「ねぇ。そろそろ格技場に行って、ささっと、模擬戦やっちゃいなよー。そしてすぐ帰ろ?」


 無責任にも、エリサが僕の腕に絡んできながら暢気にのたまう。

 半分は君のせいだからね。わかってる?

 ……はぁ、僕としては気が重くて仕方がないが、なるべくチョイスク相手に勇戦したあげくに、僕が負けるという筋書きにしよう。

 あとは彼にこれ以上、僕へとちょっかいをかけさせないようにするために、きついお灸をすえることができれば完璧か。

 そこまでシナリオを考えると、ちょっと楽しくなってきた。

 あとは、上手にことをすすめるだけなので、割と楽かもしれない。

 僕は知らず知らずニヤリと嗤っていたらしい。


「ホイラー。なんで、笑っているの?」


 不思議そうにエリサが聞いてきた。

 いかんいかん、思っていることが顔に出やすいのは、よくないな。


「いや、なんでもないよ」


 なるべく思考が顔に出ないように、冷静な口調で返答した。


◆◇◆◇◆◇


 格技場。

 見た感じ、ローマのコロッセオのように、石で外壁を覆っているが、中は木造だ。

 真ん中に競技スペースとして、運動場のような空間が作られており、その周囲には観客が眺めることができるように木製のベンチが据えられ、観客席が作られている。

 観客席の上にだけは屋根があるが、競技スペースの上空は開けている。

 あと、格技場での魔法戦を想定して、施設が壊れないようにと、観客席と、競技スペースとの間には、魔法の障壁が、築かれており、ある程度の魔法を防ぐようになっている。

 だが、まぁ、完璧というわけではないので、基本、自己責任ではある。


「逃げずによく来たな!」


 チョイスクは、すでに全身黒色の戦闘服を着込み、競技スペースの中央で仁王立ちしている。

 一応、この黒服は学園指定の体操服といったところだ。

 ちなみに、ここの格技場を使うにはこのユニフォームを着ることが義務付けられているので、仕方なく僕も着込んでいる。

 ちょっと面倒だ。


「じゃあ、始める?」


 僕としては、こんな茶番はさっさと、終わりにして休みたいところだ。

 片手で刃引きの直刀(ブロードソード)を構える。


「望み通りになー!」


 チョイスクは、フェイントなしで、いきなり大振りで大剣(グレートソード)を振り下ろしてきた。

 魔法で、加速がなされている。


 僕はその振り下ろしを直刀で、いなしながら、その剣圧を使って、チョイスクから距離を取る。

 と、同時にチョイスクは、間髪いれずに光弾(リヒトクゲン)を三発打ち出してきた。


 あぁ、なるほど。

 さっきの大剣の一撃がフェイントだったのか。


「ははっ。俺のこの光弾はかわせまい!」


 僕としては、どうということはない攻撃だが、ここであっさりとこの光弾を回避すると、それはそれで目立つかも、と思考を走らせて、偶然、地面に足を引っ掻けて、後ろに転がることで回避するという運のよさをアピールする作戦でかわした。


「ふふふ。運が良いやつだ。偶然、転ぶとはな……。だが、次はこうはいかんぞ!」


 そういって、チョイスクは次々と爆炎弾(エクスフレイム)を撒き散らす。

 こいつはこいつで、なかなかの戦闘センスがあるな。

 バカにするのは可愛そうだ。


 ……むぅ、あちらこちらで、炎弾が爆発し、爆風とともに、煙がもうもうと立ち込める。


 チャーンス!


 僕は煙を不自然にならない程度に、さらに増やし、風を発生させて、これら煙が僕たちを包み込むように制御すると、チョイスクの背後へと急いで回り込んだ。


「くっ、姿を表せ!」


 チョイスクが叫んでいるのを尻目に、その首根っこを引っ付かんで、足を刈り取りながら、チョイスクを投げ技で地面へと叩きつけた。


「……っ!」


 叩きつけて、声が出ない、そのタイミングを見計らい、その首筋へと直刀を突きつけた。


「チェックメイトだね」


「くっ……」


 すごい目で僕の方を睨み付けている。

 だが、ここからが大事だ。

 ここで選択肢を間違えてはいけない。


「取引がしたい」


「な、なんだと……」


 僕の言葉の意味があまりよくわかっていない、という感じだ。


「僕にこれ以上ちょっかいをかけないと約束してくれるならば、君が勝ったように偽装してあげる。だけど、もし、僕の提案を受け入れてくれないならば、……そうだな、不慮の事故で一人亡くなってしまうかもしれないね。格技場でたまに起こる不幸で悲しい事故だよ」


 僕は直刀を、チョイスクの首に少し力を入れて突きつけながら嗤った。

 一瞬チョイスクは、恐怖に目を見開くと、目をぎゅっと閉じて、弱々しく呟いた。


「な、何でこんなことを……」


「簡単なことだよ、僕は学校で平穏に暮らしたいだけなんだ。エリサだって、向こうからちょっかいをかけてくるから相手をしているけど、別に僕にはやましい心持ちなんてないよ。まぁ、エリサは可愛い子だとは思うけど、それ以上でもそれ以下でもない、ただの友達だよ」


 僕の言いたいことが少しは伝わったのか、チョイスクは目を閉じて、何か激情に耐えたかのように、一声呻くと、小さな声を絞り出した。


「と、取引に応じる……」


 僕はにっこりと笑顔を浮かべると、自分自身に爆炎の魔法をかけて、自ら吹き飛ぶ。

 いやー、さすが僕の魔法。

 抵抗(レジスト)しても痛い。

 僕が魔法で発生させていた煙を解除したのでだんだんと煙が晴れてくる。

 そして、煙が晴れ、観客席から見える光景は、腰が抜け座り込んだチョイスクと、ボロボロになって大の字に倒れた僕。


 僕はよろよろと立ち上がると、一度だけチョイスクの方を見つめてそのまま、闘技場から立ち去った。


◆◇◆◇◆◇


 な、なんなんだあいつは!

 俺は侯爵家の跡取りとして、誰からも後ろ指を、バカになどされないようにするため、それこそ必死の努力で力をつけてきたはずだ。

 客観的にも、俺の実力は高いはずだ!


 な、なのに……。

 な、なんだ、あの化け物は。

 俺の光弾を回避しただけでなく、爆炎弾にも、眉一つ動かさずに、対応した。

 そして、こちらの抵抗など、はじめからないかのごとく俺を無力化しやがった。

 レベルの違いどころではない。

 そもそも立っている土俵がまったく違う……。


 それに、格技場から出ていくときのあの目。

 しゃべったら殺される、ということが嫌でもわかる死神の目。

 俺は意志が強いはずだ。

 なのに、なのに、なんだ、この胸の底からわき上がる恐怖は……。

 カチカチと歯が鳴ることをどうしようもできない。


 世の中には化け物がいるのは、知っているつもりだった。

 ……だが、本物は。


 俺は震えながら、控え室へとよろよろと歩いていくホイラーの後ろ姿を、ただただ見つめ続けた。


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