変わる姿と変わらない距離感
うちの子可愛い可愛いしてる知り合い二人からのリクエストによる作品です。
TS要素と精神的BL要素をふんわりと含んでおりますので、苦手な方はご注意を。
短編となります。どうぞ。
かつて、高名な錬金術師が住んでいたという古びた屋敷の中に住み着いているゴブリンたちに盗まれてしまった物を取り返して欲しい。そんな依頼を受け、屋敷を探索する二人の冒険者がいた。
「せっ! やっ!」
「グギ!?」
「ギャッ!!」
薄暗い部屋の中を走る銀色の煌めきと、翻るコート。その後を追うように倒れていく二つの影。その影が動かなくなり、周囲にも気配がないことを確認する。そして、その細剣を振るった青年、ルクスは、細剣を鞘に納めると、先程まで引き締まっていた表情を緩める。その姿は、先程まで流麗で繊細な剣技を振るっていたとは思えないほど、野性味と無邪気さを持ち合わせている。ルクスは、ボサボサの手入れなどされていない黒髪を背中に流すと、自分の後ろにいる、ボウガンを構えていた人物の方を向いた。
「リニャっち! 終わった! へへー僕らなら余裕だね!」
「ったく、元はと言えばお前が余計な物音を立てたからゴブリンなんぞに気づかれたんだぞ?」
ルクスに話しかけられた金髪の青年は、リニャ・ヴィリロス。リニャは、得意気なルクスに呆れたようにその青い瞳を向ける。そう、本来ならば隠れて背後から奇襲する予定だったのだ。
「いやーここって埃っぽくて…」
ルクスがくしゃみをしてしまうというまさかの失態によって見つかってしまったのだった。
「まぁ何事も無く終わったし許してよー」
ルクスが無邪気に笑いながらリニャに抱きつく。二人は幼い頃からの付き合いで、ルクスには、事ある毎にリニャに抱きつく癖があった。
「あぁもう、わかったから離せって…」
「へへっ! これだからリニャっちは大好きだよ! さ、あとはこの部屋にある盗まれたものを回収するだけだね!」
許しを得たルクスが、リニャから離れようとする。すると、リニャがルクスの腕を掴んだ。
「おい、ルクス。腹を見せて見ろ」
「……っ!? い、いや、こんなのなんともないよ?」
リニャの言葉に分かりやすいほど動揺するルクス。
「俺は見せて見ろって言っただけだぞ? 怪我してるんだろ、隠すなよ」
「リニャっち…」
リニャが先程までの仏頂面を心配そうな表情に変える。リニャは口調こそ厳しいが、ルクスを本気で心配していたのだ。ルクスもそれを理解し、自分の服を捲ろうとする。そんなルクスの視界の端、リニャからは死角になっている位置にキラリと何かが光るのが見えた。
「リニャ! 危ない!」
ルクスの行動は早かった。ダン!と大きな音を立てるほどの鋭い踏み込みによって、弾丸のような速度を得たルクスは、その光、弓を構えたゴブリンの元へと突き進んだ。
「グギャ!?」
「くっ…!? でやぁ!」
ゴブリンが慌てて放った矢が肩を掠めるも、一瞬の銀閃がゴブリンの命を絶った。しかし、ルクスの身体はその場で踏みとどまり損ね、たたらを踏んでしまう
「っと…わっ!?」
そして、突っ込んでいった先には大きな姿見。
「ルクス! 避けろ!」
「無理かも!?」
後ろから、リニャが焦ったような声を出すも、勢いの乗っていたルクスの身体は、姿見へと突っ込んでいき。
ーーーガタッ……ガシャーン!!
大きな音を立ててルクス共に倒れ割れてしまった。
「ルクス! おい! ルクス!! なんだ…あれ…」
慌てて駆け出すリニャ。鏡が倒れた周囲には、キラキラと輝く銀の粒子のようなものが舞っていた。それは、鏡の上に倒れていたルクスの周りに集まっていく。
「へ? なにこれ!? うわっ!?」
「くっ!?」
その銀の粒子がルクスに殺到すると、部屋の中をまばゆい光が包んだ。そして、その光が収まった場所には。
「何があったの…?」
「冗談だろ…!?」
愛嬌のあるくりくりとした瞳と、豊満な胸、八重歯を持つ可愛らしい女の子が、縁だけになってしまった姿見の上にぺたんと座り込んでいた。
「ねぇリニャっち、今の何かな?」
「ルクス…なのか!?」
「へ? そうだけど、どうしたの?」
ルクスは、自分の身体に起きている変化に気づいていないようだったが、ルクスの姿と声は、明らかに女の子だったのだ。
「そういえば何か身体が変な感じ……!?」
「気づいたか…」
「なにこれーーー!?」
薄暗い部屋にルクスの絶叫が響いた。
「ねぇリニャっち!? これどうなって…あれ…?」
「ルクス!」
戸惑う表情をしていたルクスが急によろめく。ルクスの身体が床へと倒れる前に、抱き止めたリニャは、その華奢な身体の感触に戸惑うも、直ぐに状況を把握した。
「麻痺毒…さっきの矢か! ルクス、傷を見せろ!」
「うん…ごめん、身体動かないや…リニャっち、お願い…」
「…あーこいつは男なんだ、こいつは男…」
こんな状況だが、ルクスの潤んだ瞳と熱っぽい表情にドキリとさせられるリニャは、ルクスの服のボタンに手をかけ、気づいた。
「ル、ルクス…お前今女の子なのだが…その、いいのか?」
「うん? だってリニャっちなんだよ? 僕は気になんてならないよ、だから…お願い」
「……わかった、いくぞ?」
ルクスの背中側に回り込んだリニャの指が、ルクスの服のボタンをゆっくりと外していく。
「ん…」
「変な声出すなって!?」
「なんかくすぐったくて」
ボタンを外し終えると、その服を半分ほどまで脱がせ、肩の傷に、解毒薬とポーションを振りかけていく。
「…んっ!」
「我慢しろって、すぐ終わる…」
この傷への解毒薬には、使用時に焼けるような痛みが走る特徴がある。ルクスは、今その痛みに耐えているのだった。
「リニャっち…んぁっ!」
「……あーもう!」
目の前のルクスの艶かしい姿に真っ赤になってしまうリニャの苦悩は五分ほど続いた。
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「リニャっち、ごめんね?」
「気にすんなって」
屋敷からの帰り道。リニャは、未だに身体を上手く動かせないルクスを背負い歩いていた。その背中の柔らかな感触の事はなるべく考えないようにしながら。
「それにしても厄介なことになったな…元に戻す方法を探さないとな」
「まさかあの鏡にこんな力があったなんてね」
ルクスがあのとき割った鏡は、かつて、あの屋敷に住んでいた錬金術師の産物。「偽りの姿見」というマジックアイテムだった。その鏡を破壊すると、映っていた物を違う物に変えてしまう、というものだったのだ。ルクスが、自分の姿な鏡に映った状態で破壊してしまったため、女の子になってしまったのだ。
「元に戻れるのかなぁ…」
「……」
リニャが、ルクスの呟きに返事ができずにいると、背中のルクスがリニャにいつものように抱きついた。
「ま、戻れなかったらリニャっちのお嫁さんにでもしてもらうかな? はは」
「くそ! さっさと帰るぞ!」
背中の上で無邪気に笑うルクスと、夕陽に照らされたせいか、真っ赤かな顔をしたリニャは。寄り添う二人の影はゆっくりと進んでいった。
と、いうことで短編でした。
一話完結って難しいですね!
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