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蓋を開け、暗譜している曲をさらさら思い浮かべる。「G線上のアリア」第2楽章はすぐ思いついた。
妹のあづみはピアノを習っていた。あづみに教わったことのある曲だった。
ペダルの踏み方には慣れていない。譜面通りに忠実に弾くことをいつもより心がけた。
なぜかメトロノームは見当たらなかった。
カッチカッチ……と、メトロノームを胸の中で刻みながら弾き始める。
好きな人の心に触れるような気持ちだった。
終わりまで弾くと、すぐに聴き慣れたバイオリンの音と共に、第2楽章は再び演奏された。
「……有架里……弾いて……。」
瑛太の黒い真っ直ぐな眼差しを目にし、頭に血も昇った。
ドアを開けたままにしていたことなど意識も飛び、急いで伴奏する。
この時間は永遠に続かないのだろうか……。
「病人に演奏させるとはね……。」
ふっと笑う瑛太の顔と声に、何も言えずにいた。




