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そのうちの1人は、客室も近く、見知った女性だった。
「……ねえ……。」
「……うん……。」
何やらもごもご言いながら、有架里のほうを見てくる。
「ねえあなた、こんなこと言いたくないんだけど……。」
見知った顔の一人が、言いにくそうに目を細めて口を開いた。
「あなたの彼氏のことなんだけど……。」
その婦人が言うには、耕平には、横浜で降りた恋人らしき人物がいること、その女性とも、船内で知り合った様子だった、といった情報だった。
「ちょっと、彼……手が早そうだから……。余計なお節介、ごめんなさいね……。」
と、言い残して、3人は去って行った。
あとに残された有架里は、どうしたら良いのかわからなくなった。
……横浜で降りた恋人? 船内で知り合った様子? なんのこと? 昨夜の出来事は、ううん、今日までの出来事は何だったの?
ふらふらと客室に戻った。
やがて、客室の部屋の扉がノックされた。
化粧もしないで出た有架里を見た耕平は、
「どうしたの? 今日はスッピンで過ごすの?」
と、いつもの笑顔を見せて聞いた。
有架里は首を横に振る。
「どうしたの?」
「……聞いたの、あなたのこと……。横浜で降りた恋人がいるのでしょう? 船内で知り合った……。」
「ああ! 彼女とは別れてるよ! それにしても、僕達のこと、もう噂になっているんだ!」
……別れてる?
「誰に言われたのか知らないけど、僕のことは大丈夫だから、信用して?」
「……。」
「……信用できないかな? なら、君とも終わりだね。女って奴は本当に、我が儘だな。」
耕平はさりげなく言いながら、客室を出ようとした。
不意に有架里の頭に、チケットを見定めてくれた昨夜の場面がよぎった。
「……待って! ごめんなさい。私が悪かったわ。」
「いいよ。僕に聞くより前に、見知らぬおば様だろうけど、どうせ、そっちの話を信用するなら、仕方ない。」
「……ごめんなさい……。」
客室を出ようとした耕平は、歩みを止めた。
「謝られても……。」
その時、有架里のスマホが鳴った。




