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宜しくお願い致します♪
冷たいカフェモカを飲みながら、ミルク色の長封筒を開いた。シルバーの鋏を真っ直ぐ横に動かす。
あの時のことなど全く頭に浮かぶわけもなく、有架里はダイレクトメールを開く位の気持ちでいた。
午前11時のランチ前。この時間と夕方にマンションの階下の集合ポストへ郵便物を見に行くのは、日課になっていることだった。
大学の文学部を卒業したあと、就職活動に失敗した経緯から、子供の頃から好きだった作詞を勉強する専門学校へ入学した。
大学2年生の時のあの日の思いを打ち消すかのごとく、ひたむきにコツコツと作詞を勉強する有架里に、神様は微笑んだのだった。
新進のバンドグループから、作詞を使いたいとオファーを受けた。
その曲はヒットし、清涼飲料水のCMにも使われ、有架里にも名声と印税の嵐は押し寄せてきた。
それまで一人暮らしなどしたこともなく、成城の実家で過ごしていた。
成城といっても代々住んでるわけではなく、もともとは成城の近くにある、父の会社の社宅に住んでいた。
有架里の妹、3歳下のあづみの小学校入学に合わせて、同じ校区内でマイホーム探しをしたところ、たまたま成城に住むようになった、それだけのことだった。




