砂の王子様 3
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早速、王子は連れて行ってくれた。
泉からさほど遠くない場所。
中院の南側、城の壁に沿って様々な木々が植えられた一画に目指すものはあった。
「これが──珊瑚樹と言うのか?」
燕鷹はその木を見るのは初めてだった。
「そう」
連れて来たくせに、王子が顔を顰めたのを燕鷹は気づいた。
「実は、俺はこの木があんまり好きじゃない」
見てみろ、と王子は指差した。
「凄く虫がつきやすいんだ。散々食われて葉が穴だらけだろ? ひどい時は葉全部茶色くなる。そのくせ」
王子は唇を歪めて、
「けっして枯れることはない」
なんか、不気味で嫌だ、と王子は言うのだ。
花は白くて、実は真っ赤。
珊瑚とはよく言ったもので花も実もその形状が妙に生々しくどことなく動物的な感じがした。
とはいえ、二人はその木の周り、葉や幹から根元、地面に至るまで徹底的に調べた。
だが、宝物らしきものは見つからなかった。黄金色の蛹はいくつか見つけたけれども。
とうとう腰を上げて燕鷹は言った。
「そう長居もしてられないから……〈珊瑚〉という言葉だけ持って帰ることにするよ」
「そうか。力になれなくて悪かったな」
「いや、充分ありがたかった!」
「そうだ、折角だから帰る前にあれも見て行くといい」
あれとは、沙嘴王城の壁画のことだった。
壁画は城の地下にあった。
昼なお暗いその場所へ燭台を持った王子に導かれるまま燕鷹は降りて行った。
湿った空気と黴の匂い。沙嘴城の真下には吃驚するほど広い地下講堂があった。
「俗に言う奥津城。代々の王族の墓地だよ」
「じゃあ、ここに……?」
「うん。今までの王とその家族が眠っている」
眠りを妨げたら悪いというように王子は声を潜めた。
「怖いかい?」
「少し」
王子の明るい笑い声が講堂中に響き渡った。
「俺も小さい頃はそうだった! さあ、これだ」
石棺の並んだ区域の片側一面が壁画だった。
「いつ描かれたのか正確にはわからないくらいずっと古い時代からあるらしい。父上は、過去・現在・未来を同時に描いているとか言ってたけど……」
「────」
古いというが保存状態は良く、昨日描かれたように燕鷹には思えた。
燭の明かりだけでも壁画に塗られた色が識別できる。
下の方に狼が遠吠えしている……
むこう一面は沙海に燃える螢の大群……
黒い髪の男は体に三日月の模様があるし……赤い髪の女もいた……
やけに大きく描かれた短剣……
「はぁーこういっぱいあると何が何だか」
「砂漠を駆ける騎馬の集団は比較的わかりやすいだろ?」
燭台を近づけながら王子は言う。
「きっと戦いを表しているんだ。こっちの一群は騎乗のまま矢を射掛けてるし、見ろよ! この横柄そうに床几に腰掛けている紫の男」
燕鷹はハッとした。
壁画の絵ではなく、王子の言葉に。
「……なあ? 今、何回〝かける〟を言った?」
「え?」
「いや、つまり、同じ〝かける〟でも色んな意味があるよな? 射掛ける、腰掛ける……」
《 色とりどりの かけた モザイクが
告げし 宝物の 名を聞け 》
唇を嘗めながら、ゆっくりと燕鷹は言った。
「この国へ来て、俺が目にした〝色とりどり〟のものは家々の沙幕だけだった。窓や戸口に〝かけた〟あれ……」
王子と燕鷹は瓜二つの顔を見合わせて同時に叫んだ。
「それだっ!」
✟
王城から二人は駆けに駆けた。
駆けながら最後の検討をした。
「井戸は9つもある。どの井戸から見た沙幕だろう?」
「〝柄杓のある井戸〟だろ? でも、考えたら、井戸なら何処の井戸にも柄杓はあるよな?」
「正確な詩の言葉は〝柄杓のある井戸〟じゃない」
王子が指摘した。
「〝柄杓の井戸〟だ!」
「それって、現実に柄杓がそこにあることに拘らないニュアンスだよな? つまり、象徴としての柄杓? うーん……柄杓といえば一番に何を思い出す?」
柄杓といえば──
ほとんどの人がそれを思い出すはず。
天空に輝く、あれだ、北斗7星!
「柄杓の星は7つ星……沙嘴国の井戸を数える単位は〈星〉だったよね?」
「そうか、7星井戸か!」
ついに辿り着いた終着点……!
その7星井戸に立って燕鷹はそこから見える光景を一望した。
「中院の泉を思い出せ!」
傍らで王子がアドバイスした。
「全体を形――符号として捉えるんだ。何が見える?」
砂でできた家々が見えた。
どの窓にも、それから、1階の出入り口にも沙幕が掛かっていた──
(これが、〝色とりどりの かけた モザイク〟……!)
さあ、後は、この光景が 〝告げし 宝物の名を 聞け〟ばいい。
燕鷹は目を細めた。
前に見た時も思ったが、窓や戸口の形や大きさがほとんど同じだから幾何学模様に見える。
今回は美しさのことは置いといて、それに惑わされずに印や符号として見てみよう。
沙幕の濃い色と薄い色……寒色系と暖色系……
「!」
すぐあることに気づいた。
大丈夫、燕鷹と王子が解いてくれます^^