第5話 ケーシスの発動
「ケーシスってのは、空と初めて会った時に言ったとおり『イメージしたことを現実に引き起こすこと』だよ。
あの時私は空と通じ合う。要するに会話ができる。ってことを強くイメージしてケーシスを発動したの」
アリエはケーシスの説明を始める。
「イメージしたらなんでもできる。ってこと?」
「ううん、なんでもできるってわけじゃないの。人とのコミュニケーションとか足が少しはやくなるとかイメージしやすいことは誰でも簡単に発動できるんだけど、炎を口から吐くとか、水に形を与えて刀にするとかは相当なイメージ力が必要なの。
それにマグマのような超高温の物体をだすとか、雷を落とすとかすごいエネルギーを必要とすることはイメージするだけじゃケーシスを発動できないんだ」
「イメージするだけじゃ無理。ってことは他になにかをすればできるってこと?」
「イメージだけじゃ補えない分のエネルギーは魔力で補わなきゃいけないの」
「魔力? 魔力ってことはこの世界には魔法もあるの?」
「うん、あるよ〜。魔法はケーシスみたいにイメージする必要がないんだ」
魔法とケーシスは別物なのか。
「じゃあケーシスなんて発動しなくても魔法を使えばいいんじゃないの?」
「魔法を使うことも可能なんだけど、魔力の消費がケーシスを発動するより何倍も多いの。
それに、簡単なことだったらケーシスを発動させれば魔力を使わないからこの世界じゃ魔法よりケーシスの方が一般的なんだ。
だから魔力はイメージだけでケーシスを発動できないときのための補助のために使う。って感じかな〜」
「なるほど。ケーシスは簡単にイメージできるれば魔力なしで発動できるし、イメージが難しければ魔力で補わなきゃ発動できないけど魔法より魔力を使わない。
魔法は魔力をたくさん使うけどイメージをする必要がない。ってことかな?」
「そーそー、そんなかんじ。
あとケーシスと魔法にはもう1つ大きな違いがあるんだ」
「どんな違いがあるの?」
「魔法は発動させる対象に触れなくても発動できるの。それに対してケーシスは何かを具現化することはイメージだけで発動できるけど、対象に効果を与えるにはイメージを込めた何かを相手に接触させなきゃ発動できないし、イメージしたものを具現化させて出現させられる範囲は自分から半径3m以内じゃないとできないの」
「例えばどういうこと?」
「例えばね、熱魔法は対象に触れなくても遠くからいきなり対象の周りに炎を発生させて対象を燃やすことができるんだけど、ケーシスは炎を自分の半径3m以内に具現化させてからなおかつ、その炎を対象にを接触させることでやっと対象を燃やすことができるの。
でもべつに遠距離攻撃ができないわけじゃなくて、炎を具現化させてから遠距離まで飛ばす、とかはオッケーでその炎が対象に当たったらちゃんと効果は発動するよ」
「魔法は発動範囲とかは気にしなくてもいいけど、ケーシスは発動範囲に気をつけるのと効果を与えるにはなにかをとおしてでもいいから対象に接触しなきゃいけない。でいいのかな?」
「そーゆーこと!
ちなみに私が空に対してケーシスを発動させたときは、地面を利用したんだよ。空の足の下に小さな草がはえるイメージをして具現化させて、その草を通じて通じ合うイメージを流してケーシスを発動させたの」
それでいきなり会話ができるようになったのか……。
「ざっとこんな感じだけど質問ある〜?」
ケーシスにも色々と決まりみたいなのがあるんだな。
「ケーシスは半径3m以内じゃないと具現化はできないんだよね」
「うん。具現化させてからなら3m以内じゃなくても具現化したまんまだよ〜」
「魔力の補助で発動したケーシスは3m以内じゃなくても具現化できるの?」
「いい質問だね〜。それは魔力を込める量によってかわるんだ。
それでもイメージをすこしでも使ってるなら半径10mが限界かな」
「ありがとう」
魔力にはそんな効果もあるのか。
「もう質問ないかな?」
「とりあえずは十分だよ。
教えてくれてありがとう」
「どういたしまして!」
アリエは仕事をやり終えたような顔をしていた。
それにしても魔法まで存在しているとは……すごい世界だな。
ピリピリッ..ピリッ……!
またこの違和感だ……。
なにか起きてるのか?
「アリエ、今の違和感感じた?」
「ん? なんも感じなかったよ〜?」
アリエはをかしげる。
僕だけが感じてるのか……?
やっぱり寝過ぎとか関係あるのかな。気をつけないと……。
「ねぇ空〜、ケーシスとかについて色々知ったんだからちょっと試してみようよ〜。コーチしてあげるよ!」
アリエは年上ってのを強調したいのかな?
でも教わって損する事はないだろう。
「そーだなぁ。発動できたら色々便利そうだしやってみよっか」
「じゃあ空と会った門の所に行こう! あそこなら広いし人に迷惑かかったりしないからさ!」
そういうとアリエは僕の手を掴んで駆け出したーー。
門からすこし離れた場所まで来た僕達はケーシスの練習を始める。
「よし、さっそくケーシスを発動させてみよっか!」
「そんないきなりできるものなの?」
とても簡単にできるものだとは思えないんだけど……。
「できる人はできるしできない人はできないかなぁ。イメージ力があるかどうかで決まるんだ。
よりリアルなイメージができればケーシスは簡単に発動させることができるよ〜」
「リアルなイメージか……」
「まずは簡単な人とのコミュニケーションに関するケーシス。
空には今私のケーシスが発動してるから私と会話できてるけど、ケーシスを解除すればまた会話ができなくなるの。
今から解除するから、私と会話できる、通じ合えるってことをイメージして。
そしてそのイメージを手に集める感じ……。そしたらその手で私に触れればケーシスが発動できるよ」
「わかった」
「曖昧なイメージじゃ発動できないからね。じゃあ解除するよ」
「……もう解除されたの?」
とにかく会話をしないとどうなのかわからない。
「〜〜〜〜〜」
アリエが口を開く。
「おお、解除されてるんだね」
言葉が通じないことでアリエのケーシスが解除されたことがわかる。
そういえば忘れかけてたけど言語違うんだよね……。
今までのように会話ができた時のことをイメージする。
今まで普通に会話できてたんだ……。今も変わらず会話できるはずだ。
そしてそのイメージを手に込め、アリエの肩に触れる。
「発動……できてる?」
「すごいよ空! 完璧だ!」
発動できたのか!
意外とできるものなんだな……。
「空はイメージとか得意なほうなの?」
「うーん、どうなんだろう?
でも何かを考えたりするのは好きだし、一応美術の成績はいい方かな」
美術の成績がいいからイメージが得意か。って言われるとそーじゃないのかもしれないけど、少しは関係あると思う。
「そっかそっか、空はケーシスに向いてるのかもね〜。
できない人はほんとにできないんだよ? それを一発で発動させるなんてなかなかすごいよ!」
アリエはうんうんと頷き、僕を褒めた。
「そーなんだ……。なんか嬉しいな」
できなかったことができるようになることはとても嬉しくなるものだ。
「ちなみに、その言葉が通じない人と会話ができる。ってケーシスを私に対してじゃなくて、空自身に発動させればこの世界に住んでる人なら普通に会話できるよ〜。
その代わり今と違ってイメージを切らしちゃダメだけどね。
会話できて当たり前。って常に思ってればオッケーだよ」
「なるほど……。ここの公用語は日本語だと自分に言い聞かせればいいのかな」
「そーそー、日本語しゃべるのが当たり前だと思えば発動しやすいかな」
なるほど、そういうイメージを持てばいいわけか。
「それなら簡単だよ」
僕はここが日本だとイメージをし、自分に対してケーシスを発動させた。
「うまく発動できてるなら街の人たちの会話がちゃんと理解できるはずだよ。後で確認してみよっか」
「おっけー」
「じゃあ次は足を速くするケーシスを発動しよう。
ちょっとみててね」
そう言ったアリエが地面を強く蹴りだした瞬間、地面が歪んだ気がした。
そして地面を蹴り出すとほぼ同時にアリエはものすごい勢いで15mほど先まで移動していたーー。
「嘘だろ……1秒ちょっとしかたってないは
ずなのに……」
人間はあんなに速く移動できるものなのだろうか……。
「これが足を速くする……というか一気に移動する。っていう方が正しいかな」
「さっき地面が歪んだ……へこんだのかな。そんな風に見えたんだけどそれもケーシスのせい?」
「おお! 空はよく観察してるね〜。その通りだよ!
足にイメージを集めて地面に対してケーシスを発動。地面をゴムのようにしたんだ。トランポリンをイメージするとわかりやすいかな」
「そして地面をを強く蹴り出すことによって一気に移動したわけだね」
「そーゆーこと! まぁ足の裏に普段よりも力が出るようなイメージも組み合わせてたんだけどね。
ケーシスはイメージさえできれば同時に何個も発動させることができるんだよ」
じゃあさっきのケーシスは地面をトランポリンのように弾力性のあるものにするイメージに加えて、普段以上の力がでるイメージの合計2つのイメージを使ってケーシスを発動させた、ってことか。
「いきなり2つのイメージを使うのは難しいから、とりあえずは地面を弾力性のあるものに変えるイメージをしてみよっか」
僕は子供の頃おじいちゃん達が連れてってくれた公園でトランポリンをしたときを思い出していた。
どこをどう踏み込めばどれくらいとんだのか、またどんな方向にとんだのかを出来るだけ細かく思い出す。
そして思い出したことをイメージに変換し足に集め、地面を踏み込む足に力を込める。
ーーグニョン。
地面はさっきまでとは違い、とても柔らかくなり、力を抜くと足を押し返す。まさにトランポリンのようになっていた。
「よしっ……!」
後は足に力を集める感じで……。
「さすが空、第一段階はすぐできたね! あとは足に力を与えるイメージをして、両方のイメージを崩さないようにして地面を蹴り出せばさっきの私みたいにできるよ〜」
足に力を集めるイメージをしながら地面をトランポリンにするイメージもする……。
これってなかなか難しいな……。
とりあえず蹴り出してみるか。
イメージを集中させ、地面を思い切り蹴り出してみる。
ガッーー。
「痛いっ!」
地面は柔らかくならず、足に力を込めたケーシスだけが発動して地面をへこませていた。
それを見ていたアリエはお腹を抱えて笑っていた。
「あっはっは! まぁ普通はいきなり2つのイメージを使ってケーシスを発動させるなんて無理だよ。
本来ケーシスはちゃんと練習してやっとできるようになるものだしね〜」
一発でできるほど甘くないか……。
僕は何度もイメージを固め何度も地面を蹴り出したーー。
「はぁ……はぁ……」
30回ほど繰り返したところでやっと一蹴りで10mくらい移動できるようになった。
「やっぱり空はすごいよ!
こんな短時間で習得できるなんて生まれた時からこの世界に住んでる私でも無理だったのに!」
アリエはパチパチと拍手をしている。
「そう……なんだ。でももう限界かな……」
硬い地面を何回も全力で蹴り出したせいで足がズキズキする。
「ほんと限界そうだね……そろそろ帰ろっか!」
アリエの家に帰ろうと門に向かったとき、2つの人影が門の前に立っていたーー。




