第4話 違和感
目を覚ますとそこは僕の部屋だった。
やっぱり寝ることで夢と現実を行き来できるようになっている?
でもなんで急にこんなことができるように……。
ピピピピピ!
昨日と同じ、僕が起きたことを見計らったかのように目覚まし時計がなる。
「6時か……」
昨日より夢のなかにいた時間は短いはず。
ということは夢から現実に戻ってきた場合、6時になる少し前に目が覚めるのかな。
今日は創立記念日だから、もし夢に戻ってからまた現実にきたら土曜日か。
「まぁ、何はともあれ試してみよう」
今度は目覚まし時計をセットしないでおく。
僕は起きてから5分も立たないうちに二度寝をしたーー。
目を覚ましたのは、アリエの家のベッドだった。
「空! おかえり!」
ベッドの隣にはアリエが立っていた。
「ただいま……なのかな?」
ただいまなんて久しぶりに言ったな。
「空が眠るまでを見てたんだけど、空が眠った瞬間に空の身体が薄くなっていって消えちゃったんだ!」
アリエは僕が寝たときにどうなったかを教えてくれた。
「多分僕が眠ったあと、僕は現実へ行ったんだと思う。
僕はどれくらい消えてたの?」
「5分もしないくらいかなぁ……。いきなりベッドの上に出てきたからまたビックリしちゃった」
「僕が現実に戻ったときは夢のなかで過ごした以上の時間が流れてたけど、現実から夢に戻ってきたときは現実で過ごした分の時間だけが流れたのか」
でもこれで寝ることによって現実と夢を行き来できる。ってのがほぼ確信になったな。
「アリエ、僕はまた現実に戻るよ。
やることをやったらすぐ戻ってくるから、すこし待ってて」
「オッケー。はやめにね〜」
こんな短時間に何回も寝るのなんて初めてだよ……。
でも案外僕はいくらでも寝れるのかも。意識は睡眠へと向いていったーー。
目を覚ますと見慣れた自分の部屋。
やっぱり睡眠が行き来する鍵のようなものか。
時刻をみると午前5時55分。
ケータイを起動して曜日を確認する。
「やっぱり土曜日だ……」
僕はほぼ丸1日寝てたってことか。
でも身体にだるさなどは感じない。
「夢から現実に戻った場合、眠った日の翌日の6時すこし手前で目が覚めるのかな」
ここでケータイの着信履歴がすごいことに気づいた。
蕾と悠真からの電話やメールが溜まっている。
だいたいの内容をまとめると、2人とも夢に入れなかったことの連絡と、その連絡に返信がないことへの心配が書かれていた。
まぁ休日なのに丸1日返信がなかったら心配にもなるか。
僕は蕾と悠真にうちに来るように連絡すると2人ともすぐに集まってくれた。
「空君だいじょうぶなの?!」
「無事なら連絡くらい返せよなぁ」
2人とも心配そうな顔で僕を見る。
「ごめんね、ふたりとも。
結果から言うと、僕は同じ夢をみることができた。
それに、寝ることによって現実と夢を行き来できるらしいんだ」
『え?』
2人ともなにを言ってるかわからないようだ。いや、わからないほうが当たり前か。
「どうしたんだよ空、疲れすぎて頭がおかしくなったか?」
「空君、なにか悩み事があるなら相談してもいいんだよ?」
蕾も悠真も僕がおかしくなったとおもっているようだ……。
「僕は別におかしくなったわけじゃないし、悩みがあるわけでもない。
蕾たちを呼び出したのは実際に見てもらった方が早いと思ったからだよ」
「見るってなにをだよ?」
悠真が不思議にそうに尋ねる。
「僕が夢へ行くとき。だよ。
今から僕が寝るから、僕がその後どうなったかを見て欲しいんだ。
それと、僕が目を覚ますのは多分明日の午前6時よりすこし手前だから、寝た後どうなったかを見届けたらそれぞれの家に戻っていいよ。
蕾、鍵渡すから閉めて行ってね」
「了解です!」
蕾は元気良く返事をした。
「明日僕が目を覚ましたら電話するよ」
「なんだかよくわからねーけど、とりあえず寝てからどうなるかをみればいいんだな」
悠真も納得してくれたようだ。
「そーゆーこと。それじゃあまた明日戻ってくるよ」
そう言うと僕は眠りについたーー。
空がベッドから消えたのを目撃した蕾たちは2人とも今起きた事を信じられずにいた。
「うそ……だろ?」
「空君が……消えた……?
どーしよう! 悠真君!
空君が消えちゃったよ……」
蕾は今にも泣き出しそうな表情をしている。
「おちつけ、蕾ちゃん。空は寝る前に戻ってくるって言ってただろ。
あいつはなにも考えずにできないことを言ったりしないさ。
明日になったら、戻ってくるはずだ」
悠真は泣きそうな蕾をなだめる。
「そう……だよね。
空君は冷静だし大丈夫だよね」
蕾は落ち着きを取り戻したようだった。
「とりあえず明日の午前6時よりすこし手前で起きるって言ってたよな。それまでどーする?」
「私心配だからここで待とうかな」
蕾はいきなり消えた空がやはり心配のようだった。
「俺もそーしようと思ってたとこだ。空が帰ってくるまで待つための買い出ししてこようぜ!」
「そーしよっか」
2人とも家に連絡をした後、空が帰ってくるまでのご飯などを買い出しに行った。
その頃空は無事に夢につき、アリエに現実でしてきたことを話していた。
「ふむふむ。寝ることによって私たちのいる世界と空がもともといる世界を行き来できると……」
「そーゆーこと。
でも、なんで急にこんなことができるようになったんだろ?」
今まで夢なんて見たことなかったのにいきなりこんなことができるようになるなんて。
「う〜ん、私にもわからないなぁ」
「そりゃそうだよね……」
アリエは困惑の表情を浮かべた後、なにか閃いたような顔をした。
「そーいえば噂で聞いたんだけどね?
私達にも現実と夢の区別があって、いま居るここが私達にとって現実で、寝たときにみるのが夢なんだけど、自由に現実と夢を行き来できる。っていう技術を開発してる組織があるらしいの。
ちょうど今の空みたいな感じ。っていうとわかりやすいかも。
もしかしたらそれがすこし関係してるのかなぁ?」
自由に現実と夢を行き来できる技術……?
「こっちではそんな技術が開発されているの?」
「噂で聞いただけだからほんとかどうかもわからない上に、どこのだれがなんのためにその技術を開発してるかもわからないけどね」
アリエは申し訳なさそうな顔をしていた。
「そーなんだ……。
もしその技術についてわかったことがあったら教えてもらえる?」
「もっちろん!」
その技術開発の影響で僕が現実と夢を行き来できるようになった、なんてことありえるのか?
でも可能性がないわけじゃないか。
もしその技術開発の影響だったとしたら、安定して行き来ができるわけじゃないのか……?
今こんなこと考えててもしかたない。
とにかく蕾たちには僕が夢にいく瞬間をみてもらえただろうし、ひとまず戻ろう。
「アリエ、また現実にいってくるよ」
「また?! 空は忙しいね〜」
「すぐ戻ってくるかはわからないけど、また来るよ」
「いってらっしゃ〜い」
もう寝てるんだか起きてるんだかわからないな……。
僕はそんなことを思いながら目を閉じた。
ピリッ……。
すこし違和感を感じた気がしたーー。
案の定現実のベッドで目を覚まし、時計をみる。
5時55分。
やっぱり6時手前だ。
あの違和感は何だったんだろう?
まぁ無事に現実に戻ってこれたし、気のせいかな?
蕾たちに連絡をしようと思いケータイを取ろうとしたとき、ベッドの隣のソファにもたれかかって寝ている蕾と悠真が目に入った。
僕が寝てからずっと待っていたんだろうかーー。
「2人とも、ありがとう」
そう呟いた時、蕾のケータイのアラームが鳴った。
「う〜ん、もう6時……?」
寝ぼけたような顔をしてた蕾は僕をみた瞬間、一気に眠気が覚めたようだ。
「空君! いつのまに?!」
「今戻ってきたばっかりだよ」
「そっか。無事に帰ってきてよかった〜。
空君いきなり消えたんだよ?!
ほんとに心配したよ……」
やっぱり僕の身体は消えたのか。
「ごめんね。でも僕が現実と夢を行き来できるって言ってた意味がちょっとは伝わったでしょ?」
「ほんとに夢の世界に行っちゃってたんだ……」
どうやら蕾は信じてくれたようだ。
「ん……蕾ちゃん..誰としゃべって?」
悠真も起きたようだ。
「って、空!
無事に帰ってきたんだな!」
「ただいま。僕の頭はおかしくないことがわかったかい?」
「いきなり消えちまうんだもんな。この目でみたんだ、信じるぜ」
「飲み込みがはやくて助かるよ」
悠真も信じてくれたようだ。
僕はほんとにいい友達をもったな。
「でも夢の中に入れなかったなぁ……」
悠真が残念そうに呟く。
「そういえばそうだねぇ。 果水飲みたかったよ〜」
蕾はほんとに美味しいものに目がないな。
「まぁまぁ。もしかしたら入れる可能性があるかもしれないし、ミサンガにもっとお願いを込めときなよ」
「果水飲めますように果水飲めますようにーーー」
「アリエちゃんアリエちゃんアリエちゃんーーー」
2人ともそれぞれの願いを口にだしながらミサンガに願いを込める。
「あはは。叶うといいね」
これだけ強く願ったらほんとに叶いそうだな……。
「まぁ2人とも僕が現実と夢を行き来できることわかってくれたみたいだし、明日も学校だからそろそろ家に戻らないと。
1日付き添ってくれててありがとう」
僕は2人に家に帰るよう促す。
「いいってことよ。心配だったしな。また明日な!」
「ほんと無事でよかったよ〜。
また明日夢の話聞かせてね!」
そう言うと2人は帰っていった。
僕は2人が帰った後、掃除や洗濯、お風呂などを済ませてからご飯を食べる。
「アリエが待ってるかな」
そう思った僕は目を覚まし時計をセットし、いつもよりはやくベッドに入ったーー。
ほんと現実なのか夢なのかわからなくなりそうだな。
ピリッ..ピリッ……。
寝ている時、最初に感じた違和感よりも大きな違和感を感じた。
目を覚ましたのは夢のなかのベッドだった。
さっきの違和感は……?
辺りを見わたしても、自分をみても特に変わったことはなかった。
寝過ぎて僕がおかしくなったのかな?
まぁいいか。
そういえばアリエはどこに行ったんだろ?
その時、階段を登ってくる音がして、すぐ部屋のドアが開く。
入ってきたのはアリエだった。
「あ、空! お帰り〜!」
どうやら出かけてきたようだ。
「ただいま。お帰りにただいま、なんて家族みたいだね」
「なに言ってるの〜。同じ家に住んでる時点でもう家族だよ!」
アリエはさも当たり前のように言ってくれた。
「あははっ、そう言ってくれると嬉しいな」
「いくらでも言ってあげるよ!
それはそうと空。忙しくて忘れてたみたいだけどケーシスについての説明はしなくていいの?」
「忘れてた訳じゃないんだけど、聞く暇がなかったんだよね。
ぜひ、教えて欲しいな」
「オッケー!」
やっと僕はケーシスについて知ることができるのか……!
それだけで、僕の心は今までにないくらいワクワクしていたーー!




