第3話 2つの現実と夢?
鳥の鳴く声で僕は目を覚ました。
たしかアリエの家で寝たんだっけ……。
アリエはもう帰ってきたかな。
「アリ……え?」
ベッドから起き、辺りを見回してみるとそこには見慣れた僕の部屋が広がっていた。
そりゃ夢だし、いつかは目をさますのが当たり前か。
夢の中でも意識がはっきりあったせいか、あんまり寝れた気がしなかったな……。
ピピピピピ!
僕が起きたのに合わせるかのように、6時を知らせる目覚まし時計がなった。
しかしほんとリアリティのある夢だったなぁ。しかも連続で同じ夢をみるなんて相当珍しいと思う。
「またみたいなぁ」
そんなことを呟き、僕は朝の支度を整え家を出た。
蕾が手を振りながらこっちに走ってくる。
「空君ゆっくり寝れた〜?」
蕾が心配そうな顔でこっちをみる。
「よく寝れたよーな、寝れてないよーな……」
「ふふっ、なにそれ」
蕾はクスクスと笑った。
「数学の授業中にみた夢をまたみたんだ。
その夢のなかで色々してたからあんまり寝た気がしなくてさ」
「へ〜、同じ夢をみたんだ!
私は同じような夢を連続でみることはあっても、まったく同じ夢を連続でみたことはないなぁ」
「やっぱり同じ夢を連続でみるって珍しいよね」
「でも怖い夢とかじゃないならよかった!
結構心配してたんだよ〜?」
蕾は僕の顔をじーっと見つめる。
「心配かけてごめんね」
「ううん! なにもなかったからいーの。
普段からはやく寝ないとだめだよ〜?」
「気をつけるようにするよ」
学校に向かう途中に夢の内容をもっと詳しく蕾に話した。
「ふむふむ。異世界のようなところでアリエちゃんという人に助けられて、さらに部屋を貸してもらってその部屋のベッドで寝てたらそこで現実にもどったんだね」
こんな話を聞いて面白いのだろうか?
「そんなかんじかなー、果水っていう飲み物がとても美味しかったかな」
「私も飲んでみたい……」
「もし蕾も僕と同じ夢がみれたら飲めるのにね」
「そんなの無理だよ〜」
彼女はうなだれる。
校門についた時ちょうど悠真が来た。
蕾と別れた後、悠真にも昨日の夢のことを話すと悠真は
「アリエちゃん可愛かった?」
「アリエちゃんに会ってみてぇ!」
などなど、アリエに関してのことしか聞いてこなかった……。
午前中の授業が終わり、昼休みにいつものように3人でご飯を食べていたら急に蕾が声をあげた。
「みてみてこれ!」
蕾の手に握られていたのは3つのミサンガだった。
白、オレンジ、緑とそれぞれ単色で作られている。
「なんでミサンガなんて?」
家から持ってきたのだろうか。
「果水が飲んでみたくて、あれから夢に関してのおまじないを調べたら、願いをこめたミサンガを利き足に結べば夢をみてる人の夢のなかにはいれるっておまじないがあったの。
同じ人が作ったミサンガを結んでる、夢をみてる人が夢に入ろうとする人を許可する。ってことも必要なんだって!」
そんなに果水が飲みたいのか……。
「うーん。そんなことほんとにできるのかなぁ」
そういうおまじないは成功例を聞いたことがあまりない気がする。
「てか蕾ちゃん、その情報みつけたのも、ミサンガ作ったのも、全部午前中にやったの?」
「うん!
授業中もせっせと頑張ってミサンガ編んだんだよ〜。糸があんまりなくて色が単色なのはごめんね。
先生にばれなくてよかった」
蕾は普段は真面目でおとなしいが、たまに変なスイッチが入ることがある。
『ちゃんと授業うけようか』
「は〜い……」
蕾は少し申し訳なさそうに笑っていた。
「でも俺もアリエちゃんに会ってみたかったからちょうどいいタイミング!
やってみようぜ!」
悠真はやる気満々のようだ。
「うーん、まぁやるだけやってみよっか」
成功するとは思えないけど……。
「さすが空、話がわかるぅ!」
「白が空君、オレンジが悠真君、緑が私ね」
蕾は僕と悠真にミサンガを渡す。
「ありがと」
「サンキューな、蕾ちゃん」
「どういたしまして!
このミサンガに空君は夢に入ってくる人の名前を思い浮かべてその人を許可する気持ちを込めて。
私と悠真君は空君の夢のなかに入りたいという気持ちを込めるの」
僕は蕾と悠真が夢に入ってきてもいい。という気持ちを込める。
それぞれ気持ちを込めた後、僕は右足首、蕾と悠真は左足首にミサンガを結ぶ。
『これでよし!』
それぞれの利き足にミサンガが結ばれた。
「果水楽しみだなぁ……」
蕾はもうエヘヘとにやけている。
「俺はアリエちゃんに会うのが楽しみだぜ!」
どんだけアリエが気になるんだろうか。
「でも、このおまじないで僕の夢に入れるかもわからないし、まして僕がまた同じ夢をみるとも限らないんだからあんまり期待しないほうがいいんじゃない?」
『はーい!』
絶対にわかってないな……。
まぁ僕も蕾と悠真が僕の夢に来てくれたら嬉しいし歓迎するけど。
そんなうまくいくのかなぁ。
「あっ、もうこんな時間だ。
私もう教室いくね、またあとで〜」
「うん、またね」
「おう、また放課後な〜」
こうして昼休みが終わり、各自の教室へと戻って行った。
午後の授業を受け終わった僕らは、いつも通りに下校する。
「明日は学校の創立記念日で休みだな!
しかも土日もあるから3連休!」
悠真ははしゃぐ子供のようだ。
「ぐっすり寝られるね〜」
「僕はいつも通り起きるけどね」
「ひゃ〜、偉いねぇ」
悠真はそんなのあり得ないと言いたそうな顔をしていた。
「生活リズム崩れると体調が崩れちゃったりするからね」
「空君健康的だね〜」
そんなことを話してるうちに、
「またな、空。昨日と同じ夢みてくれよ!」
「またね、空君!
もし夢に入れたら果水を飲ませてね!」
みんなそれぞれの家に着く。
そんなに夢に入るのが楽しみなのかなぁ。
それにしてもこんなおまじないではしゃぐなんていつぶりだろうか。
久しぶりにおまじないにわくわくするのも悪くないかな。
僕はいつも通りの夜を過ごし、目覚まし時計をセットした後ミサンガにもう一度願いを込め、ベッドに入ったーー。
目を覚ますとそこは昨日と同じアリエの家にある僕の部屋のベッドの上だった。
横を見てみると涙目で、そして驚愕の表情をうかべたアリエがいた。
「そ……ら?」
今にも途切れそうな声。
「アリエ……?」
また同じ夢を見てるようだ。
「そらぁぁぁぁ!
よかった、ほんとによかった!」
そういいながらアリエは半泣きで僕に飛びついてきた。
「そんなに泣きそうな顔してどうしたの……?」
「どうしたもなにも!
帰ってきたら空がいなくて!
せっかくひとりぼっちじゃなくなったと思ってたから……。
すごい悲しくて……。
1日待ったけど帰って来なかったから、やっぱりいなくなっちゃったのかと……」
この様子から察するに相当な心配をかけたようだった。
「心配かけてごめんね。アリエが部屋から出て行った後、普通にベッドで寝たんだけど、そしたら現実に戻っちゃって……」
「現実?」
アリエは不思議そうな顔をする。
「あぁ、そう言えば言ってなかったね。というか、言う必要あるのかな?
ここは現実じゃなくて、僕は夢を見てるんでしょ?」
「……?
空はなにを言ってるの?
ここは夢じゃなくて、『現実』でしょ?」
アリエは下を指差しながら答える。
「……え?」
これは僕の夢じゃないのか?
「その証拠に、昨日起こった出来事とかも憶えてるし、痛さや味だって色々感じてるでしょ?」
「でも……、夢でも感覚はあるでしょ?
それに、ケーシスや果水なんて現実にはないし……」
夢でも痛みや味なんて感じるはずだ。
「私に言わせれば、ケーシスや果水のない空が言う『現実』のほうが私にとって、いや、この世界に住んでるみんなにとって夢のような話だよ?」
うそ……だろ?
ここが現実っていうなら僕がさっきまでいた場所はなんなんだ?
夢ではない、現実だったはずだ。
僕は二つの世界を行き来している……?
とりあえず落ち着いて状況を整理しなくいと……。
「そういえばアリエ、僕がベッドから目を覚ました時、泣きそう顔しながら驚いてたよね。
なんで驚いてたの?」
起きたときからずっと不思議に思っていた。僕は普通に寝たはずなんだから泣くような理由なんてないはずなんだ。
「そうだよ! 不思議なことが起きたんだ!
空は昨日私が部屋を出たあと、ベッドで寝たんだよね?
そしたら、空はこことは違う『現実』の世界に行ったんでしょ?」
「うん。僕の記憶だとそのはずだよ」
「でも私が帰ってきて空の部屋に入った時には、ベッドの上には空の姿はなかったの。
まるで毛布の中に入っていた空がそのまま消えてしまったかのように、毛布は膨らんでいたんだけど……」
「やっぱり僕は夢のなかのベッドで寝た時現実に戻ったのか……?
そして現実のベッドで寝たことでまたここに戻ってきた……?」
「それでベッドの上で何か起きたのかと思ってベッドを調べようとしたら、いきなり空が出てきたの!」
アリエの表情は嘘をついてるようには見えなかった。
「なるほど……すこし情報を整理しよう。
今いる世界を『夢』として、僕の知るもう一つの世界を『現実』とすると、ぼくは夢のベッドで寝ることによって現実に戻った。
そして現実のベッドで寝ることによってまた同じ夢に戻ってきた。
僕が現実で時を過ごしてる間に夢では1日近くの時間がながれた。
それに、アリエたちにとって僕の言う『現実』こそが『夢』で、『夢』こそが『現実』というわけだ。あってる?」
「そーゆーことだと思う!」
「そーなると、僕のなかの『現実』とアリエのなかの『現実』、二つの『現実』があり、『夢』も同じように二つの『夢』あるのか」
まったく、ややこしい話だ……。
「とりあえず、寝ることによって現実と夢を行き来できるのか試してみようか。
アリエ、見張っててくれる?」
「もっちろん!
ちゃんと帰ってきてね」
アリエの表情には笑顔が戻っていた。
「これで現実に行けたら、多分現実で寝ればまた戻ってこれると思うよ」
僕はそう言い残すと、またベッドに入ったーー。




