第1話 僕は初めて【夢】をみた
「はぁ……今日もまた学校かぁ」
今日もまたつまらない1日が始まるのか。
そんなことを思いながら僕、夕凪空はベッドから起き朝食を作り始める。
普通の家庭なら親が朝食やお弁当を作ってくれるんだろう、でもうちの親はふたりとも忙しいらしく滅多にうちに帰ってこない。
らしく、というのは僕は小さい頃はおじいちゃんとおばあちゃんに育てられたからだ。
だから両親のことはおじいちゃんとおばあちゃんから聞いたことしかわからない。
おじいちゃん達から両親のことを話ではよく聞いていたが、両親に会う機会はほとんどなく、どんな顔なのかもよく覚えていない。
それに、両親は家に帰ってきたとしても『次の仕事がある』とかでまた仕事に行ってしまうのだ。
僕が10歳の頃、おじいちゃん達は亡くなった。
そして葬式が終わった後、僕は両親に引き取られ両親の家に引っ越すことになった。
両親は僕を忙しいはずの仕事を休んでまで泣きわめく僕と一緒に居てくれたが、僕はおじいちゃん達の死がショックで両親とあまり喋ることはなかった。
そのショックのせいなのか、10歳より前の記憶はとても曖昧で、はっきりと残っている記憶はここ2年くらいのものしかない……。
一番接していたはずの両親の顔や声、仲のよかったはずの友達のことなども覚えていない。
そしてなぜおじいちゃん達が亡くなったのかもわからない。
両親におじいちゃん達はなんで亡くなったのか聞いたこともあったがなぜか教えてもらえなかった……。
それに加えてなにか大事なことも忘れてしまっているような気がする。でも、今となっては思い出しようがない……。
ジュウジュウと音がしているフライパンに乗っているのはなんとも美味しそうな匂いのするベーコンエッグ。それを皿に盛り付け、茶碗にご飯をよそう。
それに加えチャチャっと豆腐の味噌汁をつくり、サラダを盛る。
料理の腕だけは結構自信がある。
まぁ、自分で食べるだけだからそんなに手のこんだものを作る機会なんてそうそうないけど……。
「いただきます」
そうやって自作の朝ごはんを食べた後、弁当をつくり、そして学校へ行くのが僕の日常だ。
玄関からでて鍵を閉めた時、
「おはよ〜、空君」
ゆったりとした声であいさつをしてくれたのはお隣さんの小桜蕾だ。
蕾は僕が引っ越してきた時からのお隣さんで、まだショックから立ち直っていなかった僕を励まし、そして友達になってくれた。
蕾がいなかったら僕は今もショックを受けたままだったかもしれない。それくらい僕に影響を与えてくれた人だ。
「おはよう」
あいさつをかわしたあと、僕たちは学校へ向かう。
「ねぇねぇ聞いて! 私昨日もまた夢をみたの! しかもと〜ってもいい夢だったんだよ!」
普段はおとなしい蕾が珍しくとても興奮しながら言う。
「また夢みたんだ。いいな〜、どんな夢をみたの?」
ぼくは今までに夢をみたことがない。
寝たらいつの間にか朝がきていた、いつもこんな感じだ。
「えっとね〜、スイーツの国に行って色々なお菓子をい〜っぱい食べる夢!」
エヘ、エヘヘ……とただでさえふわふわしてる顔がもっとふわふわしながらにやけている。
みているこっちまでにやけてしまいそうな笑顔だ。
「蕾はほんとにお菓子が好きだよね。今度また好きなお菓子作ってあげようか?」
「本当に?!」
「本当だよ。なにがいい?」
「ん〜、夢の中で食べたクッキーがとても美味しかったからクッキーがいいな!」
夢の中の食べ物には味がついてるのか。夢ってすごいな……。
そんなことを話しながら僕達は学校に向かう。
15歳の僕たちが通っているのは
【一灯高等学校】
名前がすこし珍しいくらいで、そのほかはなんの特徴もない普通の高校だ。
僕たちはこの高校に今年入学したばかりの1年生だ。
「うっす!今日も仲良いねぇ」
そう言いながらこっちに向かってきたのは柊悠真。
しゃべりはこんなに軽い感じだがさりげなく気を使ってくれたりもする、とてもいい奴なのを僕は知っている。
「おはよう」
「悠真君、おはよ〜」
僕と悠真と蕾は中学生の時に同じクラスになり、友達になってからはいつも一緒に行動したりしている程の仲だ。
特に僕と悠真は今も同じクラスなので、学校にいる時はずーっと一緒にいると言っても過言ではないかもしれない。
蕾は高校生になってからはクラスが違うので、学校にいるときはずーっと一緒にいることはできなくなってしまった。
「じゃあまた後でね〜」
そう言いながら蕾は自分のクラスへとかけていった。
そんな蕾の後ろ姿を見送った後、僕たちは教室へ向かう。
「ねぇ空、蕾ちゃんとの進展とかなにかないの?」
悠真はいきなりそんな話題をぶちこんでくる。
「進展ってなんだよ。それに僕は、蕾のことは友達として好きだけど恋愛感情は抱いたことないよ?」
「嘘だろ?!あんな可愛いのに?!」
「たしかに可愛いと思うけどね」
「まさか空はホモだったのか……?そしたら、まさかの俺のことが好きという可能性も……?」
「それはない」
「デスヨネー」
わかってるなら言うなよ! つっこみたかったが、それはなんとなくやめておいた。
本当に僕は蕾に恋愛感情を抱いたことがない。というより、蕾に限らず異性、もちろん同性にも、恋愛感情を抱いたことがない。
他人からみたら僕はつまらない人間なんだろうな、と思われているんだろうし自分でもそう思う。
教室に入ると同じクラスの中でもさらにグループごとに分かれているのが目にはいってくる。
楽しそうに談笑しているグループもあれば何に対してかわからないが、イライラしているグループもある。
これもいつもと変わらぬ光景だ。
自分の席に向かい教材などを机に入れるれた後、趣味の読書を始める。
これも、僕の日常だ。
こうして1限目が始まり、時間はながれるーー
4限目の授業が終わった後、僕と悠真は蕾を迎えに行き一緒にお昼ご飯を食べた。
お昼を食べ、お腹も満たされてウトウトしてしまう。
5限目は数学だった。
数学は好きだが、式や図形を考えていると眠くなってしまう。
でも、眠くなっても寝たことは今までに一度もなかった。
でも、今日はなぜか違った。
数字と記号の羅列をみた僕は、まるで催眠術にかけられたかのように眠りに誘われていったーー。
目を覚ました僕は1人、何処かわからない場所に立っていた。
さっきまで数学の授業を受けていたはずなんだけど……。
不思議に思いながらも頭を落ち着かせ、ここがどこかを考える。
目の前には大きな門付きの壁が広がっている。後ろを見てみると周囲にはのどかな草原が広がっていて、奥には綺麗な山が見える。
「綺麗な山だなぁ……」
紅葉やイチョウなのだろうか、赤や黄色に色づいている。
水色に光っている山もある。
めちゃくちゃ行ってみたい……。
「この風景……どこかで?」
ここには来たことがないはずなのに、なぜか懐かしさを感じる……。なんでだろう?
「でも、あんな山現実に存在するのかなぁ……?」
現実ーー?そういえばここが何処かずっと考えていたけど……。
「ーー!!」
まさかここは、【夢】のなかなのか!?
今まで一度もみたことなかったのに!?
初めて夢をみた時が数学の授業中の居眠りだなんて……。
なんかいやだ……。
そりゃ今まで将来の夢、とかそういう理想のことをいう夢はみてきたけど、寝た時にみる夢は本当に初めての体験だ。
なんかこう、ちゃんと寝てる時にみたかったなぁ……。なんて。
まぁいつみたとしても夢は夢か。
ここが夢の中だとしたらこんな不思議な風景が広がってるのは納得だ。
そんなことを考えていた時、いきなり景色が歪んだーー。
「なっ?!.……なに..が……」
なにが起こったのかも把握できないまま僕の意識はそこで途絶えたーー
「夕凪ー!起きろー!」
数学の先生が僕に声を掛ける。
「うぁぁぁぁぁぁぁぁあ?!」
僕は椅子を倒すほどの勢いで立ち上がった。
さっきまでいた世界は?!僕はどうなったんだ?!
そんな戸惑う僕の目にいきなりはいってきたのはーー。先生の怒った顔だった。
「夕凪!お前は人の授業を寝ながらうけていたいた挙句、呼びかけられたら叫ぶのか!」
「あ..いえ..すいません……」
「今回は初めてだからそんなに怒らないが!
もし次も同じようなことをしたら廊下に立たせるぞ!」
クスクスとみんなの笑う声が静かになった教室に静かに響いいるなか、悠真は心配そうな顔でこっちをみていた。
数学が終わった後、悠真がまっさきにこっちに向かってくる。
「空、さっきはどうしたんだ?大丈夫か?」
「大丈夫だよ。ただ夢をみたんだ。夢の中で綺麗な景色をみてたら、いきなり景色が歪んで……」
「ふーん。夢か、まぁ大丈夫ならいいけどよ……。授業中眠くならないようにたまには早く寝ろよ?」
そう言うと悠真は自分の席に戻って行った。
やっぱりやさしいよなぁ。
僕が中学生のとき、転んで階段から落ちたことがあったのだがその時もめちゃくちゃ心配してくれた。
頭はうっていないかだの、どこか痛いとこはないかだの、怪我は大したことなかったのに色々気にかけてくれた。
そんなことを思い出しているうちにもう下校時間になっていた。
「空、帰ろうぜ」
「うん」
「空君、悠真君、かーえろ!」
こうして僕たちは学校を出る。
悠真の家は学校から歩いて3分程の場所にある。
僕と蕾は学校から家まで10分程なので、悠真とは途中で別れることになる。
「空、蕾ちゃん、また明日な!」
悠真は大きく手を振って家に入って行った。
「ねぇ空君?」
「なに?」
なにか嫌な予感がする……。
「今日空君5限目の数学のとき叫んだの?」
「……なんで知ってるの?」
嫌な予感は的中したようだ。
「なんか叫んだ人がいるらしいー。って噂になってたよ?」
うわぁーー、最悪だ……。
「なんで叫んだの?」
「ちょっと夢をみてね……」
「そーなんだ。でも叫んじゃうような夢なんて嫌だね。私は叫ぶような夢みたことないよ?」
「夢にも色々種類みたいなのがあるんだね」
そりゃそうか。みんな毎回あんな夢みてたら大変だもんな。
「空君疲れてるのかもよ〜?
疲れてると怖い夢をみるって誰かが昔言ってたよ!」
体調によって夢は変わるものなんだろうか?
「疲れてなんかいないと思うんだけどなぁ……。まぁ今日はすぐ寝るようにするよ」
「うん。いい夢見れるといいね!
あ、もうお家についたね。また明日、空君!」
「うん、また明日」
蕾に手を振った後、僕は家に入る。
やはり疲れているんだろうか?
そんな夜更かししたりしてないはずなんだけど...…。
「まぁ今日は早く寝るか」
そうつぶやくと僕はすぐにお風呂に入り、夕飯をたべた。
歯磨きをしながら今日初めて見た夢を思い出してみる。
やっぱあんな綺麗な景色みたこともないよなぁ。夢ってやっぱり不思議だ。
また、見れるといいな。
はみがきをすませた僕はまだ夜の8時にもかかわらず、目覚まし時計を6時にセットしベッドに入った。
そんなに眠気はなかったが、不思議なことにすぐ眠りにつくことができたーー




