第10話 悔しさ
『…………』
蕾は和弓のように美しく大きな弓、悠真はそんなに大きくはないが重そうなハンマーを手にしていた。
悠真も蕾も武器を手に真剣な顔をしている。
2人も僕と同じ、これからのことを考えているのだろう。
アリエはトライデントのように先端の刃が3つに分かれている槍をマジマジと眺めていた。
「みんなうまく形にできたね!
これで武器はいいかな〜」
アリエは視線を武器から僕たちに移す。
「……うん」
「おう」
「……はい」
「じゃあイヤーカフにイメージをこめるのをやめてみて〜」
言われた通りイメージを込めるのをやめると、武器は再びイヤーカフとなり耳に戻った。
それから僕たちはイメージ力を高めるための本や旅に必要な道具などの買い出しをしてホテルに戻った。
部屋に入ると悠真が呟く。
「俺たち……戦わなきゃいけないんだよな……」
「うん……戦わなきゃ地球には戻れない」
「絶対に帰ろうな」
「もちろん」
僕たちは無事に地球に帰るんだ。
いつもの日常に戻るために……。
それから僕たちはホテルで夕食をとり、お風呂に入ると崩れるように眠りについたーー。
「空君ー、悠真君ー、起きてー!」
蕾の声がドアの向こうから聞こえる。
「もう朝食の時間だよ〜!」
時計に目をやるともう8時になっていた。
「今起きたよー、ちょっと待って〜!」
まだ眠っている悠真を揺すりながら返事をする。
「なんだよ空……もう朝か?」
「もう朝食だってさ」
悠真は目をこすりながらベッドから出てきた。
眠そうな悠真の手を引き僕達は朝食会場へ向かう。
朝食はバイキングだった。
「見たことない料理がたくさんあるね〜」
蕾はお皿いっぱいに料理を盛っている。
朝からよく食べるな……。
席に着くといつもの蕾からは予想できないくらいの量をペロリとたいらげ、再び料理を盛りに席を立つ。
見ているこっちが気持ち良いほどの食べっぷりだ……。
みんなが食べ終わるのを見計らってアリエが口を開く。
「それじゃあ朝食も終わったことだし、これから特訓タイムだよ!」
アリエが言うにはこのホテルの隣には特訓のための場所があるらしく、そこを3日ほど貸し切りにしたそうだ。
お金のことは聞かないようにしよう……。
「ここが特訓場所だよ!」
アリエが連れてきた場所はとても広く、様々な設備が揃っていた。
「広すぎだろ……」
たしかに僕たちだけで使うにはもったいないほどの広さだ。
「いーのいーの。これくらいあった方が色々特訓できるんだよ〜」
そりゃそうだけど。貸し切る必要はあったんだろうか?
「それはそーとアリエちゃん。特訓っていってもなにするんだ?」
「それを今から決めよーと思うんだけど、その前に創現武器について説明しようかな〜と思って。
みんなまたイメージをこめて〜」
みんなイメージをイヤーカフにこめ、それぞれのイヤーカフが武器に変わる。
「みんな、例えば炎で相手をスパっと切るなんてことできると思う?」
炎で人を切る……か。そんなこと、できるわけがない。
「できないでしょ」
「そう、炎で人を切るなんて無理な話なんだ。でも創現武器ならそれを実現できるんだ〜。
空、その短剣はどんなイメージをこめたの?」
「炎のイメージだよ」
「じゃあその短剣この地面に刺してみて〜」
アリエが指差す地面には芝生が広がっていた。
僕は言われたままに短剣を地面に突き刺す。
……ボッ!
短剣を突き刺した場所の芝生はメラメラと燃えた。
「こんなふうに創現武器にはイメージの力をつけることができるんだ〜。
空がもっと短剣に熱いイメージをこめれば短剣はもっと熱くなり、切ったものをたちまち燃やすことだってできるようになるんだよ」
なるほど……たしかにこれなら炎で人を切ることと同じなのかもしれない。
創現武器は形のないものに形を与えるって感じなのかな?
「よし、武器の説明もしたし特訓の説明に入ろうか!」
アリエの決めた特訓は僕がイメージの練習、悠真と蕾は武器の使い方だそうだ。
そして僕は今、アリエに渡された『世界の炎写真集』を読んでいる。
こんな本どこの誰に需要があるのだろうか……。
しかしこの本には炎を様々な角度で撮った写真に加えて炎に関しての知識などが載っていてなかなか為になる。
「ふぅ……なかなか面白かったな」
こんな本初めて読んだからなかなか新鮮だったな。
蕾たちのほうに目を向けると2人はひたすら武器を使った練習をしていた。
「よしっ! 2人とも少し武器を使いこなせるようになってきたね」
「アリエちゃん教えるのうまいな!」
「少しコツが掴めた気がします!」
2人とも武器をなかなか使えるようになったようだ。
僕も少し短剣の使い方を学ばないとな。
「空も本を読み終わったみたいだし、すこし武器も使って組手をしようかな〜」
『組手!?』
組手って相当危ないんじゃ……?
「そう、組手。創現武器は相手を傷つけないようなイメージをこめれば殺傷能力は0になるし、安全だよ〜」
創現武器ってほんとすごいな。
「まぁ、なにはともあれやってみよ〜! まずは空と悠真!
ルールは相手を降参させるか、私が勝ったと思った方の勝ち。ケーシスと武器の使用はオッケーだよ!」
「はぁ……やるか、空」
悠真はのそのそと動き出す。
「まだ僕武器の使い方なにもわからないのに……」
勝てる気がしない。
「つべこべ言わない!
それでは、戦闘開始ぃ!」
「まぁ空、やるんだったら全力でやろうぜ」
悠真はハンマーを僕に向かって構える。
「はぁ……あんまりやる気起きないけど、全力でやらせてもらうよ」
僕も短剣を悠真に向ける。
でも、全力でやらせてもらうなんて言ったけどどうしたものかなぁ。
実際今の僕の力で勝てるんだろうか? それに、戦い方もわからないし……とりあえずは狐火をだして様子見かな。
「どうした? かかってこないならこっちから行くぜ?」
悠真はもうやる気満々だ。
「狐火」
火の玉が6個宙に出現する。
これを飛ばすことができればいいんだけど……この炎ってもしかして動かせるのかな?
炎に意識を向けると炎はイメージした方向に動く。
動かせるんだ……じゃあこれを。
僕は火の玉全部を悠真に向けて飛ばす。
「おお、そんなこともできるのか。防がないと俺は燃えちゃう訳だ」
「そーゆーこと。まぁ、燃えてもすぐ消せるから安心して」
「なら少しは安心だな」
悠真は地面に手をあてる。
「粘土壁」
そのまま地面を引っ張り壁を造り、火の玉は壁にぶつかり消滅した。
なるほど……地面を粘土のようにしたのか。
やっぱり一筋縄じゃいかないなぁ。
僕はもう一度狐火を発動する。
「またその火の玉を飛ばしてくるのか? そんな一直線の動きじゃ俺には効かないぜ」
そんなことはわかってるさ。
僕は短剣を構える。構え方はよくわからないけど、昔読んだ本にでていた短剣使いの構えをまねてみよう。
「中々さまになってるな」
「そうかな? まぁ、ありがとう」
僕と悠真はジリジリと距離をつめていく。
とりあえず攻めてみるか。
そう思った瞬間、
「突き上げろ、土角」
地面が角のような形になり、僕をそのまま宙に突き上げる。
「がっ……?!」
「どうだ空? なかなか効くだろ?」
悠真はハンマーを構えて追撃の体制をとっている。
あの追撃を阻止しないと……!
火の玉を飛ばすが再び粘土の壁で防がれてしまう。
くそっ……空中で身動きはとれないし、短剣で防ぐしかない。
「おらぁっ!」
悠真がハンマーを振り抜く。
ガンッ!
短剣で防ぐことはできたが、衝撃でそのまま吹き飛ばされる。
ズザザッ。
なんとか着地することはできた。
今ので距離はできたはず、なんとか攻めなきゃ……。
悠真がさっきまでいた場所に目を向けたその瞬間、悠真は空の目まで距離を詰めていた。
「なっ……!?」
「俺のお得意の蹴動だぜ」
悠真は僕の頭にハンマーを振り下ろす。
パコン!
発泡スチロールで叩かれたような衝撃が頭にはしった。
「勝負あり〜! 勝者は悠真〜!」
アリエの大きな声が特訓場に響いた。
やっぱり負けちゃったかぁ。
「ははっ、楽しかったな空」
悠真は運動してさっぱりしたような笑顔で言う。
「うん、また今度頼むよ」
でも、いくら武器の使い方を知らなかったとしても、あれほどなにもできないで負けたのが僕は少し悔しかった。
もし敵が出てきた場合、今の僕ではなにもできずに終わってしまうだろう。
そんなことじゃだめだ。
もっと強くならなくちゃいけないんだ……。
「空、そんな真剣な顔しなくても大丈夫だよ〜、後で私が短剣の使い方教えてあげるからさ」
アリエはニコニコ顔で言う。
「よろしく頼むよ」
「それじゃあ次は私と蕾だね〜」
「えっ、私たちもやるんですか?!」
「もっちろん!」
「うぅ……でも空君たちも頑張ったんだし私も頑張らないと!」
蕾はぎゅっと拳をつくり、やる気をだした。