日記⑧ 諦めの先にあるもの
【□×年×月×日】
私の話す言葉はいつも同じ。
おはようございます
行ってらっしゃいませ
お帰りなさいませ
お疲れさまでございました
……視線が合わないことにも、もう慣れたわ。
夜には名前を呼んで、愛していると告げれば、……あとは次の日になるのを待つだけ。
何度も同じことしか言わないから、完璧よ。
お気を付けて、行ってらっしゃいませ。たまには、お体を労ってくださいね。今日もお仕事お疲れさまでした。愛していますわ、旦那様。
……もう、何の気持ちも込めないで、彼の名前もためらいなく言えるようになったわ。
傷付かないように、私は心を無にするの。
私の言葉には、私の気持ちは必要ないの。
必要なのは彼が求めている言葉と声の響きだけ。
私の誕生日を勘違いしているのか、わざとなのかはわからない。
でも、あの人が好きな花とあの人の瞳の色と同じ装飾品をあの人の誕生日に頂いても、笑顔で返事が出来たわ。
ありがとうございます、大切にいたしますって。
そう、大切に鍵のかかる引き出しにしまっておくわ。
彼が言うように、あの宝石たちは青い瞳に似合うはずだもの。スミレ色の私の瞳が、宝石と同じ青色になるまで身に付けないわ。
悲しいとか寂しいという気持ちが湧き続けるのは何故かしら。早く枯れてしまえば、私は楽になれるのに。