日記① 舞踏会
(日記帳 中表紙に書き込みあり 日付記載なし)
私の人生は、客観的に見たら幸せなものだった。
きっと「物語みたいだねって」、皆は言うはず。
だって、私もそう思っていたのだもの。
でも、違っていた。
現実は、物語みたいに都合良くも甘くなかった。
旦那様は――を――していて、私を――。
私は、――に――しかないの。
私の声は彼に聞こえているのに、私の思いは彼に届かないのだ。
(一部インクの染みにより解読不可能)
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【□□年○月×日】
今日は幸せだった。初めての舞踏会での、初めてのダンス。
素敵な時間を過ごせたのは、これが最初で最後だったから。こんな体験は一生に一度しかないから、私が全力で楽しんだ結果だわ。
今日は我が国の王子様が、結婚相手を選ぶために舞踏会をお開きになったのよ。
そこにはたくさんの未婚の女性が、身分に関係なく招待されていたの。
……数が多過ぎて、王子様なんて見えなかったわ。
同じく招待された友人達と、楽しく時間を過ごしていたの。おいしい食事や飲み物、お菓子を頂きながらね。
そんな私達の所に、何人かの男性がやってきたの。
皆がお揃いの格好をしていたから、騎士様だってわかったのだけれど、驚いてしまったわ。その上、ダンスにまで誘われてしまったわ。
友人達も皆、一人また一人と騎士様に手を取られてダンスの輪に加わって行ったの。
……夢みたいだったわ。
三日間もお城に行けるなんて夢のようだと思っていたけれど、こんなに楽しくて幸せなんて本当に夢ではないかしら。
【□□年○月△日】
今日もダンスをした。
上流階級のお嬢様方は、王子様をずっと取り巻いていらっしゃったけれど、一緒に踊った方はお一人だけなんですって。
私を誘ってくださった方が教えてくれたわ。
昨日とは違う騎士様だったけれど、今日の方もダンスはお上手。
そうして一つ、教えてくださったの。
今回の舞踏会は「王子様の花嫁探し」兼「独身騎士達への出会いの場の提供」なんですって。
だから三日間もあるんだって納得しちゃったわ。
明日も舞踏会に行くの。でもドレスはどうしよう、同じ物でもいいかしら。
ドレスは無いわけではないけれど、お城へ着て行けるようなドレスは何枚も持っているわけではないから。
……貧しい人たちはどうしているのかしら。
そう考えると、三日間も行くのは大変なことだわ。
【□□年○月○日】
舞踏会が終わってしまったわ。
寂しいけれど、ほっとしているの。……だってずっと綺麗な自分でいるって疲れるんだもの。
今日のダンスは一回だけ。あとはずっとお話をしていたの。
ああ、明日からまた現実が始まるわ。頑張らなくっちゃ!
あ、そうそう王子様は三日間とも同じ方と踊られたみたい。
既に心に決めていた方がいらっしゃったのかしら?それとも、見初められたのかしら。
私、わかったことがあるわ。
今回の舞踏会は、本当に、国主催の「独身騎士様達の花嫁探し」の場だったのね。
会場で髪に挿すようにと渡された花は、三日間とも黄色いバラだったわ。
友人達もほとんど同じ色だった。
上流階級のお嬢様方には白いバラ。他にはピンクやオレンジもあったわね。
騎士の中にも、ある程度の身分がないと就けない近衛騎士は薄紫の制服だった。私と踊ってくれた騎士様達は、皆同じ濃紺の制服を着ていた。他にも深緑や深紅……所属や位によって色が変わるもの。
私達、値札を付けて彼らに売り出されていたのね。何だか悔しいわ。
まあ、タダで美味しい物を食べたり、綺麗なお城の中でダンスをしただけで、なにも損はしていないからいいわ。
さあ、明日からまた現実が始まるわ。
お伽話のような舞踏会の裏側の現実は、できれば気付きたくなかったけれど、夢はいつか覚めるものだもの。
朝は必ず来て、夢は必ず覚めるものだから、……早いほうが、辛くないもの。