物語の真実※王様視点
※あらゆる意味で危険思考です。要注意。
副題『極悪人の鬼畜と、囚われの姫と、不幸な王子』
……二十年前、海の国と呼ばれる隣国では世継の王子の誕生パーティーが行われていた。
会場は、豪華な客船の上。そこには、王子だけではなく、美しい婚約者候補もいた。
そこで、婚約が発表されるはずだった。しかし、事件が起こり、パーティーは中止になった。
王子の婚約者が、そのパーティから突然姿を消してしまった。
探してもどこにもいない。会場は海の上だから、船の中にいるはずなのに、消えてしまった。
あやまって海に落ちてしまったのではないかと、朝まで必死の捜索がされたけれど、見つからなかった。
そこで、代わりに私の姉である、我が国の第二王女が隣国に嫁ぐことになったとう経緯だ。
……公的な記録では、な。
もちろん、真実は違う。……お前も知っているとおりな。
――あの時、お前は私の腕の中にいたのだから。
お前があの王子を愛しているのを知っていて、あいつがお前を大事にしているのを分かっていて、無理矢理手に入れた。
あれ以上に楽しかったことは、この二十年で二回しかないな。
一回目は、お前の王子妃としてのお披露目の席。……絶望に染まるあいつの顔が愉快だったなあ。
次は、この間だ。あいつが死んだ知らせを受けた時だよ。
……そうだ、お前とあいつは似ていた。同じ目をして、私を見ていた。
そう、汚らわしいものを見る、蔑んだ目だ。私はその目を、絶望に染め上げたいと思ったんだよ。
綺麗なものは汚したい、美しいものは壊したい。
あいつも、お前も、私は気に入ってしまったんだよ。
二十年かかって、ようやく二人とも手に入れた。
綺麗な海の国の、美しい恋人達。
……どうしてお前は泣く?
私は、お前をこんなに愛しているのに。
そんなに、あいつの遺髪が嬉しかったのか?
お前が泣いていると、よけいに泣かせたくなるのはなぜだろうなあ。
……ああ、逃げるな。
お前が逃げたら、お前の大事なものをすべて壊してやるからな。