諦めた恋を断ち切る時間※旦那様視点
隣の国に嫁がれたこの国の第二王女は、美しい人だった。
近衛騎士として王に忠誠を誓いながら、心はあの方に捧げていた。
近衛騎士は王を守るための兵隊だった。王宮で勤務は、華やかなものに見えて、実際は危険であり、綺麗な仕事ではなかった。
そんな中で、あの方だけは清廉だった。王宮に赴くたび、姿を探した。姿を見るだけで、いや、声を聞くことだけでも幸せになれた。王の理不尽な命令にも耐えられた。
もちろん、これが叶わぬ恋であることは知っていた。
年齢も身分も、あの方とは釣り合わない。
だから、諦めた。
諦めて、違う女を妻にした。
諦められると自分を騙し、誤魔化していた。
そうしてあの人を思いながら、ずっと生きてきた。夜の闇の中だけ、夢のなかだけでしか手に入らない、高貴な方。
――愛しい、私の姫君。
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「この度の功績を讃え、お前には新たな妻を与えようと思う」
数年前から始まった隣国との戦。
自分は王弟とともに最前線で戦った。戦は半年前に、我が国の勝利で終わりを迎えた。
妻が死んでもうすぐ十年、娘も結婚適齢期となった。
もう五十も過ぎ、あとは老いていくだけだと思っていた自分に、いったいどんな物好きが嫁いでくるというのか。
「ぜひお前に降嫁させたい者がいるのだ」
玉座の主の表情は、跪く自分には見えない。……だが、彼が幼い子どもの頃から傍で仕えていた自分には、王が楽しそうな様子であることはわかっていた。
「――我が国の元王女であり、隣国の王妃をお前に与えよう。本人も納得しているし、出戻りだが、かまわないだろう。お前も再婚だしな」
「――!」
あまりの衝撃に顔を上げてしまった自分を、人の悪い笑顔をした主が見つめていた。
「無能な王弟を守るために、わざわざ隣国まで行った甲斐があっただろう」