唄わないカナリア
『このカナリアはあまり唄わないな』
お父様が私のカナリアを見て呟く。
変ね、今も美しく鳴いているのに?
『お父様?この子はいつも綺麗な声で囀っているわよ。今も鳴いているじゃない』
いつもと変わらない綺麗な声。本当に、可愛いわ。
『なんだって?ああ、いや、そうじゃないよ。うちのは他の家のカナリアと違って唄わないんだなと思ってだな』
私はそれを聞いてちょっとお父様が嫌いになった。なによそれ、私の鳥がダメな子みたいじゃないの。お父様ったらひどいわ!
『あのね、お父様!売り物のカナリアはね、もとの囀りとは別に、オルゴールなどで唄を覚えさせているのよ!だから定期的に音楽を聞かせればこの子も覚えるのよ!』
私が一息に言い切ると、お父様はぽかんとしていた。
なにかしら、お父様ったら、何をそんなに驚いているの?
『お前は、誰に似たんだろうなあ。こんなに元気に育って……』
お父様は、私を誉めているの?それとも、貶しているの?でも、自分に似たとは思っていないみたい。
ふんっ、だ。お父様のそういう「自分には責任がない」みたいな態度は好きじゃないわ。
『あら、私の性格はお母様そっくりだって使用人の皆は言うわよ?この茶色の髪も、スミレ色の瞳もそっくりですねって』
私はそれを聞いて、とても嬉しかったのよ。
と言うと、お父様は変な顔をした。
『……あれは、こんなに賑やかな女ではなかったはずだが……』
お父様がぶつぶつと何か呟いているわ。よく聞こえないけど、お母様は明るくて元気な方だったわよ。
『お母様は、とても行動的だったわ。一緒に庭で遊んだり、森にお母様の好きなお花を摘みに行ったり。そうそう、お誕生日のケーキもいつも一緒に作っていたのよ』
私の大切な思い出。大好きなお母様と過ごした時間は私の宝物。
『お母様はもういらっしゃらないけれど、私はいつもお母様と一緒だから寂しくないわ』
そう言って、私は形見のネックレスに触れた。そこにある石は、お母様の目と同じスミレ色。
『今年もお母様の誕生日には、お母様のお好きだったベリーのタルトを作るつもりよ』
私がそう言うと、お父様は黙り込んでしまった。
……私、何か変なこと言ったかしら?