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彼女は凝り性なんです





 手芸部に入部して早一週間。


 特にコレといった事件も無く、俺は平凡な部活動をこなしていた。それはもうクソがつくほど真面目に。




 「海原君、進行の具合はどんな感じですか?」


 「もうちょいだから急かすなよ」




 ・・・本日3回目のやり取り。


 そう、これがクソ真面目に部活をこなしている原因だ。放課後になるやいなや、神代は俺の教室まで押しかけ俺を部室まで連行していくのだ。そして、30分に1回のペースで俺に進捗状況を聞いてくる。ちなみに俺が今作っているのは進入部員用に通販で買っていたミニ巾着。




 「ほら、出来たぞ」




 ふふん、初心者にしては中々の出来じゃあないか?形も歪んでいないし、口を閉める紐もしっかり締まる。さて、神代先生の評価はいかがなものか。




 「わぁ・・・綺麗に出来てるね。私的にはちょっと物足りない感があるけど、上出来なんじゃないかな?」


 「・・・あ、はい。どうも」




 まさかの高評価。てっきり辛辣な評価を受けるもんだとばかり思っていた。先輩達があれこれ言っていたから心配してたんだよね。



 あれこれっていうのは今から説明しよう。話は4日前にさかのぼる。



 入部して3日目、俺の情報を聞きつけた受験勉強中の先輩達が興味本位で部室を訪れた。


 先輩達はどんな人だったかと言うと、正直言ってぱっとしない人達、その辺にいそうな普通の女子高生だった。けど性格はとても良くて、見ず知らずの俺に気さくに話しかけてきてくれた。そのときに、神代がどういう奴なのかを聞く機会があったのだ。





 先輩達曰く、神代は か な り の凝り性らしい。





 先輩達と神代の出会いは学校の掲示板。手芸部員募集のポスターを貼っていた先輩達に神代が話しかけ、ダメ元で入部の交渉をしたところあっさりとOKをもらえたんだそうだ。


 その日以来、神代は手芸部期待のホープとして日々部活動にいそしむようになったわけだが、ある日を境に神代の手芸に変化が起こった。



 きっかけは些細なものだった。


 そろそろ次のステップへ進んでもいいんじゃないか?と考えた先輩達は、神代にテディベア製作キットを渡してこう言った。




 「そのテディベアに、自分なりのアレンジを加えてみて。リボンとか簡単なのでもいいからさ」




 それから一ヵ月後、神代は出来上がった作品を先輩達に掲示した。その出来は先輩達の予想のはるかに上を行っていて、あまりのすごさに言葉を失ったらしい。


 綺麗に縫い合わされた手足。手足の先にちょこんとついたかわいらしい爪。ふっくらとした鼻先に小さな牙。頭についたキュートな獣耳。




 そして・・・・・・ふっさふさのたてがみ。




 先輩達は一ヶ月前、確実にテディベアの製作キットを渡した。通販の履歴にも、テディベア製作キットを買ったというログが残っている。





 だがしかし、神代が掲示してきたのはどこからどうみても、誰がどう見ても、ライオンにしか見えなかった。





 たしかに自分なりのアレンジを加えてみろとは言ったけれど、まさか熊をライオンに変身させてくるなんて先輩達は思ってもいなかったのだ。



 これがきっかけとなってしまったのか、この日以来、神代は製作キットに自分なりのアレンジを加えるようになっていった。


 巾着はナップザックに、ひよこは小鳥に、子犬を描く手芸色紙が絵画を模写した手芸色紙に。神代の手にかかった素材は次々と変貌を遂げていった。



 それからしばらくして、先輩達は受験勉強に集中するために手芸部へ顔を見せる頻度は少なくなったため、神代の作品を見る機会も少なくなったのだが、来るたびに神代の独創性は悪化、もとい精錬されてきているそうだ。









 最初聞いたときはとても信じられなかったけれど、棚に飾られてある元子犬の虎や元ティッシュ箱カバーの帽子を見せ付けられて何とも言えない気分になったのは今でも思い出せる。


 ホント、完璧な人間っていうのは存在しないもんなんだなぁ・・・。まあ、それも個性があるっていうかキャラが立っているっていうか、どっか欠点みたいなところがあると親近感が沸くからいいとは思うけどね。


 見た目とか性格がいい奴がそうだとなおさらそう思えて来るんだよなぁ。



 てか、冷静に考えると今の状況って結構すごくないか?学園中の視線を集めるゴールデン美少女と二人きりとか、周りの連中が嫉妬するレベルだろ。





 個性的な美少女と放課後の部室で二人きりだぞ?二人きり。もうこれは・・・・・・・・・・・・・・・物語が始まる予感しかしない。








 『ちょっと海原君。ちゃんと部活やってよ』


 『っせーな。何で俺が手芸なんてしなくちゃなんねぇんだよ』


 『そんなぁ・・・』




 夕暮れの部室。俺はいつものように手芸部の部室へ向かい、そして、いつものように部室で菓子と漫画を広げていた。


 別に来る必要も無いのだが、家に帰っても誰もいないから退屈で仕方がない。だから、この部室は時間つぶすにはもってこいの場所だった。

 電気は使い放題だし、散らかしても文句を言ってくるやつはいない。ま、ぴーぴーうるさい奴はいるが、それはそれで面白い。こいつはいじられるたびに面白い反応をしてくれる。


 俺が手芸部に入った理由はいたって簡単なもんだ。よくある話さ。先公が全員部活に強制入部だとかふざけたことを言いやがったんだ。だから、適当にサボれそうな手芸部に入部してやった。ただそれだけ。




 『んじゃ、俺そろそろ帰るわ』


 『え!?この散らかってるゴミは!?』


 『任せた。俺、暇じゃないんでね』




 いつものように、神代にゴミ掃除を押し付けて部室から出ようとしたその時だった。




 『ッ!!? 何だ!?』


 『キャァアア!!』




 がくん、と地面が大きく揺れた。しかもそれだけじゃない。景色が、夕日で紅に染まった部室が歪んでいく。




 【クッ・・・何だ・・・一体、何が起こってやがる!!】




 言いようのない奇妙な感覚に襲われた俺は思わず目を閉じた。それからしばらくしていると、次第に感じていた奇妙な感覚は無くなっていった。


 俺はゆっくりと目を開けた。そして次の瞬間、飛び込んできた光景に唖然とした。澄み渡った青い空。草木生い茂る緑の森。明らかに異常だと、俺の勘がそう告げていた。




 『一体・・・何が起こったんだ?』


 『う・・・ん・・・』


 『神代!?』




 声のしたほうを振り向くと、そこには地面に横たわっている神代がいた。




 『おい神代!しっかりしろ!』


 『ん・・・海原・・・君?私、一体・・・』




 ふらつく神代に肩を貸し、二人でしばらく歩いていると切り立った崖に出た。そこから一望した風景を見て、俺達は愕然とした。



 そこには天高くそびえ立つ高層ビルも、排気ガスを撒き散らす自動車も、せわしなくうごめく人の群れも無い。



 ビルの変わりに天高くそびえ立つのは巨大な山岳。ガスの代わりに霧を撒き散らすのは生い茂る森林。そして、人の代わりにうごめくのは・・・・・・・・・・・・・・




 『ギャァアアァアアアオオオォォオオオ!!!』




 空を飛ぶ巨大なドラゴン。




 『な・・・何これ・・・』


 『くそッ・・・一体、一体何がどうなってやがんだ!!?』




 俺達の日常は、音を立てて崩れ落ちた。


















































 「それじゃあ今日はここまで。海原君、明日も部活やろうね。」





 なーんてこと、あるわけないよね。





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