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第99話 命の護り手 2

99 命の護り手 2



 「パイモン、話があるんだ」

 「丁度よかった。私も貴方に話がありました」


 学校終わりに向かったマンションでパイモンに話しかければギロリと睨まれて澪と固まってしまった。ルーカスと話をしてから二日後のことだ。勝手にルーカスと会ったことをどう説明しようと思って澪とストラスに手伝ってもらって言葉を考えていたのに一瞬で考えていた文章が飛んで行ってしまった。


 「あの、怒ってる……?」

 「そう思うということは、私に何か後ろめたいことがあるのでしょうか?」


 パイモンの後ろに立っているセーレが手を合わせて頭を下げている。セーレがばらしたんだ!余計なことを~!!


 「すみませんでしたぁ!!」


 もうパイモン相手に言い訳なんて通用するはずなく勢いよく頭を深く下げた俺を見てヴォラクが興奮したように飛んでくる。


 「拓也それ土下座ってやつじゃないか!?日本人の最大限の謝罪の表現だろ!?」

 「土下座って地面に頭つけるんじゃなかったっけ?」


 なんでこいつら土下座なんて言葉を知ってるんだよ。そんなことを言う勇気もこの場ではなく、ヴォラクとアスモデウスの会話をぼんやりと聞きながらパイモンの反応を待つ。頭上でため息が聞こえて恐る恐る顔を上げると、エメラルドのようにキラキラしている瞳が冷たく俺を見下ろしていた。


 「前に言いましたよね?私のあずかり知らないところに行くことは許されないと。理解したと思っていましたが、随分と鶏頭だったようだ」

 「そんな約束したっけ?」

 「……あれだけ泣いていたのに本当に良くできた頭だ」


 おもいっくそけなされてるのは分かる。けど、いつの話!?あれだけ泣いたって言われたけど、結構パイモンの前で号泣しまくってるからいつの話か分からない。マジで思い出せない俺を心配になったのかアスモデウスがフォローしてくれた。


 「ホンジュラスでパイモンに怒られてただろ。その時に言われてたじゃないか」


 あ!!そういえば言われた気がする!怒られて腹が立って泣きまくって頭の中パニックになってたから正直内容あんまり覚えてなかった。再度謝ろうと思っていた言葉はガツンと言う頭に響き渡った衝撃によって遮られた。


 頭を抱えて蹲った俺を前に、犯人は涼しい顔をしている。


 「どうも言葉では理解できない知能のようなので少々痛い目を見た方がいいかと。理解されましたか?俺の主」

 「……主に暴力振るう家臣がどこにいるんだよ」

 「主の暴走を止めるのも臣下の務めですよ。ただ、貴方の考えは正しい。私に相談をしていたならばルクセンブルク行きを許可しなかった」


やっぱり全部知ってて怒ってるんじゃないか。パイモンは警戒心が強いから絶対にルーカスに会わせてくれないって普通にわかるもん。


 「何度も言っていますが、貴方を守れるのは私だけです。いくらルーカス本人に敵意がないとしても、他の奴らがそうとは限らない。今回は目を瞑りますが次はありません」

 「はい……」

 「それでセーレが言うにはウルグアイに調査に向かいたいということですが、結論から言います。それは認められません」


 は!?なんで!?


 まさかの否定の言葉に目が丸くなる。だって悪魔がいるんだよ?悪魔倒しに行くって考えたらイルミナティより先の方がいいじゃん。それに黄熱病を防いでいるってことは多分契約者は悪い人でもないし、話し合いで解決できるはずだろ!?


 納得できずに言い訳を考えている俺にパイモンはパソコンの画面を見せてきた。


 「イエローカード?」

 「黄熱病流行地域でのワクチン接種証明証です。これがないと現在南米への入国は許可されていません」

 「いやいや、セーレに連れてってもらうんだし平気でしょ。道歩いてたら警官とかに出せって言われんの?」


 再度ため息をつかれて思わず謝ってしまう。でも別に入国でいるっていうのなら俺たちが携帯する必要もないじゃないか。


 「南米はマルバスの能力のせいで黄熱病が蔓延している。ルーカスが簡単にウルグアイに乗り込むと発言したのもマルバスの加護があり自身は罹患しないからでしょう。ですが貴方は違う。罹患したら少なくとも日本で治療を受ける際にどう説明するつもりですか?日本に黄熱病を媒体にする蚊はいません。なのに黄熱病に罹患しており、さらに海外渡航歴がないと判断されたら少なくとも日本国内のトップニュースになるでしょうね」


 そっか……俺がウルグアイで黄熱病にかかるかもしれないのか。そこまでは考えてなかった。迂闊なことを言ってしまった。


 「ウルグアイにモラクスがいるのはセーレから話を聞いて事実だと思います。あれから調べてみたらウルグアイは全国民に黄熱病のワクチンを無料接種させていますね。また国内全ての都心部、農村部に殺虫剤を定期散布、繁殖地になる水回りへの対策もしている」

 「あれ?悪魔の力を使ってガードしてるとかじゃないのか?」


 国を挙げての感染症対策によって黄熱病が防がれているのなら悪魔じゃなくてその国のトップが優秀ってことじゃないか?俺はてっきりモラクスがマルバスの力を魔法で跳ねのけてるとか、そんなのかと思ってたけど。


 「モラクスにそういった能力があるという話は聞いたことがありません。奴は天文学や鉱物、薬草などに対しての見識が深い賢者です。教養もあり、人心掌握術にも長けている。南米では比較的経済的にも安定しているウルグアイですが、殺虫剤散布に水回りの徹底対策、全国民に対して無料のワクチン提供。感染者への迅速な対応……相当な税金が投入されている。それを国がノンストップで実施している」

 「それを進言している人が契約してるってことなのか?」

 「恐らく。モラクスの力を借りて対策を検討しているのでしょう」


 じゃあ、本当に悪い人じゃないだろうし、もはや応援したくすらなってくる。でも俺が今の状態で南米に行くのはできないんだよな……殺虫剤まき散らしてんのなら蚊とかいないんじゃない?とか思っちゃうけど、そういうことじゃないんだよなあ。


 「でもルーカスが言ってたんだ。契約者を探し出せって進藤さんたちが言われてるって……その人は国を守るために頑張ってるだけの人かもしれないのに、殺されたらどうしようって」


 何も悪いことをしていない。俺がウルグアイに住んでたとしたら、そんな手厚く徹底的に対策してくれる国に感謝しかないだろう。それで実際に効果も出てるんだ。


 中々諦めない俺にパイモンは俺の携帯を指さした。


 「ルーカスに連絡を入れてください。黄熱病のワクチン提供を奴にさせましょう」

 「え、それって」

 「貴方は諦めの悪い人だ。また黙って勝手なことをされては困る。奴から持ち掛けた話です。ワクチンさえ手に入れてくれたら私が貴方に接種しましょう」


 え、パイモンって注射できんの!?めっちゃ怖いし信用できないんだけど!

 気持ちが顔に出ていた俺をパイモンが睨む。


 「皮下注射くらい簡単です。文句があるなら筋肉まで突き刺してもいいですが」

 「やだ!」


 パイモンも面倒そうだけどこれで納得してくれるのならルーカスに連絡だけ入れてみよう。イルミナティは巨大な組織だ。なんとか上手いことやってくれたらいいんだけど……


 「それより大丈夫なのですか?」

 「何が?」

 「ルーカスの件です。あいつは独断で動いている。バティンの指示に逆らっているということではないのですか?」

 「ルーカスは、多分もう俺たちの敵にならないよ」


 俺の言葉にパイモンは怪訝そうに眉を寄せ、セーレは何かを察したように俯いた。


 「ジェシカさんの遺体を回収出来たらイルミナティを抜けるって言ってた。少なくとも俺たちに敵対する意思はないって」

 「あの男をどこまで信用できるか。あまり深入りはしない方がいい。貴方のためだ」

 「だから知ってて俺に何も教えてくれなかったんだろ」


 悪びれもせずパイモンは頷いた。最低限の情報しか与えないようにしていたのは間違いない。理由も分かっているつもりだ。でも俺が知りたいって言っても教えてくれないのはどうしてだろう。


 「今度からはルーカスと進藤さんのことは教えてほしい」

 「なぜ?」

 「……死んでほしいと思ってないから」


 後ろにいた澪が息を飲む音が聞こえた。敵を助ける必要ないって思ってるのかもしれない。澪は聖地潰しの時しか交流がないから二人のことをまだあまり分からないんだろう。


 「そういう綺麗事いらないよ」

 

 ぴしゃりと告げられた言葉はパイモンからではなく、後ろのいた澪からだった。まさかの発言に俺だけではなくパイモンも驚いた表情をしている。澪は優しい子だ。少なくとも、今この場所でこういった発言をしたことがなかった。


 こちらを見下ろす澪の目があまりにも冷たく背筋がゾッとした。


 「無駄なことはしなくていい。邪魔な人は消えてくれたらそれでいい。拓也もそう思ってるでしょ?」

 「澪?」

 「助けて何になるの?また邪魔されるのに?そういうの本当に要らない」


 吐き捨てるように言葉を放った後に澪は頭を手で押さえて外に出てくると言葉を残し去っていく。追いかけないとと思いつつも動かない俺を見かねてかアスモデウスが追いかけていった。


 静まり返った部屋でパイモンとセーレが何やら話し合ってるけど、正直それどころではない。澪に対してずっとあった小さな違和感が大きくなっていく。でも何度聞いても教えてくれない。


 「澪なんであんなキレてんの?気持ちはわかるけどね~」

 

 携帯が震え、ルーカスから連絡が来ている。澪のことを追いかけたいけど、今は駄目だ。きっと何を言っても答えてもらえない。焦燥感に駆られながらも内容を確認すると手配するとだけ短く書かれていた。


 「ルーカス、ワクチンの手配をしてくれるって」

 「そうですか」


 澪のことが気になってソワソワしている俺とは別にパイモン達に気にしている様子はない。あの違和感に気づいていないはずがないのに。


 「パイモン、澪……やっぱ変だよな。なんで急にあんなこと」

 「そうですね。ヴアルに任せてはいますが成果はなさそうですね」

 「気にならないのか」

 「気にはなりますが、私が表立っても澪が委縮するだけかと」


 それは、そうだけど……


 口ごもった俺にセーレが元気づけるように大丈夫だよと声をかけてくれるけど、そんなので納得できるはずがない。やっぱりキメジェスが前に言っていたアスモデウスを殺せっていうのと関係があるんだろうか。


 「アスモデウスのせい、なのかな」

 「なぜそう思うのですか?」

 「キメジェスからアスモデウスを殺せって言われたから」


 そこまでの内容は既に共有しているからパイモンたちも驚きはしないだろう。それにパイモンは最終的にはアスモデウスを殺すつもりでいる。本人の口からは聞いたことはないけど、明らかに態度が違う。一線を画しているのは見て分かるから少なくとも仲間意識は持っていないんだろう。


 「アスモデウスを殺すのが解決策だとして、貴方はどうします?」

 「俺?」

 「あいつを手にかける勇気はありますか?」


 もし、澪がアスモデウスに奪われたら……ルーカスのように大切な人が悪魔に奪われて取り戻せなくなったら。その相手がアスモデウスだったら……澪に恨まれるかもしれないけど、きっと俺はあいつを殺す選択をとる。


 「本当に、最悪の時が来たら……」

 「そうですか。その答えを聞けて安心しましたよ」


 パイモンが冷たく俺を見下ろし、心臓が鷲掴みにされたようだった。返事ができないまま、アスモデウスが澪の肩を抱いて戻ってきて、話が中断されてしまう。澪の目は腫れていて泣いていたのが丸わかりだ。でも俺には教えてくれない。


 きっと俺以外の皆が知ってる。俺だけのけものだ。またこの感覚だ。


 「パイモン、隠し事されるの……あまり好きじゃない」

 

 かろうじて絞り出せたのはそれだけだ。セーレが眉を八の字に下げて、何かを言おうとしたのをパイモンが止めた。


 澪とアスモデウスが心配そうにこちらに視線を向ける中、パイモンが俺にだけ聞こえるように耳元でささやく。


 「私も、貴方には誠実でありたいとは思っています」


 けど、実際は隠し事がある。そう言いたいんだろう。


 携帯が震え、ルーカスから通話が来ていたため席を外して通話をとる。もう手配ができたんだろうか?ワクチンの手配って医療関係者でもない限り難しそうだけど。


 「ワクチンが手に入りそうだから取りに来てほしい。俺がそっちに行ってもかまわないけど、どのみち送迎がいる」

 「早いね」

 「まあ、そうだな。アニカに貸しができちまったけどな」

 「日にちはまた連絡するよ」

 「分かった。ワクチンを打ってから数日は効き目が出ないと思うから早めに取りに来てほしい」


 ルーカスとの通話を終えて、深呼吸をする。少しずつ前に進まなきゃ。セーレとパイモンは確かに隠し事があるかもしれないけど、それでも俺を裏切ったりはしない。だから俺も迷惑かけないようにしないと。


 「ウルグアイ行けるって?」

 「ヴォラク。うん、行けるって」

 「俺も行けるのかな」

 「お前って黄熱病かかるん?」

 「えー知らない」


 隣に来ていたヴォラクの頭をなでると満更でもなさそうだ。心配してくれてるんだよな。なんでもなさそうにしてるけど。


 ヴォラクと一緒にリビングに戻り、パイモンにルーカスからワクチンが届いたことを報告し、取りに行く日を決める。確かに効き目が出るのに時間がかかるなら早めに行った方がいいよな。向こうが迷惑じゃなければ明日でも取りに行きたいな。金曜日だし。


 澪は何があったか分からないけど、目を合わせようとしてくれない。どうしてアスモデウスなんだろう。俺ではダメなんだろうか。色んなことで頭がグシャグシャで上手く整理できそうになかった。


 ***


 「協力してくれて助かるよ。もう佐奈達は契約者の捜索に入ってる。急いだほうがいい」


 あれから十日経過し、ウルグアイに向かうためにセーレがルーカスをマンション連れてきた。ワクチンはなんとか打ってもらって一週間経過したから向かってもいいだろうということになり、平日にはなるけど仕方ない。時差が十二時間と極端なため、二十二時に出て二十五時頃に解散してマンションに泊まることで話がついた。


 「ルーカスはワクチン打たなくていいのってやっぱり加護があるのか?」

 「残念だけど俺にマルバスの加護はないよ。あいつが俺を警戒してるからな。余計なことされたくないんだろ」

 

 ルーカスもワクチンを接種しているということだ。入手経路はアニカが手を貸してくれたらしい。どうやら今回の件に関してはルーカスを支持しているという。イルミナティも一枚岩ではないのかもしれない。


 「久しぶりのジェダイトだったな~元気にしててよかった。俺もお前に会いたかったよ」


 抱き着いて顔を埋めているキメジェスにジェダイトは首を動かし優しく髪の毛を甘噛みしている。セーレと親友なんだ。ジェダイトを知らないわけがないよな。


 ルーカスが複雑そうな表情でそれを見つめ、こちらに振り返る。


 「そちらで行ける人員は?拓也とパイモンとセーレと……ヴォラクも来るのか?」

 「あ?なんだよ文句あるのか?てめえ首ちょんぱしてやろうか」 

 「まだ何も言ってないだろ。ストラスは?お前の保護者だろ」

 

 ……梟が保護者だと思われてる。確かに間違ってはないけど。


 「ストラスは留守番させるよ」

 「なぜ?」

 「気になることがあるからってさ」


 未だに直哉のケアをしているストラスは直哉が入り浸っている雑居ビルを見張っており、事件に巻き込まれないか目を光らせている。そこで分かったことは直哉は俺と同じくらいの年齢の男と一緒にいるようだ。一見仲の良い兄弟に見えるが、そいつの正体がまだつかめていないのだという。契約石らしきものは持っていなかったため、契約者ではなさそうとも言っていた。


 ルーカスは眉間に皺を寄せ何かを考えこんだが、言葉を発することなくキメジェスを呼んでいる。そういえばルーカスは知っているんだろうか。直哉の違和感を。


 「ルーカス、直哉についてバティンは何か知ってるのか?」

 「何か、とは?」

 「直哉が良く分かんない奴に意識を乗っ取られてるって話に前なって……敵意はないみたいだけど、良く分からないんだ」

 「……リーンハルトがお前の弟を調べるために一時期日本に滞在してたことがある」


 はっ!?そんな話聞いてないんだけど!?


 パイモンとセーレも目を丸くしてヴォラクがルーカスに掴みかかろうとしたがキメジェスが慌てて間に入って火花が散る。一触即発の状況の中、ルーカスだけは一切の動揺を見せずに淡々と事実を述べていく。


 「あいつの契約悪魔がフルカスってことは知ってるよな」

 「あ、うん……」

 「フルカスは大鎌持った死神のような爺さんの悪魔なんだけど、未来予知や占いが得意でな。あいつの助言をバティンも頼りにしてるくらいだ。フルカスが言ってたんだ。池上直哉の未来が変わっていくと」

 「未来が、変わっていく?」

 「フルカスの予言では今年の四月の頭にあいつはラウムの能力に目覚めるはずだったんだよ」


 嘘だろ?今はもう五月だぞ!?GWだって終わってしまっている。その占いが本当なら直哉は隠してるってことか!?ラウムだぞ!?あいつの能力は対人では化け物クラスだ。下手したら直哉は一生外に出られなくなるかもしれないのに!


 「どうして……なんで教えてくれないんだよ!?」

 「まあ、俺も一応イルミナティの幹部ってことになってるし……お前とここまで打ち解けるとは思ってなかったんだよ」


 それは、そうかもしれないけど……じゃあ進藤さんとかも知ってたのか?ルーカスが知ってるくらいだ。あの女、知ってて黙ってたのか……


 「でも実際リーンハルトが調査した結果はラウムの能力に目覚めていないらしい。それと、フォカロルの契約者があいつの近くにいるって話だ」


 フォカロルの契約者ってストラスが言っていた直哉と一緒にいる奴なのか?でもストラスは契約石とか持ってなくて契約者ではないと思うって言ってたのに……俺と同じで持ち歩いていないだけ?とりあえず直哉もリーンハルトと遭遇したなら俺に黙っているはずがない。調査したと言っても直哉にはバレないようにしていたんだろう。


 「バティンが他にも何か気になる点があるとは言ってたけど、それは教えてもらえなかった。ストラスが警戒するのは最もだけど、多分お前の弟はラウムの能力出てこないよ。出てきても小さすぎてこちらとしても役に立たないだろうってさ」


 当てが外れてバティンは残念そうだった。そう告げるルーカスの表情に変化はなく、嘘をついている気配もない。本当だとしたら有難いけど……でもどうしてラウムの能力が出てこないってなったんだろう。


 「フォカロルの契約者が保護してる。あいつの加護がかかってるんだろうな」

 「でもそれじゃフォカロルの能力に目覚めるかもってこと?」

 「それは十分にあり得る」


 マジかよ。それはそれでやばいだろ……とりあえず今日家に帰ったらストラスと報告会だ。考えることが沢山あって大変なのに、何かを思い出したようにルーカスが声をあげた。


 「そういえば、お前ってフォラスがどこにいるか知ってる?」

 「光君?」

 「……ふうん。ひかるって名前なのか。日本名だな」


 しまったーーー!!馬鹿正直に答えちまった!!!


 後ろでパイモンがごみを見るような目でこっちを見ているのが分かる。怖くて振り返れない!


 「フォラスもこちらから行方が確定してなくてな。あいつの能力上、大人しくされたら分からない」

 「い、言わないよな」

 「……悪いが報告させてもらう。手はまだ出さない。アニカとの交換条件の一つなんだ。フォラスの行方を探すのを任されてるからな。もしかしたら拓也が知ってるかもだから探ってくるのを条件で黄熱病のワクチンを提供してもらった」


 光君ごめん……!でもまだ日本ってことしかバレてないから大人しくしてくれたら多分、ばれないはず!全国に光って名前が沢山いますように!!


 お祈りしている俺を置いてルーカスはヴォラクとにらみ合っているキメジェスの腕を引いてウルグアイに向かおうとベランダに向かう。どうしていいか分からずうろたえたままの俺の背中をパイモンが叩き、そのまま背中を押される。


 「もう少し警戒心を持ってください」

 「ごめんなさい」


 先にキメジェスとルーカスを連れていくということになり俺とパイモンとヴォラクが残される。直哉や光君の事、どうすればいいのかな。


 「直哉、大丈夫なのかな……」

 「主から見て、彼の様子はどうです?」

 「特に変なことはないんだよ。ストラスも目を光らせてるけど」

 「バティンは狡猾です。リーンハルトを直哉の調査に向かわせている時点で事を起こす気はあったのだと思います。進藤佐奈の話では随分と好戦的な子供のようだ。死生観も歪んでいると聞いています。リーンハルトが直接手を下したのならばフルカスを相手にすることになる。直哉も無事では済まないはずです」


 そう、だよな。直哉が大けがをした日はない。学校の体育でこけて足を擦りむいて恥ずかしかった!って騒いでいた時くらいだ。リーンハルトが直接直哉の前に現れたとして、少しでも抵抗すればフルカスが襲い掛かっていたかもしれない。そんな命に係わる状況を俺やストラスに言わないのも可笑しい。


 『記憶操作されてる、とか?』

 「ないとも言い切れないですが、ルーカスのあの様子では直接の被害を与えていなさそうだった。あいつが言った通り、フォカロルの契約者が奴らの邪魔をしていたのでしょう」

 「どうしてフォカロルが……」

 「それは分かりません。あくまで憶測なので。ただバティンが一旦引いて様子を見ているということは気になる部分があり、それ次第ではイルミナティの被害が大きいと判断したからでしょう。それが分かるまではあいつも動かないはずです」


 そう、なのかな。まだ間に合うんだろうか。どのみちフォカロルの契約者もいつかは探さなきゃいけないんだ。近いうちに直哉に話を聞いてみて、よく一緒にいるという男を紹介してもらおう。ラウムのせいで悪魔と契約することには懲りたはずだ。危ない事なんてしてないと思いたい。


 セーレが戻ってきて、俺たちもジェダイトに乗る。なんだろう、目の前のことに集中しないといけないのにモヤモヤして気分が悪い。


 ***


 ウルグアイの首都であるモンテビデオは綺麗な街だった。正直南米の国だからこういったらなんだけど汚い街並みだと勝手に思っていたから。海岸沿いの街は少し肌寒いが快適な気温だった。南半球だから冬になりかけてるのかこれ。


 「さっすがセーレ!早いね!」


 キメジェスがジェラートを食べながら俺たちを待っており、ヴォラクがそれを見て声をあげた。てかこいつ待っている五分程度でジェラート食ってるよ……


 「お前!それどこで買ったんだよ!?」

 「そこのジェラート屋。ピスタチオうめ~」

 「俺も!俺も食う!」

 

 すまんヴォラク、ウルグアイのお金持ってないし、ルーカスと違ってうちの金銭管理はパイモンなんだ。ジェラートなんて買ってくれないよ。


 「ペソは持っていない。諦めろ」

 「やだー!キメジェスだけずるいだろ!?俺だって食いたいよ!カード使って!」

 「黙れ。しばきあげるぞ」

 「お前が黙れ!」


 食べたいと駄々をこねているヴォラクを通行人の女性が笑いながら通り過ぎていく。は、恥ずかしい……とてつもなく恥ずかしい!観光客が騒いでると思われている!


 この状況を見かねてルーカスがキメジェスにカードを渡す。


 「はあ……キメジェス、付き合ってやれ」

 「え!?俺、おかわりしていい!?」

 「していいけど、お前まだ結構残ってるけど食いきれるのか?」

 「余裕!行くぞヴォラク!」


 目を輝かせてヴォラクとキメジェスというガキ二人が駆け出していき、静けさが包み込む。


 「なんかルーカスごめん」

 「別に。お前も欲しかったらついて行けよ」

 「もう少し暖かかったらね。俺も欲しかったけど」


 二人がジェラート屋から戻ってくるまでの間、あたりを見ながら写真を撮る。正直、黄熱病が蔓延しているとは正直思えない。人通りもそこそこ多く、あまり誰も恐れていないように思える。感染者数や死者数が少ないのは本当なんだろう。


 「昨日、殺虫剤の大規模散布をしていたらしい」

 「俺気になってたんだけど、そういうのってさ、無差別に薬撒くわけじゃん?健康被害とか、畑とか大丈夫なのかな」

 「農業や畜産業はある程度の補填が出てるらしい。あとは外国からの食糧の輸入も確保されている。この混乱の中で良くやってると思うよ」


 すごいな。トップがすごいとこういう事態でも対応の差がこんなにも出るんだな。俺から見てもウルグアイの人たちは普段と変わらない生活をしているように思える。


 二人がジェラートを持って戻ってきたところで調査を開始する。


 「ルーカス、契約者の情報は何も分からないのか?こちらも調べはしたが掴めてはいない。ただ、モラクスの能力は疾病の治癒や予防ではない。助言を受けて実行している政府関係者ではないかと思っているが」

 「ある程度は当たってると思うよ。でも多分医師だ。政府の関係者じゃない。国内でも有名な感染症の権威だと思う」

 「なぜ?」

 「イルミナティの信者はウルグアイにもいる。佐奈やヴァレリーさんたちがしらみつぶしで探してる。その情報を少し盗み見た。まだ契約者の特定には至ってないけど、かなり近いところまで来てると思う」


 契約者は医者の可能性が高いってことか。そんで感染症とかを専門に扱う有名な人。大分絞られてはいるけど、それでも探し出すのってかなり大変だと思うけど。でもルーカスからのメッセージの通知が来て開くとpdfファイルが送信されていた。


 ファイルは正直分からない言語で書かれており、一切合切理解できないけど、五人のおっさんとおばさんの写真が載っている。


 「ヴァレリーさんが調べたウルグアイ国内の感染症の権威だそうだ。政府が開いた緊急安全会議のメンバーでもある。こいつらの助言に従って対策をしてるってことらしい。多分、この中の誰かだ」


 既に五人の中の二人は進藤さんたちがコンタクトをとって契約者でないことが分かっているようだ。残りは三人。この中に契約者がいるってことか。


 「佐奈が平日に行くと翌日の学校がしんどいって言ってるらしくて、あいつらが次にウルグアイに行くの土日になるらしいから、それまでに見つけたいんだ。拓也には悪いけど」

 「いや、大丈夫。見つけよう」


 とはいっても、どうすればいいんだろう。こういった諜報活動みたいなのは俺たちもシトリーに丸投げみたいな部分があったし、いきなり悪魔と契約してますか?なんて言われて真面目に返答を返してくれるとも思ってない。そもそもアポなしで会えるとも思ってない。


 とりあえずどいつから当たるかを話し合う。ウルグアイ国内から集められた医師だ。みんな働いている病院もバラバラで一日一人くらいしか時間的にも余裕がない。今日は水曜日だ。三日以内に勝負を決めたいってことだよな。


 「モンテビデオ内の医師は調査し終わってるぽいね。サルトって街の医師から行く?」


 この人たちは違うってことか。とりあえず言うことを聞いておこう。


 モンテビデオからサルトはもちろん歩いて行ける場所でもないためジェダイトに乗って移動する。人口があまり多くないウルグアイではサルトは第二年だけど人口が十万人程度しかいないらしい。目的の人物は街の一番大きな総合病院に在籍しているようで、そちらに向かうことになった。


 「とはいっても、目的の人にどうやって会えばいいんだろ」


 大病院の前で首をひねっている俺とは対照的にルーカスは相変わらず落ち着いている。そういえばイルミナティって諜報活動とかは誰がしてるんだろ。世界中に信者がいるって言ってたし、そういう奴らにさせてんのかな?契約悪魔の能力的にはあんまり対人で力を発揮する感じの悪魔はいなさそうだったけど。


 「俺たちは何もしなくていい。キメジェス」

 「あいよ」


 キメジェスが手をパンパンと叩き、出てきて~と何かを呼び掛けている。俺には何も見えないけど、ヴォラクたちには分かるらしい。眉間に皺を寄せて宙を睨み付けている。


 「(こいつ、探してきてくんない?周辺に悪魔がいるか探してきて)」


 急に謎の言語で宙に向かって話しているキメジェスに俺だけがついていけず首をかしげる。何が起こってるんだ?とりあえず分かってそうなヴォラクに声をかけるとヴォラクは宙を指さした。


 「ふーん。拓也には見えないのか。キメジェスは自分の使い魔を召喚してるね。いや、霊の類か?俺も良く分からないけど、そいつに誘導させるみたいだ」


 そういえばキメジェスってなんかどっかの国の悪霊だか悪魔だか使役できるんだっけ?ルーカスもその能力の一部を使えるようになってるって聞いたことある。じゃあ、それを召喚して目的の人物を探らせようってことなのか?


 何も見えない俺には全く分からないけど、キメジェスは後ろを振り返って大丈夫だと告げる。


 「あいつも行ってくれたし、ここらへんで休憩しようぜ」

 「悪魔に探させるのか?」

 「そう。このご時世だ。契約者もさすがに悪魔を側に置かずに離れるってことはしてないと思うよ。俺の使い魔に気づいたら契約者の危険を察知して出てくるはずだ。ま、俺たちは待ってればいいんだよ」


 それだけなら楽でいいんだけど……本当に調べるだけならルーカス達だけでも良くて、送迎が欲しかったってことなんだな。


 やることがないことにヴォラクは声を出して近くにあるベンチに腰掛けて頬をついた。病院周辺は特に店などはなく時間を潰せそうなものもない。パイモンはルーカスと何かを話しており、やることのない俺もどうしようか考えても本当にすることがない。


 「拓也、動画見たい」

 「無理。Wi-Fiない」

 「はーだる」


 俺だってだるいわ。我儘ばっか言いやがって。ルーカス達も英語で会話始めたら入れないしさ。


 ヴォラクの隣に腰掛けて通行人たちをぼんやりと眺める。指輪を手に入れてからもうすぐ二年が経つ。長いこと戦っているように感じるけど、実際は二年しか経ってない。ソロモンの悪魔も残りは多くないけど、今の悪魔たちを倒したらついにイルミナティとの戦いになるんだ。終わりは近いのかもしれない。いや、澪のことも中谷のことも何も解決してない。直哉のことだって……


 「中谷、どうしてるかな」


 ポツリとヴォラクが呟いた先には俺と同い年くらいの男性が歩いていた。髪の毛も短く、背丈も中谷と同じくらいだ。彼を見て思い出してしまったんだろう。


 「分からない。でも次の聖地潰しが近いって言ってたから今度こそ中谷に会えるかもしれない」

 「そうなのかな」

 「お前が諦めたらダメだろ」

 「分かってるよ」


 ヴォラクと話をしているとキメジェスが宙を見て声を出した。時間としてはあれから三十分くらい経過した感じか?俺には何も見えないけど悪魔が戻ってきたんだろうか。


 「(そっか。契約してなさそうか……大丈夫だ。次も頼むわ)」


 会話を終えたのかこちらに振り返って首を横に振る。お目当ての人物はこの人ではなかったようだ。


 「次の場所に行こう。時間は大丈夫か?」


 ルーカスに聞かれ時間を確認すると、日本時間では二十三時半過ぎだった。このペースだとマンションに戻るのは二十五時過ぎになるかもしれないな。


 俺の反応があまり良くないことを察したのかルーカスは今日は一旦引き上げるかと方針転換した。


 「え、いいのか?」

 「今日は水曜日だし、佐奈達が次にウルグアイに向かうのは土日だ。調べたい人物は残り二人。大丈夫だ」


 間に合う算段があるってことなのか。セーレさえ残ってくれたら何とかなるっちゃなるんだけど、さすがにそれは少し危ないかな……


 「セーレ、残ってあげることできない?」

 「エネルギーがあればそうしたいんだけど、このあいだのアロケルの件で契約石のエネルギーがあんまり残ってなくてね。もしモラクスと交戦になってしまった場合を考えたら君がいない行動をあまりしたくない」


 そっか。確かにアロケルと戦った時にセーレかなりきつそうだったもんな。無理させない方がいいな。


 「急ぎじゃなければ、今日はこれでいい?」

 「大丈夫だ。付き合ってくれて助かった。明日もいいか?」

 「ん。大丈夫。シトリーも連れてくる?」

 「いや、いい。探すだけならキメジェスの使い魔に頼むから。帰ろう」


 明日、再度ウルグアイに向かうことを約束しマンションに戻る。ウルグアイでは正午くらいだったけど、日本では真夜中だ。真っ暗なマンションは静まり返っており、皆眠ってしまっているんだろう。


 マンションのベランダに降ろされて、ルーカス達をそのままルクセンブルクに連れていくとセーレが言ったため、また明日とあいさつすると相手から声をかけられた。


 「フォラスの契約者、連絡が取れるなら取っておいた方がいい。アニカが探してる。下手したら交戦になる。上手く隠れるよう伝えておいてくれ」

 「え?交戦って……イルミナティはフォラスが必要なのか?」

 「死んだ人間生き返らせられるんなら、そりゃ必要だろ。聖地潰しの際に俺らが死ぬこともあり得るんだからよ」


 これ以上は知らない。そういってこちらから何を聞いてもルーカスはもう答えてくれなかった。ジェダイトが羽を広げ飛び立っていき、残された俺たちの間に気まずい空気が流れる。


 「俺、あいつ嫌いなんだよね。どっちにもいい顔してさ……キメジェスは何であいつに従うんかね」

 「ヴォラクはルーカスの事嫌いなんだ」

 「俺はね。拓也が好きなら別に何も言わないよ。じゃ、俺は寝る準備するよ。おやすみ~」


 手をひらひら振ってヴォラクがリビングに入っていき、どうしていいか分からず、ベランダの柵にもたれ掛かっているパイモンに声をかける。セーレが戻るまで待つつもりなんだろう。


 「二人で話したいことでもあんの?」

 「なぜ?」

 「待ってるみたいだから」

 「そうですね……貴方の悪口で盛り上がろうと思っていたのですが、本人がいるとやりづらいですね」

 「は!?」


 冗談ですよ。と真顔で返されたけど、パイモンマジでしてそうだから嫌なんだけど!


 ベランダでしゃがみこんだ俺に中に入らないのかと聞かれたけど、もう少しだけ起きていたい。五月になって気温が高くなり、夜でも快適だ。外にいても寒くない。


 「日本は星が見えませんね」


 沈黙が包む中、ポツリと呟いたパイモンの視線は空に向けられている。そんなこと思うんだ。意外。


 「この場所だからじゃない?綺麗なとこは綺麗っていうよ」

 「どこがですか?」

 「長野とか新潟だっけ?なんかそこら辺は綺麗らしいよ。東京でも綺麗に見えるとこ多分あるよ」

 「地獄ではあまりこういった空ではないので、星空は結構気に入っているんですけどね」

 「意外」


 こういった何気ない会話ってあんまりしないな。必要以上のことをパイモンは話してくれないから。俺はパイモンの事、何も知らないなって思う。


 「少しだけ、聞いていい?」

 「どういったことを?」

 「パイモンの事。俺、あんまりパイモンのこと知らないなって。ストラスとセーレのことは結構分かったつもりでいるんだけどな」

 「……根掘り葉掘り聞かなければ」

 「マルコシアスとは仲良かったん?」


 ピリッとパイモンを纏う空気のようなものが変わった気がした。空を見上げていた瞳が伏せられて、夜景をぼんやりと見つめている。答えてくれないかなって思ったけど、唇が一文字に結んだ後に開いていく。


 「天界からの友人でした。私もあいつも第四階級 主天使(ドミニオン) に所属していたので。性格は正直合わないのですが、なぜか居心地がよかった。腐れ縁みたいなものです」

 「後悔してる?」

 「敵対したことですか?していません。自分の意思で貴方を守ることを決断した。ただ、あいつの望みを叶えてやれないのが少し残念だ」


 マルコシアスの望み……それが何か俺は分からない。でもパイモンにとっても大切なものだったんだろう。だってこんな悲しそうな顔、初めて見たから。それ以上何も言えなくなってしまって黙った俺を見て、今度はパイモンが問いかけた。


 「焦っていますね。澪のことも中谷のことも直哉のことも」

 「……うん。どうしたらいいのかって」


 少し落ち込んでるのかもしれない。澪への違和感がどんどん大きく鳴って、直哉にも悪魔の手が伸びてて、中谷を連れ戻す方法はいまだに見つからない。いつまでもイルミナティに情報戦では負ける一方で、選択肢が全く無いように感じてしまう。


 「知ってること、やっぱり教えてほしいよ」


 縋る様な声になってしまった自覚がある。何も分からず焦りだけが加速していくのが辛い。


 パイモンを見上げれば、何かを考えた後にため息をついた。この反応は教えてくれるんだろうか。


 「……先走らず、冷静に行動することを約束してくれますか?そしてヴォラクには絶対に口外しないことも」

 「わ、分かった。どうしてヴォラク?」

 「私とセーレしか知りません。いくつか私たちは貴方に隠していることがあるのは事実です。それが貴方の頭を悩ませている原因であることも。それで貴方が辛いと言うのなら、全ては言えませんが一つだけ情報を渡します。中谷のことです」


 心臓がドクリと跳ねた。中谷のことなのにヴォラクに言ってはいけないってどうして?天界に行ける方法があるってこと?それとも、諦めろとか悪い方向の話なんだろうか。


 「中谷が天界から人間の世界に戻ってきています。これはバティンからの情報です」

 「……嘘」

 

 中谷が、人間の世界に戻ってきてる?どうしてバティンはそれを知ってるんだ?中谷はどこにいるんだ!?


 「バティンが世界各地のイルミナティから集めた情報のようです。あいつはヴァチカンで神の使途と言われて保護されています。貴方と同じ天使の依り代として降臨したのです」


 天使の依り代……じゃあ、中谷は天使を体に宿して戦うっていうのか?ヴァチカンの指導者になるっていうのか!?


 「四大天使ラファエルの依り代である可能性が高い。バティンからその情報をもらい、私も一度だけセーレと共にヴァチカンに向かいました」

 「き、危険じゃないのか?」

 「正確にはローマですね。ヴァチカンは聖域なので流石に入れなかった。ただ、聖職者に力を使って話を聞くことはできました。あいつはどうやらラファエルの心臓を持っているようです」

 「ラファエルの心臓?」


 どういうことだ?天使の心臓を持ってるって。それは一体何を意味しているんだ?


 「聖遺物のようなものです。東洋人の子供がラファエルの依り代だから保護してくれと言っても誰も信じはしない。だがラファエルの心臓を持っているのならば話は別です。話を聞いた聖職者が言うには、その心臓が非常に弱っているということです。恐らく天界で何かがあり、心臓を託された中谷が人間の世界に逃げてきたのでしょう。中谷は肉体を持ったまま天界に連れていかれている。人間の世界に戻ることも比較的容易だった。これはあくまで憶測ですが、ラファエルが消滅し、中谷に渡した心臓に意識を全て託している可能性がある。今、悪魔の秩序が適用されている人間の世界にラファエルが降臨するのは自殺行為。あいつを守るために聖域であるヴァチカンから離れられないのかもしれません」


 でなければ家族にも顔を出さないなどありえない。そうパイモンが話を続けた。じゃあ、ヴァチカンに行けば中谷に会えるかもしれないのか?でもそう簡単には会わせてくれないだろう。じゃあ、やっぱり……聖地を潰すときに、顔を合わせるのか。


 「事情は分かりませんが、中谷はラファエルの復活を望んでいる。だから心臓を守るために人間の世界に逃げ、神の使途と祭り上げられても耐えているのかと。神に洗脳され、私たちと敵対しているとは思いたくない。話を聞いた聖職者によるとラテン語もイタリア語も話せず、意思疎通がほぼできないと言います。孤独な中、一人で耐えているのも、心臓を奴らに渡して逃げ出さないのもラファエルを守る理由があるからでしょう」


 中谷……


 一人で戦っているのかもしれない中谷のことを思うと涙がこぼれた。すぐにでも助けに行きたいけどできない。ヴァチカンにはアスタロトがいて、ルーカスの大切な人もいる。俺の勝手で全てを壊すわけにはいかないし、行っても会わせてくれない。


 そっか、ヴォラクに言っちゃいけないって理由が分かったよ。ヴォラクがこの話を聞いたら俺たちの制止を振り切ってヴァチカンで大暴れしに行くだろう。何もかも破壊して中谷を連れ戻しに行くからだ。


 「次回の聖地潰し……場所はイスラエルの聖墳墓教会です。天使の依り代が迎え撃ってくるでしょう。そいつたちに中谷の話を聞きたい。そして主、ルーカスから先ほど話を聞きました。次のイルミナティの予言についてです」


 パイモンが何かに気づき顔を上げると、セーレが戻ってきており、蹲っている俺を見て何があったのかオロオロしている。ベランダにおりてジェダイトに礼を言って返した後に俺の隣に膝をついた。


 「どうしたの拓也、パイモンに殴られた?」

 「お前は俺を野蛮人か何かと思ってるのか?中谷のことを話した。隠し事されるのが嫌だと言われたからな。一つだけ情報を渡した。それ以外は教えていない」

 「そっか。中谷の事、辛いよね。でもやっと道が見えた。彼は俺たちが何としても連れ戻すよ」


 セーレの優しい言葉に涙がこぼれて頷く。頭を撫でられながら、そういえばパイモンの話の続きって何だったんだろう。イルミナティの予言って言ってた。


 「パイモン、続き」

 「ああ、イルミナティの予言についてですね。次の予言は聖地潰し……そして一つの国と民族の終焉が予言で流されます」


 一つの国の終焉?


 今までもホンジュラスの件があって国丸ごと悪魔に乗っ取られるって事件があった。それよりも酷いっていうのか?


 「悪魔に乗っ取られるってこと?」

 「いえ、大統領殺害からの国の解体……戦争宣言です。場所はイスラエル」


 イスラエルが解体!?そんなの許される訳がない!国がイスラエルだとしたら、民族って何なんだ?


 「聖墳墓教会の崩壊。そしてイスラエルの解体……ユダヤ人への粛清。これが次の予言だとルーカスが言っていました」

 「な、なんでユダヤ人を粛清する必要があるんだよ」

 「次の聖地潰し、悪魔ガアプと契約者であるジョシュアが対応すると言っていました。奴はイスラエルで活動しているテロ組織の一員のようです。あいつはイスラエルを崩壊させることを契約条件としている。契約内容を遂行するタイミングだと言っていました」


 イルミナティの契約者がついに動き出すのかよ……自分たちの願いをかなえるために。そんなことは絶対に許されないし止めないといけないのに、聖墳墓教会に行かなければ中谷の情報は掴めない。今の俺たちには逃げ道がない。


 「慎重に、目立たず行動してください。私たちの目的は中谷の救出です。ジョシュアとガアプとイスラエルで戦闘するのは被害が大きすぎる」

 「じゃあ、あいつの行動を止められないっていうのか!?」

 「はい。今は止められません。バティン達も参戦してくる。耐えてください」

 「そんな……」


 罪悪感に耐えられるのか?ジョシュアの目的を知っているのに止められないなんて、止めたら駄目なんて……聖地潰しが終われば戦争が待っているのに手を打つことができない。


 「ルーカスから先ほど聞いた情報です。夜も遅いですね。もう眠ってください。私はセーレともう少し話をします」

 「……寝れそうにないや」

 「知らないほうがいいことは沢山あります。それでも貴方は知ることを選んだ。ジョシュアについてはどのみち事前には止められない。気に病むことはありません」


 足に力が入らず、ベランダの柵を持って立ち上がる。眠る準備をしてリビングのソファに横になり毛布を掛けた。パイモンたちが何かを話しあっているのを視界で捉え、体は疲れているのに眠くなくて、でもこの現実から逃げたくて、逸らすように目を瞑った。



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