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第83話 ギャング討伐1

 「速報です。ホンジュラスのギャングが大統領政府を攻撃し、政府軍との抗争が起こっていましたが今しがた、大統領と大統領補佐などを含む議員が多数殺害されたことにより政府と軍は白旗を上げ、ホンジュラスが国ごと解体される事件が起きました」


 そのニュースが速報で日本全国を流れたのは、学校の春期講習が始まって二日目のことだった。



 83 ギャング討伐1



 ホンジュラスは軍と大統領政府が崩壊したことで無法状態になり、指導者のいなくなった国は各地で暴動や殺人が起こり、酷い有様だと言う。あまりの凄惨さにリポーターやジャーナリストもホンジュラスでの撮影や取材は行えず、情報は交錯し、真相解明には時間がかかるとアナウンサーが流していた。


 あまりにも遠い国の暴動は日本にも勿論届いたが、こちらにまで実害が届くはずもなく、俺達は今日も春期講習を終わらせて、何事もない一日の半分が終わろうとしていた。しかしこのニュースを見た瞬間、先日のルーカスの言葉が思い出され戦慄する。


 「池上君」


 光太郎とマンションに向かおうとした俺を呼び止めたのは進藤さんだった。

 進藤さんの表情に笑みはなく、この事態を歓迎していないことがわかる。人気のいない所に向かい、状況を確認する。


 「ルーカスから聞いた?討伐、行くんですって?」

 「……承諾はしてないけど、そうなると思う。進藤さんはいかないの?」

 「私は今回は参戦するなって。でもマルコシアスの契約者が代わりに行くわよ。女の人だったけど、確か元軍人って言ってたから超強いと思う~アフリカのどっかの出身だったっけなあ」


 そうか、あの悪魔の契約者も今回参戦するのか。進藤さんは今回参戦しないからか、あまり情報は知らされていないようだ。怪我をしない様にと、ありきたりな応援の言葉を送ってきた。


 「気を付けといたがいいよ。さっきね、ルーカスから連絡はいったの。ギャングの奴、悪魔を全世界に公開するって言ってるらしいわよ。ホンジュラスの国営放送で悪魔を晒して自分に逆らう人間は皆殺しとか言うのかしらね。恐怖政治でもする気なのかしら。ほんっといかれてる」


 クツクツ笑っているけど、内容は笑えない。堂々と悪魔を公開して、この悪魔と国を支配しますとか言ういかれた奴とこれから戦わないといけない俺の身にもなれよ。でも、この状況を快く思っていないのは進藤さんもだ。


 「バティンがね、珍しくカンカンなの。腹黒いけど表面だけは紳士に振る舞ってるあいつがね。ハッキリと言ったの。一切の慈悲も同情も見せず殺せって。あの契約者が悪魔を晒した瞬間、イルミナティはギャング壊滅の予言を流す。宣戦布告する気なのよ」


 そんなことまで……

 光太郎は顔を真っ青にして口元を手で押さえている。そんな奴と、戦わないといけないのか。


 「相手がバアルならアスモデウスは絶対参戦でしょうね。澪ちゃん、連れてかないとダメだろうなあ」

 「ふざけんなよ!澪をそんな危ない所に連れて行ける訳ねえだろ!!」

 「相手はバアルよ~アモンと同格の悪魔。確かにキメジェスやマルコシアスは強いけど~あっちはイルミナティの予言の遂行もセットでしないといけないからギャング潰しの方に重きを置くと思うわよ。だから池上君たちがバアルを倒さないとね」


 ― 共闘期間だからね。


 進藤さんは裏切れるはずがないことをわかっているように笑う。やわらかい笑みの中に脅迫と威圧が含まれており、言葉に詰まって返事ができなかった。


 悪魔を倒さないといけないことはわかっている。でも、こんな大それたことをする奴なんて今まで見たことなかった。国を乗っ取る。そんなおとぎ話のようなことをするなんて思わなかったから。


 しかし別れ際に小声でポツリとつぶやく。


 「よかったわね。ペアがルーカスで。リーンハルトと当たってたら、ちょっと怖いと思う」


 その表情に笑みは浮かんでおらず、本心だと伺えた。


 「あいつ、そんなにやばい奴なの?」

 「……今回の討伐に志願してたくらいだしね。リーンハルトってさ、将来の夢が医者らしいわよ。合法的に解剖できる機会があるから参加したいって。流石にこいつ頭おかしすぎって思った」

 「あんたが言うなら本物だな」


 光太郎の上ずった返事に進藤さんは小さく笑う。


 「いやー私もさすがにあいつはいかれてるって思うわ。あいつ、間引きたいってハッキリ言ってたから」

 「間引く?」

 「人間を間引きたいんですって。この世は役に立たないゴミが9割だから、1割で世界を動かして残りは家畜として悪魔の餌にでもすればいいってさ。流石にあんたはその9割に入ってないの?って聞いたら、1割に入ってるってにこやかに言われたわ。本当凄いあいつ」


 進藤さんと仲のいいクラスメイトが呼びに来て、イルミナティの姿から女子高生の進藤佐奈に仮面を切り替える。楽しそうに話している進藤さんを見て、光太郎と教室を出た。

 ざわつく廊下を二人で歩いていると、俺と光太郎を見つけた澪が小走りで走ってきた。


 「拓也、広瀬君」

 「あ、澪」


 この様子は話を知ってそうだな。パイモンたちもさすがに今回は澪を連れていくことは確定なんだろう。確かにアモンの時だってアスモデウスがいたから倒せた。あいつの力は認めるしかない。それでも……


 ― あの幼馴染の女を救いたいなら、あの女にアスモデウスを殺させろ。本当に、戻れなくなる前に。


 キメジェスの言葉が頭から離れない。


 ***


 『拓也、大変なことになりましたよ』

 「あーそうみたいね」


 マンションに着くやいなやリビングのテレビの前に全員が集合している。今からニュースで速報でもあるんだろうか。


 『今から例の子供がテレビに出ます』

 「え?」

 『全世界へのメッセージを発信すると言って』


 ちょっと待て。今からっていうのか?

 今の時刻は昼の十に時五十三分だ。ネットで調べると時差は-15時間だから、向こうの夜22時に会見をはじめるっていうのか?

 携帯が震え画面を見ると相手は進藤さんからだった。


 “会見見てね。ついでにさ、イルミナティも会見するからね~あいつの会見内容次第で”


 ストラスに携帯を見せて、進藤さんから連絡がきたことを明かす。完全に全面戦争になってきてる。一体どうなってんだよ。


 時刻が十三時になった瞬間、ワイドショーが突如切り替わり、会議室のような場所が移された。後ろは明らかに返り血のようなものが、そのまま残っており、全身に入れ墨を入れた男たちがニヤニヤと笑っていた。


 その中央に居るのは俺より年が若そうな少年だった。少年はマイクを面白そうに眺めており、横にいる青年に肩を叩かれて何かに気づいたようにマイクを持った。


 「(んーこれ世界に発信されてる?どーも。俺の名前はアレハンドロ。みんなからはアレックスって言われてる。えーこれ何話す?やべーねこれ)」


 けらけらと楽しそうに笑っている様子は少年たちのいたずら動画に見えなくもないが、バックに映っている血痕と青年たちが持っている銃がすべてを物語っている。


 「(今日言いたいのはー今日からこの国のトップは俺らってことを海外の人たちと国内の人たちにお披露目?的な感じっすね。ん~とりま俺らの指導者様を紹介するんで。ホンジュラスはこれから人間と悪魔の共同政治始めまーす)」


 笑っているアレックスの隣に現れた悪魔に言葉を失った。下半身は蜘蛛のような節足動物を持ってそこに猫とカエル、人間の頭が着いている。本当にCGじゃないのかと思うような化け物がそこにいた。


 悪魔は満足そうに鼻を鳴らし、言葉を発する。しかしそれは完全にバティンへの宣戦布告だった。


 『(我が名はバアル。ソロモン72柱序列1位の悪魔である。この国はこれより我の管理下とする。我に忠誠を誓い、我に尽くせ。諸外国は我らの邪魔をするな。我らは何物も恐れない。仇なすものは一人残らず排除する。昨今はイルミナティと言う悪魔の軍団が水面下で動き回っているが下らん。人間は我ら悪魔の管理下であり餌である。バティン、貴様の言う人間との共存 - 我がこの国で示してやろう。貴様がいかに策に溺れ、現実を見誤っているかを思い知るがよい)』


 隣にいる光太郎は携帯で何かを調べて、シトリーに見せている。渋い顔をしているシトリーは光太郎の顔を見て首を横に振る。多分、シトリーは今回の件に光太郎をかかわらせる気がないんだろう。絶対に行かせないって言っているんだ。


 『(もう一つ、指輪の継承者なるものが遠い場所であるアジア地域に居ると聞いている。我を殺しにくるであろう貴様にも言っておく。我らからすれば貴様はもう用無しだ。ルシファー様がそう判断されたのだから。我はバティンと違い貴様を生かす道は取らぬ。挑みたければ来い。全勢力を用いて貴様を殺す。その首、見せしめにしてやろうぞ。こいつらのようにな)』


 画面が切り替わり、うつされた先には年老いた男性の首が数人さらされていた。あまりにショッキングな映像に澪の悲鳴が聞こえた瞬間、画面が変わりアナウンサーが頭を下げていた。


 『ただいまショッキングな映像がうつされたため映像を切り替えました。誠に申し訳ありません。ただいま大統領と大統領補佐の死体が映され、実質ホンジュラスはギャングの支配体制にあることが証明されました。アメリカをはじめ各国は危機感を募らせており、政府も各国首脳たちと緊急電話会談をすることで合意しています』


 ニュースが変わり再びワイドショーに戻ったが、ワイドショーもホンジュラスと悪魔の話で持ち切りだ。


 『これ、どういうことなんですかね。イルミナティが出てきてから、世界各国で異変が起こってるじゃないですか。日本だって大地震を予言されて、あれは悪魔が起こしたって噂が立ってますよ』

 『アメリカ政府もヴァチカンも悪魔の存在を認めたんですよ。僕も悪魔なんか信じてなかったんですけどね。もうここまで来たら信じるしかないでしょうね。超常現象ですよこれ』

 『私気になるんですけど~指輪の継承者ってあれですよね?ソロモンの指輪ってやつですよね?アジアの人が持ってるってさっき言ってましたよね。本当なんですか?』

 『確証がないから何とも。ただソロモンの指輪は世界を救う切り札って言われてるので、悪魔がアジア人が持ってると発言した今から世界各国で指輪の継承者を保護する動きが起こると思いますよ。是が非でも自分の国で保護したいでしょうね』

 『アジアってことは日本人が持ってるって可能性ありますよね』

 『ありますよ普通に。あの言い方だと、悪魔側はある程度、持ち主を特定しているんじゃないですかね』


 これ以上は聞いていられないとでも言うようにセーレがテレビの電源を落として、室内は静寂に包まれる。光太郎とシトリーは二人で渋い顔で携帯を見ており、後ろからのぞき込むとネット上の反応が阿鼻叫喚に包まれている。


 パイモンは溜息をついて、パソコンを立ち上げた。


 「この子供、一刻も早く処理したほうがいい。イルミナティに喧嘩を売るならともかく、こちらにまで喧嘩を売ってきた。アジア人などとぼかしていたが、ある程度の特定は済んでいるだろう」

 「俺……さらされんの?」


 恐怖で声が震える。世界中の人間が自分を探しているような錯覚すら覚える。パイモンが首を横に振り、大丈夫だと告げた。


 「バティンは用心深い性格です。バアルに個人を特定できるような情報は漏らしていないでしょう」

 『もちろん漏らすわけないね。地獄に居た時も仲が悪かったんだ』


 いきなり背後から現れたバティンにびっくりして俺と澪は悲鳴をあげて飛びのいた。俺たちを守るように悪魔に変わったアスモデウスが剣を抜くがバティンは全く気にすることなくニコニコ笑顔を振りまいて近づいてきた。


 『剣をしまって。拓也君、ちょっとその指輪の型をとらせてくれないかな』

 「か、型……?」

 『君もフェイクが欲しいでしょう?ソロモンの指輪の詳細もネットでは晒されている。その指輪を外せないんだからよからぬ疑いがかけられるよ。型作って上からかぶせるフェイクの指輪作ってあげるから、ほら早く早く』

 「え、え?」


 パイモンたちが止めないってことは賛成してるってことでいいのか。あれよあれよと粘土のようなものを指輪にかぶせられて5分程度待機しといてと投げられた。なんだこれ……

 俺が待機している間にバティンは図々しくもソファに腰掛けて澪に出されたコーヒーに口をつけた。


 「いやーセーレが淹れてくれたのは美味しいねえ。やっぱり君はイルミナティに来るべきだ。僕コーヒー好きなんだよね」

 「お前何しに来たんだよ。型とったんなら早く帰れよ」


 ヴォラクの嫌味にも堪えることなくバティンはカップをテーブルに置いて足を組んだ。長居でもする気かこいつ。型とったらさっさと帰れよ。


 『さっきの相手側のやつ見たよね。子供じみた対抗心だけど、僕らも会見を開くことにするよ。日本時間十七時に行うから見てね』

 「はあ、それだけかよ。見てねってなんだよてめえ」

 『しかし生意気な子供だよね。バアルも随分と増長してくれたものだ。僕たちの最終目標はあくまでも最後の審判。人間と悪魔で一国家を運営する?今の時代では不可能だと言うことも理解できない。そこまで低知能な奴だとは思わなかった』


 つらつらと出てくる言葉はバアルへの中傷で、にこやかな顔の裏ではらわたが煮えくり返っていると言うのは本当らしい。


 今まで黙っていたパイモンが視線を上げてバティンを視界にとらえる。ピリッとした緊張感が室内を覆い、にこやかな笑みを浮かべていたバティンの表情が消える。


 「いつ、襲撃する」

 『来週中。できれば早い方がいいんだろうけど、こちらも契約者の都合があるからね。ルーカスは知っているだろう、彼ともう一人はアニカ・ローズ。彼女がマルコシアスの契約者だ。少々堅物な女性だが、ルーカスがいるからどうとでもなる。ちなみに彼女は南アフリカの公用語以外は英語しか話せないからね。意思疎通は頑張って。じゃあ今日の会見見てね。詳細は会見が終わった後に連絡する』


 言いたいことだけを言ってバティンは俺の手から型をとり消えてしまった。あいつ、行ったり来たりしすぎだろ。セーレの高速移動と違い、あいつの場合は瞬間移動って感じだ。不意打ちされたら絶対勝てねえぞこれ……


 嵐が去っていき、ヴアルの溜息とともにみんなが一気に肩の力を抜いた。肝が冷えた。あいつ、会見を十七時からやるって言ってたな。今準備中じゃないのか。よくこっちにわざわざ来たな。


 バティンがいなくなったことで剣をしまったアスモデウスを労わるように澪が声をかける。その距離が無意識に以前よりも近くなっているようで心臓が嫌な音を立てた。


 「バティンもあの場で詳細は言わなかった。会見、待つしかないね」

 「うん。アスモ大丈夫?ごめんね」

 「澪は何も悪くないよ」


 やめろ話すな。なんで、キメジェスの言葉が頭から離れない。二人が心中する前に手を打てって言ってた。アスモデウスの腕をつかんでいる澪の手を気づけば引っ張り抱きしめていた。


 「も、もういいだろ。澪、あっちいこ」

 「え、拓也?」


 澪の手を引っ張ってアスモデウスから引き離したのを皆は目を丸くしてみている。俺が澪とアスモデウスにやきもきしていることは知っていたと思うけど、行動を起こすとは思わなかったようだ。


 しかし澪から握り返された手に爪が食い込んで痛みで振り返った瞬間、氷のような冷たい目でポツリと澪の口から信じられない言葉が飛び出した。


 「……邪魔な男。本当に、トビアを見ているみたい」

 「え?」


 その瞬間、思い切り手を離されて、表情を崩した澪はヴアルの元に走っていき小さな体に縋りつくように抱き着いた。澪の背中を撫でているヴアルはもしかして何かを知っているのか?席を外すと言って二人は部屋を出て行った。


 「え、松本さんどしたん?」

 「わからない。俺の事、トビアみたいって……誰の事、言ったんだろ」


 トビアと言うワードに反応したのは俺と光太郎以外の全員で、アスモデウスは思い立ったように澪とヴアルの後を追いかけて部屋を出て行った。それを追いかけようとした俺を止めたのはセーレで、ソファに座るように促された。


 何かを知っているのか?


 でもセーレは何も教えてくれず、今はヴアルに任せてあげてほしいと言っただけだった。澪が落ち着くまではここで待機してほしいと。ヴアルは何かを知っている?悪魔の能力に目覚めたことで澪は不安定なのか?でも、それなら俺にだって相談してくれてもいいはずだ。


 居ても立っても居られない俺から気をそらすようにシトリーとヴォラクが立ち上がり昼飯を買いにコンビニに行くと言い、光太郎もそれについて行く。


 「拓也も行こうぜ。会見まで時間あるし」

 「でも澪が……」

 「女の子は女の子に任せ解きゃいいんだよ。ポテト買ってやるから来いって」


 シトリーてめえ餓鬼扱いすんな。ポテトに反応してストラスがそわそわしてんじゃねえか。俺じゃなくてなんでストラスを釣りに来るんだよ。

 言葉を飲み込んで、先を歩く3人の後をついて行った。


 ***


 「(緊急の会見になってしまったが、世界各国が私たちの動きを注目してくれているようで、それは喜ばしいことだ)」


 午後十七時。イルミナティの会見が始まった。ホンジュラスの宣戦布告ともいえる挑戦状に関しての会見となれば世界中の注目は必至だ。中央の席に座っているマティアスは表情を崩さず、マイクを手に持ち、淡々と話をしている。


 「(さて、皆が注目しているであろうホンジュラスの件について今回はお話ししようか。そちらに関しては正直私よりも適任者がいる。彼に説明は任せるとするよ)」


 マティアスの隣にいるバティンにマイクが渡る。バティンが公の場所に出てきたのはイルミナティが初めてテレビに出てきて以来で、ネットの掲示板の盛り上がりも頂点に達していた。


 “うおー!バティン出てきた!”

 “イケメン悪魔(笑)こいつ喧嘩売られてたけどどうすんのかな”

 “バティン様お願いです。ホンジュラス何とかしてください。あんな悪魔に支配された国があるなんて現実信じたくないのです”

 “いやリヒテンシュタインもバティンがのっとってるようなもんだろ(笑)”


 『(全く大変なことになってしまったね。同じソロモンの悪魔がこのような暴挙に出るとは思わなかったので、僕の管理不足なのかもしれないね。ルシファー様に申し訳が立たないよ)』


 バティンなりのジョークなのかもしれないが、冗談になっておらず報道陣が愛想笑いをすることすらない。滑ったかなと苦笑いをした後にバティンは本題に入った。


 『(端的に言います。バアルは我々が処分します。人類を救済する - など、聞こえのいい行為をする気はありません。しかし彼らの存在は僕らの目指す世界とは主旨が異なる。僕らの目指す悪魔との共存とは彼らのやり方ではない。あくまで統制された国家が必要なのです。その役目を彼らに任すには荷が重すぎる。バカの集まりじゃあねえ)』


 明らかにバティンが喧嘩を買うと言う判断に報道陣がざわついた。


 『(報道陣の皆さん、世界に発信していただいていいですよ。我々イルミナティは彼らを近いうちに抹殺する。彼らの思い通りの未来を与えるつもりはない。僕たちも血の気が多いんです。あんな舐めた態度をとられてヘラヘラしているお人よしはいないのでね)』


 “バティンからの宣戦布告きたーーー!!”

 “今回は全面的に支持しますバティン様!!”

 “ええ……じゃあ悪魔対悪魔ってこと?これホンジュラスの人、逃げた方がよくない?近隣諸国受け入れてあげないとやばそうじゃない?”

 “いや、怖くて受け入れられんでしょ。関わりたくないが本音だろ。今回に関してはイルミナティを全力応援する”


 『(バアル、この言葉を君に送るよ。 - 賽は投げられた - もう君が如何様な理由をもってしても、我々は君を生かす道は取らない。殺したとて、復活までの魂は集めてあげるから安心して僕らに殺されてくれ)』


 言いたいことを終えたバティンはマイクを置いて報道陣の質問時間に移る。各々が手を挙げて我先にと質問をしようとする報道陣に一人一人答えていると、この質問が飛び出した。


 「(イギリスの放送局○○○です。先日、あちらがわから指輪の継承者がアジアに居ると発言がありましたが、イルミナティもその情報はつかんでいるのでしょうか)」


 心臓に一気に血が廻った。バティンが余計なことを言わないか、全員が画面を見つめている。マイクをとり口元に持っていきバティンは笑みを作った。


 『(ええ、間違いありませんよ。こちらは持ち主の特定まで済ませています。ただ、貴方方のような人間たちの前に出す必要はありません。僕たちも継承者を必要としている。何の力もない貴方方の手に渡るよりも僕らに管理されている方が安全でしょう)』

 「(それは、指輪の持ち主をイルミナティが匿っていると受け取ってもいいのですか?)」

 『(中々に我が強くて我らも扱えていないが正解です。単独で動いていますよ。人類を救うために、ね。彼らは僕ら悪魔側につくことなく、あくまでも最後の審判を食い止めるために奔走している。その部分は我々とは相容れない部分ですね。まあこれ以上は個人の特定につながりかねないので黙秘権を行使しましょうか)』


 報道陣がざわつく。指輪の継承者が実在することと、特定まですんでいること。単独で最後の審判を止めようと動いているとバティンが明かした。


 “指輪の継承者が単独で動いているって……救世主でしょこれ。国が保護してよ!”

 “泣けてくる。悪魔から守ろうとしてくれてるってことだよね。その人には味方いないの?本当に数か月前までの悪魔なんか信じてなくて面白半分でいた自分を殴りたい”

 “全世界で保護する案件だろ。ちゃんと特定するんだろうな。イルミナティに特定されてんじゃねえかよ”


 まずい。関心がこっちに向かっている。


 パイモンが余計なことをと呟いて舌打ちをする。


 会見は終了するようで、これ以上の質問は受け付けないとマイクを置き、バティンはマティアスを連れて部屋を出て行った。会見が終わり切り替わった夕方の報道番組はもっぱら先ほどの会見で持ち切りだ。日本には直接関係ないにしても悪魔が関与しての大規模な戦いが起こるかもしれないと言う前代未聞の事態にメディアの関心は高い。


 問題は……これだけことが大きくなってしまった中で、どうやって隠れてバアルを討伐するかだ。向こうはギャングを総動員してくるだろうし、これだけメディアの関心も高ければ一般人ですらパパラッチみたいになるかもしれない。ただでさえアジア人が指輪を持っているとバラされているんだ。動き回れるのか?


 「あいつ、このための型取りだったんだな。やば……」


 光太郎が指輪を見てぽつりとつぶやく。ああ、そういうことね……このための型取りってわけか。用意周到なことで。


 『お互いに退路を封じてきましたね。拓也、連絡を待ちましょう。こちらの安全が確保できるまで動くわけにはいかない』


 元よりそのつもりだ。


 本当に、何もかもが最悪だ




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