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第80話 話せない神様2

 「お、あったけえ。ネットで見たけど、今がベストシーズンなのは本当みたいだな。でもエベレスト見えなくね?」

 「首都から結構離れてるって書いてたぞ。カトマンズからは無理なんだろ」


 どこもかしこも人人人の大渋滞だ。俺達は今ネパールに来ている。時差は3時間ちょいで日本と大差ないため学校帰りに来ることができた。現在の時刻は現地時刻で15時ちょうどで、まだ人は大勢街中を行き来している。俺たちが来た場所はネパールの首都カトマンズと言う場所らしい。


 驚いたのが野良犬や野良牛と言えばいいのか?うようよ道路を闊歩している。目の前で牛が横になっているのに気づいた瞬間、悲鳴を上げた俺をネパール人たちはくすくす笑っていたくらいだ。



 第80話 話せない神様2



 ネパールの観光地をネットで調べている光太郎の携帯の画面をのぞき込む。あ、この寺院行ってみたい。世界遺産って書いてたやつだ。光太郎もネパールに行ったことないせいか心なしかそわそわしている。絶対についでに観光地行けたらラッキーって思ってるぜこいつ。


 調べたらネパール観光のベストシーズンが三月~四月らしく、世界遺産が集まっているというダルバール広場の入口の前だ。観光名所としても有名な場所のためちらほらと観光客が歩いており、日本人らしき人たちも数人見つけた。光太郎と二人で待ち合わせ場所からはなれない様に適当に写真を撮りながら観光する。パイモンとセーレとシトリーの五人でネパールに来たが、パイモンとセーレは調べることがあると言って姿を消してしまい、シトリーは俺達が騒ぐのを相手にするのが疲れたらしい、少し離れたところでしゃがんで待機していた。


 「主、光太郎、お待たせしました」


 パイモンとセーレがこっちに戻ってきて、シトリーも集合する。パイモンの手には新聞が握られており、売店で買ったんだということがわかる。しかしパイモンって金持ってるのか?俺も光太郎のネパールの金なんて持ってないのに、落ちてた新聞でも拾ったんだろうか。


 「とりあえず、クマリの館に向かいたいのでダルバール広場に入場します。観光名所ゆえスリや置き引きが多発しているので荷物には気を付けてください。特に携帯はなくさない様に」


 まるでパイモンがツアコンで俺と光太郎がツアー参加客みたいだ。俺と光太郎に話しかけているはずなのに、パイモンはじろりと俺にだけ特に注意しろよとでもいうような視線を向けてくる。海外に慣れている光太郎と違い、浮かれている俺は格好のカモになるって言いたいんだよな。でもさ、ダルバール広場って観光名所だよな!?入っていいの!?ダルバール広場って入場料いるってネットに書いてたけど!俺達お金持ってないよ!?


 顔がにやけている俺と光太郎を引っ張ってパイモンたちは入場ゲートに向かっていく。その後ろを面倒そうについて行っていたシトリーがパイモンに声をかける。


 「お前、ルピーとか持ってんのかよ。カツアゲでもしてきたんか?」

 「この低能の猿が。誰がそんなことするか」


 ひでえ。否定するにしてもなんて言い方だ……


 「前に言っただろう。契約者のカードを借りていると。前契約者の鈴木は俺用にネット上で口座を作ってくれていてな。金銭の受け渡しはその口座を通じて行っている。そのカードの1枚が海外のATMで現地通貨を降ろせる機能が付ている。」

 「んじゃそりゃ」

 「俺の持っている口座はその機能に対応しているからルピーを降ろすために現地の銀行を探していたんだ。ATMがあるからな。日本円で一万円分のルピーを降ろしてきた。ダルバール広場の入場料が日本円でおよそ千五百円だ。五人分でもお釣りがくるだろう」


 パイモンって口座持ってるの。この人本当にぬかりないよね。人間の世界で長期滞在する術を心得ている……てかなにそれ良くわからんけどすげえ!こっちの国のお金があるのはすげえ有難い。そう言えば今まではカードで支払えるところはパイモンがカードを使ってくれていたけど、現金しか使えない場所ってなると現地通貨いるもんな。観光地ど真ん中にジェダイトで突っ込むわけにもいかねえし。パイモンって本当に色んな意味でしっかりしている。


 「鈴木さんて元気?」

 「婚約をしたと連絡は来ました。直接会ってはいないので詳細は知りませんが」


 あ、鈴木さん結婚するんだ。そう言えばパイモンと出会ってから一年半くらい経ったもんな。パイモンの元契約者の鈴木さんがその時確か二十八とか二十九だったはずだし、そっか。結婚してもおかしくない年齢だ。しかしパイモンの話には続きがあった。


 「とはいえ、ダルバール広場のチケットカウンターの警備はザルだと言う。この金銭はあくまで保険だ」

 「お前呼び止められるまでタダ見しようって奴か……」

 「当たり前だ。馬鹿正直に金など払うか。主と光太郎は私達からはぐれないようにしてください」


 ……やっぱりパイモンはしっかりしている。


 結局チケット確認などされず、無料で広場に入場する。ダルバール広場は観光客でにぎわっており、路面店で土産なども売っていた。光太郎と一つ一つを見て回っている間にパイモンたちが広場にある観光マップでクマリの館の場所を確認していた。


 「拓也、光太郎、いくよ」


 セーレに呼ばれて後ろをついて行くと、人だかりができている場所があった。もしかしてあそこがそうなのか?鉄格子の嵌められた扉をひっきりなしに人が覗き込んでいる。


 「ちょうどよかった。クマリがいる時間みたいだね。いないときの方が多いらしいからついてるよ」


 写真を撮ったり、声をかけたり、観光客たちはやりたい放題だ。何とか人混みをかき分けて、そのクマリとやらを一目拝むために最前列に行くと、5~6歳くらいの幼い女の子が仏頂面で椅子に座っていた。写真を撮られても外人に声をかけられても何食わぬ顔で視線は自分の足元から動かない。


 そう言えば無言でいるのがいいんだっけ?小さいのにそれを心得てるんだな。じゃなきゃクマリなんてできないか。後ろからの人に押されて何もすることができず、流れにのせられクマリの館から離されてしまう。こんな状況じゃクマリに声なんてかけれる状況じゃない。俺達も数秒間しか拝めなかったぞ。一体どうするんだろう。


 なんとかクマリの館を脱出し、再びダルバール広場の中心部にたどり着いた。お金が浮いたからかパイモンが飲み物を買ってくれてやっと息をつけた。


 「ていうか、四六時中あんなんじゃあの子と接触とか無理だよ。どうすんだよ」

 「彼女に接触はしません。今回の件とは無関係なので。彼女はロイヤルクマリというクマリの中でも頂点に君臨するクマリです。クマリはネパール各地に存在し、そのトップと言うわけです。今回事件を起こしている少女は地方のクマリ。ローカルクマリです」


 え!?じゃあなんであの子のところいったんだ!?

 目を丸くしている俺と光太郎にパイモンは淡々と告げる。


 「どうせあなたのことだ。契約者との戦いは望んでいないでしょう。クマリという物を実際目で見たほうが説得する際に言葉に深みが出るんじゃないかと思いましてね」


 あ……


 パイモンの言葉に返事ができずに口を閉じた。契約者は国を捨てて逃げた女の子だ。向こうは悪魔を手放すことを絶対に拒否するだろう。悪魔を失ったら少女は力を失ってしまい、一人で生きていくことができないから。国に戻っても、居場所もないかもしれない。


 黙っている俺にパイモンが新聞を一部よこしてくる。ネパール語だから全く理解できないけど、少女の写真が載っており、この子が逃げた子だって言うことだけは何となく理解できた。


 「少女の名はパルバティ。ネパールの第二都市パタンのクマリです。彼女の名前はどうやら女神の名前らしいですね。生まれたときからクマリにさせるためだったのかは知りませんが」


 十二歳の少女は伏目がちで表情は読み取れない。内容は彼女が逃げ出し、国の威信をかけて彼女を探し出すという内容だった。またこの子のクマリの地位をはく奪して新しいクマリを選出すると書かれているらしい。


 新しいクマリを選出するのなら、もう放っといてやればいいのに。こんな小さな子を追いかけまわしてあまりにも可哀想だ。


 でもそう思ったのは俺だけじゃなく光太郎もポツリと呟いた。


 「放っといてやりゃいいのにな。本人がしたくないってことなんだから……」

 「悪魔と契約してるとか他国の情報誌に書かれちゃ、納得いかねえんだろ。まあイルミナティのおかげで俺らも大概有名人だ。この子が逃げたときも、変な歌が聞こえたとか書かれてるわけだしよ、非科学的なこと起こされちゃ政府も気が気じゃねえんだろ」


 そんな、もんなんだろうか。ジュースを飲み終わったパックを片付け、パイモンは次はパタンと言う場所に行くと言った。そこがパルバティがクマリを務めていた場所なのか。


 ***


 「(クマリに選ばれているのに逃げ出すなんて罰当たりもいいとこよ。神の裁きがあるでしょう)」

 「(信じられん話だ。さっさと連れ戻してしかるべき罰を受けるべきだ)」

 「(クマリって神様なんでしょ?神様が逃げ出すっておかしいわよね)」


 パタンに到着して聞き込みを開始した俺達が住民たちから聞いた情報だ。そのほとんどがパルバティを中傷するような内容だった。肝心な情報は手に入れられず、少女への誹謗中傷ばかりにこっちも嫌気がさしてくる。


 街頭で聞き込みをしたところで、やっぱりクマリと言う存在自体が不透明であることもあり、住民たちは大したことを知らされてはいないようだ。彼女の家族も基本的には決められた日以外は面会することが許されていなかったようで、彼女のことはあまり分からないって新聞に書いていた。


 彼女と関りがある人と連絡をとれたらいいんだけど……


 その時、諜報部隊の要のシトリーが一人の男性を連れてきた。男性は見た感じ五十歳前後で、シトリーを恥ずかしそうに見つめている。あ、この感じ……シトリーはこの人に力使って情報を引き出したんだろうけど、なんだか見た目えぐいぞ……


 「おう、見つけたぜ。この男、あの逃げ出した子の世話係の一人だった女の旦那らしい。今からこいつの家に行くぞ」


 すげえ!!流石シトリー!

 男性はシトリーに腕を絡めようとしているが、それをかわしてシトリーはさっさと歩いて行ってしまう。


 「シトリー、女の人になっとけば?ネパールで同性愛って、噂になったら彼は全部なくしてしまいそうなんだけど」


 あ、確かに。ネパールとか宗教厳しそうだし、そういうの厳しそう。本人もそれもそうだなと納得したようで人がいない路地に向かって歩いて行く。しばらくすると黒髪の美しい女性がこっちに向かって歩いてきて光太郎の腕に自分の腕を絡める。


 「ダーリン!久しぶりぃ~もうあいつじゃなくて私にも構ってよね~」

 「あはは、久しぶりシトリー……」


 光太郎はたじたじだし、男性は歯ぎしりをしながら二人を見つめている。なんだこれ。


 とりあえず男性に案内され、パルバティのお世話係だった女性に会いに行くことになった。お世話係はパルバティを逃がしたことによって今は外出禁止になっているらしい。生き神を逃がしたことはパタンにかなりの衝撃を与えたようで、お世話係に暴行や嫌がらせが起こる可能性を見越してのことそうだ。それでも住民の目は厳しく、この男性もすれ違った住民が唾を吐いたり暴言を言ってきたりと嫌がらせは起こっているらしい。


 数十分と結構な時間を歩いて、四階建て程度のマンションにたどり着いた。ここが男性の家らしく、階段をあがり三階の一番端のドアを開ける。


 「(お客さんだ)」

 「(マニサー!)」


 先手必勝とでも言うように女性のシトリーが家の中にいた中年の女性に抱き着きに行く。マニサって言ってたけど、このおばさんの名前だろうか。最初は怪訝そうな顔でシトリーを着き飛ばそうと手を振り上げたおばさんはシトリーと目が合っただけでその手は勢いを失い、シトリーの背中に回る。


 「(なんて美しい子。何でも聞いて。貴方に会えるのを待っていたわ)」


 これでこの夫婦はシトリーの管理下だ。なんでも彼女の願いを聞くだろう。多分このマンションもネパールの中ではかなりいい物件なんだろうな。室内は綺麗に片付いており、中央のソファに通された。夫婦は何でも聞いてくれとニコニコ笑っている。マジでシトリーの能力って怖い。


 ここから先はパイモンに任せることにして俺と光太郎は出されたお茶に口をつけながら話が進展するのを待つ。


 「(いくつか伺いたい点がある。まず今回逃げ出した娘の身辺情報、逃げ出した日の詳細、彼女の関係者が他にいるか、その三点を聞きたい)」

 「(私に知っていることをお話しします。パルバティはネワール族の少女でパタンでも有数の名家の生まれです。父親はIT企業勤務で母親は教員をしているわ。兄もカトマンズの名門校に通っていてエリート一家ね。次に逃げ出したあの日、彼女の部屋から歌が聞こえたの。悲しい子、自由におなり。って言う歌詞だけは聞き取れたわ。クマリが大声で歌を歌うなんてあり得ないことだから部屋に向ったら室内が光り輝いて、その光が消えた瞬間に彼女はいなくなっていたの。私の他にも一緒にいた世話役が歌が聞こえていたと言っていたから私の妄言ではないわ。あの子は神の力を使った。本当に生き神なのよ」


 隣にいるセーレに訳してもらいながら、会話について行く。室内が光り輝いていなくなったってことは転移魔法みたいなのを使える悪魔なんだろうか。セーレたちの表情に驚きがないから、予想した通りフェネクスで間違いはないんだろう。でもそれだけの情報ではパルバティは探し出せない。やっぱりクマリっていう役職柄、親しい友人もいなかったようだし、家族にも面会制限があったから会えなかったってなると、どこかに逃げたいとか、そういった相談を受けている者はいないらしい。


 しかし世話係は一人の男性の名刺を渡していた。名前は英語で書かれておりスティーブンと言う男性の様だ。


 パイモンの表情が変わる。このおっさんは何だろう。


 「(彼に話を聞いてみたら?彼の話題を出すのはタブーなんだけど、貴方にだけ教えてあげる。彼は確かイギリスのジャーナリストって言ってたかしら。まだネパールにいると思うわ。そこに電話番号も書いてるでしょ。彼はクマリの取材をするために二年間の取材交渉をして、やっと許可が下りてパルバティに三週間密着取材したのよ。私は世話係だから取材に協力したの)」


 「主、この名刺の男、イギリスのジャーナリストで貴方にも見せましたよね。イギリスの情報誌。あの記事の提供者です。この男がパルバティに長期間の取材交渉を行い、密着取材をしているようですね。パルバティからしたら異国のジャーナリストの存在に自分の価値観がひっくり返った可能性があります。この男、探してみましょう」


 パイモンは夫婦に礼を言って立ち上がる。この夫婦はどうするんだろうか、一生シトリーの魔術に触れ続けるんだろうか。そう思ったけど、シトリーが夫婦の額に軽くデコピンをかますと目が覚めたように二人は目をぱちくりさせた。


 「(ありがとう。助かったわ)」

 「(あ、あんた一体……)」

 「(あんたこの女は誰なのよ!?浮気!?)」


 おばさんがおっさんに掴みかかって何か切れている。修羅場のようなその状況を止めるのも説明するのも骨が折れそうで、シトリーは投げキスして光太郎の腕をつかんでさっさと家を出て行ってしまい、俺も慌てて後を追いかけた。


 「主、一度カトマンズに戻りましょう。この男のネパールでの滞在先がカトマンズのホテルになっています」


 ***


 「ええ、本当にいいの?パイモンいいの?」

 「WiFiも使えるし、時刻もまだ17時30分です。日本時刻を考えると軽食を食べても問題ないかと」


 ざわざわと混みあう店内はカトマンズのスターバックスだ。WiFiを使えるからという理由でここでジャーナリストと連絡を取り合うことにしたらしい。これ、頼んじゃっていいんだよな?


 光太郎とシトリーとそれぞれ好きなものを選び、注文はパイモンたちに任せ、席をとるために移動する。WiFiが使えるなら俺の携帯だって役に立つはずだ。席を見つけ、WiFiを接続してパイモンたちを待つ。しばらくしてパイモンとセーレが戻ってきて作戦会議になった。


 パイモンは光太郎のタブレットを借りて、イギリスのジャーナリストが務めている会社を調べている。問題がないと判断したら連絡を取ってみる予定らしい。


 「問題がないってどんなこと調べてんの?」

 「貴方にも言いましたが、彼が情報提供している新聞社は地元でも過激な内容をおくびもなく載せると評判の新聞社です。そこに情報を提供している人間をなんの情報もなく信用できるはずもないでしょう。下手に私たちに探りを入れられても面倒だ」


 俺達が調べても全くピンと来ない。30分程度パイモンが無言で調べている間、注文したコーヒーを飲み、サンドイッチを食べ終わっていた。


 あらかた調べたのか、パイモンが電話をかけていいか光太郎に聞いている。


 「それ通話の機能ねーけど、Skypeいれてるよ」

 「助かる」


 ……携帯代金とか考えねえのかな。親父さんが払うから気にしないって奴なのかもしれない。恐ろしい子!!


 パイモンがイヤホンをつけて名刺に書かれた番号に連絡をしている。一分ほど待つと、相手が出たのかパイモンが話し出す。


 流暢な英語で会話をしているけど、表情があまりよろしくないから、いい情報は見つけられていないのかもしれない。パイモンは相手に少しだけ待ってもらっていいかと英語で話し、イヤホンを外した。


 「この男、今は仕事が終わってイギリスに帰っているようですね。ロンドンに向かえば会うことには同意していますが……この男にそこまでの価値があるか、と言われたらわかりませんね。どうされます?」

 「でも、情報探さないとだよな?聞いとかない?」

 「わかりました。(お話をそれでも伺いたい。時刻は追って連絡します)」


 ジャーナリストと会う約束を取り付け、パイモンは通話を切る。俺達は、どうしよう。


 「主の都合のいい日程で構いません」

 「でもあんまり日にち近いと疑われたりとか、ない?俺ら今ネパールにいて明日ロンドンで~とか」

 「それならば私が同席しなければいいだけの話です。イギリスにいる仕事の仲間を向かわせる ― それで十分でしょう。対人からの情報を聞き出すにはシトリーがいればどうとでもなる。私は近くで待機しておきます」


 シトリーはばちこんと効果音がするようなウィンクをかまし、光太郎に腕を絡めている。そうか、シトリーがいたら聞き込みの面は問題ないか。じゃあ光太郎とも日程合わせないとだな。


 「光太郎って塾の春期講習とかあんだっけ?」

 「あるけど一日まるまるじゃねえし、時差考えたら日本出るのって夕方以降だろ?問題ねえよ」

 「向こうにも仕事の予定があるから、夕の合流もあり得るがな」

 「塾の講習とか俺大体昼からのコースだし、それならそれでも対応できるよ。つか今週の土日でもいいし」


 今週の土日って、今日が木曜だから明後日か。流石にパイモンが直接聞きだすのは難しそうだな日程的に。パイモンは頷いて相手の連絡先にメッセージを送っている。有力な情報が見つかるといいんだけどな。


 ***


 「(君が日本の記者の祐輔さんと恵さんかな。遅くなって申し訳ない、ジャーナリストのスティーブンです)」


 パイモンとジャーナリストのスティーブンさんが決めた日にちは土曜日の13時からロンドン市街のカフェだった。おしゃれな街並みに感動している俺たちの前に来たスティーブンさんは名刺を渡して自己紹介してくる。あ、でも俺達名刺とか持ってないけど、大丈夫なのかよこれ……


 でもそこはシトリーがいるから問題なさそうだ。結局この間の流れで女性のシトリーが今回スティーブンさんから話を聞き出すことになっており、面子はこの間と同じ。俺と光太郎、セーレ、シトリー、そして少し離れたところでパイモンが待機していた。


 カフェの空いている席に腰掛け、注文していいと言われてカプチーノを注文している間にスティーブンさんと他愛ない話をする。


 「(君若そうだけど、今回のことを調べているの?)」

 「(ネパールの文化に興味あって、知り合いが調べているって聞いてついてきたんです)」


 ネイティブな英語で話しかけられ、返事をできない俺の代わりに光太郎が返事をしてくれる。何度も海外に行っているのに、いまだに全く話せる気配がしない……


 カプチーノを持って席に着くとスティーブンさんはパソコンを起動し、自分が調べていた内容を話してくれた。


 「(私は中央アジアの文化や風習について取材して回っていてね、ネパールのクマリと言うのは中でも神秘的で神聖な存在なんだが、欧州からしたら児童虐待に当たるのではないかと長いこと論争になっていてね。今でこそ待遇はマシにはなったものの、依然彼女たちの人権は軽視されている部分があるんだよ)」


 相手の国の風習を児童虐待と訴えるのはどうか分からないが、少なくとも逃げ出した子は悲しい思いをしているんだろうってことは想像できる。てなると、このおっさんの言っていることは間違いじゃないのかな。


 「(クマリと言うのは生き神だ。務めている間は学校にも行けない。今でこそお世話係や家庭教師をつけることを許されている子もいるようだが、古い風習をまだ守り、教育を受ける機会を奪い、家族への面会もできない子供がいる。クマリの任をほどいた少女がそんな野に放たれて、まともな職に就けると思う?大抵の少女は識字もできないのさ。しかも元クマリの少女を嫁にもらうと早世するなんて迷信を未だに信じ続ける人間も多い。結婚もままならないんだよ)」


 悲しそうに眉を下げてスティーブンさんは自分にも娘と息子がいてね、と苦笑いをしながら話した。


 「(すまない、話がそれたね。パルバティのことが聞きたいんだったね)」

 「(ええ。貴方が長いこと取材をしていたって聞いたのよね。貴方から見て、あの子は逃げ出そうとする兆候が見えたの?あの子の世話係に聞いても、全く分からないって言うのよね)」


 スティーブンさんは無言でパソコンで何かをクリックしている。


 「(私が彼女に取材をしたのは三週間なんだ。取材交渉に二年かかったがね。結論を言おう。あの子が逃げ出す兆候はあったと断言するよ。その証拠が私のパソコンに入っている。パソコンの使い方を教えたのも私だ。彼女のお世話係は、こういってはなんだがあまり教養がない女性の様だったからね。一般的な知識はあるが、パソコンの使い方や社会情勢などはあまり関心がないようだった。私は、近々新聞にこの内容を載せてもらうつもりだ。その記事を見て、彼女に関する周りの目が変わってくれるの願うばかりだ)」


 パソコンには何かの文字が書かれており、それがネパールの文字であることだけは分かった。

 何を意味しているか全く分からないけど、シトリーとセーレは顔を見合わせる。



 ― म भाग्न चाहन्छु(逃げたい)म खुशी हुन चाहन्छु(幸せになりたい)



 目が丸くなった。この子はSOSを出していたんだ……

 それでも逃がしてあげることができなかった状況にスティーブンさんは苦しんでいるんだ。


 「(彼女が、どんな気持ちで、この文章を打ったのかと思うと心が痛む。取材のときは付き添いが常にいたから彼女と二人で話す時間は、この時の数分だけだったんだ。この時以外で彼女が自分の思いを口にしたり文にしてくれることはなかった。だから彼女がいなくなったと聞いて驚いたよ)」

 「(悪魔と契約しているかもとか貶めていてよくも心配する振りしたもんね。笑っちゃう)」


 シトリーが喧嘩を売るようにスティーブンさんをなじり、セーレが視線でシトリーを咎めている。それに関してスティーブンさんは思う所があったらしい、鞄から何かを取り出した。それは箱に入っており、大事に保管されているようにも感じる。


 「(パルバティにもらったんだ。パソコンを教えてくれた御礼だと。クマリがそんなことをするのは基本的には許されないから誰にも見せなかった。彼女は言ったんだ、この羽が私を救ってくれると。悪魔がどうとか言う内容は私の記事を編集部が勝手につけ足したものだ。私が自ら書いた内容ではない。ただ、あまりにも話ができすぎているとは私も思ってるんだ)」


 スティーブンさんが開けた箱には金色に光る羽が一つ入っていた。天然の鳥の羽とは思えないほどにキラキラと店内の照明を浴びて光り輝く羽はまばゆくて目を細めてしまうほどだ。


 でもシトリーとセーレの目つきが変わったのを見て、嫌な予感がよぎる。この羽、まさかフェネクスの羽じゃないんだろうか。触ってもいいかとシトリーが聞き、スティーブンさんが肯定したのを確認して羽を手に取る。その瞬間に何かを感じたのかシトリーは口角を上げた。


 「あんたもなんだかんだで見つけてくれるの待ってるってわけね……(スティーブン、この羽を私たちに譲ってほしいのよね)」


 シトリーの雰囲気が変わり、スティーブンさんの表情も変わっていく。力を使ってシトリーは何かを交渉している。多分、この羽を寄越せって言ってるんだ。


 シトリーの力を受けたスティーブンさんが断るはずもなく、羽はシトリーの手の中に納まった。それからはシトリーやセーレがスティーブンさんとちょこちょこ話し、時刻は15時近くになろうとしていた。時計を見てスティーブンさんは荷物をまとめる。


 「(申し訳ない。息子を迎えに行かなければ。近くのカフェにいると言ったら迎えに来いとうるさくてね)」

 「(息子さん、この近くの学校なんですか?)」

 「(ああ近いよ。ウェストミンスターだからね。寺院のすぐ横さ。ここから歩いて15分くらいだよ)」


 シトリーとセーレの目が丸くなった。二人の表情がなんでこんなに変わるのかわからなくて、光太郎に英語を訳してもらっても意味が分からない。でも二人はまさかの提案をしてきた。


 「(ウェストミンスターですか!すごいですね!僕達ロンドンに来てからまだ日が浅くて、お邪魔はしないので、僕たちも学校を見てもいいですか?)」

 「(ん?君たち学校が見たいのか?外観なら誰でも見れると思うけど……私も学校の中までは入れないよ。厳しいからね)」

 「(あそこって全寮制じゃなかったっけ?なんで会えんの?)」

 「(全寮制ではないね。寮と通学、どちらでも選べるのさ。でも大体みんな実家から通えても寮を選ぶがね。学校は今イースター休みで生徒たちのほとんどが出払ってるんだよ。私の息子も今日から里帰りさ。と言っても自宅がロンドンだからさして変わらないがね)」


 スティーブンさんは笑いながら立ち上がり、行くのなら一緒に行こうと声をかけてくる。パルバティと何の関係もないイギリスの学校見学なんて正直言ってあまりにも興味がない。でもシトリーとセーレは絶対について行くとでも言うようにスティーブンさんの後をついて行った。


 「主、光太郎、話はまとまりましたか?」


 近くの席で待機していたパイモンだったけど、会話までは聞こえなかったようだ。俺たちに説明を求めてくる。


 「いや、多分まとまったんだろうけど、なんかスティーブンさんの息子の迎えに行くっていうんだ。全然パルバティに関係ないじゃん」

 「迎え?」

 「ウェストミンスターがどうたらって言ってたけど、俺も拓也も訳わかんねえんだよ。なんでそんなに反応するのかさ」


 でもパイモンは察したのか文句を一言も言わずついて行く意思を見せた。だから何があんだよその学校に。


 「スティーブンさんの息子に会いたいの?」

 「いえ、別に。ただ気になる件がありまして。時期が来たらあなた方にもお伝えはします」


 なんだよそれ……イギリスで今15時ってことは日本は24時だ。そろそろ帰りてえよ俺~

 でもまだまだ帰れないんだろうな。


 ***


 「す、すげえ。でけえ……これ所謂名門校って奴なのか」

 「ロイヤルファミリーとか海外のセレブの子供とかも通ってるらしいぜ。イギリスのパブリックスクールの一つだとよ」


 携帯で調べた内容を説明してもらい、その格の高さにビビりそうになる。マジのセレブ校じゃねえか。スティーブンさんてイギリスでもすげえエリート一家なんだろうか。スティーブンさんは慣れた手つきで警備をしている人に身分証みたいなものを提示している。


 まあ俺達はこれより先には流石に入れねえだろうけど。


 「Dad!」


 ボストンバッグを肩にかけた少年がこっちに走ってくる。綺麗な金色の髪にスッキリとした印象を与える青い瞳。漫画に出てくるような典型的な白人の少年だった。少年はスティーブンさんに飛びついて何やら話している。見た目は結構大人っぽいけど年齢は俺より下の13歳らしい。


 少年はこっちを見て礼儀正しく頭を下げて自己紹介してくる。こういうの学校とかで教えているんだろうか、偉い子だな。


 「(お帰りマイク。母さんも姉さんもお前が帰ってくるのを楽しみにしていたよ。学校は楽しかったかい)」

 「(父さんの言う通り寮にして正解だったよ。寮で先輩に気に入られなきゃやばい奴!もう上下関係厳しいんだよ。一年は芝生の上歩いちゃダメとかさ~まあ同室の奴らがいいから助かったけど。つか父さんマジ俺リーンハルトと同室だぜ!)」


 少年は無邪気に笑い、学校であったことを色々スティーブンさんに話している。スティーブンさんはそれをニコニコ聞きながらマイク君の頭を撫でた。


 「(リーンハルトは苛められてないかい?)」

 「(おう大丈夫そう。あいつ自体はいい奴だし。やべーのは爺さんだけなんだろうね。勉強も運動もできて性格もいいで同学年の人気者だよ。まあ先輩たちはさ、リーンハルト虐めたらイルミナティに殺されるって噂出てっからね)」

 

 今、イルミナティって言った?

 俺よりも英語がわかる光太郎も渋い顔をしている。なんだ、この子は。光太郎はシトリーをよんで事情を聴いている。


 「あの子供、リーンハルトって男の子と寮で同室なのよ。リーンハルトはマティアス・カレンベルクの孫らしいわよ。マティアス・カレンベルクはダーリンたちも知ってるイルミナティのトップでバティンの契約者のあの爺のことね」


 おいマジかよ。シトリーたちはマティアスの孫がここに通ってるのを知っててついて行こうとしていたんだろうか。マイク君が言うにはリーンハルトは今回のイースター休みで帰省はせず寮に残るんだそうだ。マイク君はスティーブンさんに早く家に帰ろうと促している。こっちも学校を見学できて満足したのかスティーブンさんと解散しようと話している。今日はこれでおしまいか?


 しかしマイク君があるものを見つけてこっちに詰め寄ってきた。正確にはシトリーに。


 「(その箱……父さんこれあげちゃうのか?あの子がくれたのに)」

 「(ん?ああ、彼女たちはパルバティのことを調べているらしくてね。力になれるかもと思って渡したよ)」

 「(あの子、見つからないんですか?)」


 マイク君の顔は真剣で、パルバティに関しても何かを知っているようだ。シトリーが詳しく話すようにスティーブンさんに視線を向けると、マイク君のことを教えてくれた。どうやらスティーブンさんの長期取材をしている間にマイク君はネパールに二週間程度滞在して仕事の手伝いをしていたそうだ。と、いっても本格的な手伝いができるわけなく、実際は旅行感覚だったらしいが。


 その時にパルバティの姿も見ていたらしい。でも直接話したわけでもないようだけど。


 「(俺、あの子に言っちゃったんだ。なんで、そんなところにいるんだ。って……あの子の目が丸くなってた。俺、きっとあの子にひどいこと言ったんだ。俺のせいであの子いなくなっちゃったのかもしれない)」

 「(マイク考えすぎだよ)」

 「(でも!)」


 「(おーい、マイクー!)」


 話を遮るようにマイク君の名前を呼ぶ声が響き、学校から男の子が出てきた。小麦色の肌に茶色い髪の毛。快活そうな少年が何かを手に持ってきている。

 少年はマイク君に紙袋を手渡している。


 「(お前忘れてたぞ。課題のCD-ROM。お前の机の上にあったぞ)」

 「(マジかよ!リーンハルトごめん~マジ助かった~~!)」


 その名前を聞いて、全員の表情が変わった。この子が、リーンハルト!?マティアスの孫か!

少年はこっちの存在に気づき、愛想のいい笑みを浮かべて挨拶してくる。悪い子では、ないんだよな?この子は、マティアスの被害者なんだ。そう、思いたかったのに。


 真っ黒な石のついたバングルを腕につけていた。嫌な予感がする。これが、契約石だってわかってしまった。リーンハルトはニヤリと笑う。その笑みに狂気が混じっているように感じるのは、俺の勘違いじゃないはずだ。


 「(マイクの知り合い?)」

 「(いや、父さんの知り合いらしい)」

 「(ああ、そう。それはまた。じゃあ俺は寮に戻るよ。帰省楽しんで)」


 リーンハルトは手を振って学校に戻っていった。今ここで彼を捕まえたらいいのか?でも体が動かなかった。それに、ここにはマイク君とスティーブンさんもいる。皆、動きたくても動けないんだ。それに、あの子に何かしたらきっとバティンは俺達を許さない。共闘期間に契約者の家族に被害を出したなんてなったら報復だってあるだろう。


 心臓がバクバクしてる。あの子、一体どこまで知ってるんだ。


 スティーブンさんがマイク君を連れて家に帰ると言って、今回は解散ということになった。パルバティを気にかけているのはスティーブンさんも同じで、何か情報があったら教えてくれって言ってた。スティーブンさんが踵を返し、こっちも一度日本に戻ろうと話をしているときに、マイク君がこっちに走ってきた。


 「(あの、これ俺の連絡先です。俺、あの子に会いたいんです!あの子が俺と話してもいいって言ってくれたら、教えてほしいんです!あの子を見つけてください。お願いします!)」

 「(なんで君はそこまで彼女のことを……そんな交流あったのかい?)」


 セーレが優しく問いかけるとマイク君は首を横に振る。


 「(父さんに付き合って、格子越しにあの子を見たんです。その時に俺、あの子のこと可哀想だって思っちまった……どうして、そこにいるの?って、外に出たくないのか?って言っちゃったんです。あの子の目が丸くなって、こっちを凝視してたんです。俺の言葉はあの子に聞こえてた。俺があの子を傷つけたんだ)」

 「(……君のせいじゃないよ。わかった。彼女を見つけたら話を聞いてみるよ。その時に、連絡する)」


 マイク君の顔が華やぎ、頭を下げて走ってスティーブンさんの所に戻っていった。こっちもこれで今日は終わりだ。終業式も来週だ。これからはもっと探す時間も見つけられるだろう。それに、話すこともある。


 ***


 マンションに戻って状況を確認する。日本時刻は既に24時を回っており、土曜から日曜に変わっていた。少し眠たいけど、まだ耐えられる程度だ。それに、リーンハルトの件を聞かないと安心して眠れない。


 俺達から距離を置いていたから細かい会話までは聞こえなかったパイモンにセーレが状況を説明して、俺達が帰ってきたことにヴォラク、ヴアル、アスモデウスも部屋から出てきて全員集合だ。マンションで待ってくれていたストラスも俺の腕の中に納まり、大人しく話を聞いていた。


 「リーンハルトの件って、みんな知ってたんだよな」


 シトリー(女)にまとわりつかれながら、光太郎が全員に確認する。俺達にはなんの報告もなかったけど、こいつらはみんな知ってたんだ。案の定、全員頷いた。


 『はい、知っていました。マティアス・カレンベルクには一人娘がいましてね。その子供です。両親はスイス在住で、リーンハルトはイギリスのパブリックスクールに通っているという話は調べている限りで出てきました。彼には妹もいて、アレクシア・カレンベルク。彼女もいずれ兄と同じ学校を受験すると言われています。しかし契約石を持っていたということは、全てを理解したうえで契約していると見たほうがいいでしょうね。何を身に着けていたかは分かっているのですよね』

 「オブシディアン。フルカスの契約石ね。イルミナティに協力してるって言ってなかったっけぇ?」


 フルカス……姿は見たことないけど、進藤さんから名前はでていた。じゃあ、イルミナティに関与している悪魔と契約しているんだ。


 「じゃあまだ対処できないんでしょ?イルミナティに関与する悪魔への攻撃は駄目ってなってたよね?」

 『そうですね。バティンが私たちの悪魔討伐に目を瞑っているのはイルミナティに関与している悪魔への襲撃をしないこと。それが条件でした。リーンハルトへの攻撃はイルミナティへの攻撃にもなる。今はまだ手を出せません』


 皆が話している中、アスモデウスに視線を向ける。本人は黙っていて話に参加はしているけど、何かを発言する気はなさそうだ。キメジェスが言っていたこと、怖くてアスモデウスには言えなかった。こいつを殺せって言っていた。澪のためって……


 アスモデウスなら、澪がニュージーランドで何をされたか知っているのかもしれない。でも怖い、それを聞いて、本当にアスモデウスを殺さないといけない状況になってしまうのが。こいつ自体は何も悪くない、それに……アスモデウスはきっと思ってるはずだ。サタンともう一度会いたいって。その願いを砕くことなんてできない。


 ストラスを抱く腕に力がこもり、腕の中でストラスが身じろぎして慌てて力を緩めた。


 「リーンハルトに関しては俺達には何もできない。問題はフェネクスの方じゃないのかな。シトリーがフェネクスの羽をイギリスのジャーナリストから手に入れてきたんだ」

 「この羽、魔力残ってるわよ。あいつの。パルバティて子は、見つけてほしいのかもしれないわね」


 シトリーが手にした羽はキラキラと輝いている。魔力が残っているのなら、フェネクスを探す手立てがあるんだろうか。黙っていたパイモンがシトリーから羽を受け取り、こっちに視線を向ける。


 「効率がいいとは言い難いですが……魔力が残っているのなら、この魔力に契約石は反応するはずです。ただ、反応するにしても距離の問題があります。ネパール国内、最悪ネパール国外を探し回り魔力が反応する場所までしらみ潰しで探すしかありません」

 「その距離ってどのくらい」

 「以前貴方にもお話した通り、契約石からのエネルギー供給ができる距離と考えていいでしょう。日本国内でいえば、東京から山口くらいまでの距離で考えていいと思います。しかしこの羽の魔力はそう強くはない、感知範囲に大きな誤差が出る可能性はあります」


 まじか。しらみつぶしか。

 でもジェダイトに乗って上空から探せば一発だよな。そう思ったけど、パイモンがいうには高度も関係するらしいから、上空から探すと探知できる範囲が狭くなるんだそうだ。それ結構難しいぞ。


 「ネパール国内で目星をつけた場所に着陸して探しましょう。それで見つからなければ、ネパール周辺国……インド、ブータン、中国、バングラディシュも視野に入れましょう」


 なんだかかなり壮大になってきたぞ。


 今までは契約者側が事件を起こしていてくれたから見つけやすかった。脱走って言えばトーマスとかも同じような感じだったけど、アメリカに逃げるって最終目的を予測できてたから探し出せたけど、今回のケースは逃げ出した動機とか最終目的地が全く見当がつかないから探し出すのにかなり苦労しそうだ。


 パルバティが消えてもう二週間以上は経ってるみたいだし、下手したら国内にもいないかもしれない。


 とりあえず着地点に関してはパイモンたちが調べてくれるみたいだし、今日はこれでお開きだ。


 あくびをした俺にセーレがベッドで眠っていいよと言われ、時刻も25時をとうに過ぎていたため、その言葉を有難く受け取り泊まることにする。光太郎はシトリーに連れられて二人で部屋に入っていってしまった。


 「あの二人、大丈夫か二人っきりで」

 「光太郎が襲われないといいですけどね。初体験が悪魔は流石に私も同情します」


 いやパイモンそっち!?ていうかお前ってそんな下ネタ言うの!?

 シトリーは一緒に寝る気満々だったし、大丈夫だよな……光太郎、明日大人の階段上ったとか言ってくるなよ

……


 なんだかそわそわしてしまってこっちが寝れなくなりそうだよ~




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