第79話 話せない神様1
『えー速報です。イルミナティにより殺害予告が出ていたシャビエル・アグィレサローベ氏がサンティアゴ・デ・コンポステーラ市街地の大聖堂で遺体で発見されました。殺害予告からわずか一日の犯行。ローマ法王を筆頭に悲しみの声が届き、現在各地でイースターが開かれているスペインはイベントの自粛を要請。犯人がまだ市街地にいるとみて捜査に当たっています。そして殺害の予告からまだ時間が経っていないにもかかわらず、イルミナティからの予言がまた行われるというニュースも出ており、世界各国が揺れています』
朝、リビングに入って飛び込んできたニュース。そうか、あのおっさんの遺体はもう発見されたのか。スペイン在住にリポーターが大聖堂の内部に入れないことと、内部がどういった状況なのかを淡々と説明している。俺達にたどり着くことはないんだろうけど、各国の現地メディアも一斉に報道しているようだ。
『大聖堂内部は損傷がひどく、祭壇や壁画、シャンデリアなどすべてが破壊されていたようです。そしてシャビエルさんの遺体は祭壇にある十字架に逆さで吊るされていたとの報告がされています。あまりにも凄惨な事件に現地の住人からは戸惑いと混乱の声が聞かれ、キリスト教の三大巡礼地の一つである大聖堂と司教への殺害はキリスト教徒たちの心に深い悲しみと怒りを灯しているようです』
第79話 話せない神様1
速報として扱われているニュースをみんなが見ている。イルミナティの予言が今のところ百発百中で当たっていることでメディアの関心も高かったようだ。たしかにガアプって悪魔が大聖堂の外はすごい人だと言っていた。報道陣や警察であふれかえっていたのかもしれない。
あのおっさん、十字架に張り付けられてたって言っていた……あの戦いで誰が救われたのか俺には分からない。バティンだけが笑っているように思えて腹の底にふつふつと怒りがたまっていく気がする。
「君たちが無事でよかったよ。ご飯どうする?食べて帰る?」
俺が起きてきたことに気づいたセーレが朝食を準備するかどうか伺ってくる。作ってもらえるのは有難いけれど、なんだか無性に母さんの飯が食いたくて首を横に振った。家にすぐに帰ると言った俺にセーレは止めずに、笑って頷いた。
澪はまだヴアルと眠っているらしい。起こして帰るべきか少し悩むけれど、パイモンがそのままにしておいてやれと言ったので言われたとおりにする。昨日のあの事件が起こった後だ。澪もまだゆっくりしたいだろう。澪のお母さんもお父さんも仕事で午前中は基本家にいない。帰っても一人だろうし、ヴアルと一緒にいる方が澪も気分が安らぐと思う。
皆に送り出されて一人帰路につく。今の時刻は朝の七時四十分で、少しだけ肌寒い。日曜日の今日はランニングする人、犬の散歩をする人、仕事をしている人で様々だ。ストラスはどうしているんだろう。あいつは最後までずっと泣きそうになっていた。早く帰って安心させてあげたい。
朝早くに家に帰った俺に悪魔を倒しに行くとしか告げていなかった母さんはいつも通りに迎えてくれた。流石に帰る時間を明言していなかったせいか俺の朝食は準備されていなかったけれど、すぐに用意をしてくれた。
直哉はまだ起きておらず、俺が帰ってきたことでストラスは寝ぐせで普段の1.5倍になるほど爆発している毛で飛んできた。
『た、拓也!あなた、貴方……ッ!!』
母さんがいる手前、聖地つぶしに関して話をできないことがわかっているのか、ストラスはつっかえながら顔をペタペタと触ってくる。まだ片足だけの生活に慣れないのか、体勢を崩し転がりながらも起き上がろうとするストラスを抱えて膝に乗せる。
「……ただいま」
『拓也……』
目が潤んでいるストラスは隠すようにズボンに顔をこすりつけて涙をぬぐう。これ鼻水とかついでにふいてないよな?
いつもと違うストラスの様子に首をかしげながらも、俺が大して怪我をしていないのを確認してキッチンに向かっていった。ストラスの毛を整えながら母さんに聞こえない小さな声で話しかける。
「色々あったんだ。辛いことばっかり……」
『話を聞きましょう。いくらでも。直哉は大輝の家に泊まりに行っているそうなので、今日の夕方には戻ってくると思います。拓也、私からも貴方に言っておきたいことがあります。そのことについて後で話しましょう』
ストラスの言っておきたいことってなんだろう。詳しく話を聞きたいけれど、勢いよく室内に響いた腹の音にストラスは声を上げて笑い、俺も小さく笑った。数時間前まで殺し合いしていたのに、少しだけでも笑えてしまった自分に驚く。
母さんが俺とストラスの分を持ってきて、手を付ける。いつもと同じ温かいそれに、心がポカポカして、同時にリヒトにはこういう空間がなかったのだろうってことを想像して気持ちが沈む。あの子は独りぼっちだって言っていた。朝食を食べ終わり、朝からお代わりをして目玉焼きを起用につついて食べているストラスに問いかける。
「リヒトって知ってるか?」
朝食を食べることを止めたストラスの目が丸くなる。その反応は知ってるんだな。返事をせず急いで朝食を食べ終わり、自室に行こうとストラスは急かしてくる。シンクに食器を片付けてストラスに袖を引っ張られながら自室にたどり着きベッドに腰掛けた瞬間、安堵の息が漏れた。
ストラスはあれだけ朝食をとったくせに今度はポテトチップスを器用に開けて貪りだす。こいつ大丈夫かよ本当に……
『拓也、リヒトの件ですが。存じております。彼はインドでソロモンの悪魔であるバルバトスとウィルフォーレと言う悪魔と契約していました。貴方が地獄に連れていかれている間に悪魔を討伐してきました。貴方にも以前話をした通り、貴方がいない間は私たちは直哉と契約していました。その際に直哉が討伐した悪魔がその二匹でした』
「契約内容は?詳しく聞いてない」
『彼はインドの貧民街出身です。姉が白血病でその治療費を稼ぐために悪魔を利用し窃盗を繰り返していた。その悪魔を取り上げられ、私たちのことを恨んでやる ― と、言っていました。彼がいたのですか』
「エクソシスト協会に入っていたよ。家族がみんな死んでしまったって言っていた。死んだよリヒト……俺達が殺してしまった」
ストラスの目が悲しそうに伏せられる。ストラス達はどんな気持ちであの子と向き合ったんだろう。俺は逃げてしまった、どうすることもできずに。
「天使に言われたんだ。この世界に矛盾を感じないかって。世界平和とか言っておきながらリヒトのような環境の子供はたくさんいて、その世界は変わることがないって。確かにそう思う、変えられないんだろうな。憎いよ、リヒトを幸せにできない世界が」
『私は、彼を見たときに貴方と直哉に彼の姿を重ねた。大切な家族を守るために自分の手を汚して、そこに私欲は全くなく、純粋すぎて、折れることのない彼は私たちとどこまでいっても折り合いをつけられなかった。その彼の最期が、こんなことになってしまったのは残念でなりません』
「澪がヴアルの力に目覚めてたんだ」
ストラスの目が丸くなる。やっぱり、ストラスも知らなかったんだ。澪が悪魔の力に目覚めたこと、そしてキメジェスからのアスモデウスに対しての警告、全てをストラスに話した。
『澪の件は正直そろそろだろうとは思ってはいました。契約期間が長かったので……しかし恋愛成就の能力ではなく爆破の能力も出たのですね。その件に関してはヴアルが対応するでしょう。私も注意深く観察しておきます。アスモデウスの件はパイモン報告しましたか?』
「いや……なんか疲れちまって」
『私から報告しておきましょう。彼はサラの件にも一枚かんでいたようですし、私達よりもアスモデウスに関しては情報を持っている。しかし澪自身の手でアスモデウスを殺せ、とは……どういう意味でしょう』
「キメジェスのあの感じ、俺を嵌めようとしているようには見えなかった。二人が心中する前に手を打てって、あの女を成仏させてやれって……」
『ニュージーランドで澪がバティンにさらわれた際に、彼女はバティンに何かをされたのだとパイモンたちと予想していました。しかし澪本人が頑なに口を割らない。ヴアルに任せて探らせていますが、情報操作や記憶操作をされているわけでもなさそうでした。しかしその件に関しては間違いなくバティンが手を出している。澪となにか誓約をかわさせたのかもしれません』
あの野郎、何でもかんでも邪魔なことしやがって……
でもやっぱり、ストラス達は気づいてくれていたんだ。ヴアルが探ってくれてるって言っていた。今は事が進展するのを待つしかないのかもしれない。
ベッドに横になると、ストラスが机から俺の横に飛び移ってきた。そう言えばストラスからも話があるって言っていたな。完全に忘れていた。
「ストラス、話あるって言ってなかった?」
『はい。まだ私の憶測の段階なので、真に受けないでくださいね。直哉の件です。時期的に直哉にもラウムの能力が適用されてもおかしくないと思っています』
“ラウム” その名前を聞いて、血の気が引く。あのクソみてえな悪魔のことか。あいつの能力に直哉が目覚めたら、それを考えただけで頭が痛くなる。しかしストラスの口調ではまだ目覚めているわけではなさそうだった。
『直哉は普段通り生活しているみたいなので放置していますが、今日大輝の家に泊まりに行っていると言いましたね。恐らくあれは嘘です』
嘘って……
『直哉の外出頻度が最近目に見えて上がっている。しかし夕方にはきちんと戻ってきていたので、気にはしていませんでしたが、一度気になって後をつけてみたのです。大輝の家の方向ではありませんでした』
「じゃ、じゃあどこに」
『雑居ビルに入っていきました。別の友人の家かと思いましたが、ビルは七階建てで、そのほとんどにテナントが入っていました。とても小学生の直哉の友人がいるとは思えない場所でした。しばらく張り込みをしていたのですが、直哉は一人でビルから出ていき、その後自宅に帰っていました。その後何度かビルを張り込んでみましたが、直哉が数回ビルに行き来しています。しかし入るのも出るのも一人なので誰と会っているかはわかりません。店の店員だろう人間の出入りもあったので、相手は特定できませんでした』
何だって直哉はそんなところに……でも、自分のことにいっぱいいっぱいで直哉がそんなことをしているなんて知らなかった。心配するからストラスは母さんと父さんにもこのことは黙っているようで、直哉にもむやみに問いただしたりはしていないようだ。
「俺が聞こうか」
『いえ、私たちに嘘までついているのです。簡単に口は割らないでしょうね。やるならビルの前で待ち伏せして相手に殴り込みに行くしかない。そして、まだその時期ではないと思います』
その時期じゃないって、じゃあどんな時期だよ!いつ行けばいいんだよ!
まだ確信がないからかストラスは慎重だ。でもたしかに直哉はラウムの一件で悪魔と契約することには懲りたはずだ。流石に悪魔に関することなら相談してくるだろう。じゃあまさか悪い友達とつるみだしたのか!?
『対悪魔を考慮して私は動きます。ただ不良にそそのかされているとしたら私が出るべき盤面ではないので、拓也はそっちの面のフォローをお願いします』
「おうわかった。直哉に聞き込み調査するわ」
俺の返事にストラスは満足そうにうなずく。
『今日はゆっくり休みなさい。流石にこんなことの後にすぐに悪魔討伐の話は出ないでしょう』
「当たり前だよ。こっちはもう学年末目の前だぞ。流石に今日のんびりしたら勉強するわ。お前ら家庭教師な」
『任せなさい。学年一位目指しましょう』
「それは光太郎がいるから無理」
ふん!と鼻息荒く捲し立てたストラスに笑みがこぼれる。胸のもやもやは消えないけれど、少しだけ心が軽くなった。マンションで少し眠ったけれど、少しだけ眠ろうと目を閉じる。起きたときにはこの胸の痛みが少しでもマシになっていればいいなと願いながら。
***
「パイモンどうしよう!俺今回のテスト超できた!!お前らのおかげだよ!おれ絶対今回は順位上位四割には入った!!」
「おめでとうございます。そんなことより一つ気になることを見つけたのです。報告しても構いませんか?」
聖地つぶしを終えて、それぞれが英気を養うという名目で与えられた二週間前後の自由時間。学校は終業式が近づき、俺達は学期末のテストに追われていた。悪魔の家庭教師たちのおかげでかなりの点数を叩き出して母さんを満足させることができたけど、その見返りとしか思えないタイミングだった。
というか、反応薄くない?そんなことよりっていった……
テストを手に持って固まる俺にセーレが苦笑いしている。相変わらずパイモン冷たい。
パイモンが見せてくれたパソコンの画面には幼い少女の写真が写っていた。年齢的に言えばヴアルと近いか、それ以下くらいの女の子。説明文はすべて英語で全く解読できない。
「この子が、悪魔と契約しているのか?」
「ではないかと、まだ確定ではありません。この娘が失踪したそうです」
ええ、こんな小さな子が?悪魔に誘拐されたって言いたいんだろうか?確かに誘拐事件は大変だろうけど、そんなの世界中でおこっている。なんでパイモンはこの子の失踪に悪魔が関与していると思ったんだろう。
「この記事には彼女が失踪した日、あまりにも美しい歌が周囲に響いたそうです。その歌に聞きほれている間に彼女はいなくなっていたと。悪魔フェネクスと契約をしているのではないかと考えています」
フェネクスってまさかフェニックスのこと!?ゲームとか漫画とかでよく出てくるあれか!確かソロモン七十二柱にいたなフェニックスって!
少しドキドキしてきた。フェニックスに会えるって、なんだか悪魔に会えるのでドキドキするの初めてなんだけど。でもなんでこの女の子と契約していたんだろう。この子はいったい何者なんだろう。ネットにアップされている文章はすべて英語で全く理解できない。
「このサイトはイギリスの情報誌の内容です。彼女はネパールに住んでいる十二歳の少女です。現地では生きた少女神“クマリ”と呼ばれているようです。クマリはネパール独特の生きた神らしく、基本的に生まれて一度も怪我や出血をしたことのない少女が選ばれる。つまり最長でも初潮がくれば強制解任です。初潮が来たり、怪我や出血が起こるまで神としてあがめられています。この少女の失踪がネパール国内で話題になっており、国を挙げての捜索が開始されているといった内容です。ただ、どこからともなく響くあまりにも美しい謎の歌に魅了された隙の犯行……誰がどう考えてもできすぎている。元々オカルトな話題を記事にしたり、風刺画を掲載したりと少々過激な情報誌です。ソロモンの悪魔と契約しているのではと揶揄したことにネパール政府が大激怒して大使を呼び出して猛抗議をしたという内容です。少女神がよりによって悪魔と契約し国を捨てて失踪など、宗教心の高いネパールでは信じたくない話題でしょうしね」
生きた、神……写真の少女は無表情で目の前でひざまづいている信者らしき人に視線すら向けておらず、その視線は宙をさまよっているように感じた。
「クマリっていうの、調べてみてもいい?」
「どうぞ。民主主義の日本からしたら、少々同情する内容が書かれていますけどね……」
同情する内容って一体何……トーマスやアリスよりもひどい境遇の子なんだろうか。少しだけ気になって調べてみて、その内容に絶句した。なんだこれ……これが向こうでは当たり前なのかもしれないが、日本だったらまず許されないことだろう。こんなのほぼ軟禁状態じゃないか。
「これって、この子が志願したのかな」
「記事には三歳で選出されたと書いています。自分の意志で決定できる年齢ではありません。彼女の家はまあ比較的裕福な家庭みたいですし、大方娘を使って名声を手に入れようという算段でもあったのでしょう。今更国に戻ったところで、どうせクマリは解任でしょうね。本人も相当な覚悟があっての失踪でしょう。でなければ悪魔を使ってまで逃げ出したいとは思えない」
この子を、探し出さないといけないのか。
写真の少女は化粧を施され、無表情でカメラを見つめている。家族も全て捨てて逃げ出そうとした彼女の心境は複雑だろう。でもわずか10歳で国も家族も全て捨てて逃げる道を選んだこの少女の決意は誰よりも固いのではないかと、俺は思う。
***
?side ―
貴方と、一言でいいから話したいの。
とても綺麗な子だった。こっちを見て微笑んで手を振ってくれた。あの瞬間から、私はきっとあなたに恋をしていたのだと思う。見たことのない白い肌に、太陽の光を浴びてキラキラ輝く金の髪。目は宝石を埋め込んだかのような鮮やかなブルーにしなやかに伸びた手足。そんな彼をもう二度と見つけることはできないんだろう。
多分旅行者だ。どこの国から来たのかは分からない。私はこの場所から離れてはいけないから。
クマリと言う存在が人権を侵害しているという記事をネットで見た。こういった情報を仕入れることになるから基本的に私が機械に触れることは許されていない。お世話係がいない隙に調べたのだ。私には人権がないとネットには書かれていた。
物心ついた時から、父さんと母さんは私にクマリになるように何度も言っていた。その存在が分からなかった私は両親の期待に応えるために言われた通りの道を歩き、非常に幸運なことにクマリに選ばれた。でも、これが私の人生だったんだろうか……足元にひざまづいて祈りを捧げる人たち。国の偉い人だとお世話係の人は言っていた。私の一挙手一投足でその後の運気が左右されるらしい。私が目をかけば、それは「差し迫った死」と言う解釈になり、体を震わせれば、「近い将来投獄される」という解釈になる。食事をとれば、「経済的な損失を被る」という解釈だ。彼らが私に期待しているのは “沈黙” それは「願いが叶う」という意味だ。
だから私は言葉を発しない。皆がそれを望まないから。どんなにお腹が空いても誰もいなくなるまで食事はとらない。常に私には監視するように国民の目が降り注がれるから。
でもね、私……そんな力全くないの。私にそんな力、あるわけないじゃない。
“(どうして、そんなところにいるの?)”
拝観料を支払えば、格子越しに私の姿を見ることができるため、観光客や一般人の拝観が後を絶たない。彼は、その中にいた。父親は大きなカメラをもって私を撮影しており、その父親の隣に彼はいた。他の人の声なんて全く耳には入らなくて、彼の声だけなぜか私の心に突き刺さった。
「(彼と話したい。一言だけでいいの。私、もうクマリなんてしない。皆、皆大っ嫌い)」
クマリ(Kumari、Kumari Devi)…………ネパールに住む生きた女神である。サンスクリット語で「少女」「処女」を意味する。密教女神ヴァジラ・デーヴィー、ヒンドゥー教の女神ドゥルガーが宿り、ネパール王国の守護神である女神タレージュやアルナプルナの生まれ変わりとされており、国内から選ばれた満月生まれの仏教徒の少女が初潮を迎えるまでクマリとして役割を果たす。
クマリは初潮前の幼い少女から選ばれ、その中から多くの条件が課される。
以下は32もある条件の一部である。
健康である
全ての歯が欠けていない
菩提樹のような身体
子牛のような睫毛
獅子のような胸
鹿のような脚
アヒルのように柔らかく透き通った声
黒い髪と目
また、身体的には怪我の跡や不自由な箇所がないことも条件であり、動物の頭部が並べられた暗い部屋に閉じ込められて耐えることも必要とされる。
国や国王との占星術における相性が良く、これら全ての条件をクリアした少女がクマリとなる。
クマリに選ばれた以上は、特別に任命された使用人の世話を受けながら宮殿に住むこととなる。そして、特別な日以外の外出は許されない。クマリが外出できるのは年にたった13回のみである。また、地に足を付けてはいけないという決まりもあるために、移動の際は担いで運ばれる。
またクマリは予言者としてもあがめられており、クマリの行動とその意味は以下のようなものである。
わめいたり大声で笑ったりする:深刻な病や死
泣いたり目をこすったりする:差し迫った死
身震いをする:投獄
手を叩く:国王の恐れ
供物をつまむ:財務損失
もし、クマリが静かな状態であれば、依頼者に安心をもたらす。
退任の契機となるのは初潮や乳歯の生え替わりなどの出血であることが多く、クマリとしての神聖さや霊力を失ったと判断される。新任のクマリを迎えて退位の儀式を終えた後、クマリだった少女は実家に帰ることが許され、普通の少女として生活することになる。
クマリの持っていた神秘性と関連して、「元クマリの女性は幸せになれない」あるいは「元クマリの少女と結ばれた男性は早世しやすい」といった俗説がネパールでは長い間信じられていた。
wikipediaより。
なんだか長すぎる。