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第67話 バレンタインの悲劇1

 ?side -


 「あーこんなんデマだわ。こんなんでモテたら世の中全員リア充だわ」


 何が肉食系男子が流行るだ、草食系男子が流行るだ!俺は雑誌に書かれた事を忠実に実行してきたぞ!それなのに未だに彼女ができる気配はない。面白いね、楽しいねで終わっちまう。


 大学生になって、今年こそはと思ってイメチェンまでしてるのに未だに告白すらされない。


 世間では二月十四日が近付いてるっつーのに、このままじゃまた女子からの義理チョコと姉貴とお袋からで終わりじゃねぇか!!


 雑誌を床に投げ捨てて横になる。木枯らしが吹く二月は肌だけじゃない、俺の心にも寒さをもたらす。雑誌にはバレンタインの記事が大々的に書かれており、男性用の雑誌でもこの一大イベントを特集している。


 ページが開かれたまま投げられた雑誌が拾われ、青年に影を落とす。


 「あ、なんだ来てたのー?一言アポとれよ悪魔さん」

 『失敬。スマホト言ウモノヲ持ッテイナイモノデ』


 興味深そうに雑誌を読んでいる存在に青年は頬杖をついて横になる。余りにも警戒心のないその態度は部屋の空気を和らげた。


 「バレンタインとかマジ馬鹿らしいわ。くたばれクソ」

 『タダノ行事デハアリマセンカ。元々ハ死人カラ取ッテイル行事デハ?』

 「ああ、らしいね。昔の偉い人の命日?とかなんだとか。チョコと結び付けんなクソが。お陰でこっちは毎年情けない思いしかしてねーわ」

 『ヨーロッパデハ男性カラ女性ニ物ヲ送ル日デスヨ』

 「ここは日本でーす。ヨーロッパの常識持ち込まんでくださーい」


 聞く耳持たない青年に悪魔と呼ばれた存在は小さくため息をつく。


 テレビでは連日イルミナティの話、そして予言通りとなったタンザニアの大量虐殺が話題になっていた。なんでもアルビノが腹いせに村人を虐殺し、内輪もめして組織自体が壊滅したとかなんとか。なんにせよ日本には関係のないことだ。


 「これって結局予言とか言いながらお前らみたいな悪魔が現地行ってかき乱してんじゃね?くそーしかしこのバティンて奴イケメンだな」

 『ドウデショウ。私ハイルミナティニ所属シテイナイノデ分カリカネマスガ、ソノ可能性ハ高イデショウネ。日本デ起コッタ地震ハ悪魔ノ仕業デショウ』

 「うーわ。こえー。ここ狙われたら俺一発だったわ。あ、でもお前いるし生き残れるか」

 『……アガレス殿ニ敵ウトハ思エマセンガ』


 軽口をたたきながら青年はジッとテレビを見つめている。数か月前まではありえなかった世界が現実のものになろうとしている。それはこの青年にも当てはまるわけだが。


 「お前の能力って奴?何となくわかってきたんだわ」

 『遂ニ目覚メラレタノデスネ』

 「まあね。色んなことに使えそーな力だな。主に悪いこと」

 『ソレハソレハ。デハ今年ハ楽シミデスネ』


 ニヤリと笑った悪魔に青年もニヤリと笑い返す。最後の審判で盛り上がるテレビを消して青年は準備を始める。大学に向かうためだ。


 「まあ、逃げ道がないってこともおかげさまで分かっちまったけどな」

 『……ソレハ、イツニナリマス?』

 「色んな手段で見てみたけど無理だな。お前も逃げ切れない。奴らは明後日くる」


 未来を予知する発言を残して青年は家を出た。ガチャリと鍵のかかる音がして、その場に悪魔だけが残された。


 『フム、居心地ガ大層良カッタノニ終イデスカ』


 残念そうな言葉はだれも拾い上げることなく、風の音と主に消えて行った。



 第67話 バレンタインの悲劇1



 拓也side -


 「拓也おっはよーさん!」


 学校で上野におもいきり鞄であいさつされヒリヒリする肩をさすりながら睨みつけても本人は何食わぬ顔だ。こいつがこんなに機嫌がいい理由なんて一つしかない。三日後がバレンタインデーだからだ。鼻歌交じりで荷物を机に詰める上野に殺意が湧かないかと聞かれたら答えはNOだ。湧く、むっちゃ湧く。このクソリア充め。こっちまで惚気でまきこむんじゃねー


 「へっへ。拓也、友チョコ交換しよーな」

 「なんで俺が……やだよ当日にチョコ買うとか恥ずかしい……」

 「次の日でいいじゃん。安くなるし」

 「うーかーれーんーなー!」


 上野の頬を抓っても痛いと言うだけで嬉しそうににこにこしている。本当になんなんだこいつは。

あまりの上機嫌ぶりに若干気持ち悪くなって気持ち少し距離を取った俺にも気づかず上野は笑みを絶やさない。


 「お前浮かれすぎ。彼女いない俺には殺意しか湧かねーわ」

 「年に一度の行事なんだよ。浮かれさせてくれや」


 でも上野が元気そうなのはよかった。あの夢のせいで最近は少し元気なかったように感じるから。桜井の方は結局バレンタインまでに新しい彼女はできなかったみたいで若干荒れてるけど。


 「拓也がチョコもらえなくても俺があげるから気にすんなよ」

 「……謹んで辞退します」

 「だーいじょうぶ!池上君には私があげるから~」


 進藤さんっ!?いつのまに!?

 このノリのお陰で最近クラスでは俺と進藤さんがまるでカップルのように扱われている。冗談じゃない、そんなの御免だ。なんだってこんな性悪女とカップルなんて言われなきゃいけないんだ。こっちにだって選ぶ権利があるわ。


 「そっかー。進藤さんがあげるなら問題ねーな」

 「うん、まっかせて~!すっごいのあげちゃうんだから~」

 「佐奈、池上君固まってるから」


 進藤さんと仲がいい西川さんが止めてくれて、これ以上話が拗れずに済んだけど、本当にもう勘弁してくれよ。助けを求めるように光太郎の方に視線を向ければ、向こうもこっちを見てくれてたけど、ドンマイというジェスチャーと送られた。もう誰にもこの女は止められないのか。そんな俺を救ったのはチャイムだった。進藤さんたちも席に戻っていき、やっと平穏が訪れる。


 そう言えば長野県のバレンタイングッズがどうたらって奴はどうなったのかな。何となくきな臭くて記憶に残ってたけど、全然危ない感じでもなかったし……昨日はフォカロルの事で頭が一杯で聞きそびれちまったな。今日聞いてみようかな。


 黒板をノートに写していきながら心はここにあらずだ。


 フォカロル達は協力するって言った。今はまだできないけど、時期が来たら参戦するって……あの口ぶりからはイルミナティではないはずだ。だってそれなら進藤さんだって知ってるだろうし、単独で何か事を起こそうとしている?一緒にいた奴は契約者じゃないって言ってた。じゃあ契約者はどこにいるんだ。友人らしき男が日本人だったから契約者も日本人なのか。俺の行動はそいつらに筒抜けなのか?


 「池上、池上ー」


 背中をツンツンとペンで突かれて、視線を上にあげると教師とバッチリと目が合った。


 「ボーっとしてるとこ悪いが池上、お前当ててるからな。問い4の答えを言いなさい」

 「あ、え、あ、はいっ!」

 「③だぞ。多分」


 小さな声で上野が正解を教えてくれてなんとか事なきを得た。あっぶねー。そうか、今日は俺が当たる番だったよな。あーもう、集中しろ馬鹿!今は学校だ、どうせ今日マンション行くんだから考えるのはそこですればいいだろ!


 ***


 「やっぱり、悪魔の可能性あり?」


 学校帰り光太郎は塾で行けないと言うことだったので、ついでに宿題も済ませてしまおうと言う話になり澪も一緒にマンションに向かえば開口一番セーレから告げられた。ローカルとネットでしかニュースになっておらず澪は知らなかったみたいだ。

 パイモンがいないマンションでのんびりとセーレとヴアル、ヴォラク、アスモデウスが寛いでいる。


 「多分ってだけだよ。でもバレンタインって恋愛関連の行事だろ?もうほかに恋愛に関して強力な力を持つ悪魔がいないから本当に悪魔が起こしてるのかどうかは分からないけど……流石に気にはなるからね」


 まあ、そりゃそうだよな。一体何のブームでバレンタイン関連のグッズがどの店でも売り切れでなくなっちまうって言うんだ。セーレ曰く、チョコレートも百貨店から全部売れて無くなってしまったらしい。


 「悪魔の特定ってできてないんだよな」

 「うん。とりあえずパイモン達が今日現地入りして調べてみるって。マンションに戻ったら行くみたい。拓也は今日はのんびりしてていいよ」


 そりゃ、有難いけど……


 いつもこの時間についているテレビが今日はついていない。その理由は何となくわかっている、皆俺に気を遣っている。リモコンを手に取ってテレビを付ければ、ニュースが流れキャスターや解説の人が色々話している。テロップには予想通りの文字だ。


 「やっぱ騒ぎになってんだよな。タンザニアの奴」


 テロップには『またしても的中。タンザニアで大量殺人事件。犯行グループ、被害者含め二百人超死亡』と書かれている。この間までいたタンザニア、誰一人救えなかった。


 映像ではマティアスやバティンの姿も映され、宗教戦争だ等とも言われている。あながち間違ってないかもね。そんな呑気に議論してる場合でもないと思うけど。黙って映像を見ている俺の隣に澪も座って一緒にテレビを鑑賞する。


 「早くこんなニュース無くなるといいね」

 「うん」


 絶対に解決しない事件。わからないまま他のニュースに流されて風化していくしかない。今回の件で身に染みた。パイモンが言い続けた他人のままでいろっていう意味。感情移入するなってこと。何も考えずに仕方ないって処理で着たらきっとここまで苦しまず、面倒な事にもならなかった。もしかしたらシェリーは死ななかったかもしれない。今までの契約者も……


 パイモンが帰ってきて、リモコンを取ってチャンネルを変える。先ほどとは打って変わってバラエティの再放送が流れ、テレビは笑い声に包まれている。


 「わざわざ落ち込みに来たのですか?」


 辛辣な一言に澪が目を丸くしたけど、でも分かってる。パイモンは元気を出せとかそう言った直接的な励ましはしない。口は悪いけど、チャンネルを変えて話題を逸らしてくれる。触れたくない物に触れない様に。


 「いや、たまたまつけただけ」

 「そうですか。セーレ、俺はすぐに行ける。準備ができたら呼んでくれ」

 「俺はいつでもいいよ。拓也の勉強はアスモデウスが見てくれたらいいからね」

 「え?俺?」

 「ここにいる以上、避けては通れない道だ。なら行くか」


 帰ってきてすぐに長野に行くみたいだ。俺に来いって言わない辺り本当に今日は必要ないみたいだ。セーレもソファから立ち上がってベランダに向かって行く。行ってらっしゃいとだけ告げて二人がいなくなったのを確認して今度はアスモデウスを先生に交えて勉強に戻る。今日中にここまでは終わらせたい。


 「そう言えば、拓也は修学旅行だれか連れてくの?」

 「へ?」


 ある程度片がついて休憩がてらシャープペンシルを置いた俺に澪が話しかけてきた。澪の視線は教科書に向けられているが、話しながらでも問題ない程度の場所らしい。

 誰か連れて行くとは、悪魔の話だろうか。


 「特に何も……澪はヴアルを連れてくのか?」

 「私じゃなくてアスモデウスだけどね。留守番なんだってー。澪ってばアスモデウスばっかり贔屓するのよ」

 「そんなんじゃないよ。拗ねないでヴアルちゃん」


 教科書を閉じて澪はふくれているヴアルを後ろから抱きしめる。アスモデウスはそんなヴアルに苦笑い。ニュージーランドで悪魔に襲われる可能性があるからってことか?確かにイルミナティとかいつ裏切っても可笑しくなさそうだけど。


 「なんでアスモデウス……」

 「契約石のエネルギーが溜まってないって。一週間向こうにいたらエネルギーが届かないだろうって」

 「あ、その問題があったな。パイモン達大丈夫なのかな」

 「拓也って確かセーレがついてくって俺聞いたけど」


 あ、そうなの?勝手に決まってた?ヴォラクに言われて初めて知った。邪魔になることはしないけど、陰ながら見守るって感じらしい。シトリーもニュージーランドに行くみたいだ。


 「戦力分散だってさ。パイモンとヴアルでイルミナティの動向調べて牽制もしとくってさ。あいつらが拓也達に何かしてきたらセーレとシトリーとアスモデウスで守れって」

 「ストラスはやっぱ無理、かな?」

 「行けんじゃない?でも直哉が気になるから残るとか言ってたけど」


 確かに。直哉が危険な目に遭うくらいなら残ってほしい。それにしてもそんな話が……


 「なにも、ないといいけど……」


 ポツリとヴアルを抱きしめたまま澪が漏らす。

 そんな澪を励ますようにヴアルが澪を抱きしめ返した。


 「大丈夫よー私達がきっちり日本で何か起きたら対処するからね。それより勉強終わったなら澪、はじめよ!」

 「ありがとうヴアルちゃん。うん、そうだね。つくっちゃおっか!」


 そう言えば今日勉強が終わったらチョコレート作るって話してたな。

 二人は嬉しそうに立ち上がり、澪は教科書を鞄にしまう。


 「拓也、あたしヴアルちゃんとチョコ作るから先に帰ってていいよ」

 「待っとく。ヴォラクとアスモデウスとゲームでもしとくよ」

 「マジかよ拓也!俺やりたいのあんだよ!早くやろ!」

 「いや、俺は見てるだけでいいよ。本当に下手だから」

 「なんだよアスモデウス来いって!」

 「いや、本当に俺下手なんだ。知ってるだろ!ヴォラクは俺が失敗すると烈火のごとく怒るんだ!本当に嫌なんだよ!!」


 先ほどまでとは打って変わってテンションのあがったヴォラクはアスモデウスの腕を引っ張ってテレビの前に連れて行こうとする。ていうかそんな泣きたくなるくらい嫌なのかよ……


 「三時間くらいかかるから二十二時過ぎくらいになっちゃうよ」

 「なおさら待つわ。あぶねーだろ。そんな時間に帰るの。お礼はチョコでいいからな」

 「……ありがと。じゃあ拓也には一番大きいのあげるね!」


 俺マジ上手い口実見つけた――!!ちゃっかり一番でかいのゲットできるし!やべえ!自分の頭の回転を褒めたい!!!


 二人はキッチンに消えていき、俺はヴォラクと嫌そうにコントローラーを持つアスモデウスと一緒にゲーム機の前に移動する。なんだか子供二人のお守りをするパパとママみたいだ。あ、なんかこれいいな。マンションにヴアルとヴォラクだけって言うシチュエーション中々ないもんな。アスモデウスもガキみてーなもんだよな、うん。


 「あ、まだいた。よかったー飯食いいかね?」

 「おい、全員奢る金なんかねえよ」


 終わった俺の天下……


 「光太郎、今日来ないかと思ってたわ。シトリーとかバイトじゃねえの?」


 光太郎とシトリーの帰宅にヴォラクは更に目を輝かせた。そうか、こいつゲームの相手が更にできて嬉しいんだな。俺もだけど、光太郎とシトリーもゲームは上手いからいつも他の弱いマンションのメンツとやって一人勝ちのヴォラクにはいい刺激のようだ。


 「みんなで対戦しようよ!ピザ頼もうピザー!!」

 「はー?食い行かねえのかよ。俺の腹はラーメンを求めてんだよ」

 「まあまあシトリー、俺はピザでもいいし。ホームパーティみたいで楽しいじゃん」


 光太郎は早速ピザのメニューを調べて、何を選ぶか聞いてくる。一旦ゲームを中止して、俺とヴォラクとアスモデウスもそれを覗き込んだ。アスモデウスに至ってはゲームから解放されたことに本気で安堵しており、騒いでる声が聞こえたのか台所から澪とヴアルも顔を出してきた。


 「あ、光太郎とシトリー帰ってたのね」

 「シトリーさん。そう言えば今からチョコ作るんです」


 「チョコ!!」


 澪の言葉を皮切りにシトリーが急に大声をあげたかと思った瞬間、先ほどまで男の姿だったシトリーが女性に変わっていた。


 「やーん!今日だったのね!私ったらいいタイミングに戻ってきちゃったー!私も混ぜて!ダーリンの分も作ってあげる!」


 え、シトリー(男)を押し込めて出てきた……

 シトリー(女)は光太郎に投げキスをして澪たちと一緒に台所に入っていった。


 「あ!四人で協力プレイできないじゃん!戻ってこい馬鹿!」

 「あの状態じゃ無理だな。今日は女のまま戻らないと思うぜ。それよりピザ何する?シトリーが奢ってくれんだろ」

 「……お前慣れてんな」

 「結局、俺はやらないといけないの……?」


 ***


 部屋に染み込んだピザ臭にセーレが眉を寄せる。横にいるパイモンは部屋の掃除に関しては意外にも無頓着だから余っているピザを手に取って頬張っていた。

 セーレとパイモンが帰ってきたのは二十二時過ぎだった。


 「セーレも食う?まだあるぜ」


 光太郎が恐る恐るピザを渡し、セーレはそれを無言で受け取った。綺麗好きなセーレは多分部屋を無断で汚されたと思ってるのかもしれない。確かにセーレが出て行ってから数時間、部屋は少しの間にかなり散らかった。


 「今日掃除機かけたばっかりなのに……」

 「俺は気にならないが」

 「パイモンは部屋が綺麗だろうが汚れてようが気にしないじゃないか……」


 二人が戻ってきたってことは悪魔を見つけて帰ってきたってことなんだろうか。


 「悪魔、見つかったのか?」

 「おそらく、ですね。契約者らしき男は発見しました。長野県の上田市に住んでいる大学生のようです」


 よく契約者を見つけてきたな。情報だってほとんどなかったのに。


 「まだ確定ではありませんが、契約悪魔は相当に範囲の広い魔術を持っているようですね。すれ違う女性たちの多くに悪魔の魔力がかかっていました。それを追って行った先が先ほどの大学生の男でした。恐らく契約者はこの男かと。契約者が中々一人にならなかったので接触はまだできていません。今日も友人の家から出てくる気配がなかったため戻ってきました」


 今回もかなりの悪魔なのか?でも今の所不可解な点はバレンタイングッズが無くなってるってだけだ。聞いただけじゃかなり平和な悪魔と思うんだけど。パイモン曰く悪魔の特定はできないんだそうだ。でも魔術がかかってるって言うのは分かってるのに……


 「そこまでいってわかんないのか?」

 「魔術の痕跡はありますが、どの悪魔かの特定まではできませんでした。恋愛に関する悪魔自体がもう残っていないと言うのもありますが……」


 なるほど。恋愛に関して好き勝手出来るって悪魔がいなくなっちまったって訳か。それでどの悪魔かって言うのが特定できない、と。でも確かになんでバレンタイングッズなんかに影響を与えるんだろうか。


 「明日契約者の元に向かったほうがいいでしょうね。もしかしたら女性に限定する力なのかもしれない。澪とヴアルは置いていきましょう」

 「シトリーはどうする?連れてく?」

 「やめておきましょう。女の方が暴走して男の方を押し込めてしまったら面倒だ」


 それもそうだ。現に今も飯を食いたいと言ったシトリー(男)を無理やり押し込めて自分が表に出ちまったくらいだし。

 ピザが入っていた空の箱をセーレが片づけてソファに腰掛ける。


 「まだバティンは何も言ってきてないの?」


 バティン?いや、あ、そうだ。言わなきゃいけない。パイモン達がいなかったからまだ言えてなかったんだ。


 「進藤さんから連絡があったんだ。近いうちに聖地つぶしに行くから詳細はまた連絡するって。あと、フォカロルに会ったんだ」


 パイモンとセーレ、ヴォラクもその単語に眉を寄せた。どうやって説明したらいいんだろう。でもあいつらは敵じゃなかった。


 「他の契約者がいるって言ってた。多分契約者は日本人だと思うけど……良く分からない。敵じゃないって言われた。協力が欲しかったらいつでも言ってくれ」

 「何を今更……敵じゃないって言ったらなんだってんだよ」


 一気に不機嫌になったヴォラクがゲームの電源を切って身体をこちらに向ける。中谷を殺した奴が今更敵じゃないと言っても、そんなの納得できるわけがない。


 「イルミナティに協力してるって感じでもなかったんだ。単独で、行動してるって言うか……でもだからってなんで日本にいるのかは分からないけど」

 「詳しく有難うございます。貴方の気配をすぐに察知するためにもやはり私たちの契約石は身に着けていてください」


 そうだよな。一人にならない様にしないと。

 良く考えたらかなりヤバい状況だったんだよな。フォカロル相手に俺と澪だけだったんだ。寒さからじゃない寒気に背筋が震えた。向こうに敵意があったら間違いなく殺されていた。


 「主、明日か明後日で一度契約者に接触してみましょう。貴方も近いうちに海外に行くのならば済ませていた方がいい」


 あ、そうだ。澪が言っていた奴、聞いとかなきゃ。


 「そういえば、俺の修学旅行にセーレがついてくるって聞いたんだけど」

 「ああ、そうですね。貴方に何かあった時に連絡が取れる者が必要なので」

 「俺がいない間パイモン達行動できんのか?」

 「静養していれば問題ありません。無駄に動き回ったりはしませんよ」


 そっか。まあ確かにセーレとシトリーとアスモデウスがいれば心強いよな。結局、中谷を助け出せないままだったんだな。手掛かりになるかもしれない情報を手に入れただけだった。


 「拓也、ごめんね。遅くなっちゃった」


 澪が来たことで今日はこれでおしまいだ。光太郎は未だにシトリー(女)に離してもらってない。このまま泊まっていくと言う光太郎をマンションに残し、澪と帰路につく。


 澪が嬉しそうにチョコレートを固めているから明日ラッピングすると話している。長野の奴もバレンタイン関連だった。一体何をするつもりなんだ。明日、決着がつくかもしれない。危険な奴じゃないといいけど……そこら辺は情けない話だけどパイモンにお任せだ。今は澪の話を聞き名がらチョコレートをもらった自分を想像して楽しむことくらいは許してほしい。




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