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第61話 休戦

 お互いに睨み合いが続き、嫌な緊張感が漂う。そんな中、ソファに座って優雅に紅茶を飲んでいたバティンがテーブルにカップを置いて、空いているソファに座るように促した。


 室内は非常に広く、これだけの大人数が来たにもかかわらず、中央のソファは十分に腰掛けられるスペースがある。元々パーティーで使う部屋なのかもしれない。金持ちの家の構造はよくわからんけど。


 中央のソファの奥には沢山のワインやお酒が並べられているワインセラーみたいなものもあり、その手前にあるダイニングテーブルに俺たちを案内した男とキメジェスという悪魔は腰掛ける。


 『さてと、中々ここも広いんだけど、さすがに狭くなっちゃうね。座れる人は座ってくれ』



 61 休戦



 向こう側はバティンの後ろに女性の悪魔、カウンターテーブル前の椅子に青年が腰かけ、その手前に腰を下ろしている獣にキメジェスが凭れかかっている。バティンの隣のソファには深く腰掛けているアガレスと進藤さんで全てだ。他にも悪魔はいるのだろうか、それともこれで全部?


 パイモンがまるで喧嘩でもするかのようにバティンにと向かい合った場所に座る。今の所敵意がないと判断したのか、シトリーが光太郎と澪を連れて輪の一番離れた場所に腰掛けるように促し、その二人の後ろにシトリーとヴアルが構えている。


 セーレは警戒しているのか、いつでも逃げだせるように座る気配はなくドアの近くに立っており、ヴォラクも壁に凭れ掛かっている。俺はストラスを抱えてアスモデウスとパイモンの隣に座った。


 『キメジェス、再会の挨拶はしなくていいのかい?セーレに会えたじゃないか』

 『ふん、そいつら全員殺さなきゃ目が覚めないんだよ。今は俺の出る幕じゃない。騙されてるのも気づかないなんて可哀想なセーレ』

 『キメジェス……』


 セーレが悲しそうに眉を寄せている。知り合いか……?地獄でも色々交友関係はあるみたいだし、友人だったのかもしれない。しかしさらっととんでもないことを言ってのけたあたり、油断も隙もない。


 バティンはさして気にした様子もなく、キメジェスが会話をするつもりがないのならばとでもいう様に視線をこちらに戻した。


 相手の力がどのくらいかは分からないけれど、アガレスは間違いなく強い。大規模攻撃ならお手の物って言ってたし、キメジェスもアンドラスのように動物を従えているし籠手とか鎧とかからして近接戦が得意そうだ。横の女の人は分からないけれど、腰に剣を携えているしそれなりに戦闘に特化した悪魔なんだろう。三匹の悪魔はまるでバティンを守る様につかず離れずの距離を保っている。


 『じゃあまずはこちらから話をさせてもらおうかな。もう佐奈から聞いているとは思うけれど、君と協力関係を築きたい。エクソシスト協会を潰すまでの共闘期間と思ってくれていい。どうせ君たちも僕たちを心から理解する気は毛頭ないんだろう?それに関して説得するのも面倒だしね。今の所は休戦する ― それで手を打たないか?』


 随分魅力的なお誘いだけど、結局はエクソシスト協会さえ潰せば次の標的は俺達と言うことになる。それまでに打開策を見つけなきゃいけないと言うことなのだろうか。


 バティンは決定権がさも俺にある様に真っ直ぐに目を見て言ってくるけど、こんなこと一人だけの判断で決められるわけがない。腕の中にいるストラスに視線を送ると、会話の相手はストラスに変わる。


 『随分とお互いに都合のいい……ですが、あくまでエクソシストを潰すまでの期間。その後は私たちを標的にすると言っているととっても問題はないのですね』

 『何を今更……元々僕たちは敵同士だろう。敵の敵は味方。そのくらいの認識の方がお互い楽だ。もっとも、君たちが僕たちに本当の意味で協力するのなら話は別だがね』

 『貴方はアスモデウスを封じるために澪にまで手を伸ばした。貴方の考えは信用できない』

 『はは、僕と信頼関係を築きたいのか?裏切り者とそんなもの築いてなんになるんだよ。心配しなくてもアスモデウスなんてもういらないさ。殺してまた新しく創生すればいい』


 ね。と笑みを浮かべてえげつないことを述べるバティンにアスモデウスが警戒心むき出しで睨みつける。


 でも何を言っても今の所は間違いなく向こうが有利だ。今ここで全員倒すことができれば話は別なんだろうけれど……パイモンやヴォラクはいつでも飛び出す準備はできている感じだ。でもそれは向こうも同じ……むしろバティンの能力は逃走に便利な分、全員捕まえるのは難しいかもしれない。


 膠着状態が続く中、今まで黙っていたヴォラクが会話に参戦した。


 「おい、お前たちと協力して俺たちに何のメリットがあんだよ。どうせ最後は潰しあいだろ」

 『最終的にはね。メリットはまあ三つ巴の状態から脱却できることじゃないかな?あとはそうだね……協力期間中は情報は保護するよ。それじゃダメかい?』


 どこまでも情報を小出しにしていく嫌なやり方だ。向こうもそれが分かっているんだ、こういえば絶対に俺たちが逆らえないってことを……一体どうすれば……


 「ふーん……じゃあ俺らが契約者の情報を漏らしても平気なんだ」

 「そうだね。交渉決裂ならお互いに全滅するまで戦おうか。少し面倒だが、こちらの戦力を鑑みても君たちに負けるとは思わないしね。その際はメディアでも何でも使って君たちの全てを潰す。その覚悟があるなら、今からここは戦場になるだろうね」


 悔しいけどその通りだ。全く動じないバティンにヴォラクが舌打ちをして黙る。口論の勝敗は決したようだ。それ以上反論の声がなくなり、バティンは満足そうに笑いこちらに手を差し出した。


 『交渉は成立、でいいのかな?それとも決別かい?なんにせよ時間稼ぎは通用しないってわかると思うけど』


 どうしよう。勝手に話を進められちゃって……


 ストラスがため息をつき、パイモンがこちらに視線を向けてくる。こちらに決定権を譲れとでも言うような視線に息を飲むけど、正直自分では解決できそうにない。頷いた事を確認して口を閉じた俺を見てバティンは半ば呆れるようにため息をついた。


 『あのね、こんな大事な事を他人に委ねてどうするんだよ……君、それで本当にいいの?』

 「腹の探り合いでお前とやりあわせるほど非情じゃない。俺たちが協力するとして、まずは何を望んでいるんだ?」


 そうだ、エクソシストを潰すってしても、まずは話を聞かなきゃいけない。こっちをコマのように単体でヴァチカンに殴り込みに行けなんて言われてもできるわけないし……

 パイモンの問いかけにバティンはすぐに答えてくれた。


 『そうだね。手始めと言ってはなんだけど、一か所潰してほしい場所があるんだ。前回の審判で天使共の拠点になった場所がある。そこは今でも天界とのゲートと密接にかかわっていてね、奴らの影響が強い地域がある。そこにいる天使を抹殺してほしい』

 『私たちに聖地つぶしをしろとおっしゃりたいのですね』


 聖地、つぶし?と言うか天使がそこにいるって言うのか?あまりにも見えて事ない話に着いていけなくなっているのは俺だけじゃない、澪や光太郎だってそうだ。でもそれ以外は進藤さんも含めみんな知っている様子だ。


 小声でストラスに聞いてみようと開きかけた口は先に俺たちの状況を理解したバティンが補足してくれた。


 『前回の審判の勝者は天使だった。悪魔は地獄に封印され、天使と神がこの世界を創った。君も知っているだろうけど、キリスト教はご存知かな?』

 「名前、くらいは……」

 『悪魔と天使にこれだけ関わっておいて宗教に関する知識の乏しさ……感服するよ』


 こいつは一々嫌味を挟まなければ気が済まないのだろうか。


 『キリスト教の聖地……そこは天使の影響が最も濃く出ている場所でもある。奴らが降臨するにはうってつけの場所さ。一か所目はヴァチカン市国。カトリック総本山だ、この場所はさすがに君も知っているだろう。二か所目はイスラエル・パレスチナ自治区のゴルゴダの丘、ナザレの街、ハルメギド遺跡。三か所目がスペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラ。この三か所がキリスト教の三大巡礼地と言われる場所だ。他にフランスのモンサンミッシェル。ギリシャのメテオラ。ドイツのケルン大聖堂。色々あるけど、潰すなら前者の三か所だ』

 『私達にその場に赴き、管轄している天使たちを殺せと言っているのですよ』

 『勿論君たちだけにそんなことはさせられない。こちらからも人手は出させてもらうよ』


 冗談じゃ、ない……そんな大々的に天使と戦えって言うのかよ……その間、悪魔を倒す作業はどうなるんだ。こうやってイルミナティに時間を与えたら審判が始まってしまう。でもどの道を選んでもとんでもないことになってしまう。決定権はストラスとパイモンにあげたんだ。二人はきっと間違えない、最良の選択をしてくれる。


 「……いいだろう。三か所のどこを攻める?」

 『流石パイモン、頼りになるよ。まずはスペインから攻めてもらいたい。成功したらイスラエル。ヴァチカンは最後にのけておこう。危ないからね』


 ニコリと笑ったバティンは人のよさそうな好青年に見えるけれど、実際やってることはえげつない。しかしパイモンはひとつだけ付け加えると言って話を中断した。


 「俺たちは今まで通り、悪魔討伐は進める。止めたければ今ここでお前たちとやりあうことになるがお互い無事には済まないぞ」

 『そうだねえ……こちらもまだ全員揃ってないし、今は君たちと戦いたくないかな。いいよ、イルミナティに関与する悪魔に危害を加えなければ後は今まで通りに活動してくれて』

 『バティン、いいのか?』


 全員揃ってないって……まだ協力している悪魔がいるってのか。

 今まで黙っていた女性の悪魔が口をはさむも、それを目で制しバティンは再びニコリと笑った。


 『これで交渉は終了だね』

 「待ってくれよ!進藤さんが中谷のことを探してくれるって……フォカロルに連絡を取ってくれるって!」


 まるで解散するように会話を切ったバティンに光太郎が慌てて中谷の事を問いかける。首をかしげている様子から聞いていなかったんだろう。まんまと俺たちは嵌められたってわけだ。


 『そんなこと言ったのかい佐奈』

 「ごめんなさーい」


 全く反省する様子のない進藤さんに光太郎がまるで殴りかかるかのように一歩足を進めたが、シトリーに押さえられる。怒りが湧いているのは光太郎だけじゃない、この女はやってはいけないことをした。


 「ふざけんなよ進藤……」


 低い声が出て、非難しても進藤さんは涼しい顔。逆にバティンがこちらにフォローを入れてくるくらいだ。


 『それは悪かったよ。お互いに地雷って言うものがある。彼の事はフォカロルを召喚しても分からないと思うよ。ただ僕たちが聞いている話は殺せていないと言うことだけは聞いた』

 「殺せていない?」


 つまり、生きてるってことなのか?

 バティンも何か思うことがあるのだろうか、素直に情報を提供してくれる。


 『彼を水圧で潰そうとした際、肉体ごと何かに守られて消えた。フォカロルはそう表現した。殺した感覚がなかったって百戦錬磨のあの子が言ったんだ。本当に殺せてはないんだろう。彼は魔術を使えるのかな?悪魔の能力に目覚めていてもヴォラクのものだ。フォカロルの攻撃を防ぐ結界を瞬時につくることは難しいし、ましてや転移魔術なんて使えないだろう』

 「そんなこと、あいつはできなかったと思う……」

 『だとしたら、だ。中谷君は何者かに守られて連れ去られたと言うのが今の推測だ。だが僕たちはそんな命令は聞いていない。これは本当だ。だとしたら、― 天使かもね』


 天使 ― 天使が中谷を連れて行った?でも中谷の魂は元々天使の兵として招待される魂だったんだろう?ならなんで敢えて助ける必要がある。死んでしまえば魂は自動的に天使たちの所に行くんじゃないのか?フォカロルが魂を地獄に連れて行こうとしたから防いだのか?

 

 『正直、あの子にそんな価値があると僕は思えないけれど……天使は一枚岩ではないのかもしれないね。審判に反対する者が間違いなくいる。そいつが中谷君を自分の手元に置いたのかもしれない。駒としては使えるしね』

 「それってどの天使なんだ!?」


 俺の勢いに若干押されつつもバティンは首を横に振った。


 『残念だが、これはあくまでも僕の憶測だ。真実かどうかは分からない。だが、中谷君は肉体を保持したまま天界に行ったと考えるのが妥当だろう。良かったね、肉体が保存されている状態なら連れ戻すことは可能だよ。ヴァルハラに行けさえすれば彼の肉体を保管している場所があるだろう』


 中谷を助けられる可能性……

 ようやく見えてきた光に笑みがこぼれたのは俺だけじゃない。中谷を救い出すことができる、隣で笑ってくれる未来を取り戻すことができる!


 『だからある意味、君にとっても都合はいいかもね。ヴァルハラに行きたいのならばゲートから向かうしかない。おそらくゲートは僕が指定した三大巡礼地にあるだろう。本当にwin-winの関係になっちゃったね!』


 上手くこいつにまとめられた気がしなくもないが、でも中谷を救い出せる可能性があるのならば賭けるしかない。助け出せるならばとみんなの意見はまとまっているように感じる。

 バティンは今度こそ話は終了だと言い、ソファから立ち上がる。


 『気を付けて帰ってね。道中は気を抜かない様に。連絡は佐奈を通して行うよ』


 どうやらバティンも転移魔術みたいなのを使えるのだろうか。全員が光に包まれて一瞬でその場からいなくなってしまった。


 『私たちも戻りましょう。長居したくはない』


 ストラスの発言に全員が頷く。バティン達のいなくなった空間は酷く不気味で、終わった後に後悔やたらればがよぎる。でも選択権なんてなかったんだ。俺が何を言っても事態が好転したためしなんかないし、これで良かったんだよな……


 再びマンションに戻った俺達は今後の方針を話し合うことにした。イルミナティからの連絡は進藤さんからくるから、まだスペインの巡礼地に行く必要はないんだろう。ストラスたちも昨日今日でその話が出てくることはまずないと言っていた。最低でも一週間は向こうが準備期間として欲するだろうと。


 そりゃそうか。俺達みたいにすぐに予定がたつ少数のグループではなく、向こうはイルミナティと言う巨大な組織を率いている悪魔だ。それなりにスケジュールの調整なんかが必要なんだろう。


 「でも向こうは他にも悪魔がいるような口ぶりだったわ。一体どの悪魔が……」

 「少なくとも今回のメンツはかなりの攻撃陣だった。同等か、それ以上かな?問題は六大公が協力していた場合が厄介だね」

 「100%協力してるでしょ。ベリアル以外なら可能性は高いんじゃない?でもやっと中谷の件も目途がつきそうだ。俺は今回は絶対にのせてもらうからな」


 ヴアル、セーレ、ヴォラクの会話を耳に入れながら、黙ったままのパイモンたちに視線を向ける。これからどうなっちゃうんだろう。正直今まで悪魔と戦ってきた、それなのに今更天使と戦えなんてないよ……天使との戦闘はまだ先の話だと思ってたのに。


 「その聖地を潰して……その後はどうするんですか?今度はあたしたちが……」

 「その件については考えておく。今日はゆっくり休め」


 根本的な解決策がないことに澪は唇を噛みしめて震えた声を出した。今の所は相手に従うしかなさそうだ。今まで悪魔を倒してきたのに、今度は共闘して人間と天使を倒せだなんて笑っちゃうよ。殺し合い、とかにもなるのかな……それは嫌だ、な……


 なんとなくしんみりしちゃってこれ以上この話はしたくなくて言われた通りに家に帰る事にした。ストラスも今回は一緒に帰るみたいだし、本当にこれで解散だ。


 ***


 ヴォラクside -


 拓也たちが帰ったことを確認してパイモンが席を立ち上がる。今回ストラスがいないのはあいつにも知らせていないからだ。だって、あいつは絶対にこの件に反対する。まだ言うことはできない。


 「で、お目当ての人物は見つかったってのか?」

 「……一応ね。本当にやるつもりなの?」


 セーレは緊張した面持ちでパイモンを見つめる。でもこっちだって黙ってるわけにはいかない。奴らの動きを制限する必要がある。バティンの弱点なんて早々に突けるもんじゃない、となると契約者を突くしかない。


 一枚の写真には小麦色の肌と茶色い髪の彫の深い子供が二人映っている。名前の横には通っている学校、そして血縁者の名前。


 「マティアスには二人の孫がいる。この二人がバティンの契約者であるマティアス・カレンベルクが目に入れても痛くないと豪語している孫のリーンハルト・カレンベルクとアレクシア・カレンベルクだ。両親はスイス在住でリーンハルトはイギリスのパブリックスクールであるウェストミンスターに在校しているし、妹のアレクシアも兄と同じ学校に行くのではないかと言われている」

 「国が違ったわけだ。探すのに苦労するわけだぜ」


 シトリーが頭をガシガシと書いて子供が写った紙を見つめている。そう、俺達はバティンの契約者の弱点になれる可能性のある人物を探していた。世界を混乱に陥れようとする爺の弱点になるかもしれない。相手は一般人だ、今回の騒動で学校には大分居づらくなっちまったかもしれないな。


 パイモンの調べでは高額な授業費用をあの爺が全額援助してるって話だ。ここまでしてやってるんだ、こいつを手に入れる事さえできれば……


 「状況を見て、この少年の方を手中におさめる。これでマティアスが怒り狂って主たちの情報を晒しでもしたら人質としては役立たずだ。その場合の対処法はあまり考えたくないがな」


 もう、平和に誰も傷つけずになんてしていられないんだ。相手が大それたことをしてくるのなら、こっちだってそれなりのことをしなければいけない。向こうは拓也達のあまっちょろさを知ってる、契約者の親族に被害が行くとは思ってないのかもしれないけど、いつまでも、好き放題やれると思うなよ。


 「状況が状況なら仕方がないけど、相手がそれで澪たちの身内に手を伸ばしたらそれこそ大ごとよ?人質として使える数はこっちの方が多いんだから」

 「問題ない、奴らは手を出せないさ。大体それならば奴らは情報を小出しにすることを揺さぶる前に人質をとるだろう?手っ取り早いんだからな。情報はいくらでも小細工できることだってバティンならわかっているはずだ」


 確かに。こんな揺さ振りをかける前に直哉でも誘拐すればこんな交渉みたいなものもなく協力するだろう。でもそれをせずに敢えて転校生まで寄越して交渉する必要があるって言うのか?


 「奴らは俺達とエクソシスト協会、そして第四の勢力の可能性を探している。そいつが既に直哉にコンタクトをとっている。天使の仕業かとも思ったが、直哉は主と違い指輪の魔力に触れてはいない、天使をその身に宿すことは短時間であっても不可能だ。契約悪魔だったラウムもいない状況では悪魔による乗っ取りも考えづらい。エクソシスト協会か第四の勢力の可能性がある。契約者の身内に既に手が伸ばされているのならば迂闊に手が出せない状況なんだろう」


 ストラスが言っていた。直哉が乗ったられたような素振りを見せたって。全くあいつはラウムの時と言い何かを引き寄せるのが上手い奴だ。


 でもエクソシストじゃなくて第四の勢力が出てくるって言うのはこっちにとってもいい話じゃないかもしれない。バティンは膠着状態を抜け出すためにまずは一番操りやすいだろう拓也に目を付けて誘って来たってわけだ。エクソシスト教会と第四の勢力を探るために。恐らく、奴らはそのうち拓也の所に出てくるはずだ。


 「悪魔が協力してるのか?その第四の勢力っつーのは」

 「そこまでは知らない。だが今はイルミナティと協力体制をとっておくのがいいだろう。後ろ盾は必要だからな」


 悪魔探しをしながら天使を抹殺かあ。これからハードになっちゃうな。でも、これで中谷を連れ戻すことができるなら……やってやろうじゃねーか。


 「時期が来たらこの件はストラスにも伝える。それまでにこの子供が襲撃を恐れたマティアスに管理されなければ、の話だが」

 「まあネットとか動画サイトでこの子を誘拐するとか犯行声明出てたしね」


 イルミナティの異常性に反発している奴はどこにでもいる。そいつらに先を越される前に手に入れなければいけない。



 こいつは、俺たちの切り札だ。



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