第59話 登場
新学期が始まり、教室に入ると中がえらくざわざわと賑やかなことに気づいて首をかしげる。今日は何かイベントでもあるのだろうか。自分の机に鞄を置いて光太郎に話を聞こうと上野たちと話しているところに向かうと先に気づいて光太郎がこっちにくるように手招きした。
「なんか盛り上がってんな。面白いことでもあるのか?」
「転校生だってよ。うちのクラスに」
59 登場
そう言えば澪に聞いたな。震災があった四国からこっちに転入してくる子がいるって。まさかこのクラスとは……
クラス委員の話では職員室に既にその生徒は来ていたらしく、可愛らしい女の子だそうだ。
「このクラスにも華がくるぞー」
「お前女子に殺されるぞ……」
浮かれている桜井をジャストが呆れたような視線を向ける。でも震災でこっちにくるなんて正直言って可哀想とも言える。高校二年の一月とか、そんな中途半端な時期に来たくなんかなかっただろうに。来月の修学旅行とか行きたくないだろうなあ。
クラスの女子も仲良くできたらいいなーとか可愛い子かなーとかで盛り上がっている。どうせこのクラスもあと二か月で三年のクラス替えだ。俺はその子とそんなに深く関わることもないんだろうな。
「あ、せんせーきた」
上野が廊下から歩いてくる担任を見つけて俺たちは席に着く。後ろには確かに女の子が歩いていた。
教室の扉が開かれ、全員が担任の後ろにいる女の子に視線を向けている。胸辺りまである長い髪の毛と、ふんわりとした笑みが印象的の可愛らしい女の子だった。少し緊張しているのだろう口を一文字に結び所在なさげに色んな所に視線を彷徨わせている。
「普通に可愛いよな」
「だな」
上野とヒソヒソと話をしながら担任が女の子を紹介するのを待つ。
「今日からうちのクラスの一員になる進藤 佐奈さんだ。今年度はもう短いがみんな分からない事とかは教えてやるように。進藤さん、自己紹介をしてもらってもいいかな?」
「あ、はい。えっと、進藤 佐奈です。高知県出身です。仲良く、してください」
恥ずかしそうにお辞儀をしながらの挨拶に教室内は拍手で迎える。女子の何人かは休み時間に話しかけようよと言う話をしていたから多分大丈夫だろうな。後ろで上野が可愛いを連呼してるけど、お前には霧立さんがいるだろ……
新しく入ってきたクラスメイトの女の子と俺も少しは仲良くできるといいんだけど。
***
「転校生ショック来てんね」
昼休み、クラスの女子に囲まれて楽しそうに会話している進藤さんを見ながら光太郎が呟いた。確かに可愛い女の子の転校生でクラスが浮足立っている感じだ。かくいう俺は全くまだ話せてないんだけど。このまま名前と顔も認識されないまま三年になってクラスはなれちゃったりしてー……
「震災でこっちに越してきてるから、その話題はタブーらしいけど悪魔の事どう思ってんだろうな」
「……憎からず思ってんだろ。それ以前にそれどころじゃないんじゃね?」
光太郎はそーかも。と、やる気のない返事をして進藤さんを眺めている。イルミナティの予言に巻き込まれちゃった女の子。同情しないわけがない。何か力になれることはないのかな……こんなに苦しんでいる子がいるのに、あいつらは未だに世界を自分たちの物にしようとするなんて言ってるんだ。絶対に許せない。
「ま、この時期に転校生とか変に勘ぐっちゃうのはしょうがないよな。聞けるもんなら地震の事とか聞きてーもん。悪魔見たかとか」
「聞けないよそんなこと……」
「俺も聞かないよ。そこまでKYじゃねーし」
何か知っていたなら、きっと情報は発信されていると思う。ネットでは被災地の人とかも掲示板やSNSに書き込みとかはしているけど、そんな情報はあがっていなかった。まさかあの子が悪魔を見ているとかあるはずがない。
その時、進藤さんからきらりと何か光るものが見えた気がして、それも自分の考え過ぎだと思い視線を逸らした。
***
「あれ?」
光太郎とマンションに向かっている途中でコンビニに寄ろうと言う話になり、鞄を開くと財布が入っていなかった。奥まで探したけど入ってない。最悪ICカードで買えばいいんだけど財布がないのは不便だな。
「光太郎、俺財布学校忘れたかも」
「え、マジ?金貸そうか?」
「うーん、嬉しいんだけど見つけないと不安だから面倒だけど一回学校戻るよ。マンション先行ってて」
「おー、気を付けろよー」
光太郎と別れて学校の方向に身体を向ける。今の時間を考えると教室にはあんまり人もいないんじゃないのかな。俺と光太郎も上野たちと話してて出ていくのは最後の方だったから。日直が終わってたら誰もいないかも。暗くなる前にさっさと取りに行こう。
自分にそう言い聞かせて小走りで学校まで向かった。
案の定、教室にはすでに誰もおらず自分の机の中を探しても財布は見つからなかった。まさか落とした?慌てて机付近の床やクラスの落とし物ボックスも確認するが入っていない。職員室に預けられたのかなと思い、教室を出ようとしたときに誰かが入ってきた。
「進藤さん」
「あ、えっと、こんにちは」
そりゃ向こうは名前を憶えてないだろうな。軽く自己紹介した後に急いでいる旨を伝えてさっさと職員室に行こうと思ったら進藤さんがこちらに何かを差し出してくる。
「もしかしてこれ?」
「あ、俺の!」
進藤さんが持っていたのは俺の財布だった。やっぱり教室に落としていたみたいだ。進藤さんも俺がきょろきょろしてたから分かったのかもしれない。
「教室に落ちてて、どうしていいか分からなくて」
「そうなんだ。ごめんありがとう。進藤さんはなんでこんな時間まで?」
「教科書とか体操服とか受け取ってたら遅くなっちゃった」
そっか。今日来たばっかだから色々受け取らないといけない物があるんだろう。
「荷物重いだろ?良かったら俺も手伝うよ。方角一緒だったらいいんだけど」
「ううん、いいよ、ありがとう。池上君って優しいんだね」
「優しくなんか……」
進藤さんと軽く談笑してみたけど、感じのいい女の子だ。ニコニコ笑ってて本当は緊張もしてるだろうに。
「いきなり東京って大変だったでしょ?この時期に転校とかも……俺もできるだけ力になるから困った時は言って」
「本当にありがとう。イルミナティとかがまた何か言いださなかったらいいけど……」
やっぱり進藤さんもイルミナティの話は聞いてたんだ。地震もそれが原因だって思ってる。
言葉に詰まった俺に進藤さんはポツポツと地震があった日の事を語る。
「あの日は怖かった。街中パニックで、どこに逃げればいいか分からなくて……イルミナティのせいだって言う声が聞こえて」
「進藤さん……」
「池上君の所でも話題になった?」
「うん、うちも騒ぎになってた」
でも進藤さんの恐怖はこっちとは比べ物にならなかっただろう。まさか自分の地域でそんなことが起こるなんて思わないはずだから。話半分に聞いていた地震が本当に起こるなんて……
「私、その時にね、不思議な人を見たの。杖を持ったおじいさんで、なんだか日本人離れしてて変な感じだった」
「それって……」
まさか悪魔!?光太郎と冗談半分で言ってただけだけど、進藤さんは本当に悪魔のことを知ってるのか!?思わず食いついてしまい、進藤さんの肩が跳ねる。落ち着け、下手に怯えさせてしまったら駄目だ。でも悪魔の可能性がある。ストラスに聞いた話ではアガレスはローブを羽織り、杖を持った爺さんって言う。特徴だって大雑把すぎるけど今の所は一致してるじゃないか。情報を聞き出さなきゃ。
「なんか怖いな。イルミナティが悪魔を操って地震起こしたとか言う噂がネットに出てるよな。でも悪魔とかいないよな」
落ち着け、食いつきすぎるな。
進藤さんは俺の返事を聞いて何かを考えるように俯いた。
「わからない。そのおじいさんを見た後に大きな地震が起こったの。言っても誰も信じてくれないし、私もそれ所じゃなかったから……」
「ど、どんな爺さんだったの?怖いけど、気になるな」
「……見たいの?」
「え?」
進藤さんがジッとこっちを見つめている。もしかして愉快犯くらいに思われてる?悪魔を見てみたいなーってくらいのノリの奴だと思われてる?だとしたら否定しなきゃ。そんな面白半分な奴じゃないって。
慌てて首を振る俺の前に進藤さんが携帯を取り出す。
「見せてあげてもいいよ。でも交換条件ね」
返事をする前にカシャリとシャッター音が鳴り、自分を写真にとられたんだと言うことが分かった。
「え?なに……?」
「私って写真上手いなあ。池上君の指輪もしっかり写ってるね」
「は?ちょ……」
ポケットに入れていた携帯が振動するのを感じる。多分なかなか戻らない俺に痺れを切らせて光太郎が電話をしてるんだ。今電話に出てもいいんだろうか。でも、今助けを求めないととんでもないことになるんじゃないのか?脳が告げる。選択を間違えたら死んでしまうって。
進藤さんの口元が弧を描く。上げた顔は先ほどとは違い、狂気が滲み出ていた。
「写真もらったし、見せてあげるよ。探してたんでしょ?」
「ひっ!」
ポケットから携帯を取り出し無意識で電話に出る。
「おい拓也、まだかよ。暗くなっちまってんぞ」
「光太郎、たすけて!助けて!!」
「は?おい、拓也?拓也!」
足も手も縫われたように動かない。力を失い携帯は地面に音を立てて落ちた。視線を逸らすことができずに進藤さんの後ろに“何か”が現れた。うっとうしそうに髪の毛を耳にかけた瞬間、きらりと光るピアスが視界に入る。やっぱり、これは悪魔との契約石なんだ。
アガレスと契約してたのは、目の前の進藤佐奈だったんだ。
進藤さんが落とした携帯を拾い通話を切り電源を落とす。可愛らしい顔で彼女は笑みを浮かべ「残念でした」と囁く。
「ふふ、バティンの言ってたとおりね。どこでここまでの情報を手に入れたのかしら」
『佐奈、油断は禁物だよ。彼はサタナエル様の炎を使う』
「使いこなせないんでしょ?この馬鹿は狙われてるのも知ってるくせに悪魔を侍らせずに学校来てんのよ。本物の馬鹿だわ!」
きゃははっ!と甲高い声を出して進藤さんが笑う。バティンと言う単語に悪魔アガレスを使役している。まさか進藤さんはイルミナティの……
「進藤、さん?」
「おもしろーい。現実を直視しない目。池上君、私貴方のこと知ってるの。イルミナティからもらってるの」
俺の情報はイルミナティにはダダ漏れなのか?じゃなきゃこんなピンポイントでこの高校にくることなんてできないはずだ。誰かが手引きしたんだ。家族ぐるみでイルミナティに入ってるのか?
「色々考えてるとこ悪いけど、少しお話しましょうか」
うごけ、動け動け動け!!!指輪の力でも何でもいい、体を自由にしろ!!
指輪が光り、その瞬間拘束が解け、勢い余って床に転がってしまったけど、そんなの構っていられない。走り出した俺に進藤さんが後ろで舌打ちしたのが聞こえる。
「結界はってるんだからにげられないのに、馬鹿な奴」
言葉通り教室の扉が開かない。どれだけ引いてもビクともしない。
「あけよ!」
「結界はってるって言ってんでしょ。馬鹿じゃないの?」
馬鹿にしたように進藤さんが笑い、一歩一歩こっちに近づいてくる。恐怖で後ずさる俺を見る姿は恍惚に満ちている。
「心配しないで。殺しはしない。だってまだ使えるもの」
「な、何する気だよ……」
「それを今から話すの。聞いてくれないならこっちも実力行使はするけど。アガレス、指輪の力はあるかもしれないけど記憶操作はできるの?」
『成功するかは分からないが試してみようか。なに、それで死んでしまってもバティンは怒りはしない。どちらにせよこちらには好都合だ』
「きゃはっ!それもそーだね」
こいつ……俺に記憶操作をして操り人形にでもするつもりなのか!?もしそんなことになったら俺だけじゃない、家族や澪たちにも迷惑がかかるかもしれない。逃げなければ、でもどうやって?話し合いが通じる相手じゃない。だってこいつはイルミナティだ。
じゃあ、殺すしかない?シャネルの時のように。
心臓がドクンと音を立てる。アガレスは難しいかもしれないけど、契約者の進藤佐奈ならサタナエルの炎や指輪の力があれば殺すことができるかもしれない。こいつを殺せば状況が変わる可能性だってある。
でもそれでまた俺は人を殺めるのか?そんなことできない。今度こそ罪悪感で潰されてしまう!正当防衛で済まされないかもしれない。直哉たちに犯罪者の家族の汚名をきせるのか?
「私とやりあうの?教室の器物損壊はお前が責任とれよ池上」
挑発するかのように進藤が笑う。いや、やらなければいけないんだ。立ち上がった俺を見て進藤が笑みを深くする。問題はアガレスだ、こいつはストラスが言うには大規模攻撃ができる悪魔だ。ここで地震や地殻変動を起こされたらたまったもんじゃない。勝負は一瞬で決めるしかない。
でも今は相手の隙を見つけなきゃ。この警戒されている状態じゃ俺が動いた瞬間をきっとアガレスは見逃さない。なにか意識を逸らさなきゃ……
「進藤さん、一つ聞いてもいい?」
「時間稼ぎ?パイモン達が助けに来るまでの?そーゆーのに誤魔化されないんだからあ」
くそっ……話を聞く気がないならこっちから一方的に話題を吹っかけてやる。
「なんでイルミナティなんかに?いや、地震だって……それで君は住むところを奪われたんだろ?どうしてそんなことを?アガレスがあんたに何をしたんだ。脅されてるのか?イルミナティは危険な組織だ。お願いだ、考え直してほしい。今なら間に合うよ!」
「ふふ、ふふふ……あっははは!」
高笑いをしだした新藤佐奈の目には涙が溜まっているが、それはきっと悲しいからじゃない。本当に可笑しいんだ。なんでこの人はこんなに可笑しそうに笑うんだ。
未だに収まらないのか、進藤佐奈は腹をおさえながら目に涙をため、息もきれぎれになりながらも返事をする。
「だったら何?私がアガレスを使役したって?悪魔使役して何が悪いの?アガレスの力使って何が悪いって言うの?」
「そんな……じゃあ、君は自らの意志で?」
「それ以外で悪魔使う理由なんてないでしょーが」
簡単に言ってのけた進藤佐奈に怒りで手が震える。自分のしたことを分かってるのか?沢山の人が死んだんだぞ、住むところを失ったんだぞ。それを、こいつはただのゲームのように簡単に行い、後悔も何もしていない。
そんなことが許されるわけがない!!
怒りに震えている俺を見て、進藤佐奈の笑みは益々深くなる。
「私を殺すの?いいわよ、私死にたいの。殺して見せて?でも私もアガレスも死んだら、あんたの情報をすべてバティンに流してもらうわ。ついでにあんたの家族も見せしめにしてあげる」
「ふざけん、なよ……」
「あのさー悪魔と契約してる奴ってあんたにとってどんな奴が多いの?悲しい過去背負ってるの?それとも復讐?そんなの後付け後付け。頭おかしい奴が契約すんの、わかる?」
頭をコツコツと突いて進藤佐奈は笑う。契約する理由なんてそれで十分だとでも言う様に。
「私は至って普通。優しい両親だっているし友人だっている。そんな普通な環境でも根っからの奇人ているの。それが私」
「じゃあ、本当になにも理由なんてないのか……?」
身体の力が抜けそうだ。大層な大義名分なんて必要ないけれど、何かの理由がなく悪魔と契約する愉快犯だと言う答えだけは聞きたくなかった。興味があったから、契約した、力を使った。何が悪いの?だって。本気で言っているのか?
「世界なんて壊れたっていいのよ。壊れるべきなのよ。日本が壊れてないだけ、平和な国って案外少ないもんよ?」
「だからって、悪魔使ってこんなこと……」
「単純な好奇心。私、世界を一回壊してみたいの」
「……ふざけんなよ。ふざけんな!!」
「おせーよバーカ」
背中から何かに押さえつけられ床に崩れおちる。必死にもがこうとも押さえつける腕の力は強く、かろうじて振り向いた先には更なる絶望が広がっていた。
「そんな……もう一匹」
俺を押さえつけている青年の後ろにはライオンのような獣にのっている少年の姿をした悪魔。その腕にはハルバートが握られている。
嘘だろ。二匹の悪魔に囲まれるなんて……進藤佐奈が俺の会話にのってきたのもこの青年が来るのを待ってたんだ。相手の方が一枚上手だったんだ。どうしよう、今度こそ助からない。俺は殺されてしまうっ!
「佐奈、やりすぎだ。ここまで派手にやってお前これから学校生活どうする気だったんだ。俺たちの目的は指輪の継承者の殺害じゃねえぞ」
「うふふ、随分日本語上手くなったのね。問題ないわ。継承者とはこれからお友達になる予定なの」
俺と友達?ふざけんなよ!友達がこんなことするかよ!!
進藤佐奈が俺の目の前にしゃがみ込む。それを確認した青年は腕の力を抜いて俺を引っ張り上げる。
「池上拓也、荒っぽいことして悪かったわね。でもあんたを殺すつもりがないのは本当。まずは話を聞いてくれないかしら」
「ふざけんなよ、誰が聞くか!お前は世界が壊れればいいって言った!そんな奴と話すことねえよ!!」
「お前に拒否権はない。大人しく話を聞いてりゃいいんだ」
進藤佐奈が首を絞めつけてきて苦しさに顔が歪む。慌てて頷くと同時に腕の力は抜け、俺の荒い呼吸が教室内を包む。
「世界を壊してみたいって言うのは本当。新しい世界に興味があるの。勿論、世界の終わりにも。でもその前にお互いに邪魔な存在を消しちゃう必要があるわけ。分かる?」
「邪魔な、存在……?」
「そう、エクソシスト協会。池上拓也、お前の個人情報は保護する。その代わりに私たちと協力してエクソシスト協会を潰す協力をして」
はあ?こいつ何言ってやがるんだ!!こんな奴らの言うことなんざ信用できるわけねえだろ!もうすぐ光太郎たちが来てくれる。そしたらパイモン達だって……!
でも俺の考えは見抜かれていたようで青年が脅すように囁きかけてくる。
「変なことは考えるな。こっちもお前らに討たれるほど馬鹿な手は打ちはしないし、隠れる行動もしない。分かったな、アガレスとキメジェスの力はパイモン達にも引けを取らない。良く考えることだ」
どうやらこの青年が契約している悪魔はキメジェスと言う悪魔らしい。イルミナティにはどんだけの悪魔が揃ってるって言うんだ!こいつらの口ぶりから他にも悪魔は集っているみたいだ。一体なんなんだよこいつらは!
「エクソシスト協会は引き抜きを行ってる。悪魔の能力に目覚めた人間のね。それは危惧すべき事態でしょう?」
確かにそれは間違いない。パイモンの話でも同じことを言っていた。その話が本当なら直哉だって連れて行かれちゃう可能性があるんだ。そんなの認めるわけにはいかない。
「それは許されない。だけど、あんたたちのやってることだってテロ行為そのものだ。あんたの引き起こした地震がどれだけの人の命を奪ったか分かってんのかよ!俺達に任せてくれたら審判は防ぐ。あんたたちこそ俺たちに協力しろよっ!」
「サタナエルの子供が生きてる方がよっぽどやばいっての、まーだわかんないのかなあ。池上君、なんで指輪を壊して自殺しなかったの?」
びくっと震えた俺の耳元に進藤佐奈が顔を持っていく。
「審判を行わせたくないのならまず一番初めにすることは指輪を誰の手にも渡らない場所に隠して貴方が自殺することだったんじゃない?そうしたらサタナエルは復活することなく、審判までの時間は大幅に伸びただろうに。ぜーんぶあんたが悪いのよ」
なんだよそれ……俺のせいって言いたいのか?俺が生きてるのが悪いって言いたいのか!?
何か言い返さなきゃ、でも何も言葉が出てこない。金魚のように口をパクパクとしか動かさない俺に進藤佐奈と青年は立ち上がる。
「今回はこれで終わらせてあげる。お友達も来たみたいだし、よーく相談して結論をまとめといてね。でも審判が起こるのをこっちのせいにされても困るわ。それは間違いなくあんたが指輪を手に入れた早々で自殺しなかったのが原因だから。イルミナティがここまで本格的に動いているのも審判が止められないことが確定してるから。私達は世界を一度壊し新しい世界を作り、人類が悪魔を使役し再び頂点に君臨する。温いことなんかしてられない」
言いたいことだけ言って、進藤佐奈は再び化けの皮を被る。転校生の震災で避難してきた悲劇のヒロインを演じるんだ。
「じゃあ池上君、気を付けて帰ってね。ふふ……」
アガレスが何か呪文を唱え、光に包まれて進藤佐奈と青年は消えていた。
何もできなかった……何も。俺のせいだって言われた、俺が生きているのが悪いんだって。
「死ねばよかったのか?」
いつだって殺されかけて死ぬチャンスはあったんだ。俺が死ねばよかったのか?俺が早々に死んでれば、こんなに大事にはならなかった?イルミナティの言うことなんか信用する価値ない、それは分かっているのに、なんでこんなに涙が溢れるんだよ。
「俺だって、命が惜しいよ……それの、何が悪いんだっ!」
これは自分勝手な願いだったのか?世界のために死んで英雄にでもなるべきだったのか?いや、英雄にすらなれない。勝手に自殺して周りを悲しませて親不孝で終わるだけだ。そんな現実しか待ってないのに、どうして命を捨てられる!?そんなのできるはずがない!
廊下を走る音が聞こえる。きっと光太郎が来てくれてるんだ。動かなきゃ、今日の事を報告しなきゃ。そう思ってるのに体が動かない。
「拓也!」
光太郎とストラス、シトリー、パイモンが教室の中に入ってくる。
「光太郎……」
「おい、大丈夫か!?何があったんだ!怪我は!?」
大丈夫。その一言が出てこなかった。
予想以上に身体は緊張から解放されて喜んでいるようだ。思うように動かない。ガクガク震えて光太郎の腕を握り返すしかできなかった。
イルミナティとエクソシスト、悪魔と天使、全ての思惑と糸の上に俺たちは立っているんだ。