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第56話 ネット上の救済要請

 世界中が混乱している。あの日起こった大地震は不幸中の幸いと言うべきなのか津波などの二次災害はなかったが、それでもかなりの犠牲者と被害を出した。避難生活をしている人たちの映像がニュースで映し出され、ネットはイルミナティの話題でもちきりだった。


 最初は本当に悪魔なのかも信じられなかったが、それを決定づけたのは余震の無さだった。普通ならあのレベルの地震が来たら余震があるはずなのに、それが全く今のところ来ていない。だから被害も想定よりは少なく済んだと専門家は言っているけど……でもこれで悪魔が起こしたと言うのが確定した。


 俺もネットで悪魔の情報が出ているか調べてみたけど、ストラスに聞くとアガレスは人間の姿をしているだけにこいつが悪魔だって情報をあげている物は今の所ない。普通の地震だったらこれから余震に気を付けましょうってなるんだろうけど、相手は悪魔でいくらでもこういったことは起こせる。油断は絶対にできない。



 56 ネット上の救済要請



 「なんだか落ち着かない年明けだったな」


 ポツリとつぶやいた俺にストラスが腹の上で頷いた。あの地震が起きてから更に十日程度経ち、一年が終わりを告げた。正月番組で埋め尽くされる中、NHKだけが地震の情報と避難生活者の今を伝えている。あれからアガレスと思われる悪魔からの襲撃はなく、イルミナティが新しい情報を発信してくる気配もない。


 あいつら何がしたいんだ?いったい何匹の悪魔を従えている?バティンとアガレス、他にどいつがいる……


 「悪魔、あと二十匹くらいだよな……なのにこんなに遠い。上手くいくのかな……」

 『今まで単独で活動していた悪魔たちがバティンを中心にまとまってきている。簡単にはいかないかもしれませんね。それにアモンとアスモデウスが戦った際にフォカロルが加勢していることも分かっている。彼が襲撃してくることもあり得ます』


 フォカロルとか倒せる気がしないよ。今度はアスモデウスがいるから何とかなるのかな……いや、だってあいつ空から一方的に攻撃してくるし、海外に悪魔を探しに行く以上は海の上は避けては通れないし……どうしたらいいのかな。


 「久々に何か明るい話題とかないのかなー」


 テレビでは話題のアイドルや歌手たちのライブだったり、お笑い芸人たちの体を張った芸が流れているけどなんだか今いちピンとこない。あ、今映ってるアイドルって確かオガちゃんが推してる子たちだよな。ライブにジャストを誘ったけど断られたーって騒いでた気がする。


 なんとなく日課になってしまっている掲示板を開いてスレッドの中身を確認する。内容は変わらず、怯えている書き込みが目立つくらいか。これ以上の収穫はないと諦めて、画面を落とそうとしたら最後にちらっと写った書き込みが気になった。なんとなく再び画面を開き、その書き込みだけ確認すると嘘か本当かわからない内容だった。


 “悪魔に詳しい人に話を聞きたいです。よろしければお話しませんか”


 ああ、なんだこれか。


 ここ一週間前くらいから書かれてるんだよな、こういうの。大体嘘が多いから他の人たちは全く相手にしていないか、誹謗中傷に晒されている。案の定この書き込みもそうだ。


 「こういう悪戯増えたよな」


 そう呟いて画面をストラスに見せると、意外にもアイドルの歌が気に入ったのかノリノリで体を揺らして聞いていたストラスも顔を顰めた。


 『私たちは遊びではないと言うのに、呑気なものだ……』


 本当にね。このわけわかんない奴のお陰で、おんなじことする奴まで出てきてるし、迷惑な奴だよな。

 今度こそ携帯の画面を落としてポケットに突っ込む。いつのまにか歌っている人はアイドルからロックバンドに変わっていた。


 「パイモンに特定してもらおっか」

 『馬鹿馬鹿しい。パイモンがそんな悪戯相手にしますか。第一ばれてごらんなさい。斬りかかりますよ』

 「ふはっ!なにそれ。でもあり得るかも。パイモン怒ると怖いもんな。セーレが慌てて押さえるのが目に見えるかも」

 『そうでしょう?』


 容易に想像出来ちゃったから困る。確かにパイモンだったらすっごい酷い言葉で罵った挙句に斬りかかりそう。俺の中のパイモンのイメージってなんなんだろうな。


 ストラスと軽い談笑をした後に俺は再びテレビに視線を戻したが、膝の上に乗っていたストラスが何かを思いついたように勢いよくこっちを振り返ったので温かい羽毛が腕をかすめた。


 『そう言えば拓也、一つ聞いておきたいことがあります。直哉についてですが、何か変わった点などは感じましたか?』


 直哉?直哉にそんな変わったとこなんてなかったはずだ。セーレの白魔術の能力だって隠しているはずだし、そんなに大きなことが周りで起きているって話も聞いていない。学校生活だって楽しく送っているはずだ。


 いきなりのストラスの質問の意味が分からず首をひねっていると一点だけ気になることを思い出した。あの時は自分の事で一杯一杯だし、あまりにも一瞬の事だったからストラスに聞くこともなかったんだけど。


 「……前にさ、俺が玄関で泣いちゃったことあったじゃん。お前らが俺を、その……殺すって言った時に。あの時に直哉が俺を励ましてくれただろ?なんか一瞬だけ違和感があったんだ」

 『違和感、とな?』

 「うん、直哉だけど直哉じゃなかったって言うのかな。違う人の声が聞こえてきて」

 『……やはり私の勘違いではなかったようですね』


 まさかそれって……

 顔を上げた俺にストラスは首を横に振る。


 『悪魔と言う訳ではないと思います。しかし同じような違和感を私も覚えた。そしてその瞬間だけ直哉を取り巻く何かがあった。まるで彼を守っているかのような……』

 「どういうことだ?直哉は危ないことになってるのか?」

 『わかりません。しかし何者かが直哉を依り代に使った……そういう状況でしょうか。一瞬だけ意識を乗っ取られていたように感じます』

 「危険じゃねえか!」

 『しかし彼の口からは貴方や直哉に危害を加える言葉は発しられなかった』


 そうだ、あの時、直哉は「ずっと、こうやって泣いてたんだな」って……そう言ったんだ。まるで同情するかのように、哀れむかのように、悲しい口調で言ったんだ。あれが敵だなんて思いたくない。でも、だとしたら誰なんだ。直哉を操るそいつは何者なんだ。


 俺も訳が分からなくストラスにすがるような視線を向ければ頷いてくれた。


 『その件も私が調べておきましょう。私は今からパイモンの所に向かいます。また彼から連絡があるまで少しゆっくりしていなさい。あー面倒くさいけどよっこらせ』

 「笑かすな」


 ストラスはそう言って、窓をカラカラと開けて飛び立っていった。残された俺は誰もいない家の中でぼんやりとテレビを眺めていたが、内容はそんなに頭の中に入ってこない。考えることはイルミナティのことばっかりで、腕を交差させて目を覆う。頭がいっぱいだ。直哉までこんなにことになってしまって、申し訳ない気持ちしかない。何があっても直哉は守らないと。


 その状態でしばらく時間が経過しただろう、チャイムが鳴る音が聞こえて体を起こす。インターホンのカメラを確認すると澪が映っており慌てて扉を開けた。


 澪はお菓子か何かが入っているのか、箱を持って立っており、開いた扉に安心したように笑った。


 「よかった。拓也いたんだね。連絡しても返事ないしインターホン鳴らしても暫く返事がなかったから誰もいないと思っちゃった」

 「え、あ……ごめん。スマホ見てなかった!」

 「いいよー気にしないで。あたしこそごめん。急に押しかけて。お菓子かってきたの。良かったら拓也と直哉君とお茶したいなって思って。上がっていいかな」

 「な、直哉いないけど!全然!全然いいよ!あがって!」


 まさかの澪からのお誘いにテンパって変な声でた!俺本当に格好悪い!!

 しどろもどろになりながらも家族がいないことを伝えてリビングに通す。澪はストラスもいないことに少し驚いた後に残念そうな顔をした。


 「直哉君たちは?」

 「父さんは仕事で母さんは直哉連れて大輝君と大輝君のお母さんの四人で出かけてったよ。夕方まで誰もいない。ストラスもマンション行っちまったし」

 「そっか。ストラス、ここのケーキ好きだって言ってたから買って来たんだけど……帰ってきたらあげてね」


 澪は慣れた手つきでケーキを取り分けて紅茶を淹れるためにお湯を沸かす。なんだかこんな感じで二人っきりって久しぶりだから緊張するな。手伝うことを何も見つけ出せず大人しく席に座っている俺に澪はいつものように色々話しかけてくれた。


 「でも澪、なんでうちに?迷惑とかじゃないけど、いきなりだったから」

 「なんて言うのかな、拓也に会いたかったって言うのかな。別に変な意味じゃないよ?でも、上手く言えないけど……拓也に会いたいなって思ったらここに来ちゃった。手ぶらだと迷惑かなって思ってケーキ買ってきたの」


 何それカップルみたい。うっかり伸びた鼻の下を隠すように自分の顔を軽く抓る。うん、痛い夢じゃない。お茶を入れた澪がカップとポットを持って歩いてきて俺もケーキに手を付けた。近所でも有名なケーキ屋なだけあってやっぱり美味しい。

 他愛ない話をしながらケーキを食べていると話題は学校の話になった。


 「冬休みが終わったらうちに転校生来るんだって。確か高知の子、だったかな」

 「高知って……」

 「うん、震災が起こって避難生活してたんだけど、親戚がこっちにいるから引っ越してきた子らしいよ。聞いた話だからどこまで本当か分からないけど」


 話し終えた澪の表情は暗い。そっか、悪魔のせいでその子は家と今までの生活を失ってしまったんだ。もしかしたら友人や家族もなくしてしまったのかもしれない。やるせなさに歯を食いしばった俺を見て、澪が心配そうな顔をした。


 「拓也、なにも状況は変わってない?拓也は酷い目に遭ったりしてない?」

 「俺は何も。いまのとこはね」


 直哉の事は澪に心配させたらいけないと思い伏せた。それでも澪は納得していないみたいで、食い下がってくる。今までそんなことなかったのに必死な澪の様子にこちらが逆に不安になってくる。澪の方こそ、何か悪いことが周りで起こっているんだろうか。


 「澪、どうしたんだよ。そんな焦って……」


 問いかければ、澪は何かを迷う様に視線を彷徨わせ肩を震わせた。


 「……怖いの」

 「澪?」

 「拓也を励まさないと、元気づけないとって思ってるのに……怖いの、怖くてたまらない。拓也を見ないと不安になる。学校が休みになって、拓也に会う時間が減って怖くて仕方なかった。また、どこかに連れて行かれちゃうんじゃないかって、悪魔や誰かに殺されちゃうんじゃないかって怖くて、不安で……知らない所でイルミナティに何かされちゃうんじゃないかって考えると居ても経ってもいられなくて、今日も押しかけちゃった。迷惑だって分かってるの。中途半端に首を突っ込んでるって分かってるのに、でももどかしくて、怖くて……」


 そんなことないよって声を張って言いかけたが、澪はまだ次の言葉を発そうとしているので、黙って話を聞く。そんな風に思ってたんだ。ううん、澪は優しいから、いつだって俺のことを心配してくれていた。


 「アモンに言われたの。あたしは悪魔と契約するほどの価値のない人間だって。それを聞いて、確かにそうかもって思っちゃった。だって広瀬君や中谷君ほど拓也の傍にいれるわけもないくせに、ヴアルちゃんやアスモと契約して、二人は強いのにあたしのせいで行動を制限して、拓也を助けることができなくて……」

 「そんなことないよ。大体俺自体が足手まといだし。悪魔倒すとか豪語しててもさ、結局戦うのなんかほとんどパイモンに丸投げだよ?」

 「だけど……っ」

 「澪を巻き込みたくなっていうのは俺の勝手なエゴって言うかさ、澪は気にしなくていいんだ。俺にはストラスたちがいる。きっと守ってもらえるし、俺だって音痴なりに稽古頑張ってるし、だから澪は気にしないで」


 だって好きな子には危険な目に遭ってほしくないんだ。そう思うのは当たり前の事だ。席を立ち上がって澪の隣に腰掛ける。肩を震わせて声を殺して澪は泣いている。こういう時何をしていいか分からなくて、近くにあったティッシュを渡した。


 「ごめん、泣いて」

 「ううん、なんか、気が利かなくてごめん」


 ティッシュで涙を拭いたら、少しはマシになったんだろう。澪は顔を赤くして俯いた。


 「あのさ、俺格好つけるなんて高等テクできないからさ、ぶっちゃけちゃうけどさ。イルミナティは確かに怖いよ。俺も狙われてるんじゃないかって考えたら怖くて仕方ない。解決策とか今は見つかんないけどさ、前向くしかないんだなって思うよ」

 「拓也前向きすぎ。かっこつけだよ。そんなことできないって言ったくせに」

 「うん、言うだけ。多分何か起こったらきっとテンパってると思う。前向くなんて想像でしか言えないから。あんま考えない様にしてる」


 澪は鼻をスンと小さく鳴らして充血させた目をこちらに向けた。


 「目ぇ真っ赤だよ」

 「もう、話逸らさないでよ。でもそうだね、あたしは解決策なんて考えつかないもの。結局迷惑かけてごめんなさい」

 「あー暗そうな顔しない!心配されるって悪い気分じゃないんだから、いいんだよ!」


 きわめて明るい声で笑う。それを聞いて澪の顔に少しだけ笑みが戻る。うん、そうそう。澪は笑っててほしいな。俺が悲しい時に一緒に泣いてくれるのも嬉しいけど、笑ってくれたらもっと嬉しいんだ。

 その時、澪が凭れ掛かって肩口と胸付近に温かい体温が触れる。


 「うぃっ!澪……っ!」

 「拓也っていっつもそう!あたしに甘すぎなんだよ!あたしが調子にのったら拓也のせいだからね!」


 ぎゅうぎゅうと抱き着いてくる澪に完全に固まってしまっている自分。これって手を背中に回していいのかな。澪、いい匂いする。ええいっ俺も男だ!


 背中に腕を回して力を込める。心臓の音聞かれないかな、今顔あげられたら俺たぶんすっげーみっともない顔してるから困るな。せっかく澪を抱きしめることができてるのにそんなことしか考えられない。


 「……拓也、あたしね」


 澪が小さくつぶやく。本当に耳を澄まさなきゃ聞こえないレベルの声。うんって相槌を打って話の続きを促すと、沈黙の中に時計の針が動く音だけが聞こえる。澪がもう一度息を吸いこんで再び口を開いた瞬間、カラカラと窓が開く音が聞こえた。


 『拓也、ただいま戻りました。急ぎの用ではないですが明日……』


 突然のストラスの再登場に大げさすぎるほどお互いに距離を取ってしまった。俺に至っては後ろにのけぞりすぎてバランスを崩しソファから落下し頭を思いっきりぶつけてそのまま蹲る。ストラスはその漫才のような一連のやり取りを視界に捉え、罪悪感たっぷりの表情で小さくつぶやいた。


 『……お取込み中でしたか。私としたことが申し訳ない。私は部屋を移りますのでどうぞ続きを』

 「そんなんじゃない!ないから!!話聞こうかストラス!澪がケーキも買ってきてくれたんだから!!」

 『いや、そう言われましても貴方がた……』

 「止めてよストラス!そんなんじゃないよ!!」


 真っ赤になった澪と俺がまるでお代官のようにストラスをもてなすものだからストラスは居心地悪そうにしながらも指定の場所に落ち着いた。ちくしょう……すさまじくいい雰囲気だったのに……っ!でも、澪がさっき言いかけたのってもしかして……


 澪に一瞬視線を寄越したけど、もう雰囲気ぶち壊しのせいで澪は完全にストラスにケーキをあげることで頭がいっぱいだ。うん、そうだよね。そう上手くいかないよね……


 澪、柔らかかった。女の子って可愛い……ううっ!可愛すぎる。いい匂いした、柔らかかった!


 「で、何が分かったんだ」


 ケーキをつついているストラスにガンを飛ばすように視線を投げれば、口の周りにクリームをつけて振り返られた。なにその間抜けな面は……仕方なくティッシュで口元を拭いてやったのにクリームが勿体ないと文句までつけてきたこのフクロウを俺は軽く叩いてもいいだろうか。


 『パイモンが少し気になる人物がいるらしく、明日マンションに来てほしいと伝えてくれと言っていました』

 「詳しい話は聞いてないのか?」

 『ええ、パイモンも確証がないらしく、もう少し調べたいようですね』


 今度は何の情報を見つけたんだろう。また海外に行くことになるのかな。


 ***


 次の日、まだ学校が休みだったこともあり、時間は早いがマンションに向かう。澪もこの間話を聞いていたことから今回は着いていくと言ったので澪も一緒だ。澪の腕の中でストラスは時折羽毛を震わせながら空を見上げた。


 『今日も寒いですね。悪魔が見つかったとしても寒い場所は避けたい』

 「ハワイだったらいいよな。あったかいし」

 「もーふざけないのー」

 

 軽い悪ふざけを交わしながらマンションについて鍵を開けてもらう。中ではパイモンとヴアル、ヴォラクがパソコンを挟んで話し合っている。


 「あけおめー。あれ?三人は?」

 「少し頼みごとー」


 ヴォラクの適当な反応に突っ込もうと思ったけど、たぶん悪魔関連で何かを調べてくれているのかもしれない。それか直哉の事なのかも……ヴォラクがいるから中谷の事ではなさそうだ。

 ヴアルに促されてソファに腰掛ける。しかし三人は何のことで話し合ってたんだ。


 「なんか少し言い争ってる感じもしたけど、どうしたの?」

 「拓也と澪とストラスはこれ見てどう思う?」


 ヴアルが見せてきたパソコンの画面は昨日こそストラスと悪戯でしょって話していた悪魔の件で話せる人募集と言う掲示板の書き込みだった。明らかに嘘でしょって顔してたんだろうな、俺の顔を見てパイモンは無表情でヴォラクに視線を向ける。なるほど読めたぞ。


 ヴォラクが怪しいって騒いでて、でもパイモンは悪戯に決まってんだろってなって揉めてたんだろうな。そしてそんなことで呼び出される俺たちって……


 「なんでヴォラク怪しいって思ったんだよ」

 「う、なんで拓也分かったんだ!お前エスパーかよ!」


 いや、空気でわかるでしょ……澪はヴォラクのおちゃめな一面に小さく可愛いと呟いている。ヴォラクはパソコンをひったくる様に奪って、画面をこっちに見せてくる。うん、その画面見たよ。


 「これ書いてる奴、同じ奴なんだ。パイモンにIPアドレスってやつを調べて貰ったら同じだったんだ」

 「だから怪しいって思ったの?」

 「本当に悪魔について何か知ってるかも」

 「知ってたとしても、動くわけにはいかないだろう」


 会話に入ってきたパイモンをヴォラクは睨みつけた。でもパイモンの意見が正論なんだろうな。


 「相手の素性もしれないんだぞ。自分が契約者だと言った出鱈目を動画投稿サイトに投稿する奴も出てきている。迂闊に近付いてこちらの尻尾は掴まれたくない。そいつが住所や悪魔を晒すのならば考えてやってもいいがな」

 「まあ、そうだろうけど……」


 俺も悪戯としか思ってなかったけど、ヴォラクがえらく騒ぐから何とも言えない気分になってくる。


 シトリーを使えばとも思うけど、さすがに画面上の相手にシトリーの力は効かないよね。内容は毎回少しずつ違う。コピペを貼り付けている訳ではなさそうだけど……とりあえずこの話は終わりにして、イルミナティについての話をさせてもらおう。これからどうやって俺たちは動いていくべきなのか、そういったことも聞いておきたい。


 「これ……」


 パイモンと話をしていると澪が小さくつぶやいた。振り返るとヴアルとヴォラクとパソコンを覗き込んでいる。何か悪魔に関することでも見つけたんだろうか。

 澪は画面をこちらに向けてくると女の子の写真が上がっていた。


 「おい澪、変なサイトは開くな」

 「パイモンさん……あ、いや、URLが貼られてて……ごめんなさい。この写真、さっきから話題になってる子って」

 「はあ?」


 なんだよそれ晒しかなんか?


 パソコンをのぞいてみると、その掲示板で訴えていた少女に話を聞くふりをし、待ち合わせまでして顔を晒しているといった文まで載せられていた。いくらなんでもここまでしなくても……少女も多少は警戒しているのか、自分の素性は明かしていなかったみたいだけど。でも写真が載ってるんだ、もう遅いかも。


 「バカ正直に会っちゃったんだ……」

 「ネットの使い方を分かっていないな。悪戯して返り討ちか」

 「だから悪戯じゃないんじゃね?」


 すかさずヴォラクまで口を挟み状況は滅茶苦茶だ。パイモンはため息をついて澪からパソコンを受け取り何かを調べだした。少女の事を調べるんだろうか。


 「とりあえず調べてみます。何かわかりそうでしたら相談します」

 「すぐにできそう?」

 「さあ、何とも言えませんが主がマンションにいる間には調べたいですね」


 そうだね、なんだか俺も気になってきたよ。パイモンが調べを進める間は何もすることがなさそうだ。諦めて正月番組を見るためにテレビをつけたヴォラクの隣に行く。何か見つかるといいけど……


 ***


 ?side -


 「うん、うん……分かってる。ごめんね沙希、本当に」


 決して広いとは言い難い部屋にいる少女は通話の切れた電話を握りしめて呆然とする。


 「どうしよう……」


 こんな、つもりではなかったのに。

 テレビでは連日イルミナティに関するニュースが流れ、ネットや動画サイトでは自分が契約者だ、自分が指輪の継承者だ、などと言い出す輩まで現れている。しかし少女は分かっている、そんなことを本当にする奴は頭の可笑しい奴だ。こうやって動画にあげている奴は嘘つきばかりだと言うことを。


 「今更、契約切れとか言えないよお……」


 頭を抱えた少女をあざ笑うかのように悪魔は何も知らぬ顔で少女に近づいていく。




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