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第53話 イルミナティ

 ?side -


 『もう動き出してもいいと思うんだ』


 その一言が暗い室内の中響いた。青年の姿をした悪魔が柔和な笑みを浮かべて足を組んで座っている。室内には青年の悪魔以外にも別の悪魔がお互いに監視するかのように睨み合っており、その空間での青年の明るい声色は異質な音を含んだ。


 『そんなことのために私を呼んだのか?お前の護衛もいい加減飽きた。そろそろ、核心に触れてほしいのだが』

 『ああ、ごめんね。でも折角こんな隠れ蓑をもらえたんだ。君も活用すればいいんだ』

 『私たちの任務はもう終わったはずだ。これ以上は大した時間の短縮にはならない。お前たちの遊びに付き合う余裕はない。愉快犯の相手は結構だ』

 『手厳しいな。でも随分彼らは気に入ってるんじゃないのか?』


 室内にいる三匹の悪魔はそれぞれ感想が違う。一人は柔和な笑みを浮かべて余裕たっぷりで返し、もう一人は睨みつけ結論を急がせている。更に一人はそのやり取りを黙って見つめたまま。


 『アモンはやられたんだってな。アスモデウスか?』

 『そうみたい。なんだか劇的勝利おさめられて面白くないよね』

 『あいつの対応はお前の使命だろうガアプ。私はこのくだらない組織の管轄に忙しいんだ』

 『でも君って予想外に働くよね。感心だよマルバス』

 『……雇い主の命令は聞く。お前のような狐でもな……バティン』


 マルバスから放たれた嫌味をバティンは笑って受け流す。その表情が全てを見透かしているようで舌打ちをしてマルバスは乱暴に腰掛けた。


 『もう、泳がせる必要なんてないよね。サタナエル様ご復活までは近い。多少世界が混乱してくれた方が事は早く済むんだ』


 部屋の中に初老の男性が入ってきたことを確認して、バティンは合意を促すかのように目を細めて相手を視界に捉える。胸元には逆さ十字のネックレスが輝いており、男性は準備ができたと口にした。


 『宗教って、本当に便利な物だよね。捻じ曲げれさえすれば、どうとでもなる』


 世界は混乱の時に突入するのだ。もう人間たちを泳がせる必要はない。時間をかければかけるほど、お互いに面倒なことになっていく。そろそろ思い知ってもらう必要があるだろう、世界が誰のものなのか……


 『そろそろ、返してもらってもいいんじゃないかな』


 ― 悪魔と天使に、この世界を。



 53 イルミナティ



 拓也side -


 「拓也ってもうパスポートとか取った?」


 十二月も中間に差し掛かり、今年最後の模試も終わり、残すは期末考査のみとなった。教科書をしまいながらペットボトルのお茶を飲んでいると後ろの席の上野から話しかけられて振り返る。内容は二か月後に迫った修学旅行の話題だった。


 申請はしたけれど、まだ手に入っていないことを伝えれば上野は自分は持ってきたとパスポートのコピーを目の前でちらつかせた。


 「なんだよ俺に見てほしいのかよ。可愛いなー上野は。よっし、拓也様がみてやろう。貸してみろ」

 「ばっか。んなわけねーだろ。写り悪いしやーだね」


 手を伸ばした瞬間に引込めた上野の紙を追って席を立ち上がって応戦する。しかし上野が紙を頭上にあげた瞬間、さらに上から伸びてきた手に白い用紙は攫われていく。


 「うおっ!マジで写りわりーな!」

 「あ!返せよ藤森!」


 藤森がコピーをゲットしたのを確認して後ろに回り込み、証明写真を見て二人で笑う。さっきまでからかっていた上野は今度こそ、少しだけ顔を赤くして用紙を奪いにかかる。ひとしきりそんなふざけた会話をし落ち着いたら、藤森は主が外している隣の席に腰掛けた。キリが良かったので珍しく時間より早く授業が終わった今回の十分休みは普段より少し長く、まだ教室内の騒ぎは収まりそうになかった。


 「そう言えばこないださ、めっちゃ怖い掲示板のスレッド見てさ」

 「なにー?また掲示板?お前ほんと好きだよね」


 藤森はサッカー部でバリバリ運動してる傍ら、実は結構なネットサーファーでいろんなサイトを見てるしパソコンにも詳しく、匿名掲示板をよく利用している。結構えげつない情報とか書かれてるもんねあそこ。


 未だにその掲示板内でソロモンの悪魔のスレッド、世界の終焉のスレッド、悪魔関係に関するスレッドは連日大賑わいだ。毎日目を通していても情報が書かれる書かれる、一日見なかったらそのスレッドは終わって新しい物が立っている状態だった。


 「なんかさ、世界の終焉をカウントダウンするスレって知ってる?あれ見たんだわ」


 藤森の言葉に背筋が凍った。藤森もそのスレッドを見てたのか?まさか身近にソロモンの悪魔のスレッドを開いている人がいたなんて!とりあえず知らない振りをしないと……

 わざとらしくなかっただろうか。首を傾げた俺と違い、上野は首を縦に振った。まさか上野も知ってるのか?


 「噂になってる奴だよねそれ。一回だけ見た事あるけど、あんなの信じたら皆死んじゃうんだぞ。本当な訳ないよ。そういう滅亡系の予言が当たったためしねーだろ」

 「当たってたら俺らもう死んでるよ!そうだけどさーあの写真って本物なのかな?悪魔の写真貼ってたじゃん」

 「カラスの奴?スレの奴らは本物だって騒いでたけど、ググってみても悪魔の写真なんて他に既出の物がなくて本物か分かんねえじゃんよ。想像でイラスト書いてるサイトは見たけど」

 「そうだよな、なんかあれ読むと怖くなってきてさ。無駄に検索かけちゃったよ。最後の審判とかソロモン七十二柱とか」

 「でもさ、万が一に最後の審判起こるとして俺らも巻き込まれるってマジ迷惑じゃね?仏教派からしたら関係ねーじゃん。日本マジとばっちりじゃね?」

 「確かに!」


 そんな噂になってるって……


 信じたくないけど、藤森も上野もカトリックな訳じゃない。ソロモンの悪魔なんて普通に生きてたら関わるはずもないし、検索をかける事もないはずだ。でも二人は知ってる、本当にあのスレッドは一般人でも噂になってるほど話題を掻っ攫っているんだ。


 怖くなって俯いた俺に上野と藤森は勘違いしたらしく、肩を叩いた。


 「あー、拓也知んないのか。なんか今よ、掲示板で話題のスレッドがあってさ。ソロモン七十二柱って言う悪魔がこの世界にいて、そいつらのせいで人類が滅亡するって言うのが話題になってんの。嘘に決まってんじゃんねー」

 「マジ結構な話題だもんな。都市伝説的な?再来週の特番で最後の審判が起こるかどうかをテレビでするらしいぞ」

 「メディア誘導すんなよなー何曜日?好きな番組が潰れてたら局に怒りのメール送んぞ」


 二人は笑ってるけど、笑えなかった。

 震えている俺に二人は今度こそ勘違いじゃない、俺が本当に怯えているのが分かったみたいだ。馬鹿にするように笑っていた顔を少し引きつらせて、励ましてきた。


 「嘘に決まってんじゃん。信じんなって池上」

 「……だよな。わりい、なんか少しびびった」


 二人とも俺が怖がりなことを知っているせいか、その返事に少し安心したように笑って心配するなと言ってくる。でも本当は現実だ、現実なんだ。


 「こないだメキシコのマフィアが壊滅したって奴で話題になっちまったもんな。あれ、合成じゃないらしいよ。炎も何もかも。スレッドじゃアモンって悪魔らしいよ」

 「おい藤森、拓也脅すなって。悪魔なんかいない、人類だって滅亡しない。そんなん信じる価値もない」

 「冗談通じねぇなー上野は」

 「前お前にも話しただろ。今そういう話題出てるからなんか夢に出てくんだよ。そーゆーの」


 上野?


 ピシャッと言葉を閉めて、上野はその話題を打ち切ってしまった。


 どうしよう、きっとこれ以上隠すのは難しい。もしかしたら近い内に上野や藤森たちも知っちゃって、日本大パニックとかになっちゃうかもしれない。それだけは避けなきゃっ!あのスレッドを削除するように掲示板の管理人に言えばいいのかな。いや、そんな事しても遅い。藤森がテレビの特番で放送されるって言ってた。掲示板のスレッドを削除できたとしても、また新しいスレッドが立つだけだ。どうやったら逃げられるんだ……


 必死で考えている俺を藤森はジーっと見ていた。


 「藤森?」

 「その指輪さーはずさねえの?」

 「え?」


 心臓が大きく跳ねた。これまでも指輪の事をみんなに聞かれたことはあった。それでも今まではその指輪ずっとつけてるよな、同じのつけてて飽きないの?そんな疑問だった。

 でも藤森の今の質問はきっと違う。心臓がドキドキして、引きつった顔でしか返事をできなかった。


 「これ、お気に入りだから……」

 「なんかスレッドに載ってたソロモンの指輪の特徴にそっくりなんだよなーそれ。まさか本物でしたーなんてオチないよな」

 「藤森、まだそのスレッドの話かよ。しつけーぞ」


 一瞬で口の中が乾いた。

 返事ができなかった。上野の突っ込みに便乗することもできずに、引きつった顔で藤森を見つめるしかできなかった。返事をしない事と、固まってしまった俺に明るい口調で言っていた藤森の表情が固まっていく。


 「え、マジ……いやいやそんな訳ないじゃーん!なんだよその顔演技うめー!ノリ突っ込みさせんなよー!」

 「あ、お、おう!そうだよな!騙されたな藤森!」


 やっぱ信じてはくれないか。悪魔の事だって半信半疑だ。まさかそれが真実で俺がその指輪の継承者だなんて、普通に考えたらありえない話だ。信じろって言う方が難しい。藤森は豪快に笑って、十分休みの終わりも近づいた事で自分の席に戻っていき、何とかこの場は乗り切った。


 軽く引っ張ってみたけど、指輪は俺の左手の中指から外れる事は無い。きっと全てを終わらせなきゃ外れないんだろう。とりあえず授業中に考えて、昼休みに光太郎に相談してみよう。


 ***


 「悪魔の影響がどんどん強くなってるっぽい」


 昼休みに弁当を食べ終わった光太郎が小さな声でポツリとつぶやいた。上野たちの事を相談しようとしていたのに出鼻をくじかれた俺はポカンと口を開けて、間抜けな顔を晒す。それに突っ込むこともなく、光太郎は周囲が聞いていないかを確認するように視線を一度だけ彷徨わせ、身を乗り出し小さな声で続きを話した。


 「桜井と上野達にロノヴェの力がかかってるって言っただろ。それで夢見が悪いとかなんか」

 「ああ、詳しい話は聞いてないけど」

 「今日立川から聞いたんだ。上野と桜井の奴、人類が滅ぶ夢を見たらしい。全く同じ内容だって」


 人類が滅ぶ夢……それって。


 「最後の審判?」


 多分。そう肯定して光太郎が頷く。ロノヴェの力で二人は予知夢のようなものを見ているのだろうか。それとも別の何か……でもだからか。さっきの上野の態度、少しだけ最後の方、苛立った感じだった。その夢に今も悩まされてるんだ。


 パイモンが言ってた。最後の審判を防いでも、悪魔の力が消えない限りは上野と桜井はいつまで経ってもその力を持ち続けるって。そんなのあんまりだ、でもこれ以上派手に動くわけにもいかない。これだけ大ごとになってるんだ。


 「悪魔の魔力を消したら、ロノヴェの記憶操作も消える。俺たちの事も知られちまうんだよな」

 「……あーどんどん厄介なことになってる」


 光太郎が頭を抱えて項垂れる。考えなくちゃいけないことが沢山だ。しかもこんな一高校生が手におえるレベルじゃない物ばかり。どれだけ考えても、悩んでも袋小路だ。もしかしたらもう隠れて先に進むことはできないのかもしれない。


 考えても浮かんでこない案にため息をついて、憂鬱な昼休みは終わりを告げた。その先に待っている事態を、その時は何も考えていなかった。


 ***


 ― それを見たのはその日の夕方だった。


 学校帰り、買いたいものがあると言った光太郎に付き合っているとファッションビルに備え付けられている大型のテレビに女子アナが映っていた。いつもここのテレビは音楽番組や新曲のプロモーションが流れていたため何となく珍しく立ち止まって見上げた瞬間、映し出されたテロップを見て驚愕した。


 『今朝、リヒテンシュタイン公国の首都ファドゥーツでイルミナティ幹部を名乗る男性が会見を開き、ヨーロッパ各国が揺れています』


 アナウンサーが淡々とした声色で記事を読み上げた後に、初老の男性が外国の言葉で何かを話している。テロップを読もうと目を凝らした瞬間、後ろで光太郎が嘘だろ。と震える声をあげた。


 「光太郎?」

 「悪魔……ソロモンの悪魔だ」

 「は!?」

 「間違いない、悪魔バティンだ。見たことある。こいつ、お前が地獄に連れて行かれてる時にパイモン達が助けに行こうとしたんだ。その時にこいつが邪魔してきたんだ!」


 初老の男性をサポートするように端正な顔立ちの優男が立っている。こいつが、悪魔バティンなのか!?そちらに目を奪われたせいで何を言ったかは分からなかったが、映されているテロップを見て、絶句せざるを得なかった。


 ― 我々はイルミナティ。世界に変革をもたらす者だ。人類は逃れられぬ。我らイルミナティに手を貸し、悪魔との共存をはかるべきだ ―


 なにを言ってるんだ、このおっさんは。本気で言ってるのか?

 しかし衝撃はそれだけではなかった。


 ― 今、私の後ろにいるこの男こそ、ソロモンの悪魔バティン。変革をもたらす悪魔だ ―


 光太郎が言った通りだった。こいつが悪魔バティンだ。あまりにも突拍子のない発言に通行人も立ち止まり、ちょっとした渋滞になっている。


 本気で言ってんのか?人間の世界に、こんなにも堂々と出てくんのかよ!?ざわつく通行人にテレビの声は掻き消されていく。しかしおっさんがバティンの名を呼んだことで、後ろに控えていた奴が前に出てくる。


 おい、冗談だろ……


 ― 初めまして、と言うべきなのかな。随分と僕たちも有名になってしまったようだから、隠れるのは止めにすることにしたんだ。僕の名はソロモン七十二柱が一角バティン。信じる信じないは自由だが、今回言いたいことは、君たちからそろそろこの世界を譲り受けてもいい頃だと思ってね。今回この世界は僕たちイルミナティがいただくことにする。悪魔も天使も人間も関係ない、真に混沌の世界。新しい世界の幕開けの発信をここから行いたい。君たちはその目撃者になるんだ ―


 どよめきの中に所々から悲鳴が聞こえてくる。それを見て、今まで疑問に抱かなかった自分が分からない。


 どうして考えなかった?どうして悪魔が大人しくしてくれると思っていた?どうして悪魔が隠れて行動してくれると思っていた?そうじゃないか、悪魔は隠れる必要なんてなかったんだ。派手に動いても問題ないんだ。今までそれをしなかったのはきっとルシファーの命令で他の事をしていたからだ。サタナエルの復活が決まって、あとは開戦を望むだけ。隠れる必要なんてどこにある?


 世界が狂ってしまえば、こいつらだって動きやすい。大量の人間を殺すことだってできるだろう。


 足が震えて、呼吸が荒くなっていく。


 「……もう、終わりだ」


 光太郎の呟きが現実味を帯びる。終わりなのかもしれない。もう隠していくことはできないのかもしれない。


 だって相手はもう表立って行動する気なんだ。


 頭がくらくらして、寒気とは別の意味の悪寒が体中に襲い掛かる。そして新しいテロップが表示された。


 ― 最後の審判はまもなく開廷する。今日からはその前哨戦になるだろう ―


 人間対悪魔対天使……いや、人間は一枚岩じゃない。イルミナティとエクソシスト、そして世界中の軍隊、全部が対立している。こんなの、どうやって防げって言うんだ。


 バティンが話し終わったと同時にアナウンサーに再び映像が戻る。


 『リヒテンシュタイン公国は個人の発言との解釈をしておりますが、ヨーロッパ周辺国は非難の声明を送っています』


 各国の大統領が批判の言葉を述べている映像に変わる。でももうこうしてはいられない。


 「光太郎、行こう」

 「うん……」


 これから、どうなっちゃうんだろうな。俺たち ――


 ***


 ?side -


 リヒテンシュタインは大混乱に陥っていた。今回の発言は国営放送の重臣でもあった人間の発言であり、個人的発言とは言えあまりにも不吉な予言のようなものに批判の声が後を絶たなかった。しまいには暗殺するといった脅迫文まで送られ、放送局は対応に追われている。


 その光景を眺めて男は笑った。愉快そうに。


 『これからが楽しいのに、何をそんなに怯えているんだろうねマルバス』

 『……まさかここまで大それたことをするとは思っていなかった』

 『宗教てすごいよね。ものすごい額のお金が動くんだ。寄付金って形で。国営放送を買い取るなんて訳のないことだ』


 バティンが本格的に動き出したことにマルバスはため息をついた。確かに自分たちが隠れて泳ぎ回る必要がなくなったとはいえ、この男のやることは心臓に悪い。だが誰もが認める切れ者であるバティンには考えがあるはずだ。それをマルバスが理解することはできないが。


 『ここを拠点にするんだ。僕たちイルミナティの……いや、生き残った人間たちの拠点に。人類が再び繁栄を築きあげればいいさ。僕たち悪魔が作り上げた人類が』

 『それはルシファー様の意向か?』

 『ああ、人間は滅ぶ必要はない。だってそうだろう?僕たちが殺したいのは天使であって彼らではない。だから生き残ればいいんだ、強い者は生き残る。それでいいじゃないか。それこそが悪魔との共存だ。できないとは言わせないよ』


 無茶苦茶な回答にマルバスは今度こそ頭を抱える。人間と共存?そんなことはありえない。どう抗っても悪魔に勝てるはずがない。ジリ貧になって滅んでいくだけだ。


 『この世界は至極明快にできているはずなんだ。力ある者が勝つ。それは頭脳でも力でもなんでもいい。好きに生きればいいんだよ。マルバスは見てみたくないか?新しい世界を』

 『……人間が生き残れるとは思えないが。ここでお前が保護でもするつもりか?』

 『まさか。自分の身くらい自分で守ってもらわなきゃ。でも生きる選択肢を与えるだけ僕は寛大だと思うけどね。無駄な殺戮は好まないんだ』

 『審判前にはしゃぐ必要などないだろう』


 どうせ近いうちに全ては終わってしまうのだ。こんなに早く真実を知らせる必要はない。混乱に陥った世界で生きていく面倒さを知っているくせに、なぜまたこんな大それたことをしたのか。やっとイルミナティという組織を牛耳り、隠れ蓑として今まで活動していたのに。今回の件でこの場所も安全ではなくなる。いつ指輪の継承者が攻めてきてもおかしくない。


 『安全な場所なんて求める必要ないんだよ。なぜ僕らも彼も隠れる必要がある?継承者は称賛される立場なんだ。人類の希望なんだよ?表舞台で華を持たせてあげなくちゃ可哀想だろう』

 『ふん、祭り上げられて捨てられるだけさ。多少同情はしてやるがな』

 『それならばそこまでのこと。世界が滅ぶのに、隠れて安全に事を行おうなんて馬鹿馬鹿しい。祭りと戦は派手にやるものなのだから』


 今度こそ根絶やしにしてやる。今までの歴史全てを覆して、新たな歴史を始めて見せる。次の世界ではミカエルを殺すルシファーの絵が描かれるだろう。それが新たな世界での常識になる。神や天使にこの世界は相応しくない。いつまでも、己が最上位であると思うな。


 足元はいつだって掬われるのだ。



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