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第52話 愛を知らない人

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 頑張っても頑張って一つ失敗すればすべてが壊れていく。手をあげる自分より大きな大人に必死に謝罪して許しを乞うも、目の前の大人は怖かった。でもその後に泣きながら頭を撫でられて抱きしめられるのだ。そのたびにまた一つ、自分を嫌いになっていく。自分は優しい両親を悲しませている悪い子供なんだと ―― 


 夢の中の子供はいつも泣いていた。


 その先にいたのは子供よりも大きな大人。男女一人ずつ。二人は子供に手をあげて髪の毛を引っ張って引きずり回した。泣けばさらに叩かれる、それでも学習せずに泣き続ける子供に大人はさらに金切声をあげて顔を殴った。大人たちがいなくなって一人で泣く子供に近づいた。可哀想なこの子供に真実を教えてあげよう。


 「泣いたって誰も助けてなんかくれないんだよ」


 子供は涙で腫らした目を大きく見開いて再び涙を流した。口は切れ、鼻血も出ていた。瞼は殴られたせいで真っ青に膨れ上がり、もう片方の目とは対照的に半分も開く事ができていない状態だった。


 「だから笑えばいいんだ。笑ったら殴られないよ。面白くないからね」


 そう教えてあげれば子供は不細工な顔を更に引きつらせて、これまた不細工に笑った。


 歯がカタカタと鳴り、ブルブルと全身が震えている。下手くそだな、俺だったらもっと上手く笑えるのに。大丈夫、自然に上手くなるさ。


 後はその情けなく開いている口を閉じて口角をあげさえすれば……ほら、とてもいい子に見える。



 52 愛を知らない人



 壊された人形を抱きしめて泣き続けるフェルプスさんを慈悲深い目でオリアクスは見つめている。しかしその表情には同時に凶器が宿っている気がして息を飲んだ。


 『可哀想ナフェルプス。私ガマタ貴方ノ為魔法ヲ与エテアゲマショウ。愛ヲ知ラナイ哀レデ可愛イ私ノ子』


 オリアスクはこっちを見向きもしないで二匹の蛇がついた杖をこちらに向けると、散らばっていた人形がまるで人間の様に自分の力で起き上がった。なんだこの人形は?フェルプスさんの家族構成とは一致しない人形たちだ。だけどフェルプスさんが抱きしめている家族の人形と似ている。


 「なんだよこれ……なにこれストラス」

 『恐らく家族の失敗作の人形でしょうね。オリアスクは戦いに特化した悪魔ではありません。すぐに事は済むでしょうが、あの人形たちは嫌な予感がしますね』

 『情に訴える奴のいつものやり方だ。気にくわないな』


 パイモンが剣を握りしめて人形を破壊していく。悪魔が作り出したとは言え、戦う力を持たない人形はパイモンにとっては相手にもならないみたいだ。バラバラに砕け散った人形が床に落ちていく。人形が壊されているのにフェルプスさんとオリアクスはこっちを見向きもしない。


 でも危なげないな。これなら今回はパイモンが簡単に悪魔を倒してくれるだろう。強そうな見た目の割に弱いらしいオリアクスがパイモンに敵う訳がない。今回は契約者のフェルプスさん以外は楽勝っぽい。


 そう思ってパイモンが戦う姿を見ていたら、一瞬何かが横ぎった。それが人の姿に見え目をこすったけど、再び横切ったそれに見間違いじゃないと確信した。


 「ねぇフェルプス、私貴方の事好きよ。貴方が人形と一緒に踊っている姿がとても好き」

 「違う、僕は人に愛される人間じゃないんだ。パパとママも僕を愛してくれなかった」

 「そんな事ないわ。天国のご両親はきっと今の貴方を誇りに思っているわ」


 泣いているフェルプスさんを抱きしめている女性はまるで母親の様にあやしている。その女性の腕の中で子供のように泣きじゃくるフェルプスさんが視界に入った。


 この光景は一体……


 パイモンがもう一体の人形を壊すと更に新しい映像が目の前に現れていく。幼い子供二人が何かを見つめている映像だった。


 「パパとママ、動かないね」

 「うん、おじいちゃんとおばあちゃんが言ってた。もう動かないって。喋らないし食べない……叩く事もないって。ごめんねって泣きながら謝ってたけど俺、パパとママがこのままでもいいって思うよ」

 「……なんでお兄ちゃんはそう思うの?」

 「だってほら。俺、パパとママの顔に初めて触れた。こんなこと今まで出来なかったよ。動かなくなったから今なら好きだって言っても信じてもらえると思う」

 「……そうなのかな」


 会話からして祖父母が口論の際に殺してしまったフェルプスと弟ジョセフの父親と母親なんだろう。両親が入った棺の前で二人は両親が亡くなったにしては余りにも感情のない静かな口調で会話をしている。淡々と語るフェルプスさんの目はどこか嬉しそうだ。この時からフェルプスさんの中の崩壊は始まっていたのかもしれない。死体しか愛せないって言ったフェルプスさんの原因は両親の死なのかもしれない。


 パイモンが四体目の人形を破壊すれば子供が産まれたフェルプスさんと奥さんのジャンヌさんが映像で映し出された。とても嬉しそうだけど、その目は不安で揺れている。


 「子供はとてもかわいい。でも僕は父親になれる自信がないよ」

 「そんなことないわ。貴方はとても優しい人よ」

 「違う、君は本当の僕を知らないだけだ。僕は普通の人間と違う。可笑しいんだよ」

 「フェルプス……」


 フェルプスさんはこの頃までは自身の死体愛好家を認めたくなかったんだ。会話から自身を責める発言が節々に見て取れた。展開が読めてきた。これ以上は駄目だ、これ以上壊して行ったら壊れていくフェルプスさんが見えてしまう気がする。


 パイモンが剣を振り上げた瞬間、考えるよりも先に声が出ていた。


 「止めろパイモン!」


 俺の声に反応したパイモンが咄嗟に剣を振り下ろすのを止めて距離を取る。その目はなぜ止めるんだと言うような困惑と少し苛立ちが見え隠れした。オリアクスは動きの止まったパイモンを見て不気味に笑っている。


 『アラアラ、貴方ホドノ方デモ契約者ノ一言デ動キヲ制限サレテシマウノデスネ』


 返事をしないパイモンを気にもせずオリアクスはケタケタと笑っている。


 『不思議ダワ。一ツ壊レルト残リノ物マデ全テ壊レテイク。私ハ彼ノソノ儚サガトテモ好キナノ』

 『微塵の興味も湧かないな』

 『ソウカシラ?興味深イワヨ』

 『それこそ俺の知った事ではない。御託はいい。貴様をここで切り捨てる』

 『私ヲ殺セバ、フェルプスハ一人ボッチ。貴方ノ契約者ハ偽善デ他人ヲ傷ツケル人間ノヨウネ』

 『……もとよりそいつは一人だろう』


 吐き捨てるように呟いた言葉が答えだ。パイモンは全て切り捨てる気なんだ。この悪魔も、人形も、フェルプスさんの葛藤も……それがいいことか分からない。でも同情は自分も相手も苦しめる。そう言われたからこそ、深く関わってはいけない。現にフェルプスさんは人を殺したんだ。どんなに自分の性癖に困惑したって、悩んだって葛藤したって、してしまったことは変わらない。それを同情で許しちゃいけないんだ。でも、でも……


 次の人形が壊される瞬間は目を瞑ってしまった。きっとこの先は、全てが壊れる瞬間だ。


 『見テミナサイヨ。全テヲ受ケ入レルノヨ。ソシテ考エナサイ。貴方ノ存在ノ矛盾ヲ』


 導かれるように瞳を開ける。その先の光景は想像通りだ。ぐったりと動かない小さな女の子を抱きかかえて泣いているフェルプスさんが映っている。


 「やっぱり、俺は異常者だったんだ。ルーティ、ルーティ!」


 泣いているフェルプスさんの目は狂気に歪んでいる。口では後悔しながらも心から湧き出る喜びを抑えきれない様子だ。そしてそんな自分に絶望している。


 『これが始まり……この後から、か』


 これ以上は見たくないとでも言う様にセーレの呟いた小さな声はフェルプスさんの泣き声で掻き消されていく。何も言葉を発することができない間にパイモンはオリアクスに向かって剣をふるった。それは結界に阻まれて相手に届くことはなかったが、オリアクスは苦々しげに宙に浮きあがり訴えかける。


 『貴方、綺麗事バカリネ。辛ソウナ顔ヲスルノニ、己ノ行動ヲ正当化シテ彼ヲ傷ツケルノ』


 だって、悪魔がいるのは悪いことだ。こいつはフェルプスさんを助長させている。だからこんなことになったんだ。


 『坊ヤ、人間ハネ。一度忘レラレナイ辛イ経験ガアルト、一生ソレニ縛ラレテ生キテイクノ。ソシテソノ相手トノ絆ガ深ケレバ深イホド、イツマデモ思イ出ス。忘レルナンテコトハナイノヨ。前ヲ向イテ生キルナンテ言ウノハ唯ノ強ガリ。ソウシナケレバ、コノ残酷ナ世界ハ同情ト言ウ刃デ一生心ヲ切リ裂キツヅケルノ』

 「でも、フェルプスさんのしたことは許されない!」

 『幸セノ中ニ居テモ、イツカハソレガ壊レルコトヲ常ニ恐レテイル。ダッテソウヨネ、幸セガ続イタコトガナインダモノ。ソシテ覚悟ガデキテイルクセニ、不意ニ訪レル悲シミを憎ミナガラ生キテイクノ』


 騙されるな、同情なんてするな。だからなんだ、フェルプスさんの理由なんてくだらない。トーマスのように全うに生きる道を閉ざされたわけでもないのに、自分を救ってくれる存在がいたのに、勝手に自分から壊したんだ。フェルプスさんが、悪いんだ。

 こっちの戦いなんてまるで興味ない様に人形を抱きしめて泣き続ける姿がなんだって言うんだ。


 『話の途中で失礼だが、そろそろ終わらせたいんだが』

 『逃ガシテハクレナサソウネエ』


 残りの人形も破壊したパイモンがオリアクスに剣を向ける。どうやら本当に戦闘には不向きな悪魔であることは間違いなさそうだ。とりあえず悪魔はパイモンに任せて、ストラスと一緒にフェルプスさんの元に向かう。

 いつまでも泣いてんじゃねえよ……そんなに泣くぐらいなら、なんでこんなことしたんだよ!


 「全部、あんたがやったことじゃないか。泣くぐらいなら、最初からするなよ!」


 本人を目の前に冷静でいられない自分は結局話を伺うどころか責め立てるような言い方になってしまった。泣いているフェルプスさんの肩が跳ね顔をあげる。それはあまりにも青年である男性がするに相応しくなくて、あげた顔には涙と笑みがこびりついている。泣いているくせにあまりにも綺麗に笑う姿に背筋が凍っていくのを感じた。


 「貴方の過去は知ってます。でも泣くのは筋違いだ」


 不気味に愛想笑いを浮かべているフェルプスさんを切り捨てるように非を投げつけても表情は変わらない。笑ってその場を誤魔化そうとしているんだ。それに酷く苛立って拳を握り締めれば、笑みはさらにいっそう深くなる。媚びるように笑みを向けてくるフェルプスさんは完全に捕食者の立場だった。


 あんたの家族だって生きたかったんだ!なのにそれを奪われた。自分を守ってくれると信じていた人に。それがどれほどの裏切りかなんて、頭の可笑しいこの男にはきっとわからない!


 「繰り返してるだけじゃないか。親にされたことを……家族にしたんだ。最低だよ」


 ストラスが訳した俺の言葉にフェルプスさんの表情が初めて変わった。笑みは消え、驚愕が全てを占めているように感じる。何を驚くことがあるのかは分からないが、間違ったことなんて言っていない。虐待をされた過去を持つのに、家族を虐待して殺したようなもんだ。それが葛藤の中にあっても、どれだけ苦しんでも、結局その道を選んだんだ。逃げる方法なんてきっとあったのに。


 「なんで、こんな事になる前に……逃げなかったんだよ」


 家族からの虐待が怖いなら逃げればよかったんだ。弟を連れて。祖父母に守ってもらえばよかったんだ。両親が戻って来いって言っても、戻らなければよかったんだ!確かに俺はこの人の悲しみなんて分からない。だから逃げればよかったとしか言えない。結果論なんて、外野が言っても意味なんてないのに。


 俺の問いかけに動揺しながらも首を横に振ったのが理解できなかった。悲しくないんだろうか。実の親に虐待される日々は……なのになんでそんな笑っていられるんだ?そいつの体には目に見える部分だけでも数か所のアザみたいなものがある。もしかして虐待の痕なのかもしれない。未だに黒く残っている痕は過去を思い出させるには十分なのかもしれない。


 でもどうしてこうなる前に逃げなかった。助けを求めていれば……


 後ろからはオリアクスの小さな悲鳴が聞こえてくる。きっともうすぐカタはつくはずだ。


 「どうして……悪魔なんかと契約する前に助けを求めたり逃げたりしなかったんだよ!?」


 俺の訴えにそいつはきょとんとした顔をしている。でもその後に、何かを懐かしむ様に再び笑みを浮かべた。一体何が楽しいんだよ。


 「(どうして、助けが来ることを期待してる?そんなこと、考えもつかなかったよ)」


 耳を疑った。考えつかなかった?助けを求める事を?逃げる事を?そんな馬鹿な。

 信じられない俺を前にそいつはポツポツと語っていく。


 「(全く想像もしなかった。ガキの頃から殴られたりするのが日常だったから。三歳から躾と言う名の虐待が始まった。でも気付かなかったよ、無理もないだろ。三歳が知ってる大人なんて親ぐらいなもんさ。それが可笑しいなんて気付かない)」

 「でもっ……」


 だからって許される訳じゃない。こいつがした事は犯罪だ。

 家族を殺して死体で両親を作り上げて理想の家族を演じるなんて……


 「(子どもなんてさ、大人が思ってるよりも単純な生き物だ。十回殴られたって、その後一回褒めたり抱きしめられたりしたら錯覚する。自分が悪かった、両親は自分を愛してるんだって)」


 全ての常識が覆されたように感じた。いや、俺が理解してなかったのかもしれない。虐待なんて受けた事なかったから……何で他人に助けを求めないんだ?そう切れたって、幼い頃から日常だったこいつからしたら、それは可笑しなことではなく普通の事だったんだ。


 逃げようなんて考え自体が浮かばないんだ。膝をついた俺にそいつは悲しそうに視線を伏せた。


 「(両親が死んだ時、悲しみと同時に喜びが湧いたよ。もう殴られないで済むって。あれだけ怖かった両親の顔が愛しく見えた。触れてもぶたれない、何を言っても罵倒されない、やっと理想の両親を手に入れたと思ったよ)」


 火葬されて残念だったなあ。あれは手元に置きたかった。未だにそんな事を言うフェルプスさんは本当に精神的に異常者だ。


 「(それからだな、死体しか愛せなくなったのは。だって生きていれば体は動くし、口は喋るだろ?動かなくなったら、何もされやしないのに。だから決めたんだ、次の死体は永遠に俺の手元に置こうって)」


 その言葉で全てを理解した。フェルプスさんの時間は幼い頃で止まってしまったんだ。両親の虐待から解放されたあの日から。自分を罵倒し暴力を振るってくる両親。怖いと思いながらも愛していた両親が死んだ日にフェルプスさんの感性は完全に歪んで狂ってしまったんだ。愛していた両親が屍になった姿を見て、死んだ人間なら自分に暴力も暴言も吐かない、そう思ってしまったんだ。


 だからフェルプスさんは自分の奥さん、二人の子供、弟……自分の愛してる人たちをその手にかけた。それは幼い頃に植え付けられた恐怖から逃げるための唯一の方法だったんだ。動かなくなった家族を一方的に愛する。拒絶もされない、それがフェルプスさんの幸せだったんだ。


 全て、あの日から何もかもが歪んでしまって……


 「でも、それは可笑しいことだ」

 「(だから君がここにきてる。それが答えだ。俺の感性では、どうもこの世界を生きていくのは難しいみたいだ)」


 ― そんなこと、とっくの昔に知っていたのにね。


 そう言って再び笑うフェルプスさんに何も言うことができなくなった。瞬間に後ろでひときわ大きな悲鳴が聞こえて振り返ると、オリアクスを仕留めているパイモンの姿があった。


 『拓也、召喚紋を描きましょう』

 「……うん」


 ストラスに言われるがまま、浄化の剣を出し、召喚紋を描いていく。フェルプスさんはオリアクスを見ても何も言わない。苦しそうに呻いていても、助けを求めても。


 「ストラス、これからフェルプスさんどうなっちゃうのかな」

 『そうですね。彼があの様子では……再犯の可能性は高いと思いますが』


 確かに更生できる気がしない。このまま見過ごして帰るわけにも……


 召喚紋が描き終わるのを確認してセーレがフェルプスさんを立ち上がらせてこちらに向かってくる。今の所、抵抗する様子はない。召喚紋の前に立ったフェルプスさんはオリアクスの前に契約石を丁寧に置いて、無言で見つめていた。


 『(フェルプスさん、今から彼女を地獄に戻します。儀式が必要になるのでご協力を)』


 息も切れ切れなオリアクスが抵抗する様子はなく、フェルプスさんも黙って従う。どんどん薄くなっていくオリアクスを見て、フェルプスさんの笑みが少しずつ深くなっていく。


 「(君の人形、欲しかったなあ)」

 『(残念ダワフェルプス。貴方を独リニシテシマウ。貴方ノ魂ハ手ニ入レタカッタノニ)』


 寒気がするような会話をした後にオリアクスは消えて行った。残された俺たちの間には静寂が漂う。


 『(これから、どうするおつもりです?)』


 ストラスが少し棘の含んだ言い方でフェルプスさんに問いかける。壊れた人形の破片を大事に拾い上げ、人形の残骸が広がる部屋を見渡している。


 「(……どうしようかな。まだ、最後の人形は作れていなかったのに)」


 フェルプスさんの視線の先には壊れた人形と、これから仕上げていくつもりであったんだろうパーツが転がっている。髪の毛を構成する糸の色はフェルプスさんと同じ色だ。まさか、この人正気か……?


 「(最後に俺が入れば、理想の家族だったのに)」


 セーレのため息が聞こえる。思わず発しそうになった言葉を飲み込んで踵を返す。俺にできることは何もない、この人を救うには余りも部外者で、余りにもこの人を知らなすぎる。でもこの人のせいで他に犠牲者が出ることは許せない。だけど、それを咎めることも警察に通報することもできない。それがどうしても許せない。


 「悪魔を倒したのに、なんでこんなに胸糞悪いんだよ」


 肩にいるストラスにはこの言葉が聞こえたようで、耳に温かい羽毛が当たったことでストラスの身体が傾いていることを感じた。パイモンが舌打ちをしてセーレに帰る事を促し、後ろ髪を引かれるように家を出て振り返る。もう二度ときたくない、こんなところ。


 広いのどかな田舎町で、その家だけまるで絵本から切り取られたかのように酷く浮き出て、まがまがしく見えた。


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