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第4話 殺戮ショー

 「ストラスどう思う?どうやったら本人に会えんのかな?住所とかも全く分かんないし」

 『そうですねぇ……』


 夕飯前にストラスとダベっているとニュースで中国の火事の事件が大々的にピックアップされている。そしてアナウンサーが読み上げた原稿はこうだった。


 『無罪を言い渡された“(ヤン) 昌華(チャンホヮ)”氏が昨晩記者会見を行いました』

 「これだ」



 4 殺戮ショー



 テレビに映ってるのは昨日俺達が調べに行った中国で噂になっていた青年だ。中国では有名な大学に在学してるらしく、家も金持ちの様だ。確かにそんなエリートが火災事件を起こすとか、端から考えたら信じられないけどな。

 テレビには記者会見の様子が映っており、弁護人に囲まれて本人が中国語で何かを話している。


 「安全地承认起诉事实你。(検察が真実を認めてくださり安心しています)我的评分下降了诬告据报道,但它不会回来了。(しかし無実の罪で報道された事により落ちた僕の評価は取り戻すことはできないでしょう)」


 日本語に訳された文が画面の下の方に出てきてそれを読みながら、涙ながらに語る楊さんを見てると可哀そうになってくる。本当にこの人は違うんじゃないかな?パイモンも間違ってるだけの様な気もするけど……

 でもストラスは眉を顰め、不快そうな表情でテレビを眺めていた。なんだよ、お前まだ疑ってんのか?可哀そうじゃねえか。


 「不細工な顔になってんぞ」

 『失敬な……貴方には言われたくない。やはり拓也、契約者はこの男でしょう。間違いありません』


 なんで断定できるんだよ。ってか今、俺のこと遠まわしに不細工って言っただろ!?そう突っ込めばストラスは不細工発言は華麗にスルーしてテレビを見ろと催促してくる。調子のいい奴め……

 映ってるのは楊さんの弁護人が事情を説明している所だった。短髪でガタイのいい若い青年だ。歳も見た所三十代前半くらいだろう、あれだけ死者が出た放火事件を担当する弁護人がこんな若い奴に務まるのか?いや別に悪いってわけじゃないんだけど、日本ではこういうインタビュー受けてる弁護士って年取った経験豊富そうな人ばっかだからさ。


 『この青年は悪魔アイムが人間に化けた時の姿に間違いありません』

 「……マジで?」

 『えぇ、このように顔がばれる行為をして私達を誘っているのでしょうか』


 でも確かにそうだよな、アスモデウスがいるんだ。向こうだって下手な事はしてこないはずなのに、こんな中国全土だけじゃなく、日本にまで顔が割れる事をして俺達が来るのを狙ってるのか?それとも指輪の持ち主ってヨーロッパとかアメリカ人だと思われてんのかな。あっちではこの事件はニュースになってないかもだし。

 過去にスイス人と契約していた悪魔ザガンみたいに俺達から仕掛ける為の挑発をしてるのか?どっちかは分からないけど、とりあえずパイモンに連絡した方がよさそうだ。

 ポケットから携帯を出し、新しくしたせいで、まだ慣れない手付きで相手を探す。マンションにかけた電話は数コール目で目的の人物につながった。


 『はい』

 「あ、パイモン?拓也だけど……今テレビで昨日調べた中国の事件が映ってんだけどさ、4ちゃんで」

 『それならばもう見ました。昨晩youtubeにアップされてましたからね』

 「は、早いな」

 『ひがな一日パソコンで調べてばかりいれば、情報など早く手に入りますよ』


 それもそうか。じゃあやっぱパイモンも知ってたんだな、ストラスがこう言ってるんだ。パイモンも怪しいって思ってるに違いない。案の定、パイモンはストラスと同じ事を思ったらしい。あの男は悪魔アイムが人間に化けた時の姿で、俺達を挑発しているのかもしれない。

 その時、テレビに映っていた弁護人が苦笑いしながら記者に向かって言葉を放った。


 「我有我的正义斗争。(私は私の正義の為に戦っている。)谁不明白,但永远不会知道。(しかし分からぬ者には絶対に分からないでしょう。)正是在这种照片棚,我可能属于受害者,我将准备临谁烧掉。(この映像が流された事で、私に火の粉が降りかかるかもしれませんが、私はその者たちを正義の炎で焼き尽くす覚悟で臨みたいと思います)」

 『あからさまな私達に対する挑発ですね』


 ストラスがため息をついて画面を眺めている。俺もボーっとそれを見てたから、パイモンに声をかけられて慌てて携帯に耳を傾けた。パイモンが言うには今は楊さんの警護が厳しいみたいだから、しばらく様子を見た方がいいって言ってる。まぁたしかにそれもそうだ。


 それに返事をして通話を切った。ニュースはもう国内の物に切り替わっており、コメンテーターが可愛らしい動物の映像を微笑ましそうに眺めていた。


 そしてそれから一週間後、事件が起こった。

 

 また市街地の高校で火災が起こったのだ。死者は三十人を上回り、学校は校舎が全焼し、とてもじゃないが授業などできない状態だ。火災はいまも鎮火しておらず消火活動が続けられているようだ。この短期間で似たような事件がまた発生した事で、中国警察も犯人は同一人物だと見てるみたいだ。


 でも問題は楊さんはアリバイがきちんとあるらしく、彼が犯人から完全に除かれたらしい。その時間帯は大学にいたようで、彼と一緒に授業を受けていたことを学生が証言し、教授も出席をしていることを報告した。


 楊さんはこれで完全にノーマーク状態になってしまったのだ。


 「ストラス……」

 『可能性は高し、ですか。やれやれ、全く派手にやってくれますねぇ』

 「やれやれじゃねえだろ。こんだけ被害出てんのにどうすんだよ」


 既に百人以上がこいつに殺されてるんだぞ。頭おかしいだろこいつ。会話をしながらとりあえずマンションに向かった。マンションでは事態を既に知っていたパイモン達が深刻な顔で話をしていた。

 このままでは被害は広がる一方で、一刻も早く悪魔を倒して地獄に戻さなきゃいけない。


 「主、今日ケリをつけましょう。この男を野放しにしておくのは危険です」

 「分かった。じゃあ早速行くのか?」

 「……そうですね」


 パイモンはアスモデウスに視線を寄こしたが、すぐに逸らした。どうやら今回アスモデウスを連れて行く気はなさそうだ。まぁ澪もいないし仕方ないよな。光太郎もいない状態だからシトリーも向かえない。


 悪魔は契約した人間と一定距離を離れると行動が出来なくなる。悪魔と契約するのには契約石って言う悪魔がそれぞれ持っている宝石を譲り受けたら契約成立で、後は契約内容や等価交換の内容が決められる。


 その契約石って言うのは悪魔の心臓で、悪魔が人間の力を借りて現世に留まるのに必要な行動力のエネルギーを契約者から採取する役割を持っている。そのエネルギーで悪魔は行動が出来るようになる。


 でも今回みたいに外国に向かうときに契約者がいない場合はエネルギーが届かなくなってしまう。届く範囲は大体東京-山口間程度の距離のようだ。その事から結局俺とパイモンとセーレ、ヴォラクで向かう事にした。


 ヴアルは見送る為にベランダに出て手を振る。それに振り返して俺達は中国に向かった。


 「行っちゃった……」


 ***


 中国では騒ぎの的になっており、捨てられた新聞の見出しに火災の記事が載っていた。


 「パイモン、どうするんだ?どうやってそいつに会うつもりなんだ?」

 「こいつは大学生だとテレビで言っていました。大学に向かえば会えるかもしれません。幸い北京大学だと言うことも割れています。無罪釈放されているので、今は行動制限もないようですし大学に通っているようです」


 流石に無罪と言い渡された後で報道陣も騒ぐ気がないのか、大学は整然としていて大きな騒ぎが起きている様子は無い。生徒達がちらほらと歩いているけど多くは無い。これなら普通に中を歩いても平気そうだ。

 大学の門をくぐり、楊さんの居場所を聞く為に、セーレ達が適当に歩いている男を捕まえて中国語でそいつがどこにいるか聞けば、最初は学部が違ったり、楊さんでも別人だったり、当てにならない情報だったけど、聞いて行くうちに段々信憑性の高い物になっていく。


 「噢,他会那么就不得不会议室。我从每个人,但他也可能会被退回。(あぁ、あいつならさっきゼミ室にいたぜ。でも皆帰ったからなぁ、もしかしたら帰ったかもしれない)」

 「谢谢。(有難う)」


 セーレが頭を下げてこっちに向かってくる。どうやら何か分かったみたいだな。


 「あいつなんて?」

 「ゼミ室にいたってさ。場所も教えてくれたけど、でも俺達が中まで入れるのかな?」

 「大丈夫だろ。日本の大学だって中入れんだしさ」


 ゼミ室まで行っていいか分からないけど、セキュリティーだって厳しくないんだ。入るくらいはできそうだ。


 俺達はセーレが教えてもらった場所に向かって歩き出した。流石にヴォラクとストラスがいるせいで周りの目が少しだけ痛かったけど、どうせもう二度と会わない奴らだしな……うん、なんて思われてもいいや。そう思わなきゃ、この視線に萎縮しちゃいそう。


 大学の中は授業が終わったのか授業中の時間なのか分からないけど、中を歩いている生徒は少なく、少しだけ安心する。


 向かった先のゼミ室は電気がついており、もしかしてあいつがいるのかもしれないと思うと緊張してしまう。


 息を飲んだけど、ハッキリ言って恥ずかしくてドアを開けたくない。もしお目当ての奴がいなくて知らない奴だけだったら、なんて言って扉を閉めようか。


 グルグル頭の中を回しているとかすかだが声が聞こえた。あんまり壁は厚くないのかもしれないな。


 「(最高。今回も上手くいったな。映像見て笑いそうだったよ)」

 「(お前も今回でアリバイは完全にできたからな。もう疑われやしねえよ)」

 「(まあな。ただ、一旦ここでお開きにすっかな。俺も就活の準備始めなきゃいけねえからな、また憂さ晴らしにしたい時にするさ。こんなに気持ちがいいと思わなかったぜ)」

 「(お前が望むならいくらでもしてやるさ。魂が集まってこっちも願ったりだ)」


 ストラス達の表情が変わる。パイモンがいきなりドアの取っ手に手をかけて、勢い良くドアを開けた。

 ビックリしてるのは俺も同じで、相手もかなり驚いた顔で俺達を見ていた。でも悪魔とストラス達が指摘した男の方は、目の色を変えて睨んでくる。


 「有人吗?(誰だ?)」

 「什么是您处理的恶魔。(やはりお前が悪魔と契約していたんだな)」


 パイモンが中国語で何かを告げれば、青年の楊さんは面白可笑しそうに笑った。なんだ?なんで笑ってられる?

 真実だったならば青ざめてもいいはずだ、嘘だったとしても見知らぬ人間にいきなりこんな事を言われて取り乱すはずだ。なんでそんなに落ち付いていられる……


 「是你是你说什么?这是在这个世界上没有魔鬼。(あんた何言ってるんだ?悪魔なんか信じてんのかよ)」

 「不撒谎。撒旦被认为是下一个家伙。(くだらない嘘はつくな。隣の男がアイムだと言うことは既に分かっている)」


 ヴォラクに小声で訳してもらい、目の前の楊さんに改めて視線を送る。楊さんは笑ったままの表情を崩さない。

 でも今までよりもずっと低い声でパイモンに問いかけた。


 「你是谁?(てめえ誰だよ)」

 「我问隔壁的家伙。(隣の男に聞けばいいだろう)」


 楊さんは隣の男に何かを聞いている。間違いない、ニュースに出てた弁護人だ。でもなんで弁護人が大学の、しかもゼミ室に入り込んでるんだ。普通そこまでしないだろう。だから怪しいんだけど……

 楊さんはそいつに何かを聞いた後、少し驚いた顔をしたけど面白そうに再び笑いだした。だから何がそんなに可笑しいんだよ!


 「哦,对了,或者你的戒指的继承者。我不喜欢日本人。(あーそっか、お前が指輪の継承者って訳か。よりによって日本人かよ)」


 何か今俺を見て馬鹿にするような事言わなかった?中国語は分かんないけど、なんだか気分が悪いぞ。その時、扉が不意に閉められて俺達は閉じ込められてしまった。やっぱりこいつが悪魔と契約してたんだ!となると、横の男がストラス達が言っていた悪魔アイムって奴だよな……


 「我应该已经找到了杀害。我想回家。(見つかったからには殺しちまおうぜ、行こうアイム)」

 「想要离开。(望みのままに)」


 アイムが悪魔の姿に変わる、その姿はストラス達が言った通り、首元からは猫が繋がっており、左手の腕から先は蛇が生えていた。

 残った片方の手に炎が燃え盛る松明を持っている、本当に化け物の様な姿だ。


 『待ってたんだよ、お前をな』


 アイムが松明を俺に向けて来る。なんだか怖くて慌ててセーレの後ろに隠れてアイムの言葉に目を丸くした。

 待ってた?まさかまた俺を地獄に送るつもりなんだろうか?そんなの嫌だ、絶対に!あんな所に連れて行かれたら今度こそ殺される!

 いつの間にかセーレの服の袖を握りしめ隠れる俺を見かねて、ヴォラクが首をかしげた。


 「まさかまた拓也を地獄に連れていこうって魂胆じゃないだろうね」

 『はぁ?そんな奴もういらねえよ。ただ俺達は天使達の目的を阻止する為に、てめえを探してんだよ』

 「目的……?」

 『てめえが奴らに用済みになる前に殺す必要があんだよ、サタナエル様の為にな。馬鹿な野郎だ……ルシファー様からの寵愛を拒むとはな。てめえが生き残れる唯一の道だったのによ』


 魔王ルシファー、地獄の王って言われていた悪魔。あいつには地獄に連れて行かれた時に会ったことがある。でもあいつが俺を寵愛しようとしてただなんて初耳だな、あいつには拷問まがいなことしかされてないっつーのによ。


 サタナエルの為ということは、やっぱあいつが裏で手を引いてたのか?いや、それ以前にサタナエルはどうなった?最強の悪魔と言われている奴。見た目は小さな子供だったけど、天使達によって水晶の中に封印されていた。まさか俺のせいで目を醒ましたりはしてないよな。


 それを聞きたかったけど、現実は残酷だ。


 先にヴォラクが問いかけて、アイムは笑って返事をした。


 『あぁ、サタナエル様はお目覚めになった。後は自らの御力で水晶を破壊し、復活を遂げる。継承者、てめえは良くやったぜ。本当にな』


 俺のせいで、あいつが目を覚ましてしまったんだ……じゃああいつのペットだった黙示録の獣オーメンも目を覚ましたはず。首が七つもあって角が十一本もある巨大なドラゴン……終わりだ、審判が近付いて来る。俺のせいで皆が死んでしまう。天使と悪魔が次の世界創生をかけて戦う戦争、そして人類の滅亡は確実に迫ってる。


 震えが止まらない俺をストラスが羽を使って頭を撫でるけど、そんなんで落ち付く訳がない。地獄に連れて行かれた時、どうすれば良かった?従っていればよかったのか?いや、逃げなきゃいけなかった、逃げなきゃ俺があそこで殺されていた。


 でも俺が逃げる為に使った力のせいでサタナエルは目覚めてしまったんだ。地獄最強の悪魔が……


 そしてアイムは俺を挑発する為にテレビにまで顔を出したんだ。自分を倒しに来た俺達を返り討ちにする気だったらしい。


 でもアイムは何かを見つけられないのか、少しだけ項垂れた。


 『あーあ、アスモデウスの奴いねぇじゃん。あいつは俺が殺したかったのによぉ、まぁ好都合か……あいつは六大公に任すとするか』


 燃え栄える松明の火は消える事は無い。アイムの後ろではこの状況を理解してるのか、してないのかは分からないけど楊さんがニヤニヤ笑って俺達を眺めていた。

 こんな凶悪な事をして、悪魔と契約までして何がしたいんだこいつはっ!


 「做出最好的表演。让我招待我。(最高のショーに仕立てろ。俺を楽しませてくれよ)」

 『委托我们的主。(任せろ我が主)』



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