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第38話 トーマスを探して

 「その様子だと理解はできているみたいですね。説明の手間が省けましたよ」


 こんな状況でも学校には行かなくちゃいけなくて、後ろ髪引かれる思いで学校に向かい、終業と共に急いでマンションに向かった。


 俺より早く授業が終わっていた澪が真っ青な顔でヴアルと掲示板を覗き込んでいた。掲示板のスレはどんどん進み、俺がマンションにつく間に一つのスレッドが満杯になっているほどだ。


 それだけ今回のあの衝撃的な映像に皆がビビッている事が伺えた。



 38 トーマスを探して



 流石に相手が大物の悪魔だけあって、今回は全員行くことが確定しているため澪も光太郎も来てくれている。


 パイモンが契約者であろうトーマスと言う少年を急いで調べているは、トーマスの画像は中々見つからず、遠目からの映像でしか判断することはできなかった。でもストラスやパイモン達の考えとしては契約理由はどさくさに紛れて逃げるって言うのが大きな理由らしい。やっぱり事件の犯人がトーマスって事はまだ皆知らなくて、この事件が起こった後に抜けた奴らをしらみつぶしに捕まえて探してるって感じなんだろう。


 しかし一般人に対する被害がゼロな現在は内輪もめと言う解釈で、警察官も巻き込まれるのを嫌い、指名手配をしていながらも捕まえる行動は起こしていないらしい。その時点で国としてどうなんだと言いたいが、それだけ脅威なんだろう。


 はやくトーマスを見つけないと被害が拡大してしまうかもしれない……


 「でもメキシコ全土から探し出すなんて無謀だよ……」

 「そうですね、かなりの範囲を探さなければならなくなります。ですが今回、相手の最終目的場所は見当がつきます」

 「最終目的場所……?」

 「これだけの事件を起こして国内に潜伏はしないでしょう。恐らくこの少年は何が何でもアメリカ合衆国に逃げることを最終目的に捉えていると思います。メキシコからアメリカへの亡命は良くある話みたいです」


 アメリカ……トーマスはアメリカに逃げようとしているのか?


 「とりあえず事件が起こった場所からアメリカ合衆国の国境に繋がる道全てをしらみつぶしで探しましょう。相手もアモンをカメラに撮られている……メキシコに長居はしないでしょう。寄り道することもなく真っ直ぐ国境付近に向かってくると思います。ですが国境で待機していてはアメリカ軍に悪魔が目撃される可能性がある……それを避けるためにも国境にたどり着くまでにトーマスを見つける必要があります」


 なんだか凄い展開になっていってる。警察だって派手に動いていないけど、全く動いてないわけじゃないだろうし、数も情報量も圧倒的に警察官の方が上だろう。その警察官たちより先に見つけるなんてできるのかな?


 でも向こうだって必死なんだ。今は一般の被害が出てないけど、自分の邪魔をする奴らは容赦なく殺していくはずだ。その前に何とかしてトーマスを捕まえないと……


 パイモンがパソコンを閉じて立ち上がる。この先の展開はわかってる。


 「日中は恐らく息をひそめているでしょう。相手が動いてくれなければ見つけられない。狙い通り明日の朝六時に向かいましょう」

 「その間に逃げられたりしないかな」

 「公共交通機関は使わないでしょうし、可能性があるのは盗難したバイクや車での移動ですが、高速道路や大通りは警察の張り込みが厳しいようです。下道ならば、恐らくまだ時間はある」


 今日は家に帰った方がいいと言われたけど、この緊張感を家に持って帰ることはできず、光太郎も俺も澪も全員マンションに泊まることを選択した。家族に居てもらうより、皆と一緒にいる方が心強いんだ。

 それに関して、誰も文句を言わなかった。


 ***


 目的の時間になり、日本からメキシコに向かう。辿り着いた場所はメキシコでも北に位置する町だった。比較的アメリカ国境に近い州で、アメリカに近いことからカルテルも多い州らしい。


 そこでも事件はもちろん話題になっており、夜中のこの時間帯は逃げ出したメンバーを恐れた住民たちは誰一人、家の外に出てはいない。比較的広いだろう道路に夜中とは言え、自分たちしかいないのは違和感しかない。


 「じゃあ俺は澪たちを連れてくるよ」


 セーレがそう告げて再び空中に飛び立ち、十分程度はストラスとパイモン、光太郎とシトリーだけで待つことになる。


 不安げにキョロキョロと辺りを見渡す光太郎をシトリーは珍しく茶化さず、一瞬の隙も許さないかのように周囲を慎重に探っている感じだ。今のところは不気味すぎるほど静かと言うこと以外は特に何もなく、深呼吸して隣にいたパイモンの服の裾を掴んだ。


 「パイモン、どうしたんだ?顔が怖いことになってる……」

 「元からこんな顔です。ここから先はわずかなミスが命取りになる。彼らは逃げ出した連中の殺害に躍起になっています。勿論所属マフィアだけじゃない、過去に今回のマフィアに仲間や顧客を殺された別のマフィアも混乱に乗じて動いていると聞きます。そいつらに鉢合わせになるのも面倒だ。トーマスに関しては随分と腕の立つ暗殺者だったようです。余程のことがない限りは殺されることはないでしょう。あいつにはアモンもいますしね」


 そうだよな、トーマスたった一人で壊滅状態に追い込んだんだ。他の所だって他人事じゃない、トーマスが乗り込んでくるのを恐れてるんだ。俺たちがトーマスの仲間だって勘違いされたらこっちが相手にするようなもんだ。そんな危険な事はしたくない。


 俺よりもまだ幼いのに、腕の立つ暗殺者としてしか生きる道のなかったトーマス。そんな人に平和な世界で育った俺の声なんてきっと届かない。他の人にも俺の声は届かなかったんだ。その結果……みんな死んでしまった。


 静まり返った暗闇の中を翼の生えた真っ白な馬が見える。どうやらセーレが戻ってきたみたいだ。澪とアスモデウス、ヴアルが合流して全員が揃った。さて……今からどうやってトーマスを探すのか。


 パイモンは街灯の光を頼りに一枚の地図を取り出した。その地図には赤いペンで丸を付けている箇所が三つある。


 「このペンで印をつけているところがアメリカ国境への最短ルートだ。少なくともテレビに顔が割れているトーマスが公共機関で移動する確率は低い。裏道を通りながら来るはずだ」

 「じゃあ印はなんなんだ?」

 「トーマスを探す方法は正直言ってありません。相手は暗殺者、街の裏道なら知り尽くしているはずです。ですが国境を通るなら避けて通れない道がこの三か所です。この三つの道のどれかを通らなければ国境へは向かえない。ここでトーマスを捕えましょう」

 「でもそれなら警察だってこの三か所はマークしてるはずだろ?立ち入り禁止になるんじゃない?」


 不安げな光太郎が小さな声で反論すれば、パイモンも否定することなく頷いた。


 「そうだろうな、警察もこの道は確実にチェックしているはずだ。だからこそ、この三つのどれかをトーマスは必ず通る。だが警察官たちは調べたところ、待ち伏せてはいないようだ」

 「どうして?だってここは必ず通るんだよ?」


 みすみす犯罪者を逃がすってどういう神経してるんだ。警備ザルすぎだろ。


 「トーマスの所属マフィアは国内最大大手だった。それが壊滅状態になるほどの内輪もめです。喜んでいるんですよ警察は。犯人を泳がせれば、自分たちが危険な目に遭わずとも打撃を与えられる……ですが今回アモンが世界に映像として流れた今、早く決着をつけなければ悪魔の存在がどんどん明るみになっていく。指輪の継承者として貴方はすぐに世界中の人間に嗅ぎつけられるでしょう。エクソシスト協会も黙ってはいないはずです」


 確かにそうかもしれない、けど……


 納得はできないけどするしかない。だって他の方法なんて考え付かないんだから。パイモン達までカメラに収められたら本当におしまいだ。世界中がパニックになるだろう。


 俺だけならまだいい、澪や光太郎、父さんたちは普通の生活ができなくなる。家の前にマスコミが殺到するかもしれない。それだけは避けなきゃ……


 「……分かった。具体的に何すればいいんだ?」

 「この三か所でそれぞれ待機してもらいます。主と澪と光太郎三手に別れて。ヴォラク、お前は光太郎についていけ」

 「了解ー」

 「何かあったらすぐに互いに連絡を取り合おう。だがくれぐれもカメラに映る等の失態だけは犯すな」


 パイモンの指示にアスモデウスとシトリーが頷く。セーレがそれぞれを移動させるためにジェダイトを再び召喚し、澪と光太郎の姿が見えなくなり、セーレが戻ってくるまでパイモンとストラスで待つ。


 「これで、大丈夫なのかな……」

 「分かりません、ですがこれだけ派手に事件を起こされれば私たちも動きづらいのは間違いありません。厄介な事をしてくれたもんだ」

 『パイモン、貴方さきほどエクソシスト協会と言う単語を用いましたが、彼らは何者なのです?とても我ら悪魔と対等に戦える人間がいるとは思えませんが』


 そう言えばエクソシスト協会ってなんなんだろう?テレビとかの悪魔祓いの特集を見る限りでは何かを読み上げて十字架に祈ってるだけってイメージがあるんだけど……

 パイモンは深刻な表情をして、俺たちを見つめた。


 「表向きは神父や牧師の集まりです。ですが裏の顔は違います」

 「裏の顔?」

 「“ノアの方舟”と呼ばれている集団があります。彼らがエクソシスト協会最後の切り札と言っていいでしょうね。前契約者の元で調べていた事の一つがそれでした」


 パイモンは俺と契約するまではサラリーマンの鈴木さんと契約していた。契約内容は鈴木さんの社内での発言力の強化、見返りがパイモンの調べものの環境を整える事。


 てっきり今までパイモンの調べものは指輪の継承者の自分だと思ってた、でも違ったみたいだ。ノアの方舟って一体なんなんだ……?


 「ノアの方舟って何?何の集団なの?」

 「恐らく悪魔の能力に目覚めた人間や、天使の祝福を受けた依り代が在籍している集団で間違いと思います」

 「天使の祝福?」

 「要は超能力ですよ。彼らは最後の審判によって天使の支配下に置かれたこの世界で、天使の何らかの力に目覚めて不思議な力が使えるようになった者たちです。彼らの様な特殊能力者はエクソシスト協会に半強制的に引き抜かれ、訓練を受ける者がいます。それがノアの方舟。中には悪魔の魔力が漏れたことにより悪魔の力に目覚めてしまった者もいるみたいですが」


 そんな……でも少しずつ分かってきた。

 そう言った普通とは違う奴らを集めて特殊な訓練をさせているんだ。いわば特殊部隊と言った所なのかな?それがノアの方舟なんだ。

 表には絶対にばれないように姿を隠し続けてる……じゃあヴァチカンは、エクソシスト協会は最初から悪魔の存在を知ってたんだ。そんな奴らを探しているくらいなんだから。


 『なるほど……彼らを最後の審判に人類の切り札として投入するわけですね』

 「そうだ、今のところは表だった活動はしていないみたいだが……まだ奴らには他の狙いもあるんだろう。そこまでは潜り込めなかったがな」


 俺が知らなかっただけで、世界は悪魔の存在に気づいてた。少なくともエクソシスト協会は。じゃあそいつらと連絡を取り合えば助けてくれるかもしれない!

 なのになんでパイモンはばれたら駄目って言うんだろう……訳が分からないよ。


 「パイモン、そこに連絡しようよ。きっと助けてくれる!」

 「救世主(メシア)に祭り上げられたいのなら構いませんが、奴らと手を組むのだけは止めた方がいい」

 「え?」

 「主、貴方はノアの方舟のレベルじゃない、人類最後の切り札なんです。あなたの存在が明るみになればエクソシスト協会は貴方の捕獲に乗り出すでしょう。貴方を新しいイエス・キリストにする為に」

 「イエス・キリストに?俺が……?」

 「救世主と祭り上げられ、貴方を使って最後の審判を受けて立つ……奴らの目的は審判を止める事ではない、審判に勝利することなのです」

 「そんな……」


 じゃあノアの方舟って組織は審判が起きることを望んでるのか?たくさん人が死ぬかもしれない戦争を支持してるっていうのか?

 全身に込み上げてきたのは助けてくれるという希望が無くなった喪失感と、それに対する怒り。

 結局何も変わらないだけだった。陰でコソコソと活動するしかないんだ。


 『では他には何を調べていたのですか?』

 「イルミナティ……エクソシスト教団と敵対する秘密結社。表向きはフリーメイソンと言われているが、内部は悪魔信仰を主とするイルミナティに吸収されている」


 フリーメイソンって聞いたことがある。なんか都市伝説か何かで。細かい事は分からないけど、名前くらいは……でもその組織がエクソシスト協会と対立してる?


 しかもイルミナティってなんなんだろう。そう言えば掲示板にも書かれてたし、ストラスも言ってた。エクソシストと対立してるって……でも未だに自分はイルミナティが良く分からない。


 「彼らはルシファー様を神と崇め活動している悪魔崇拝組織です。彼らが世界最大の秘密結社であるフリーメイソンの中核を牛耳り、エクソシストと対立している。フリーメイソンの末端の奴からしたら慈善活動や情報交換をメインとした集会だが、真の目的は悪魔の力を借りて自身たちが人間の世界の王になること。奴らは悪魔を崇拝することで最後の審判での生存を目的とし、悪魔と共存することを望んでいる」

 「共存?そんなの無理に決まってるじゃないか!」

 「面倒なのがイルミナティには複数の悪魔が在籍していることが分かっている。バティンが手引きしていると言うこともな」


 バティンってパイモンの元同僚!?

 目を丸くした俺とストラスにパイモンは詳しくは知らないと付け足した。


 「奴の契約者がイルミナティに所属している人物だったと言う話だ。おそらく今はバティンの支配下にあることは間違いない」


 悪魔と天使だけじゃない。人間にも敵がいたんだ。

 

 そいつらがパイモン曰く、事態が大きくなった今回から表舞台に出てくるかもしれないらしい。どっちも信用できないじゃないか。イルミナティはともかく、エクソシスト教会は俺を助けてくれない。


 深く考え込んでいたストラスが顔を上げた。


 『パイモン、本当にノアの方舟が審判の勝利を見据えていると思いますか?』

 「見据えているのではない、奴らは審判を止める事が出来ないと確信している。ならば受けて立つしかない……そう言う事だ」

 『確信など……』

 「ああ馬鹿げているな。だから俺たちが奴らの予想を覆してやるよ。審判が起これば人類の勝利など一割も無い」

 『他の狙いとは?』

 「何か大きな計画があると言うことまでは突き止めたが内容までは分からなかった。それこそトップシークレットみたいだ。だがその計画こそが人類が生き残る最後の手段になるだろうと奴らは踏んでいる」



 悪魔を信じるか天使を信じるか自身だけを信じるか……

 どう転んでも逃げられない。



本編に登場する団体は実在する団体とは一切関係はありません。

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