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第33話 契約者の今は

 「池上、久しぶり……」

 「よっ!久しぶり拓也」


 月曜日、学校が終わって連絡が取れた森岡と金田さんに会う為に待ち合わせの場所に向かう。ファミレスに入って禁煙席を探したら、奥のほうの席で森岡に勉強を教えている金田さんを見つけた。


 すっげえ久しぶりだなー元々お洒落だったけど、さらに垢抜けてるんだけど。金田さん髪の毛めっちゃ茶髪じゃん。


 手を振って近づいた俺に二人もこっちに気付いて手を振ってくれた。



 33 契約者の今は



 「久しぶり!なんだか懐かしいな!」


 森岡の隣に腰掛けて、鞄を金田さんの横に置いてもらう。森岡がテキストを鞄の中に閉まって完全にオフモードになる。よーし語るぞー。


 もう一年以上前になるけど、二人はソロモン七十二柱の悪魔と契約していた。森岡はシャックス、金田さんはサミジーナ。悪魔退治をしている際に知り合って交流は今も続いている。


 森岡は元々苛められっこだったけど、今は学校で楽しくやってるらしい。あの殺人事件は悪魔の仕業だから未だに犯人は見つからないままなんだけど、それでも学校は以前の活気を取り戻しつつあるようだ。事件が起こった一年目の日に全校集会で黙祷をするらしく、その日は森岡には辛い一日だっただろうな……


 それと比較して金田さんは東京をかなりエンジョイしている。福岡も都会だけど、東京はもっと都会だ。毎日が新しい物ばかりなんだろう、東京一年目の金田さんは浮かれている感じだった。髪の毛も茶髪になってるし、雰囲気もがらりと変わっていた。


 「金田さん東大どう?楽しい?」

 「おーまあまあやな。バイトとかサークルが楽しいな」

 「博多弁使うと珍しがられたりする?」

 「東大は県外多いけんな。いつもつるんでるんは九州の奴ばっかやしな」

 「どこの県?」

 「福岡、鹿児島、大分」

 「あ、俺大分に知り合いいるよ」

 「別にどうでもいいって言うね」

 「酷い!」


 森岡が俺たちのやり取りを可笑しそうに笑う。久しぶりに会ったけど、二人とも元気そうだ。でもやはり二人は悪魔の一件以来、そういった話に敏感になり、オカルト系の番組は見ないようになったらしく、そういった会話もしないようにしているらしい。


 実際悪魔と契約してたんだ。お化けとかも実在すると思うし、天使や神様も実在すると知ってるもんな。それでも二人と話すのは楽しかった。他の人達は元気なのかな?


 セーレから聞いた話では沙織と由愛ちゃんは元気にやっているらしい。沙織は最近学校の先輩に惚れているらしい、いわゆる初恋と言う奴だ。由愛ちゃんは小学二年に進級して、勉強に遊びに毎日頑張っているらしい。太陽の家は相変わらず賑やかな様だ。


 でも最近一人の男の子が太陽の家にやってきたと言っていた。虐待を受けて。それを聞くと、やっぱり太陽の家は賑やかだけど悲しい過去を持った子どもばっかりだ。俺は幸せなんだよな、普通だけど普通が一番いい様に感じる。


 悪魔ロノヴェと契約していた亮太さんと彼女の真由さんはただいま受験勉強真っ只中らしい。亮太さんも真由さんと一緒に勉強してて、学校では“おしどり夫婦”って言われてるんだって。


 ロノヴェと契約してた時はあんなに悩んでたのに、今ではそれも嘘みたいだ。本当に真由さんと良太さんは仲がいいんだな。春哉君と幸さんになんか被ってるけど。

二人と他愛ない雑談をしていると、金田さんが少し遠慮気味に聞きたいことがあると言ってきた。


 「なんですか?俺に分かるかなぁ……」

 「実はここ最近、夢を見るんだ。何でも好きな夢を見られるようになった。寝る前にこういう夢が見たいって想像しながら目を瞑ったら」

 「めっちゃいいじゃないですか!羨ましい!!」


 そういった俺とは反対に金田さんと森岡は不安そうだ。

 何が二人をそうさせているんだろう。


 「最初はそう思ってたんだよ。でもあまりにも想像通りの夢が連日続いて、正直怖い。こんなのあの時以来だ」

 「あの時?」

 「サミジーナと契約してた時だ」


 悪魔サミジーナ。金田さんと契約をしていたソロモンの悪魔。見たい夢をなんでも叶えてくれる悪魔だけど、最終的には寝ている金田さんの夢を操って、そのまま昏睡状態に陥らせて殺そうとした。そんなに百発百中なのだろうか?それを聞くと肯定する。

 悪魔の能力を契約者が手に入れてるのか?でもそんなまさか……俺たち人間はそんな魔法なんか使えないし、そんな力もないのに。


 「森岡もなのか?シャックスの力とか」

 「俺は今のとこ何も……でもすごく怖い。あいつの力とか使いたくもない」


 これは少しマジで調べてみる必要があるのかもしれないな。そのまま夕飯を食い終えて家に帰ってストラスに聞こうと思ったんだけど、生憎家におらず、母さんに所在を聞いてみたらマンションに何かを調べに行くと言って戻ってこないらしい。あいつ悪魔の事をまだ調べてるのか。俺の疑問も聞いてほしかったけど……家に帰ってきてから話せばいいか。


 でもストラスはその日に限って家には帰ってこなかった。


 ***


 結局その日のうちにストラスには聞けなかったため、仕方がないので今日帰りにマンションによって原因を聞こうと思い、シトリーに連絡を入れておくことにした。


 学校帰りには絵里子さんの所に寄る予定だったからその後だけど、相手は入院患者だ。長居できるはずもなく、見舞いの後にマンションに行っても時間的には問題ないだろう。


 「光太郎、お前最近何か変わったことある?」

 「変わった事?」

 「いや……なんつーか、シトリーの力使えるようになったとか、ない?」

 「えーそんなのある訳ないじゃん。あの力使えたら俺は手当たり次第に女はべらせて遊びまくるぞ」


 ……結構最悪な答えが返ってきた気がするけど、どうやら光太郎に今の所被害は無いらしい。やっぱり金田さんの勘違いなのかなぁ。契約してた悪魔もサミジーナだったし、敏感になってただけなのかもしれない。


 その内良くなるのかな?


 光太郎に被害がないことに安心して考え込んでいると、光太郎が何かを思い出したように「あ」と声をあげた。


 「な、なに?」

 「俺じゃねえけど、桜井と上野が最近夢見悪いらしいぞ。あんま夢の内容言いたくないみたいだけど、ここ四日間同じ夢ばっか見て眠れてねえんだって。それと関係ある?」


 桜井達も変な夢を見てるって言うのか?


 もしかして夢を操る悪魔が近くにいるのかもしれない。でも金田さんは見たい夢を見れる、桜井達は同じ夢ばっかり見て眠れない……内容が若干違うな。眠れない内容の夢だったら見たくないはずだ、金田さんみたいに自在に変えれるって訳じゃなさそうだ。


 「光太郎、なんか悪魔が関係してるかもしれん」

 「マジかよ……桜井達危ないの?」

 「わかんね。でも他にも変な夢見るって人がいるんだ。その人も連続で見てるって」


 光太郎は考えて、桜井たちに細かく話を聞いてみると言ってくれた。

 とりあえず今日学校が終わったら、俺は病院に行くけど、光太郎は一足先にマンションに行ってストラス達に伝えておくことになった。光太郎は絵里子さんと知り合いじゃないもんな。

 桜井達も金田さんも俺の思い違いであってほしい。また悪魔に巻き込まれるなんて、誰も望んでなんかない。


 ***


 学校が終わり、光太郎と別れ病院に向かう。


 絵里子さんが入院している病院は最寄駅から五駅離れた総合病院だ。その道のりを三十分かけて移動し、病院に辿り着いた。院内は平日の夕方だけに仕事帰りや学校帰りのサラリーマンや学生で賑わっており、その人たちの横を通り過ぎ、あらかじめ教えてもらっていた病室に院内マップを見ながら進んでいく。


 エレベーターを使って五階の個室に絵里子さんの名前が書かれたプレートがあった。意識不明の重症だった為、四人部屋ではなく個室でずっと療養していたらしい。扉をノックすると中から声が聞こえた。本当に、目を覚ましたんだ……


 「失礼します」


 扉の先にはベッドに座っている俺より年上の女の子がいた。

 少し気まずそうだけど、絵里子さんは笑って迎え入れてくれた。


 「久しぶり池上君」

 「絵里子さん……本当によかった」


 なんだか泣いたらみっともないって言われそうで涙を抑えるために唾液を飲んで喉の圧迫感を物理的に抑え込んだ。


 絵里子さんはほぼ半年意識不明で入院していた。絵里子さんは半年眠っていたという実感がないらしく困ったように笑った。


 「目ぇ覚めたら半年経ってんの。結局大学も受けれてないし、一浪は決定みたい」


 絵里子さんは受験生だった。それで悪魔フルフルに裏切られて攻撃を受けて意識不明の重体に陥った。絵里子さんが失った半年間は、一年と言う代償になってしまったんだ。まだしばらく退院もできないようで、精密検査やらなんやら面倒だと文句を言っていた。


 でも絵里子さんは吹っ切れた感があるらしく、心を入れ替えて頑張るよ。とだけ言ってくれた。


 なんだかそれだけで救われた気がする。


 「池上君、ちょっと手ぇ出して」

 「え?手ですか?」

 「そう、握手握手」


 いきなり何なんだろう握手なんて。そんなの求められたら気恥ずかしいじゃないか。

 でも手を軽く拭いて絵里子さんの方に伸ばせばニッコリ笑って向こうも手を差し伸べてきた。手が触れあう瞬間、何か違和感があったけど特に気にせず手を握ったら手のひら全体に鋭い痛みを感じた。


 「いった!」


 な、なに!?なんかすごい痛みが襲ったんだけど!

 慌てて放して手を擦る俺とは違い、絵里子さんは何も感じなかったのかな?悲鳴をあげる事はなかった。


 「静電気、ですかね?ごめんなさい。俺が服で手を擦ったから出たのかも……」

 「違うよ。出したんだよ」


 出した?あんだけの静電気を意図的に?絵里子さんが手に何かを擦り付けたりして静電気を発生させようとしている姿は見なかったけど。


 目を白黒させる俺とは違い、絵里子さんは乾いた笑みを浮かべている。


 でも静電気ってあんなに痛い物なのかな。目には見えないけど、確かに絵里子さんの腕が触れた時にバチッと音を立てて痛みが襲った。静電気にしては結構大きくて、思わず悲鳴をあげてしまったから。


 「やばいよね。私、化け物になったのかも……電気出したいって思ったり、感情が昂ぶったり、無意識に腕に力を入れたら今みたいに電流が出てくるの。こんなのマジやばい……あいつと一緒じゃん」


 そんな……嘘だろ。


 フルフルと一緒だ。絵里子さんが契約していた雷を操る悪魔。絵里子さんが入院する原因にもなった悪魔。そいつとは比べ物にならないけど、絵里子さんいわく確実に電気を少しだけど操作できるらしい。


 どうして、金田さんも同じ事言ってた。契約者に一体何が起こってるんだ?森岡だってこのままだったらシャックスの何かしらの力に目覚めるかもしれない。


 「やばいよね。これ、どう言う事なの?」

 「俺にも分かりません。でも他のソロモンの悪魔と契約していた人達も同じように契約していた悪魔の力の一部が使えるようになったって聞きました。何か関係してるのかも……」


 金田さんの好きな夢を見る力は不気味だけどまだマシだ。今の所本人に実害はないんだから。でも絵里子さんの電気を放出できる力は危険すぎる。

 絵里子さんは無言で携帯を俺に見せてきた。画面は電源がついてなく真っ暗だ。


 「電気を操れるって気づかずに携帯いじってたら壊れちゃった。新しいのを母さんが買ってくれるけど、これ制御しなきゃマジヤバい。私普通の生活を送れない」


 絵里子さんはかなり怯えている。


 一体何がどうなってるんだ?金田といい絵里子さんといい悪魔の能力を手に入れている。今までそんなことなかったのに。


 それだけじゃない、桜井達も同じ時期に四日連続で悪夢にうなされるのは偶然じゃないようにも思える。早くストラス達に相談しなきゃ。


 とんでもない事になりかけてる……



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