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第32話 復讐は連鎖する

 マンションに戻ってから、シトリーに手伝ってもらって色々調べた。それで分かったことはローラさん発狂の原因はマーロウさんとの妖精についての口喧嘩だったらしい。


 パイモンがマーロウさんに少しきつくてもいいから、ローラさんに妖精の存在を否定させろと言ったのがパイモン的には引き金になったんじゃないかって思ってるらしくて、少しショックを受けたんだそうだ。


 こんな結末、誰も望んでなんかいなかったのに。



 32 復讐は連鎖する



 「……疲れた」

 『拓也……』


 家に帰って項垂れた俺にストラスが気まずそうな視線を向ける。でもさ、しょうがないんだよな。あんな事があったんだ、俺がもう少し頑張っていたら、もしかしたらローラさんを救う事ができたかもしれない。


 本当に役立たずでノロマで、自分がどうしようもない。


 あと五秒早かったら、ローラさんを救えてたら、悪魔を地獄に戻せてたら……ローラさんはマーロウさんと衝突することも無くなって、幸せな未来を手に入れることができたんだろうか?それを……俺はローラさんとマーロウさんを救うチャンスを無駄にしてしまった。


 鼻がツンとしてきて、目に水分が溜まっていく。失恋した女子みたいに枕に顔を埋めて泣いた。ストラスが寄り添うように横に座って、お互いに何も話す事は無く、ただ泣いた。


 しばらく泣いて涙を拭う、今までだってこうやって来た。本当に落ち込んで動けなくなるのは全部をちゃんと終わらせた後だ。


 『もう良いのですか?』

 「うん、泣いたから」

 『そうですか』


 ストラスが連絡が入っていると言って携帯を寄越してきたため確認すると光太郎からで、明日の日曜日にラーメン食べに行かないか?と言うものだった。この状況でなんて吞気な……とかも思ったけど、向こうは俺と違って実際にローラさんが殺される現場を見ていないから実感がわかないのかもしれない。


 でもラーメンか……最近ドタバタしてて全然行ってなかったな。良く中谷が部活が早く終わる時に三人で一緒にいていたラーメン屋だ。特に明日、用事も無かったので即答でOKの返事をした。


 ***


 「このラーメン屋も久々だなー」


 次の日、昼前に待ち合わせして光太郎と二人で良く通う学生ラーメンの店に久々に足を運ばせる。春までは結構頻繁に通ってたんだけど、地獄に連れて行かれた夏以降一回も行けていない。だから久々に向かうことに光太郎も俺も少し楽しみにしていた。


 「春哉君だー!バイト久々に入ってない!?」


 光太郎と二人でラーメン屋に行ったら、そこには偶然にも北王子高校に通う一之瀬 春哉君が入っていた。一つ年上なんだけど、なんだかひょんな事で知り合いになったんだよな。


 カウンターの席には春哉君の彼女さんの幸さんもいる。この子マジちょー可愛いの!少し口がきついんだけど、春哉君はマジ尻にしかれてるって感じ。春哉君は顔をしかめながら俺たちを席に案内した。


 「うわー池上拓也に広瀬光太郎か。言っとくけどマケねえよ」

 「ケチ!」

 「ケチじゃねぇよ!小遣い稼ぎなんだからこれ!」


 春哉君のおばさんは鬱病にかかってたらしい。そんで生活が大変だからバイトを始めたそうだけど、今ではおばさんの鬱病も治り、ほぼ自分の小遣い稼ぎでバイトを続けてるんだそうだ。でも春哉君ってもうすぐ受験だよな。バイトしてて大丈夫なのか?


 「春哉君バイトしてて平気なの?」

 「聞いてくれるな光太郎君……」

 「春哉ったら一緒の大学に行くって意気込んでるくせに、成績全然伸びないの。本当にいい加減にしてほしいな」


 黙ってた幸さんがラーメンを食べ終えて箸を置く。ほほう……一緒の大学に行きたいけど春哉君馬鹿だから難しいって奴か。いやー青春だね!でもそれなら尚更バイトしてる暇ない気がするんだけど……


 春哉君は逃げるように鼻歌歌いながらチャーシューを切っていく。その態度に幸さんの表情も少し苛立った物に変わる。


 「あーあ、知ーらない。大学には格好いい子いっぱいいるんだろうなー合コンとか楽しそうだなー」

 「さ、幸!浮気は駄目だぞ!」

 「見張ってないあんたが悪いんじゃない」

 「そんなー……」


 なんだか春哉君可哀想だな。でも久々の再会になんだか嬉しくなった。

 オーダーを受けるために春哉君がこっちに来て、俺と光太郎二人しかいないことに首をかしげている。


 「中谷章吾は?いつも三人で来てたのに」

 「あ、中谷は……来れなくて」

 「そうなの?あいつ野球部の奴らともよくここを利用してて、最近来ないんだよな。また来るよう言っといてよ。久しぶりに会いたいし」


 中谷が行方不明だと言うことを言っていいかもわからず、適当に濁した返事を疑うことなく、春哉君はオーダーを聞いて厨房に戻っていってしまった。中谷を連れて三人でここに来たい。絶対に連れ戻さないといけない。


 でも春哉君と話していて、ふと思い返す。そう言えば他の皆はどうしてるんだろう。今まで悪魔と契約してた人達はどうしてるのかな……連絡を取りたいな。それに、シャネルのいたサモス島にもいかなきゃいけない。


 もうすぐ一年になる。俺がシャネルをこの手で殺してしまって……一回忌って言ったら後味が悪いけど報告したい。ギリシャのサモス島に行って、教会の跡地にあるシャネルのお墓に。そこで頑張るって言うんだ。


 そうと決まればセーレに色んな所に連れて行ってもらおうかな。契約者は世界中にいる、勿論連絡を取れない人がほとんどだけど、連絡を取れる人達に会いに行きたいな。


 ラーメンが出来上がる間、まずは日本国内の人たちに連絡を取る。


 マルファスと契約してた森岡にセーレと契約してた沙織と由愛ちゃん、サミジーナと契約してた金田さん、ロノヴェと契約してた亮太さんと真由さん、サブナックと契約してた信司君、彼は光太郎がいなきゃ話しにならないだろうけど。


 後は光はこないだ会ったけど、また会いたいな。大分少し案内してもらおう、大分って温泉だよな。そんでグイソンと契約してた真央ちゃんと、後はフルフルと契約してた絵里子さん、もう目を覚ましてるかな?あ、でも連絡を取れるのはこれくらいか?意外と少ない……


 パイモンと契約してた鈴木さんとは連絡先を知らないし、なんだかあんまり俺の事を良く思ってなかったからな。ブエルと契約してた溝部さんも個人的な交流は無い、だけどテレビで特集されてたからすごく頑張ってるんだろうなってのは分かってる。ヴァッサーゴと契約してた足立さんは病気で亡くなってしまった。アミーと契約してたマヤさんも同じ。


 バラムと契約してた優里ちゃんのお母さんと優里ちゃんの連絡先は知らないし、ヴァプラと契約してたおっさんは俺よりもむしろ中谷とヴォラクだったし、カイムと契約してた優菜って人も俺よりは光太郎とシトリーだ。んでブーネと契約してた畠譲介君は多分俺のことを良く思ってない。オセーと契約してた野球部の子は連絡先を知らないし、エリゴスと契約してた小倉さんも同じだ。


 海外組なんかほぼ壊滅状態だ。


 連絡を取れる相手はアンドレアルフスと契約してたカレンとアルベルトさん、ハアゲンティと契約してたフェルディナントさんの孫のヨルクとレナーテぐらいしかいない。


 シトリーと契約してたケビンって奴は良く分かんないままだったし、ボティスと契約してたエアリスさんには二度と面を見せるな的なことを言われた。あ、自分で言って少し傷ついた。


 シャックスと契約してたエジプトの奴は論外で、ヴアルと契約してたグレゴーリーさんにも二度と現れるなって言われた気がする。ヴェパールと契約してた颯太さんは亡くなった……


 アムドゥキアスと契約してたアンジェラさんは連絡先を知らないし、でもネットで調べたときは特集組まれてる記事で元気そうにしてたから元気なんだと思う。あ、そうそう婚約発表してたんだよな。


 ザガンと契約してたダニエルさんは分からない。サロスの事件で出会ったクラウディオさんは生きてるといいなってレベルだ。グレモリーの契約者の子も亡くなったと聞いた。グラシャ=ボラスと契約してたアリスは……辛くて思い出したくも無い。


 アイムと契約してた楊さんとゼパール、ベレトと契約してたラウリとレイラもその後は分からない。生きてるって事は分かるんだけど。デカラビアと契約してたパブロなんちゃらって長い名前の人もシトリーの力使って会ったから、個人的には特に無いしな。


 でもいいや、これだけの人に会えるんだ。


 森岡と金田さん、沙織と由愛ちゃん、亮太さんたち、そして信司君、絵里子さんには自分の力で会う事ができるけど、後の人たちは東京にいないからセーレの力使わないと無理だ。海外組は当たり前だけど。


 「俺、皆に会いに行きたいな」

 「皆って?」

 「今までの契約者」


 急にそう言った俺に光太郎は首をかしげた。脈絡も無く言ったんだから仕方ない。とりあえずまずは目の前に出てきたラーメンを食べてからにしよう。うー美味そう!


 春哉君と幸さんと色んなことを話しながらペロリとラーメンを平らげた。本当にここのラーメンは美味い!俺大学生になったらここでバイトしよっかなー、賄いもらえるだろうし。ラーメンを食べ終える頃には数件の返信が届いていた。


 差出人は森岡に金田さん、そして光と真理子ちゃんだった。皆元気そうだ。その中でも目を引いたのが真理子ちゃんの返信内容。そこには絵里子さんが写っていたのだ。もしかして絵里子さんが目を覚ましたのかもしれない!


 すぐに真理子ちゃんに返信を返す。もしかしたらこれはもしかするかもしれない。


 真理子ちゃんのお姉さんの絵里子さんは悪魔フルフルと契約してて、真理子ちゃんを守るためにフルフルの攻撃を喰らい、意識不明の重体に追い込まれた。未だに目を覚ましてないと思ってたのに……でも真理子ちゃんの写真の背景は病室っぽい。絶対にそうだ!


 「やっぱ俺、今日から皆に会いに行く。セーレに手伝ってもらったらそれもできそうだし」

 「マジで?」


 とりあえず皆の予定を聞くまで行動はできないから、実際会いに行くのは今日じゃない。でも関東に住んでる人なら夕飯を食いに行ったりで会う事はできるけど、流石に九州とかになるとなぁ。


 だから今日まずやる事は皆と連絡を取って、空いてる日を確認する事と、シャネルに会いにギリシャのサモス等に行く事!地獄に連れて行かれる前にストラスと話した。シャネルをこの手で殺してしまって一年後の十月に、まだ自分の決意が変わって無かったらシャネルに頑張るって言いに行こうって。


 もう十月は過ぎてしまってけど、決意はまだ変わってない。


 お金を払い、春哉君と幸さんに挨拶をしてラーメン屋を出る。向かう先はマンション!セーレに手伝ってもらわなきゃ!


 ***


 「ギリシャ?どうしてそんな所に?観光したいの?」


 急にマンションを訪ねた事と俺の頼みごとに、マンションにいたセーレとパイモン、アスモデウスは首をかしげた。脈絡も無くいきなり言い出したら、まあこんな反応だよな。


 観光したいと思われているのかと微妙な表情になった俺とは対照的でセーレはなんだか嬉しそうだ。


 「拓也がついに個人的に俺の力を使いたいって言ってくるなんて。いつも俺に遠慮して言わなかっただろ。いいんだよ、行きたい所全部連れてってあげるからね」

 「わーい、セーレお兄ちゃん」


 可愛い可愛いと俺の頭を撫でているセーレに直哉も普段こんな気持ちなのかと理解する。落ち込んでいた俺が憂さ晴らしで旅行に行きたいって言ってると思われている……

 セーレに撫でられながらも旅行ではないことを伝えると、皆は首をかしげた。


 「前にストラスと話したんだ。俺がシャネルを殺してしまって一年後に未だに俺が悪魔と戦ってたら、シャネルに会いに行きたいって。日本で言う一回忌的な!?シャネルに、頑張ってるよって伝えたいんだ」

 「彼女は地獄に居るので、そこで伝えても届かないと思いますが。やはり観光がしたいのでは?」

 「違うわい!!こういう精神論的な奴をしたっていいだろ!パイモンはいつも現実的なことばっかり言う!!」

 「貴方がしたいのなら止めません。日本の形式的な文化なら口を挟む気はありません。ただ、本気で声が届くと思っていたのかと心配しただけです」


 こいつ、俺が頭がおかしくなったと思っていたのか。本当にひどすぎる。


 俺とパイモンの口論に苦笑いだったセーレが準備をするためにベランダに移動する。すぐにでも連れて行ってくれると言う合図だったため、俺と光太郎も後を追いかけたら、アスモデウスも気になるのかヒョコヒョコと着いてきた。


 「一緒来るか?何もないけど海は綺麗だったよ。でも夏じゃないからどうなのかな」

 「いや、いいよ。気を遣わなくて。ちょっとだけ気になったから」


 セーレが召喚したジェダイトによじのぼり、ジェダイトはギリシャに向かって走り出す。なんだかその間は緊張してしまい、一言も喋る事ができなかった。光太郎とアスモデウスは色々雑談をしている声は聞こえた。アスモデウスはギリシャ神話にも精通しているようで光太郎に色々教えていたらしい。


 楽しそうに会話する二人の声を背中に受け、俺はセーレにしがみつく力を強めた。


 ***


 ギリシャまでは数分程度で到着した。本当にセーレの力はすごい、この力があれば一日で世界一周できるだろうな。サモス島は去年と同じで、人口が少ない島だから木々が生い茂り、ぽつぽつと家が見えるぐらいで、街中と言っても人通りもそんなに多くは無い。


 そして家が立ち並ぶ集落から少し離れた丘の上には大きなスーパーが建っていた。あそこはシャネルがシスターとして過ごした教会があったはずなのに、やっぱり一年前に聞いた話しどおり、大型のスーパーになってしまっているみたいだ。ただ、外観ができているのみでまだ開店には至らないようだ。


 確かにサモス島はお店も少ないから、スーパーが建つのはいい事だと思う。でも教会を潰してまで立てようとするからシャネルは……そう考えて頭を振った。今更そんな事を思っても意味は無い。もう終わってしまった事だから。


 教会の近辺まで足を運ばせて、辺りを見渡してみると、まだ全てを片付けられていないらしい、店から少し離れた所に教会の残骸が無造作に置かれていた。折れた十字架、ステンドグラスの欠片、柱に使っていた木材、色々だ。


 無残な跡地に眉間に皴がより、シャネルを思い出して悔しくなる。こんな野ざらしにせずに綺麗にしてくれたらいいのに。教会の跡地に膝を降ろすと、近くに一人の青年が立っていた。青年って言うのかな、俺と同い年ぐらいの奴が教会の跡地をただジッと見つめていた。


 俺もそこに近づいて、ただ無心に手を合わせて祈った。


 ごめんなシャネル、結局救えなくて。でも俺は頑張る、全部が終わったら絶対に迎えに行くから、そしたら一緒に行こう。綺麗な世界で迎えに行くから。


 黙って祈る俺にセーレと光太郎、アスモデウスが黙ってこっちを見ていた。そして俺の少しはなれた場所にいた青年も横目でこっちを見ていたのを感じた。


 「もういいよ、有難う」

 「ちゃんと納得できた?」

 「うん」


 納得できたよ。シャネルにちゃんと謝れたんだから。後はやるべき事を全て果たして、シャネルを救うだけ。それで全てが終わるんだ。

 セーレと光太郎が先に歩いていき、それに続いて歩く。最後にバイバイと言って手を振って。



 「(……指輪の継承者、彼女にとどめを刺した子供)」

 「(気になるのグリーティア、彼のこと。駄目だよ、僕たちバティンに呼ばれてるから、今はまだ殺したら駄目なんだよ)」

 「(お前たちの力でもバティンに逆らうのは怖いのか?)」

 「(どうだろ。怖くはないけど、バティンを敵に回しても楽しくないから、かな。大丈夫だよ、僕たちの出番もすぐに来る。その時を心待ちにしよう)」

 「(そうか……行こうベリアル。まだ、しないといけないことがある)」



 復讐は終わらない。




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