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第22話 親なしっ子

 「え、まだ見つかんねえの?」


 ストラスから悪魔を見つけたって言われて四日が経ったが、まだ契約者特定には至っていないそうだ。そりゃ結構膨大な数いるからなぁ……探すのも大変なのは分かるけど。

 シトリーはバイトの隙間をぬって契約者探しをしてくれてるみたいだけど、今の所は目立った成果は無い様だ。



 22 親なしっ子



 不機嫌そうに携帯をいじっているシトリーの前に仁王立ちする。こちらの存在に気づいて面倒そうに顔をあげたシトリーに睨まれたが、腕を組んでふんぞり返り言ってやった。


 「お前案外役に立たねえな」


 その一言でシトリーは固まり頭を抱える。普段馬鹿にされていたから気分がいいぞこれ!いっつも言われてたからな、一回は言って見たかったんだ!


 「くそっ……まさか拓也にこの台詞を言われる日が来ようとは。人生の汚点になったぜ」

 「どう言う意味だよそれ!」


 なんだか本当に悔しそうにするから余計に腹が立つ!確かに俺が役立たずって事は自他共に認める所だけど、なんか言い方ムカつくぞこいつ!軽口で喧嘩を売ってくるシトリーをパイモンが拳一発で沈めて振り返る。こいつ意外と肉弾戦向いてんじゃねえのか?剣いらねえじゃんもう。


 「主、もうしばらく時間をください。今回調べる人数が余りにも多すぎる。私達も特定しようとはしているのですが……」

 「いや、それは別にいいんだけどさ。むしろ手伝えない俺が上から言える事じゃないし……」


 やっぱり事件自体が透明性があまりないらしく、特定がかなり難航しているらしい。俺も手伝いたいけど、何すればいいかさっぱりだし役には立てなさそうだ。とりあえずシトリーから連絡来るのを待つしかないんだよな。それはまた進展した時でいいだろう。もう一つ聞きたい事がある。


 「中谷はまだ見つけられないのか?もうさ、修学旅行とか進路の話しが出てるんだ。これ以上遅れるとあいつ受験とか不利になるぞ。ただでさえ馬鹿だったんだ」


 中谷と一緒に修学旅行いきたい、もう一度二年のクラスの皆で遊びに行きたい。上野達だって中谷が戻ってくるか分からないけど、修学旅行までには絶対に見つけようって言ってるんだ。中谷はこんなに必要とされてる、早く助けたい。


 でも何も進展してはいないようでパイモンは首を横に振った。そうだよな……パイモン達だって悪魔を探したり俺達の剣の稽古に忙しいんだ。特に家庭教師代わりに最近使いだしたから負担はさらに大きくなってるはずだ。もうお金払ってもいいくらい使いまわしてる気がする。


 何してんだよ、早く探せよ!なんて言えないし、そんな事言える身分でもない。でも気持ちは確実に焦ってた。


 「そっか……」

 「すみません。中谷の件はヴォラクとヴアルに全て任せてあります。私は余り手伝っていないので良く分かりませんが、まだ進展はないようです。正直天界に連れていかれたとしたら、こちらからは打つ手がありません。天界に向かえる場所を探してはいるのですが……」


 特にヴォラクは必死で中谷を探している。エネルギーを辿る為に部屋にこもって夕飯も食べずに集中してたって話も聞くし、セーレを使って気になる場所をしらみつぶしに探しているのも知ってる。それでもまだ見つからないんだ。

 本当に俺って何もできないんだな……なんだか、いや、すごく悔しい。


 「ん?なんだこりゃ」


 しんみりした空気の中、沈黙を壊したのはシトリーだった。携帯を覗き込んで顔をしかめている。一体何の連絡が来たんだ?

 シトリーは即座に素早い手つきで変身を打って、相手にメッセージを返す。女かなって思ったけど、雰囲気的に違うみたいだ。メチャクチャ真面目な顔してるし……似合わねー


 「シトリーどうしたんだ?」

 「いや、ちょい待ち。確信が持てたら言うからよ」


 なんだよ、結局携帯で連絡とりあってるだけじゃん。ちょい待ち、とか言っちゃってさぁーいい子がいるから落とせるかどうかの瀬戸際なんだろ?もーもうちょい真面目にやれよー

 こっちは来年受験を控えた高校生なのに、こんな事に狩り出されるなんて悲劇なんだぞ。

 ブツブツ心の中で文句をいいながらシトリーが打ち終わるのを待つ。でもその状況が流石に四十分も続けばパイモンの表情も変わってくる。お、鬼のような形相になってる……早くしてよシトリー!とばっちりきたら恐いんだからな!


 「いけた!」


 シトリーがガッツポーズをして携帯を見せてくる。そこに書かれていたのは男の名前だった。

 小倉勇作が怪しいと書かれているものだった。

 訳が分からなくて首をかしげている俺を他所にパイモンがその携帯の文章を読んで、シトリーに視線を送る。


 「確証は?」

 「ある程度は。つかこいつ以外に怪しいのがいねえってのが事実だ。信じてくれてもいいぜ」

 「助かる、早速こいつを調べてみよう。ここから先は俺に任せてくれ。主、もう少し待ってください。全て調べ終わったら改めてお話します」


 パイモンが再びパソコンを開いて何かを調べだす。何を調べてるんだろう?でもあの携帯に書かれてた名前と今回の事件に関係があるって言うのだけは分かるんだ。それだけは間違いない。多分契約者って断定する証拠をパイモンが探してるんだろうな。

 再び放置されてやることが無くなっちゃったな……シトリーと雑談でもしようかな?


 「シトリー、どう言う事?」

 「今回の件の契約者、怪しいって思ってた奴を見つけたんだよ。後はパイモンが調べて黒かどうかは決めてくれんだろ。警視庁の人間だ、数百人の関係者の行動履歴を全部洗ってみたが、こいつが一番怪しそうだ」


 えー!マジでそんなことしてくれてたのか!数百人の行動履歴を調べるとか気が遠くなることをしてくれていた相手に役立たずなんて言って申し訳なくなってくる。


 「そうなんだ……でもできるだけ急いで欲しいな。昨日も二人死んだってテレビで言ってたんだ。被害が増えてるよ」


 シトリーが目を丸くして、パイモンも画面から顔を逸らす。あれ、二人とも知らなかったのか?シトリーはともかくパイモンが知らないのは可笑しいよな。なんでそんな顔するんだろう。


 「人間ってお前含めてお人よしだな。今回殺されていってんのは殺人犯した奴ばっかだぞ。殺されたって文句言えねえ奴ばっかさ。お前が躍起になる必要はねえだろ。善人が被害にあってねえなら、そんなに急ぐ必要もねえ」

 「そ、そうだけどさ……でも殺されていくって感じ悪いじゃんか」

 「同じこと他人にして自分に返ってきたんだ。今回は悪魔が関与してるから協力してっけど、殺された奴らに微塵の同情も湧かねえな」

 「俺も同じ意見だな。主は人が良すぎる。こんな奴ら死して当然、貴方が気に止む必要はない」


 冷たいな……でも悪魔からしたらそんな感覚なんだろうか?それともただ俺だけがそんな感覚を持ってるだけなのか?確かに殺されてる人たちは他人を殺してる人たちばっかりなんだ。お世辞にもいい人間とは言いがたい。いや、どうなんだろう。自分に関係がないから、そう思ってしまっただけで、被害に遭っているのが犯罪者ばかりって言う点は、ある意味清々しさすら感じる。

 

 現にネットの掲示板ではダークヒーロー扱いだし。


 でも刑務所に入ることで罪は消せないけど更生できるのならって思うのかな?いや、家族がもし殺されたら犯人なんかに同情しない。第三者だから言えるんだよな。深く考えるのは止めておこう、結論も出なさそうだ。


 シトリーとくだらない事を話している内に時間も遅くなっていき、パイモンに明日もう一度来てくれと言われて、今日は帰ることにした。


 ***


 「今日こんなこと言われたんだ。刑務所の事件知ってるだろ?殺されてるのは殺人を犯した奴らばっかだから同情しなくていいって言われたんだ。父さんだったらどう思う?」


 飯を食い終わって母さんが後片付け、ストラスが直哉と遊んでやっている中、一人で新聞を読んでいた父さんに小さな声で話しかけた。

 父さんは読んでいた新聞をテーブルに置き、考え込んでしまう。やっぱり難しい質問だったかな……父さんだったら答えが分かるって思ったんだけどな。


 「少し難しいな。その相手の経歴や背景を知らないと。同情する環境であった場合も十分あるし、そうしなければ耐えられない理由もあるかもしれない。でも、俺はお前や直哉、母さんやストラスが犠牲になったら、どんな理由があれ相手を許さないよ。出所したところを待ち伏せして殺しにいくかもしれない。そういう意味では軽率に関与してはいけないと思うよ。すまないな、答えにならない。拓也が優しいのは分かるが、相手はその優しさを持った人間に刃を立てた人かもしれない。そう考えたら、俺も正直今回の件は気味が悪いとは思うが同情はしていない」

 「そっか……」


 そうだよな。俺も、父さんたちが犠牲になったら、相手がどんな理由があれ許さない。俺は父さんたちがこんなに優しいことを知ってる。本当に答えが出ない事って世の中にはたくさんあるんだ。


 ***


 「兄ちゃん、カード買いに行こう!」


 休日で休みだったのに朝早くから直哉に言われて少し気分が滅入る。なんだよ、そのくらい一人で行けよ。そう言いたいけど、俺も小六の時はカードゲームにハマッてコレクションしてたから何も言えない。小学生の男子なら必ず通る道だって信じてる。直哉はゲーム機でゲームをするのも好きだがカードゲームも好きだ。今はストラスと言う遊び相手もいるし、集めがいがあるんだろう。


 ここから目的のカードを売っている古本屋までは結構遠いから面倒だが、直哉が選んでる間に気になってた漫画の続きでも立ち読みしよう。続き置いてるといいな。


 マンションに行くのは昼からでもいいし、午前中にさっさと終わらせるか。


 母さんにカードを買いに行くのに付き合うと伝えて、直哉と一緒に家を出る。


 今の時間は十一時前くらいだ。古本屋までは片道二十分ちょいくらいだから十一時半くらいには着くだろうな。そんで帰ったら十二時半くらいか。


 古本屋までの道を歩いていると、少し大きな公園の前に出た。休日の今日は小さい子達が遊んでいて楽しそうだ。直哉も去年まではそうだったのに、最近はカードゲームとかにハマッて公園には行かなくなっている。この干物系男子め。人の事いえないけど。


 「それ以上言ったら許さないぞ!」


 子供の大声が聞こえて気になって公園を除いたら、三対一で子供が喧嘩をしていた。周りの子供や親たちも大声で喧嘩をする四人組に困ったような表情をして自分の子供に被害が行かないように距離を取っている。


 一人で三人と対峙している子が声を張り上げれば、三人組のリーダー格っぽい生意気そうな子供が指を指して笑う。


 「うるせえ親なしっ子!お前は両親がいなくて爺と婆に育てられたから常識がないって母ちゃんが言ってたよ」

 「なんだと!?俺の爺ちゃんと婆ちゃんを馬鹿にするな!お前のところの親よりもずっと立派だ!このクズ親子が!!」

 「てめえ!!」


 おいおい、マジで取っ組み合いになったぞ。あの三人組のあまりの暴言に言い返したくなる気持ちは分かるが、流石に不利だろう。周りの母親も止めようと近づこうとしているが、髪の毛を引っ張りあって転んでいる姿を見て間に入れないようだ。どうしよう、ここは高校生として助けたほうがいいのかな……でも子供の喧嘩に高校二年生が入るのって少し大人気ない?って言うか俺かなり小心者じゃない!?子供の喧嘩の仲裁すら躊躇うなんてっ!でも相手の親が出てきたら勝てる自信ない!


 でもここは止めるべきだよな。あんな失礼な事を言う子供には文句つけてやんないとな……


 「おい何してんだよ!」


 えっ!?俺が言おうと思ってたのに!


 今の台詞は俺が言ったんじゃない、直哉が言った物だ。子供たちは小学校中学年くらいだ。小六の直哉に怒られたら恐いだろうな。多分俺が怒ったほうが恐がるだろうけど……それにしても俺、直哉よりチキンだったんだな……あはは。


 直哉は子供の一人を掴んで引き離し、大声で怒鳴っている。流石に年上に怒鳴られるのは怖かったのか、三人組は走って逃げていき、安堵の表情をしたママさんや子供たちがひそひそと話す中、残された子だけはこっちに走ってきて頭を下げる。


 「有難うございます!でも俺一人でもあんな奴ら倒せたよ!俺強いもんね!」

 「だからって……一対三だっただろ?危ないよ」


 今度は俺ができるだけ優しい口調で言えば、その子は首を横に振った。い、意外と強情だな。


 「俺は強くなくちゃいけないんだ。強くなっておじいちゃんとおばあちゃんを守らなきゃいけないから。こんな事で負けちゃ駄目なんだ」


 おじいちゃんとおばあちゃん?

 最初は意味が分からなかったけど、この子を苛めてた子供たちが両親がいないって言ってたから、多分おじいちゃんとおばあちゃんの三人暮らしなんだろうな。

 普通あんな事言われたら傷つくよな。俺だったら泣きながら捨て台詞を残して逃げてるかもしれない。そう考えたら、この子の強さに年上ながら尊敬してしまった。


 「強いな……君は」

 「当然だよ!俺、将来おじいちゃんみたいな警察官になるんだ!」

 「警察官なんだ」

 「そうだよ!おじいちゃんは正義のヒーローで悪い奴らをやっつける警察官なんだ!」


 余りにも嬉しそうに語るから、こっちまで嬉しくなってしまう。辛い境遇なのに強い子だな、本当にそう思えた。


 「純!」

 「あ、おじいちゃん!」


 声が聞こえて、その子が目を輝かせて走っていった。そっか、この子純君って言うのか。


 純君はおじいさんに飛びついて嬉しそうに話をしていた。おじいさんは六十半ば位かな?優しそうだけど、しっかりしてる感じがする。手に紙袋を持っていることから、二人で来ていておじいさんが買い物をしている間、純君だけここで遊んでいたのかもしれない。それでさっきのクソガキ三人衆に遭遇したのかな。


 純君がこっちを見ながら話していると、おじいさんが近づいて頭を下げてきた。


 「純を有難うございまず。喧嘩を仲裁してくださったとか。申し訳ありません、保護者の自分がいなかったせいで……」

 「い、いえ弟が勝手にした行為ですから!こちらこそ差し出がましい真似をして!」

 「とんでもない。勇気ある行動です。ありがとうございます」

 「でもおじいちゃん、俺一人でも倒せたんだからね!」

 「純、喧嘩は駄目だと言っただろう。倒せる倒せないの問題じゃない。暴力を振るった方が負けなんだよ」

 「じゃあ、やられても我慢しろって言うの?」


 優しく諭せば、純君は少しぶすくれた。そんな純君におじいさんは困ったように笑い、もう一度頭を下げて純君の手を引いて公園を出て行った。優しそうだけど厳しくもある。あれはいいおじいさんだ。純君は真っ直ぐ育ちそうだな。考え方爺くさいな自分。


 「しかし直哉、お前咄嗟に出て行って……危ないよ。お前が年上でも、相手は三人だったんだからな」

 「だって相手年下だったし。もしもの時は兄ちゃんが来てくれるだろ」

 「そりゃな」


 もし三人組が直哉に何かしたら子供でも関係なくぶん殴って泣かせてやると思っただろう。そういう意味では純君のお爺さんに怒られるのは俺なのかもしれない。

 とんだ寄り道食ったけど、時間的には余裕あるし、再び古本屋へゆっくりと歩き出した。



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