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第19話 宝石の魔力

 「ねぇ本当にいいの?本当にこれでいいの?」


 顔を真っ青にさせた俺とは裏腹にパイモンは冷静だ。さらに後ろには自信満々の女のシトリーが立っている。


 「はい。宝石展に直接向かい、そこで直接話をつけようという結論になりました。宝石展への潜入はシトリーに任せてください」



 19 宝石の魔力



 「見てみて拓也!私可愛くなぁい!?」


 顔を真っ青にしている俺に真っ黒でシックなドレスを着たシトリー女がドアを開けて出てきた。

 確かに綺麗だけど……なんだか室内で着られると仮装パーティーの様だ。なぜそんな恰好をしているのか分からず、的外れな返事をした俺にシトリーの機嫌は急降下だ。


 「結婚式でも行くの?」

 「はぁ?あんた馬鹿じゃない?こういう所で空気読めないから澪に嫌われるのよ」

 「嫌われてねえわ!!」

 「明後日にベネズエラ行くんじゃない。宝石の展示会なんだからドレス着ていくのは当たり前でしょ?」

 「そ、そうだけど……俺達着ないし」

 「何言ってんの。男はタキシードかスーツに決まってんでしょ。なにー!?結婚式みたいに制服で行く気?うけるんだけど!名前刺繍してあげようか?」


 う、うぜえええええ!!!こいつ、俺のことを馬鹿にしすぎだろ!!分かってるわい!流石にそんなセレブが集まる場所に制服着ないことくらい!!

 慌てて首を横に振った俺にパイモンが申し訳なさそうな視線を送ってくる。


 「主、残念ですが主にもタキシードかスーツを着ていただきます」

 「持ってねえよ!急に言われても!」

 「日本では冠婚葬祭で着ると聞きましたが」

 「冠婚葬祭って……俺、親戚の結婚式とかもずっと制服だったし……」

 「じゃあ青山か春山で買えばいいわ。一万円スーツ売ってるでしょ」

 「そう言う問題じゃない!!」


 じゃあどう言う問題だ。そう言いながらシトリーは口をとがらせる。

 だって宝石展でしょ?俺そんなの生まれて今まで一回も行った事ないし、しかも世界中のVIPが揃うんだろ!?そういう所のパーティーマナーみたいなものも知らないんだぞ!?いきなり行っても恥をかいて終わりだろ!

 正直どんな所かは興味がある。宝石だって契約石のお陰で少しは分かるようになった。でも行ける訳ないじゃん!気後れしてしまって、そう簡単に行こうとは思えない。首を横に振る事しかできない俺に、パイモンとシトリーは溜め息をついた。


 「主、気後れするのは分かります。しかし今回はこうでもしなければ奴の顔を直接見る事も叶わないのです。一般人ではないのですから。常にボディーガードを従えて、本人も移動はヘリを使用しているようですから」

 「貧乏人が気後れするのは無理ないわよねぇ。でももう行くって決まってんのよ。無理矢理でも連れていくからね。みすぼらしい恰好で来るんじゃないわよぉ~全世界に恥をかきたかったら別だけど」


 高笑いをして奥の部屋に引っ込んだシトリーは何かを手に持って戻ってきた。それを投げてきたものだから、慌てて布切れを受け取って広げてみれば、それは高そうなスーツだった。目を白黒させて、それを眺める。

 首元の内側にはポール・スミスの文字。


 「ポール・スミス!?」

 「それあげる。それ着たらいいでしょ?最初はダーリンにあげようと思ったんだけどぉ~ダーリンはもうアルマーニのスーツ持ってるんですってぇ!流石ダーリン!って事であんたにあげる」

 「あげるって……簡単に!これ超ブランド物だぞ!」

 「ホストから貰ったのよ。新しいの買ったし古いからいらないってー。丁度よかったでしょ?皆の分も貰ったんだから」


 こいつどこまで知り合いがいるんだ。貢物って訳じゃないけど、ホストから物を貰うなんて……でもまぁくれるって言うのなら……って違う!

 なんか宝石展に行く事前提になってるけど違う!


 「で、でもこれを着たって宝石展には……」

 「主、行くんですよ。何があっても」

 「あんたをあたしの力で奴隷にして連れていってあげてもいいのよ」


 ……強制イベント突入だ。

 頭が真っ白になってくる。けど宣告された時間が刻一刻と迫っていた。


 ***


 『馬子にも衣装』

 「ざけんなフクロウ」


 スーツをピシっと着た俺をストラスはマジマジ見つめて来る。でも失礼な発言は忘れずに。自分だって違和感バリバリだよこんな格好、俺が着たら本当に仮装大会だ。マジでどこ行くのあんたって感じだし。髪の毛はオールバックのようにされてスプレーで固められたせいでパリパリだ。


 ヴアルが満足そうにしているけど正直俺には似合っていない。


 今回はストラスは連れていけない。宝石展示会は当然のごとく動物は入場禁止だからだ。パイモンが言うにはデカラビアって悪魔は戦闘には不向きって言ってたから、契約者と接触できれば後は簡単なんだそうだ。


 でもやっぱ行きたくない。身の程を知れって感じだよ……できれば俺は外で待っときたい気分だし。


 セーレとパイモン、シトリーも皆スーツとドレス着てるし、ヴォラクも子供用のスーツ、光太郎も動きにくいから嫌だとか言いながら、意外としっくりきてる。明らか仮装だろって奴は俺しかいない気が……


 「ずるい、私も行きたかったのに。いっつものけ者ばっか」


 アスモデウスとヴアル、ストラスはお見送り。ヴアルの機嫌はむちゃくちゃ悪い。そんなに行きたいなら俺と変わってあげたい。俺はここで留守番してたいよ……

 でも正直アスモデウスは来てほしかった。だって用心棒としてはメチャクチャ強いだろうし。いや、他の奴らを疑ってるって訳じゃない。でも移動中にフォカロルとかが襲ってきたらどうしようって考える。

 また地獄に連れて行かれるのは嫌だし、光太郎が殺されるのはもっと嫌だ。とにかく聞かなきゃ始まらない。俺は勇気を出して、パイモンにアスモデウスを連れて行けないかを頼む事にした。


 「アスモデウスは連れて行けないのか?強いから……」

 「残念ですが契約者が澪です。それに澪と契約期間が短いアスモデウスには契約石にエネルギーが溜まっていないはずです」

 「またフォカロルが襲ってきたり……」

 「無いよ」


 ハッキリとアスモデウスがそう告げて首をかしげた。正直何でそう言いきれるのかが分からない。


 「なんでだよ」

 「もうサタナエル様の復活は目前。あんたの力を借りる必要がなくなったからだ。フォカロルはまたルシファー様の命令通り、魂を集める作業に戻るさ」

 『そう言えばアスモデウス、なぜ七十二柱は魂を集めているのです?私達はてっきり天使の兵になる優秀な人間の魂を回収しているだけたと思っていました。しかし実際はどう考えても天使の兵に相応しくない恨みや憎しみ、羨望に感情を奪われた人間ばかりと契約している』

 「……サタナエル様の力は破壊と再生。罪が溜まった魂を集める事で、それを凝集し、死した七十二柱や不完全に封印されている悪魔たちをサタナエル様の力で再度復活させる。ルシファー様は地獄の君主たちやグレゴリの堕天使達の復活を望んでいる」


 なんだよ話が逸れてきてんぞ。

 俺の質問なんて完全にどっかに飛んでいってしまった。パイモン達のアスモデウスの答えに何かを考え込んでいる。俺と同じ分からない光太郎がシトリーに耳打ちをした。


 「地獄の君主って何?」

 「地獄でもサタネルと並ぶレベルの悪魔たちよ。元は堕天使の軍団らしいけど良く知らない。ソロモン七十二柱の数匹の直属の上司でもあるらしいけど」


 こんなやつらの上司!?七十二柱だって上位の悪魔のはずなのに、さらに上司がいるって言うのか!?

 苦笑いしかできない。この話はもういいだろう、次に移ろう。


 「じゃ、じゃあグリゴリの堕天使って?」

 「メタトロンって言う天使が今天界にいてねぇ、そいつ実は元人間なの」

 「え?でも天使って人間がなるんじゃないのか?天使の兵がどうとかって言ってただろ?」

 「生粋の天使は違うわ、神の創造物。でもメタトロンは生きた人間がそのまま天使になった。死なずにね。それを一部の天使達が反発したの。人間に自分達より上の位を渡すのかってね。それで反旗を翻した天使と抗争が起こって、そいつらは地獄に落とされた。それがグリゴリの堕天使達。サタネルの称号を持つアザゼルもその一人」


 アザゼルも?そう言えばそんな事言ってた気がする。もう正直悪魔っていろんな称号持ってるから頭がごっちゃになりそうだ。でも復活って事はサタナエルの様にすごく強い悪魔なんだろうか。

 前にヴァッサーゴが言ってた。悪魔は死んでも罪が溜まれば復活するって……だから罪深い人間の魂を奪ってるんだ。それを使って死んだ悪魔たちを。

 じゃあヴェパールも復活するのかな……頭の中に浮かんできた人魚の悪魔。人間になりたいと望んで、自ら死を選んだ悪魔。彼女が復活できるのなら……でも、復活したヴェパールは颯太さんのために生きることを望んだ彼女じゃなくなっているんだろう。


 「主、時間がありません。行きましょう」


 パイモンに促されて、慌てて頷いてベランダに出る。南半球のベネズエラは寒いらしく、コートを手に持たされる。なんかブラジルでも同じ事やったな。あの時も悲しい事が一杯あった。

 今回はブラジルと同じ南米大陸。嫌な事が無かったらいいけどな……


 ***


 「うー寒いわ」


 着いて早々コートを羽織り、シトリーの後を付いて、宝石の展示会が開催されるホテルに向かう。


 厳重な警備が敷かれてある建物をすぐに発見し、これだと分かった。さすが高級ホテル。外観からすごい。入り口の門でガードマンや警備員が目を光らせ、入ってくる車を一台一台確認している。


 カメラマンが中に入っていく人達をパシャパシャ写真を撮っており、お祭り騒ぎだ。どうやってもこれは中から入れない雰囲気じゃないか。こんな中を堂々と歩ける勇気を俺は多分一生持てないだろう。


 セーレの服の袖をひっぱり、この中を歩くのかと尋ねると、裏口から潜入するらしい。


 その手引きはシトリーが既にしてくれてるらしく、一人の褐色の肌の男がこっちに手招きをしてきた。


 「シトリー?」

 「彼はロビン、今回の展示会が行われるホテルの従業員よ。彼が案内してくれるから、浮気じゃないのよダーリン」

 「あはは、分かってるよ」


 あーでも良かった。表口だったら俺はこの寒い中でもいいから、外で待ってると言う所だった。


 セーレの腕を掴んで隠れながら歩こうとしたけど、パイモンとシトリーにみっともないから止めろと釘を刺された。でもこんな空気の中じゃ何かに捕まってなきゃメチャクチャ不安なんですけど。光太郎は案外平気そうな顔。まあこいつは親父さんの企画のパーティーとかに出席してるからな。こんな大規模な物なのかは知らないけど、ある程度、この雰囲気には慣れてるんだろう。


 なにこの負け組感……俺は普通なんだよな。可笑しいのはこいつらなんだよな。中谷がいてくれたら、もう少し気が楽になってたのに……


 ロビンに連れて行かれ、裏口から中に入り、更にその中を案内されて訳も分からずに歩いて行けばレッドカーペットが敷かれた場所まで辿り着いた。


 どうやらここからカーペットに沿って歩けばいいらしくロビンは親指を突き出してグッドラックと言って去っていく。え、ここから歩くの!?


 何かに捕まってないと不安だ!誰から見られても怪しくない奴はヴォラクしかいない!


 ヴォラクの手を急に握った事に驚いたヴォラクは何するんだと怒ってきたけど、俺の緊張した表情を見て、感じ取ったらしい。途端に馬鹿にした表情になった。


 「何怖いの?だっせー」

 「……」

 「え、マジでなの?」


 返事をしない俺をからかう気も無くなったらしい、そのまま黙って先に進めば滅茶苦茶広いロビーに出た。装飾品も何もかも豪華で、パイモンとシトリーが受付をしてくるとフロントに歩いていく。どうやらシトリーはイベントスタッフにも力をかけており、参加者名簿の偽装をしているらしく、あっさりと入場許可証を持ってきて戻ってきた。


 ここから一番大きなパーティー会場で会食をし、隣の部屋で展示品をおいてあるようだ。そこで購入ができるようになっているとかなんとか。


 やだ怖い!マジで家に帰りたい!!トイレ行きたくなる!色んな事がいっぺんに起こって頭がパンクしそうだ。誰か俺を助けてくれ!


 ついて行った会場は広く、テーブルには豪華な食事が置かれている。完全に立食パーティースタイルでどこに立っていいかもわからず身の置き場がない。そわそわしていると、扉が閉まり開催の挨拶が始まる。ざわつく室内の中、前の扉から少し小太りのタキシードを着た禿げたおっさんが入ってきた。


 セーレに耳打ちであいつだよ。と言われて、そいつをジッと見つめる。


 「Le doy las gracias de hecho, para Itadai juntos. Ishireyou mientras que el atractivo de hermosas joyas en la conversación con cuidado.(本日は集まっていただいて大変感謝する。さぁ食事をしながら美しい宝石に酔いしれようではないか)」


 なんか訳分からん言葉で訳分からん事言ってる。でもなんか拍手が起こったから慌てて俺も拍手する。良くわかんねえけど、この会場の中で何人の奴が聞き取れたんだ?あたりに視線を向けると明らかに通訳らしき人間もたくさんいるし、分からないのって多分俺だけなんだろうな。

 再びヴォラクの手を握ろうとしたが、手をはたかれてヴォラクは眉間にしわを寄せる。


 「拓也、手に汗かきすぎ。気持ち悪い」

 「い、いいだろぉ~少しぐらい我慢してくれよ。俺、マジでもう帰りたくて……」


 拍手が起こった後、色んな奴がそいつの所に言って花束を渡したりしてる。おめでとうって言ってるのかな?わかんないけど。


 「主、チャンスは今です。私達も行きましょう」

 「でも手土産とかないし……」

 「その様な事を気にする必要はありません。接触できればいいのです。シトリー、頼むぞ」

 「はぁい」


 何する気なんだ?

 歩いて行ったパイモンとシトリーの後をセーレがついて行き、光太郎も追いかける物だから、俺とヴォラクも慌てて追いかけた。

 パイモン達がおっさんに頭を下げて何かを話してるのを少し離れた所で観察している間、案外平気そうな光太郎に小声で話しかける。


 「光太郎、お前ここ怖くねえの?俺もう帰りたい。母さんの飯が食いたい」

 「ここの飯でも食えば。すげえ御馳走じゃん」

 「だって取りに行くの怖いもん」

 「気持ちは分かる。俺も不自然な顔をしないだけで精いっぱい。飯食う気力も湧かない」


 平気そうな顔だったけど、どうやら光太郎も緊張してるみたいだ。帰ってカップ麺食べようなって言う光太郎の言葉に俺達ってやっぱり庶民だなって思って少し笑ってしまった。やっと少しだけ落ち着けたのに、こんな状況でヴォラクが俺のわき腹を突つくから、間抜けな声が出て一瞬視線が集まってしまった。このクソガキが!!


 光太郎が笑ってごまかし、皆に見えない様にヴォラクの尻にひざ蹴りを入れれば、ヴォラクから睨まれる。でも今のはお前が悪い。俺達が馬鹿丸出しなことをしてる間にもおっさんとパイモン達の会話は続いている。


 そしておっさんがこっちに歩いてきた。


 「えっ!なんか来る、来る!」

 「これは逃げた方がいいのか?いいのか!?」

 「いや、どう考えても逃げないでしょ」

 「大丈夫だよ。彼は今シトリーの力にかかってるから。行こう拓也、悪魔がいる場所に案内してくれるらしい。あっさり白状したよ」


 セーレが先に俺達に近づいてきて、そう告げた後、おっさんの後をついて行った。とにかくこの場所から逃げれるのなら何でもいいや。俺と光太郎も慌ててその後を追いかけた。皆の視線が気になったけど、そんなの関係無い。


 ボディガードも多分シトリーが操作したんだろう、おっさんは必要ないと突っぱねて部屋を出た。

明るいホテルのフロントを抜けて、エレベーターで最上階まであがると、ベネズエラの綺麗な夜景が視界に入ったけど見入る余裕はない。


 ああーやだ、やっぱ怖くなってきた。おどおどと挙動不審になっている俺の膝をパイモンがしっかりしろとでも言うように膝カックンしてきたため崩れ落ちた俺に目を丸くしている。


 「い、今は、マジ、そんな冗談通じないから……」

 「……そのようですね。エスコートしましょうか?」

 「お、お願いします」


 パイモンの差し出された手を握り奮い立つ。そのまま手を引かれて何とか足を進めているけど、パイモンなんでそんなにお前慣れてんだよ。立ち振る舞いも何もかもすげえ格好いいぞマジで……

 エレベーターを降りて案内された部屋はベネズエラの夜景が一望できる広い部屋だった。その奥に人間とも獣ともいえない物体が宙に浮いている。間違いない、こいつだ。

 全身に宝石を宿している星の形をしているそれは、どこに目がついているかもわからない。でもそれはこっちを振り返りゆっくりと浮遊しながら近づいてきた。


 『(この未来を見据えてはいたが、不愉快だ。だが、バティンの傘下に着くのも気が引ける。なんと厄介な状況だ)』


 低いけど耳触りのいい声が響く。ただ何を言っているか分からず呆けている俺を部屋の隅に立たせ、パイモンがデカラビアの前まで歩いていく。


 『久しぶりだなデカラビア、このような場所でイベントに興じているとは楽しそうで何よりだ』

 『パイモンめ。毎度毎度わたしを馬鹿にしおって……それほどまでにわたしをいたぶって楽しいか』

 『お前にそんな価値があるわけないだろうアホが。下らんことはいい。俺の要求をのめ』


 あ、やっぱこいつって戦う事できないんだ。

 抵抗もせずに大人しくしているデカラビアだけど、パイモンの一言でしょげるように体が丸くなった。見た目が化け物過ぎてビクビクしてしまうけど、本当にパイモンには敵わないんだろう。無駄な抵抗はしないって感じだ。

 ヴォラクに手伝ってもらって召喚紋を描くが、すくみ足になってしまい上手く描けない俺をヴォラクが怒る。光太郎はちゃっかりセーレの後ろに避難しており、横にはシトリーを従えている……くそう、薄情者!お前すげえ要人みたいに守られてじゃねえか!俺なんて駆り出されているのに!


 「ぱ、パイモン!エスコート!」

 『エスコート?私が手伝うことなどないと思いますが』

 「近くに居てよ!!俺が危険な目に遭うかもしれないだろ!」

 『……ヴォラクもいますし、私と貴方の距離は二~三メートル程度の距離では?これでも遠いのですか?』


 おい、エスコートしてくれるって言ったじゃねえか!全然こっち来てくれねえじゃん!

 いいからさっさと描けよ、とでもいう視線を受けて何も言えなくなる。俺本当に契約者なんだよな?

 それでも何とか描き上げた魔法陣に大人しくその中に入ったデカラビアを確認して、シトリーは未だに呆けているおっさんから何かを乱暴に奪い取った。


 「シトリー?」

 「きれーい。フォスフォフィライトのブローチ。大事でしょお?契約石は」


 うん、そうだね。

 契約石を召喚紋に入れた時にデカラビアに触れられて思わずのけぞってしまった。


 「ひっ!」

 『弱き者よ。私からの餞別だ、その男にくれてやれ』


 尻餅をついた俺に呆れた声が頭上からかかる。せ、選別って何?

 足元には茶色い石がついたペンダントが落ちていた。なんだこれ、パワーストーンなのかな?なんなんだろう。

 頭に?を浮かべている間にもパイモンが契約者に呪文を唱えさせていく。勿論契約者は未だにシトリーの術にかかったままだから、すんなりと言うことを聞く。

 そしてデカラビアはいなくなった。


 「……なんだか今回は契約者に会うのが面倒だっただけで後は楽だったな」

 「デカラビアなんか戦ったってストラスレベルだからね」


 あ、それは弱いな。

 ヴォラクの例えは分かりやすかった。デカラビアがいかに弱いかって。


 「主、それを渡してください」

 「これ?はい」


 パイモンに話しかけられて、さっきデカラビアにもらったブローチをパイモンは契約者につける。餞別って言ってたけど何なんだろう。


 「それなんなの?」

 「この石はモルガナイト。記憶を忘れさせる意味を持つ石です。デカラビアからの餞別は契約者の記憶の抹消です」


 そうか、デカラビアは宝石の意味を身に着けた相手に具現化させる。つまり記憶の抹消の意味を持つこの石を契約者に身に着けさせることで、今この場で起こったことや悪魔と契約していた記憶を無くさせるんだ。いいとこあるじゃないか。


 契約石を身につけさせて再びエレベーターでパーティー会場に戻る。


 うぅ、戻りたくないなぁ……


 そこからはパーティー会場でシトリーがおっさんにかけていた力を解いて軽く話して俺たちはずらかった。


 今回の件で分かった事が一つだけある。


 やっぱり俺って庶民なんだなーってこと。もう二度とこんなパーティーなんか行きたくないや。



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