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第18話 願いが叶う宝石屋

 「あー進路とかまだ決めてねえっつの」


 今日、学校で進路希望書が配られた。国立理系に行くか、私立理系にいくか、どこの大学を希望しているのか。そろそろ俺達も考えなきゃいけない時らしい。

 上野とオガちゃん、三人でプリントを見ながらしかめっ面。いつの間にか、もうそんな時期になってたんだな。



 18 願いが叶う宝石屋



 「オガーお前どこ行くの?」

 「適当な工学部。ただし就職率がいい所」

 「まぁ今から勉強したら、どっか引っかかりそうだよな」


 上野はケラケラ笑ってプリントの国立に丸をする。上野は国立理系に行くのか。逆にオガちゃんは私立理系を選択してる。別にこのプリントを提出しただけでクラスが決まるわけじゃない。三月にもう一度希望を取るけど、このままだったらオガちゃんとは三年になったらクラス違うんだな。

 一応国立に丸したら上野は嬉しそうに、オガちゃんはつまらなさそうな顔をした。


 「あー拓也国立組?一緒一緒」

 「なんだよイケメン、お前国立行く頭無いって。一緒に私立の門叩こうや」

 「うっせえオガ!まだ間に合う!」


 確かに今のままじゃ無理だけど、まだ二年だ、巻き返しは効くに決まってる!聞いた話によると、今のところ桜井、藤森、オガちゃんの三人は私立理系希望らしい。逆に俺と光太郎、上野、立川、ジャストは国立理系希望。中谷もいたら絶対私立理系行くよな。

 このメンバーで三年も一緒に居たかったけど、そういう訳にはいかないようだ。なんだか少し寂しい物があるな。これから受験一色になるんだろうか。

 三年生は今から推薦入試が始まるらしく受験モードになっている。まだ先の話と思っていながらも、案外すぐ来るもんなんだよなあ。


 「皆バラバラだな」

 「そりゃ三年までこの面子はいかねぇだろ」

 「俺達国立組になったら私立組を恨むんだろうなぁ。いいよなぁ、楽だろ?」

 「そりゃ国立組よりゃ楽だけどさ。できれば指定校取れたらもっといい」

 「サボんなてめえ!金持ちのボンボンがよお!俺なんか私立いったら生活費は自分で稼げって言われてんだぞー!金ねえからって!」

 「そんな人のための~奨学金~」

 「やだよ借金じゃん!」


 上野がオガちゃんを軽く蹴ったらオーバーなリアクションをする。こんな馬鹿な漫才見れるのも最後になるのか。悲しいなぁ……

 でもその前に修学旅行あるし、それまでに中谷を連れ戻したい。一緒に回りたいもんな。プリントは一週間後に提出だ。光太郎が呼びに来て、二人に手を振って教室を出て、そのままマンションに向かう。

 さぁ、悪魔は見つかったかな?


 ***


 「主、悪魔と契約していると思わしき人物を確認しました」

 「見つけたのか?」


 パソコンから顔をあげたパイモンの傍に近寄る。パソコンの中にはハゲて少し太ったおっさんが映っていた。おっさんは体中に宝石をつけていて、いかにも成金オーラが出ている。装飾品で着飾る前にお前の見た目を……なんて思ってしまったのは言葉には出さない。


 「はい、数週間前に上半期の富豪ランキングと言うのが発表されまして、南米での今年の一位はコロンビアの宝石商“パブロ・エミリオ・エスコバル・ベタンクール”。彼に決まりました。彼は別名エメラルド王と言われており、良質なエメラルドを産出する鉱山を持っており、本人も宝石の卸売りの事業を行っています。しかし彼は去年まではランキングに乗るどころか、破産寸前であったと聞きます。それが最後に行われる予定だった宝石の展示会から人気が爆発。億万長者に輝いています」


 名前長いな。なんか区切りが三つなかったか?ミドルネーム二つもつけんなよな。

 こういうお金持ちって悪いことして稼いでるって奴がセオリーなんだろ?悪魔の力使って儲けてんだろうな。何となく分かるけど一応聞いてみた。


 「それで……そいつが何で悪魔と契約なんて分かるんだ?」

 「彼の宝石の特徴は宝石の持つ意味にあります。主も覚えていますよね、ヴアルと契約していたロシアのアクセサリー屋の事を」

 「ああ、グレゴーリーさんだっけ?恋愛成就のアクセサリーが……って奴だったよな」

 「はい。それと同じです。彼は宝石を卸す際に希少価値の高いものに限り一つ一つ意味をつけるようです。有名どころで言うとダイヤモンドなら永遠の愛、アクアマリンならば水兵のお守り、サファイアならば魔除け……そしてその宝石を買った者は、その宝石を身に付けた時に宝石の意味通りの出来事が起こると話題になっています」


 それって花言葉みたいなものなんだろうか。でも確かにパイモンの言っている話はヴアルの時の事件と少し酷似してる気がする。ヴアルは澪と契約してるんだけど、澪と契約するまではロシアの個人アクセサリー店を経営しているグレゴーリーさんって男性と契約していた。ヴアルの能力は片思いをしている意中の相手とくっつける事。


 そのため、自分の魔力が宿ったパワーストーンから作られたアクセサリーを販売し、買った人間たちの恋愛を成就させていた。今回も聞いた限りじゃ似てる感じだけど、死人が出てないだけマシなんだろうな。うん、考えれば考えるほどきな臭い。


 「それでさ、思い当たる悪魔は特定できてんの?」

 「宝石の意味を契約者にもたらす悪魔は一匹しかいない。悪魔デカラビア、奴が妥当な線だと」

 「俺もそう思うな」


 光太郎の質問にパイモンが答え、アスモデウスも同意した。

 そうか、今回の悪魔はデカラビアって言うんだな。でも話を聞く限りは戦闘がうんぬんって感じじゃなさそうだけど……


 「ただいまー」

 「あ、セーレが帰って来た!お帰りなさぁい!」


 どこかに行ってたらしい、セーレが帰ってきて、ヴアルが出むかえる為に玄関に向かった。

 セーレは買い物に行ってたらしく、買い物袋を持って帰って来ており、床に置いた後に手を労わるようにヒラヒラと振る。

 しかしヴアルはセーレが一人で帰ってきたことに首を傾げ、一緒に向かったもう一人のことを聞いている。


 「あれ?ヴォラクは?」

 「ジャンプ読んで帰るって、コンビニに寄って行ったよ」


 何やってんだあいつは……

 気を取り直してパイモンの話を聞けば、パイモンも早速討伐に行きたいって話してる。


 「しかし今回は悪魔よりも契約者に会う事が難しそうですけどね……そこはシトリーに何とかしてもらいましょう。日本と時差が十四時間もあるそうなので今のコロンビアの時刻は夜の十二時になります。今から向かうのは難しいので、時間を指定させていただきます」


 てきぱきと仕切られて何も意見を出せる状況ではない。


 「あ、うん」


 パイモンに全権限をゆだねるような形になり、話が終わったとでも言うように当の本人がパソコンを閉じて立ち上がる。


 「では主、少し稽古していきませんか?どれほど強くなったか、この目で見てみたい」

 「でも俺……何も強くなってなんか」

 「そうだよ。彼の戦いは運任せ。実力を測るには値しないさ」

 「うっせえぞてめえ!!」


 分かってるけど、なんで他人に言われるとムカつくんだ!


 アスモデウスの失礼な発言に反論すれば、本人は失礼な事を言ったつもりがないらしく、首をかしげただけだった。くそっなんでだ!悪魔って言うのはやっぱり他人を不快にさせても気にしないような奴らなのか!


 でも確かにあいつの言う通り、俺は剣の方は全くと言っていいほど進歩してない。だってそんなことしてる余裕なかったし、サタネルと戦ったときだって剣を使ってまともに戦ってすらいなかった。ずっとサタナエルの力に頼りっぱなしだったから。


 でも一応やってみようと言うパイモンに頷いてついて行く。暫くパイモンに稽古をつけられてヘトヘトになった俺にパイモンは剣をしまって何かを考え込んだ。


 『主はサタナエル様の炎を使えるようになったとアスモデウスから聞きました』

 「え、あーまぁ少しだけ……」

 『今出すことは可能ですか?』

 「うん。まぁ……」


 “出てくれ”。剣を出す感覚で手に力を込めると、俺の右手を白い光が覆った。地獄にいたときは出し方すらわからなかったのに、今では自分の思うままで出すことだけはできる。

 その光にも似た炎をパイモンは眩しそうに目を細めた後、ジッと見つめた。炎は俺の手のひらで輝くように燃えている。この炎がなきゃ俺はここには居なかった。

 サタナエルの力を使わなきゃ生き残れなかった。


 『主、こういうのは申し訳ないですが……その力は武器になる。できるだけ使うのは控えた方がいいですが、万が一の時に出し惜しみは禁忌です。貴方のことだ、ギリギリまで使ってはいけないと思っていそうなので』

 「……うん、ストラスにも言われた。でもさ、これを使ったらサタナエルが目を覚ますんだろ?いや、もう覚ましてるんだけど、またあいつが復活する手助けになるかもしれない」


 不安そうな声になってしまい、縋るような目でパイモンを見つめれば、パイモンは気まずそうに視線をずらした。

 いつまでも返ってこない返事に最悪の事態が予測され、パイモンがその空気を切り裂くように声を出した。


 『主が何をしても、もう遅いと思います。確実にサタナエル様は復活する』

 「う、そだろ……」

 『主はサタネル達との戦いの際にサタナエル様の力を多用したとアスモデウスから聞きました。そして森一面を焦土にしたとも聞いています。サタナエル様が自身の力を外部から感じ取り目を覚ますのなら、主の炎で既に目を覚ましている。水晶の内部溶解を進めている最中でしょう』

 「そんな……」


 俺のせいで結局あいつは目を覚ますのか?


 水晶の中で眠っていた子ども……サタナエル。黙示録の獣、大いなる赤き竜をペットに従えている奴、最強の悪魔……そいつが復活したら悪魔達の準備は整うんだ。審判が始まってしまう。


 アンドラスとの一件以来、ウリエルとは連絡が取れない。つまり天界がどういう状況なのかも分からない。審判を受けてたつのか、それとも止めようとしてるのか。


 中谷がどうなっているのかも分からず、こちらの問題は一向に解決しないまま山積みになっていく。


 『しかしまだ水晶を全て溶かすまでは至っていないはずです。目を覚ましたサタナエル様の力を用いても水晶を溶かすには時間がかかるはず。主、それまでに何としても七十二柱を地獄に返し、召喚門に再び封印をかけましょう』

 「……うん」


 話す事が終わったのか、パイモンは空間の外に出ていってしまった。結局稽古はしないのかな?稽古って言うのは名目で確認したかっただけなんだろう。俺の動きを確認するだけで鍛えられるわけではなかった。多分、炎を見たかったんだろうな。

 俺もその後をついて空間の外に出れば、パイモンの代わりにパソコンをしてセーレが何かを調べており、それを覗き込んでいる光太郎とヴアルの姿があった。パイモンがその輪の中に入り、セーレに何かを話しかけている。


 『セーレ、何かあったのか?』

 「うーん……さっきの宝石商の事を調べてるんだけど、来週ベネズエラの首都のカラカスでパブロ・エミリオ・エスコバル・ベタンクールの宝石展があるみたいだね。それに本人も出席するって書かれてる」

 『宝石展か……直接顔を見るには申し分ない場所だが。自国では開催しないのか?』

 「うーん、なんかベネズエラの首都に高級ホテルを建設してたらしくて、それが完成したからホテルのお披露目的な意味もあるっぽい。世界中のVIPが客としてくるからホテルも紹介したいのかもね。商魂たくましくて結構だよ。招待客の予想も立っててすごいよ。ハリウッドセレブにアラブの石油王、貿易会社社長に元大統領と大統領夫人……セキュリティーも万全のはずだ。俺達なら侵入程度は容易いだろうけど、少し気後れしちゃうよね」

 「えーでも宝石展でしょ!?いきたぁい!」


 ヴアルは目を輝かせて行きたい行きたい愚図っているが、正直行ける気がしない。

 そんな凄い人達が集まってる中に田舎者の一般ピープルの俺が入れる訳がない。絶対オーラですぐに分かる。俺が一般人だって事。さらし者になりたくない!そんな会場想像すらもできない!

 しかしパイモン達の視線はお金持ちの光太郎に向かう。


 『光太郎、お前の父親も確か貿易会社の社長だろう。何とかならないのか?招待券もらえないのか』

 「そうじゃない!光太郎ってすごく大きい会社の息子なんでしょー?まさか光太郎がそんなセレブと思わなかったけど」

 「えっ馬鹿な事言うなよ!できる訳ないじゃん!宝石とか親父の事業と一ミクロンも関係ないし、招待券とかもらえるわけないし!」

 『まあ、そうだな。じゃあやはり潜入するしかないな』


「じゃあ私の出番って訳ねぇ~」


 不意に声が聞こえて振り返ったら、いつの間にかシトリー(女)がマンションに帰りついていた。

 シトリーは両手にいっぱい紙袋を抱えており、それをアスモデウスに投げつけた。

 ドサドサと結構な音を立てて複数の紙袋がアスモデウスを襲い、紙袋と共に床に尻餅をついた。


 「わわっ!な、何……?」

 「持っときなさい草食系男子。話は聞いたわよ~いいじゃない行きましょう。VIP集まる場所でしょ?いいカモいそうじゃなぁい」

 『お前その紙袋どうしたんだ?』


 落ちた拍子に紙袋から現れた鞄は俺でも知っている高級ブランド物で、そんなのがいくつも入っている。こいつ、いったい何をしていたんだ。


 「えー?こないだぁホストクラブに行ったのよねぇ。そしたらホストから一方的に気に入られちゃってぇ~今日会えない?って言われたから会ってたのよ。めっちゃ大変。三人とデート済ませてきたわ。一人九十分でね。あー回転ずしかと思ったわ」

 「そしてそれが戦利品な訳ね。あんまりそんな事してると刺されちゃうよシトリー」

 「そん時はセーレが盾になればいいでしょ?伊達に私のボディーガードしてないでしょ!」

 「い、いつから俺がボディーガードに……」


 項垂れてしまったセーレを気にする事も無く、シトリーはそのまま光太郎の腕に自分の腕をからめた。呆れ笑いをしてる光太郎に目を輝かせてダーリンと言っているシトリーは恋する女の子の様だけど、やってる事は中々酷い。

 シトリーの荷物に潰れてしまっているアスモデウスを救出して、勝手に袋の中を覗いてみた。中には高そうな靴や服、鞄にアクセサリー、しまいにはお菓子まで。お菓子を手に取った俺にシトリーが視線を向けた。


 「あ、それお土産よ。食べていいわよ。ダーリンも一緒に食べて」

 「あはは、うん。そうするよ」


 こいつ……こうやって貢がさせてたのか……でもこれデパ地下にある高級お菓子だ。一回父さんがもらってきて食べたことある。めっちゃうまかった!

 呆れながらもお菓子の包装をバリバリ破って中の箱のふたを開けたら、いっぱい美味しそうなクッキーが並んでいた。


 「うおー美味そう……」

 「なんか有名なお店のらしいわよ。前ダーリンがクッキー好きって言ったからもらってきちゃった!ダーリンが一番先に食べたいのとっていいわよ」

 「あーうん。ありがとう」


 シトリーの奴、そんな事言う癖に肝心の光太郎の腕を抱きしめて放さないんだもんな。あれじゃ光太郎が動ける訳もない。クッキーも取れねえよ。とりあえず俺はシトリーの言っている事を無視して適当に美味そうなのを一枚かっぱらい、アスモデウスにも一枚渡した。

 やっぱり美味い!ここのクッキー最高すぎる!何枚かもらって帰ろうかなーストラスや直哉も喜ぶだろう。

 パイモン達のとこに持っていき、光太郎の元に向かうとシトリーが眉間にしわを寄せていた。


 「ちょっと拓也、なんであんたが最初に食べてんのよ」

 「えーいいだろ別に。これ何枚か持って帰っていい?ストラスと弟にあげたいから」

 「良くないわよ。これはダーリンのお土産なのに」

 「俺なら大丈夫だから……」

 「ダーリンがそう言うならまぁいいわ。許してあげる」


 一体いつからこいつ、こんな光太郎にべったりになったんだぁ?

 とりあえず皆がクッキーを食べてくつろぎ始めたので、俺もそっちに集中する事にした。



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