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第11話 頑張っている君へ

 『ヴアル、貴方はパイモンの援護を。セーレは拓也と契約者を頼みます』

 「分かったわ」

 「了解」


 ヴアルが悪魔の姿に変わって、剣を向けているパイモンに近づいていく。そしてヴアルの代わりにセーレとストラスが来た。

 結界はヴアルがはってくれるけど、この怯えている契約者はどうすればいいんだろう。話しかけても動揺して答えてくれる気配がない。なにかにつかまってないと怖いのか、ずっと俺のズボンを握りしめていた。



 11 頑張っている君へ



 とりあえず慰めた方がいいのかな。恐怖で喋ることもできない契約者の肩を叩いて何とかしようと試みるけど全く効果がなさそうだ。悪魔に襲われたんだ、恐いのも仕方がないよな。何を言っても今は無理そうだ……でも間に合ってよかった。腕を取られてたら笑い話にもならない。今ここで悪魔を返せたら、きっと何も無かったようにできるさ。


 とりあえず契約石を持っててくれって伝えたら、震えながらも頷いた。後はパイモンとヴアルだよな。


 少しは俺も手伝わないと。最近何のためについていってるか分からないくらい役に立ってない。空気とはまさにこの事だ。


 剣を使えるのがパイモンしかいないから今回はちょっときついはず。ヴォラクもアスモデウスもシトリーもいないんだ。近距離メンバーが皆いない、俺が何かしないと。


 でも遠距離攻撃はヴアルで間に合ってるだろうから、やっぱ俺も近距離でサポートするしか……あー無理、できんわ。そんなんできたら一人で悪魔倒せてる。


 どうしよう、これ以上空気は流石にまずい。でも俺に抵抗が出来るって言えば、サタナエルの力を使うしか……


 うだうだ考えている内にパイモンとオセーが剣を合わせだした。急に聞こえてきた金属音に肩が跳ねる。援護しなきゃ!そう思ったけど、ヴアルが既に待機してるし、あーもう俺一体何すればいいんだよ!?


 とにかくする事ないし、セーレたちに危険が行かないようにここで待機するしかないよな。セーレとストラスは戦えねえんだもんな、俺が頑張らないと。


 「ヴアル、大丈夫か!?」

 『頑張ってみる!拓也は危なくない所にいて』


 女の子に戦わせて、自分は避難って……なさけねー。何だかヴアルが戦っている姿を見ると、すっげー胸が痛む。役に立たないって事を一番実感するわ。

 パイモンはオセーって奴と戦ってるが、手は二刀流のため、パイモン少し不利なんじゃねえのかな。

 ヴアルが爆発でサポートしてくれてるけど、それでもやはり相手の方が手数多いわけだから。剣を持ってソロソロ歩き出した俺の頭をストラスが口ばしで突いてきた。


 「あだっ!何すんだよ!?」

 『貴方は動いてはいけません。今、加勢をしようとしていましたね』

 「確かに役に立たないから動いても意味ないかもだけど……少しでも戦力がいた方が……」

 『駄目です。考えなさい、貴方は少しずつサタナエル様に侵食されている。力を使えば使うほど、悪魔になっていくのです』

 「だけど……」

 『確かに身の危険が迫った時は出し惜しみは禁物です。しかし任せられる所は任せましょう』


 ストラスはそう告げてパイモン達をジッと見ている。でも、それじゃ俺は役立たずじゃないか。ずっと役立たずなんだ、少しぐらい手伝わせてくれたっていいじゃないか。

 天使の力を使えば問題ない。サタナエルの炎さえ使わなかったら……


 『拓也、貴方は最後の希望なのです。貴方が崩れ落ちれば人類には滅亡しか待っていない』


 その言葉に息を飲んだ。そんな言われ方をされると正直言って重いし恐い。自分のせいで全てが無くなるって言われてるような物だ。でも最後の審判が起こったら人類は滅亡する。それを止められるのが俺しかいないって言うならストラスの言う通りなんだろう。


 でもそれが自分にとっては恐怖でしかない。


 目の前で怪我をしながら戦っているパイモンを助けに入れもしないし、ヴアルみたいな女の子に戦わせて後ろから眺めてるだけ。そこまでして守られる存在なのかな。


 でもストラスの意見に逆らう訳にもいかず、仕方なく契約者がいる所に戻る。彼はまだ震えており、目の前に膝をついた俺を見て顔をあげた。


 「大丈夫か?」

 「。これ一体どうなってんだ……」

 「俺達は悪魔を倒しに来ただけだ。君に危害は加えないよ」

 「そっか。助けに、来てくれたんだ……ありがとうございます。迷惑かけてごめんなさい」


 信じられない光景に何回も瞬きして、泣きそうになりながら契約者は頭を下げた。何度も迷惑をかけてすみませんと繰り返して言うもんだから、こっちが頭をあげてくれと頼んだほどだ。


 『拓也!』


 急にヴアルの声が聞こえて振り返った先に、小さな悪魔が数匹襲い掛かってきた。なんだこいつは!?どっから湧いてきた!


 『あれはオセーの使い魔です。私達で倒しましょう!』


 あの悪魔の部下ってことか!?面倒な物を召還すんなよな!でも一応曲がりなりにも色んな悪魔達と戦ってきたんだ。こんな奴ら、俺一人でもっ!

 剣を取り出して一匹の悪魔に振り下ろすも、あっさりと避けられて背後に回られた。そのまま後ろから飛びつかれて思いっきり肩に噛み付かれる。


 「あでででで!いってえよクソ!」


 ストラスが悪魔をくちばしで突き、そのお陰で離れてくれた隙に悪魔に竜巻をぶつけて一匹はとりあえず倒したが、残りがセーレの方に向かっている。


 慌てて剣を投げつければ、運よく悪魔の一匹に突き刺さって地面に倒れこんだ。残りの二匹はセーレが召還したジェダイトが蹴り飛ばしてくれて、何とか助かった。それにしても、こんな雑魚一匹倒せないって……俺って一体なんなんだろ。


 何とか悪魔を倒したことにヴアルが安堵の笑みを浮かべて、再びパイモンとオセーのほうに集中してる。でもパイモンがこっちに一瞬気をとられて剣を弾き飛ばされた。


 そのまま振り下ろされそうになった瞬間、ヴアルがフォローを入れてくれたお陰でパイモンは距離をとったけど、このままじゃやばいのか?


 自分の手に現れた白い光のように輝いている炎をジッと見る。やっぱりこの力を使わないと。


 『拓也?』

 『やっぱり俺行くよ』


 オセーがこっちを見て目を細めたのが見えた。パイモンが俺のせいで本気で戦えないなら、俺がこいつを倒す。ゆっくりと近づいてオセーを威嚇する。


 『ソノ炎ダ、我ガ待ッテイタノハ』

 『主、お止めください!』


 パイモンの静止も聞かずに走り出し、オセーも剣を構えて待っている。腕で光るように燃え盛っている炎をオセーに向かって炎弾の様に投げる。これはサタナエルの炎なんだ、オセーも簡単に受け止めようとはしないはず。案の定しっかりと距離を取って避けて、ジリジリと距離を縮めてくる。

 接近戦になっても、この炎を顔面に食らわせてやる。絶対にこいつに負けない。

 しかしパイモンが再び斬りかかったことからオセーは俺への攻撃を止めて再び二人の戦いになる。この隙に決めるしかない!


 『パイモン、避けろよ!』


 オセーめがけて再び炎弾を投げつける。ギリギリまでオセーの動きを止めてくれていたおかげで俺の投げた炎弾はオセーに届きそうだ。


 『クダラヌッ!』


 オセーは剣を立てて炎弾を防いだけど、一発防いだだけで剣は一瞬でチリになってしまった。本当にこの炎で燃やせない物はないのかもしれない。改めてサタナエルの力に驚愕する。

 そして炎を受け止めた瞬間、オセーの心臓めがけて剣が飛んだ。パイモンが使っている細身の剣がオセーの心臓付近に突き刺さる。後ろから契約者の悲鳴が聞こえたけど、それどころじゃない。これで倒したんだろうか。

 サタナエルの炎で剣もなくなり、心臓に剣を突き刺されたオセーは崩れ落ちるように膝をつき、口から血を吐いて、その場に倒れこむ。


 『血だらけだな』


 こんな状況でも冷静にパイモンが剣をオセーから抜き取って、更に歩けないように両足に剣を突き刺した。相手を戦えないようにしたパイモンはこっちに手招きし、地獄に戻すための召還紋を描けと言ってくる。なんだかもう良く分からない。

 とりあえず近くにいたヴアルに手伝ってもらって召還紋を描いていると、ポツリとヴアルがつぶやいた。


 『拓也、サタナエル様みたい。どんどん強くなっていくね』

 『サタナエルの炎以外は何も出来ないよ』

 『その炎があったら地獄での地位は確定だよ』


 そんなもんいらねえよ。そんなのいらないから、今はただ早く普通の生活が送りたい。地獄での地位なんて俺には何の価値もない。そんな物、ゴミ箱に捨ててやるよ。

 召還紋にオセーを閉じ込めて一安心。契約者の元に行って契約石を貰う。タイガーアイのチェーンがこいつの契約石なんだそうだ、綺麗な宝石だな。

 そしてストラスが契約者を連れてきて、あの長い呪文を伝える。でも当然覚えられるわけがないから、ストラスはどっから出したか知らないけど、呪文が書かれた紙を手渡した。


 「ああ、我が霊オ、オセーよ、汝わが求めにこ、答えたれば、我はここに人や獣を傷つける事無く、立ち去る許可を与えよう。い、行け、しかし神聖なる魔術のぎ、儀式によって呼び出された時は、いつでも時を移さず現われるよう用意を調えて、おけ。我、は汝が平穏に立ち去ることを願う。神の平和が汝とわれの間に永久にあらん事を、ア、アーメン」


 つっかえながらも呪文を言い終わった瞬間、オセーの体が光で包まれた。オセーは悔しそうな表情をしながらも喋る気力もないのか、何も言わずに消えていった。

 悪魔がいなくなった空間に訪れた静寂を破ったのは契約者だった。何度も泣きながら頭を下げる相手にセーレが優しく諭す。


 「ごめんなさい、有難うございました」

 「もう悪魔なんかの力を借りずに頑張って野球をしてね」


 セーレがそう告げた瞬間、契約者は悲しそうに笑った。多分色んな経緯があったんだろう、言いたくない事もあるんだろう。それは自分の問題だから、俺が聞きだそうとしたら駄目なんだろう。

できれば、彼が辛い思いをしないといいな。


 ***


 ?side -


 オセーが目の前からいなくなった、なんだか不思議な奴らが助けてくれた。悪魔を地獄に返すって言って、俺の代わりに戦ってくれたおかげで俺は怪我をすることなく全てを終わらせることができた。今でも夢だったのではないかと何度も腕を確認する。腕はちゃんとついており、あいつが再び現れない限りは大丈夫だ。そしてこれからは、また一人の練習が待ってる。


 寂しいなぁ……でも仕方ない、元々一人だったんだ。


 誰もいないグラウンドで一人で素振りをする。試合に負けた、悪魔もいなくなった、皆もう野球に対する気持ちなんてなくなってるはずだ。涙が頬を伝い、グラウンドに座り込んで一人で泣いた。


 「泣き虫、皆の前で泣きなよ」


 頭上から声が聞こえ、慌てて顔を上げると香奈子がいた。香奈子も泣いたのか、目が赤い。そのまま目の前に腰を下ろして、何も言わずに俺を見ていた。恥ずかしいところを見られて、何とか誤魔化そうとして必死で笑いながら呟く。


 「あ、あはは……馬鹿みたいだろ?俺一人だけこんなに躍起になっててさ、皆はもう来年の事も諦めてるし」

 「何の事?」

 「俺が皆に野球を無理やりやらせてたんだ。皆は俺の我侭に付き合わされてたんだよ」

 「そんなことないでしょ。皆、勝ちたいって思ってたんだよ」

 「違う。俺の独りよがりだ。また、一人での練習だ……」


 特訓メニューが書かれた紙を見られた事が恥ずかしくてグシャグシャに丸めて手の中に無理矢理納おさめた。グシャグシャにしたせいで紙の少し尖った部分が手のひらに食い込み、小さな痛みが走ったが、そんな事を気にしている余裕はない。


 勝ちたかった、この学校で来年の甲子園に行きたかった。


 諦めてる周りの奴らを前みたいにさせる為に悪魔とまで契約した。でもその結果がこれだ。格好悪くて惨めで悲しくて、涙が頬を伝い、地面を湿らせていく。


 「すぐに元に戻るよ」

 「え?」


 俺の前にしゃがみこんでいた香奈子が笑った。

 泥だらけになった俺の手を開かせて、中から紙を取り出し綺麗に広げていく。


 「おいっ……」

 「皆さ、分かってるよ。あんたがこんなに頑張って、一人で練習してる知ってるから。今回の大会で皆思い出したよ。このメンバーでする野球が楽しいってこと」


 香奈子がカバンからタオルを出して泥だらけの俺の顔を拭って行く。

 ピンク色のタオルが土色に染まり、でも香奈子がそのタオルを笑って見つめていた。


 「知ってる?雄太達、あんたをコッソリ覗いてたんだよ。一人で頑張るあんたを。きっとさ、少しずつ変わる」

 「変わる?」

 「出よう、最後の甲子園の予選。このメンバーで、この学校の野球部で」


 笑った香奈子の顔は悪魔に操られているわけでもない、本当の笑顔だった。最後まで諦めなかったら、出られるんだろうか。皆少しずつ俺に付き合ってくれるんだろうか。

 それでも一人でも味方がいてくれたら、一人の寂しい練習に終止符が打てたら、もう何でも良かった。


 ***


 次の日、授業が終わって生徒が帰っていく中、俺はいつものようにカバンを持ってグラウンドに向かう。でも今日は少し違った、グラウンドが綺麗に整備されているのだ。余りの事に目を丸くしている俺の背中を誰かが叩いた。


 「何してんだよ。ボーっとつったってねえで着替えて練習しようぜ」

 「雄太?」

 「……来年最後の甲子園、北海道の代表は絶対俺達がもらおうぜ。この学校、このメンバー皆で甲子園に行くんだ」

 「で、でも部員だって四人しかいないし……」

 「馬鹿!うちの学校の一年二年の男子合わせたら十人いんだろ!全員でやんだよ!」


 十人……?そう思いながらグラウンドに視線を送ると、きっちり俺と優太除いて八人がグラウンドに立っていた。見た事ない奴らも数人いる。他の部活の助っ人だろうか?


 「あいつら皆帰宅部の奴ら。かき集めたら十人になった。皆この高校の最後の思い出に何か欲しいんだとよ」

 「あ……」

 「だからやれるとこまでやってみよう。最後の大会は絶対に俺達がもらうんだ」


 香奈子がファイルを持って俺達を待ってる。最後の大会に向けて皆が一緒に闘ってくれる。悪魔に操られてじゃない、皆が自分の意思でグラウンドに立ってる。信じられない光景に目頭が熱くなって、目を必死でこする俺に皆が駆け寄って頭を軽く叩く。三年がいた頃に戻ったようだった。絶対に頑張れる、そう思った。


 「よぉし、じゃあ練習するか!キャプテン、号令頼む!」


 野球を知らない顧問がたくさんの野球の本を持ってきて、俺の肩を叩いた。先生も皆が協力してくれる。勝てなくても、きっと悔いの残らない試合が出来そうだ。

 これから一年間、俺達の最後の甲子園への挑戦が始まる。でもきっと大丈夫、こんな素晴らしい仲間がいるんだ。きっと大丈夫だ。


 「最後の甲子園に向けていくぞー!」

 「おぉ―――!!」



 ほら、心から笑えた。



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