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第1話 再び訪れた世界に

 ずっと欲しかった物があるんだ。完全な力なのか、自分が支配する世界なのか、天使共が滅亡していく姿なのか、挙げればキリがないものばかりだけど、でもそんな物でもない気がする。

 何が欲しいか分からないけれど、何かが欲しくて泣き叫びたくて暴れたい衝動に駆られる。でもきっと拓也を手に入れれば完璧になれる気がするんだ。

 だってあの子は僕の大切な子どもだから。



 1 再び訪れた世界に



 「拓也、気をつけてね」


 三日という時間があっという間に過ぎ、世間で言うお盆も終わって高校の夏期講習が再開した。新しく買った携帯をズボンのポケットに入れて、母さんの見送りを背に学校に向かう。久しぶりの学校、久しぶりの外の空気、なんだか全てが新鮮に感じる。おかしいな、ずっとこの世界でしか生きて来なかったって言うのに。


 ソロモンの指輪、これをうっかり手に入れてしまったおかげで偉い目に遭った。近くのシルバーアクセの店で処分するからって五十円で売られてたんだ。何も考えずに指に嵌めたら抜けなくなっちゃって、召喚していないのにソロモンの悪魔ストラスが召喚され目の前に現れた。


 それからは散々だった。最終的には俺はサタナエルって言う地獄最強の悪魔の力を受け継いだ事で、少しずつ人間から悪魔に変わっていってしまってると言うね……何とかして阻止する方法を考えなきゃ。絶対にあるはずだ。


 でも今は高校生として久々の学校に通おう。夏休みの間は悪魔と戦って地獄に連れて行かれてたんだ。久々の平穏を楽しみたい。学校までの道のりが長くて、でもなんだか幸せに感じた。


 「あ、遂に池上復活かよ!お前マジ大丈夫だったのか?」


 クラスに入った俺にクラスメイトの視線が一斉に集中する。少し気まずくて「おはよう」と小さな声で挨拶すれば、桜井が指を指して大声を出した。

 桜井の声を引き金にオガちゃんとジャスト、立川や他のクラスメイト達が集まってくる。


 「お前マジ風邪大丈夫だったのか?広瀬さえ連絡とれないって言ってたし、入院説まで流れてたんだぞ」

 「池上君本当に大丈夫?病み上がりだし無理しないでね」


 そっか。俺が地獄に行ってる間、俺は風邪をこじらせてる設定になってたって母さんが言ってた。心配してくれたみんなが有難くて、元気をアピールしたら皆は少しだけ安心した様な顔をした。


 でも前より教室は活気がない。まだクラスの生徒全員が来てないからとか、そういうのじゃない。皆、どことなくそわそわしているのだ。その原因は分かってる。


 俺は中谷の席に視線を向ける。野球が大好きなクラスのムードメーカーで、俺の悪魔の事情を知って一緒に手伝ってくれていた友達。表向きは行方不明だけど、真実はソロモンの悪魔フォカロルに殺された。


 中谷の話はストラスから聞いた。ストラスが中谷の家族に報告してないって話も。最初は怒った俺も中谷が生きている可能性が高いと言う話を聞いて何も言えなくなってしまった。生きてるって言うのは語弊があるかもな……中谷は殺されたけど、天界に天使として招待された可能性が高いらしい。悪魔と戦う為に。


 そして中谷を探しだして連れ戻す為には中谷の家族に真実を話して自らの行動に規制をかける訳にはいかない、そう言っていた。特に中谷と契約していた悪魔ヴォラクが躍起になって中谷を探しているらしく、絶対に連れ戻すって意気込んでいた。


 ストラスは俺がいない間、契約者として俺の弟の直哉と契約をしていたらしい。悪魔との契約がどれだけ危険か身を持って理解していた俺としては許せる話じゃないけど、直哉にとっては色々考えさせられる結果になったみたいだ。


 再び悪魔の心臓でもあり契約の証拠でもある契約石を直哉から返してもらい、ストラス達の契約者は俺って言う形になったから良かったけど……とりあえず俺も中谷を探さなきゃならない。

そしてフォカロルをこの手で地獄に返さなきゃ……


 とりあえず学校にいる間は高校生という久々の生活を楽しむために、その考えはいったん打ち消した。


 ***


 学校も終わり、皆に手を振って光太郎と一緒にマンションに向かう。

 今日はストラスに呼び出されている。アスモデウスをどうするか、と言う話らしい。

 俺としてはアスモデウスは命の恩人だ。無下に扱う事なんてできない。でも澪の話を知っているストラス達にとっては複雑なんだそうだ。


 「拓也、上がって」


 マンションについた俺と光太郎をセーレが迎えてくれた。俺と光太郎は軽く挨拶して靴を脱いで部屋にあがると、アスモデウスはリビングには居なかった。リビングにいるのはパイモンとヴアルとストラスだけ。


 セーレに聞いたらシトリーとヴォラクは中谷を探してる警察の状況を確認しに行っているみたいだ。このマンションがばれてないかなどの情報を。


 ソファに座るように促されて腰かけると、パイモンとヴアル、ストラスがこっちに視線を向けた。


 「主、申し上げる前に事が済んだ事をまず詫びなければならないのですが……澪がアスモデウスとの契約を決意しました。アスモデウスもそれに同意しています」

 「は?」

 「マジで?」


 いきなりの事態に理解できない俺と光太郎を余所に、パイモンは淡々と事後説明を進めていく。

 正直アスモデウスは誰かと契約はするんだろうと思ってた。でもその相手は絶対に俺だって思ってたんだ。それが澪?いやアスモデウスは澪を守りたいって言ってたから確かに澪と契約する可能性もあった訳だけど、でも……


 「ど、どっちが言いだしたんだ?」

 「……契約を申し出たのは澪からです。アスモデウスは澪の申し出を受けた。もう主が何を言っても契約は変えられない。アスモデウスが従う相手は澪のみです」

 「そんな……」


 まだ契約を変えさせることは可能なのか?でも俺が何を言っても澪が同意しない限りは……まずは澪を説得しないと、いやアスモデウスを説得するべきなのか?

 ぐるぐる回る頭で必死に考えるけど、何をどうしていいか分からない。

 まずなんで澪がそんな事を言い出したんだ?なんでアスモデウスはそれを止めようって思ってくれなかったんだ!


 「アスモデウスはどこにいるんだ?」

 『セーレの部屋にいますよ。余程疲れていたんでしょうね……先ほどまでは深い眠りについていたみたいですけど』

 「今は起きてんのかな」

 『ええ、澪が起きたと言っていましたから』


 立ち上がった俺に光太郎が不安そうな表情をして何か言いたそうな顔をしたけど、それを聞いている余裕なんてない。


 まずはアスモデウスに話を聞かないと!


 なんで澪と契約したのか、どうして俺と契約する気はなかったのか……何で澪を巻き込もうとするんだよっ!


 セーレの部屋の扉を開けた先にはベッドに横になっているアスモデウスの姿をすぐに見つけた。アスモデウスは一瞬こっちに視線を送り、またすぐに仰向けになって天井を見上げた。そんなアスモデウスに俺は何も喋らずに近づく。


 「なぁ、あんた澪と契約したんだろ。なんでだよ、あんたはてっきり俺と契約するとばっかり……」

 「ごめん、君に報告すべきだったんだろうけど……」

 「そんなのどうでもいい!どう言うつもりなんだよお前!?」

 「元々俺の目的は彼女を守る事だ。彼女と契約するのが一番効率がいいと思ったから彼女と契約したまでだ。彼女から文句を言われるならともかく、君から文句を言われる筋合いはない」

 「あるに決まってるだろ!澪は俺にとっても大切なんだ!お前が澪と契約したらお前を狙って悪魔が澪を狙ってくる可能性だってあるんだ!」

 「……俺がいてもいなくても彼女は狙われる。それなら側にいて守る方が安全だ」


 アスモデウスが起き上がって俺を睨みつける。

 少しビビってしまう自分が情けないが、でもここで屈したら負けだ。俺も睨み返せば一触即発の雰囲気が漂ったが先に視線をそらしたのはアスモデウスの方だった。


 「君は何なんだ?」


 アスモデウスの急な問いかけに今度は俺が首をかしげる番だった。

 何を言いたいの未だによく分からない俺にアスモデウスは言葉を続ける。


 「ヴアルと契約をしている時点で彼女は既に巻き込まれてる。彼女を本気で巻き込みたくないのなら今すぐヴアルと契約を放棄させ、君自身も彼女と関わらない事だ」

 「な、なんで俺があんたからそんな事言われなきゃいけないんだよ!」

 「それは俺の台詞だ。俺がどうやって彼女を守ろうかなんて君には関係ない。少なくとも彼女は君と俺のネックだ。君の動きを封じたいがために彼女を狙う悪魔だって出てくる」

 「そんな事、言われても……」

 「君は何もできない。君自身の今の力じゃ他の悪魔から彼女を守れない。君の言っている事は全て綺麗事で実際の対応策なんて持ってない」


 そう突っ込まれてしまえばどうしようもなく、言葉に詰まってしまう。

 でもじゃあどうすれば澪を巻き込まないで済むって言うんだ!中谷を失って光太郎も一度サブナックによって殺された。今度は澪までいなくなられたら……

 言い返せない俺にアスモデウスの表情はどんどん冷えた物になっていく。


 「君にも君の言い分があるだろうけど、俺にだって俺の言い分がある。彼女を守るためならどんな事だってできる。俺は彼女に未来を与えたいんだ。誰にも文句は言わせない」


 凛とした強い言葉に何も言い返せない。

 ただ痛いほどの沈黙が俺とアスモデウスを包んでいく事だけは分かった。


 ***


 光太郎side -


 「早速じゃあ悪魔探しを?」

 「ああ、悪魔を探して地獄に返すしか実際に審判を防ぐ方法は無い。地獄世界の中心人物であるアスモデウスがいる。今地獄がどういう状況なのかの情報も手に入るしな」


 パイモンは再びパソコンで色々探している。またやる事自体は振り出しに戻ってる感じだけど、でも確実に七十二柱の悪魔たちは地獄に戻していってるんだよな。中谷を探しながら悪魔を返していったら大丈夫なはずだ。

 でもパイモンは相変わらず固い表情。


 「光太郎、今言うのは酷かもしれないが……これから先は今までの生ぬるい物ではなくなると思うぞ」

 「え?」


 生ぬるいってなに?

 今までのが生ぬるいとか可笑しいだろ。今までも大変で死にそうになったことだって……いや、俺は実際一回既に死んでるし。それよりも更にきつい事が待ってるって言うのか?


 「……人数的に七十二柱の半分以上を俺達は地獄に戻した。だがこれから返す悪魔たちは正直言って話で解決できるような温厚な奴は少ない。アスモデウスの討伐に下手な悪魔は差し向けないだろう。七十二柱の六大公も出てくるのは間違いない」


 なんだよそれ。何かの爵位か。全く知らないんだが。

 首を傾げた俺にパイモンは一から説明してくれた。


 「七十二柱の中でも最強と謳われる悪魔たち……その中にアスモデウスも含まれるが、剣王バアル、死神ガアプ、恐怖公アスタロト、破壊神アモン、そして愚者ベリアル……恐らくアスモデウスを直接殺す命令を受けるはずだ。アスモデウスと一対一でやりあえるのは奴らだけだからな」

 「でもアスモデウスは松本さんと契約したんだろ?頻繁に悪魔退治には連れていけないはずだ」

 「そうだな、だがそんな事情は関係ない。アスモデウスの力があれば心強い。主には悪いが、これからは澪も半分強制的で連れ出す回数も増えるだろう。それに……バティンもきっと黙ってはいない」


 バティンと言う単語に背筋が凍った。パイモンの同僚だっけ?あのくそむかつく優男は。そうだ、あいつも間違いなく出てくるだろう。

 今までのが本番じゃないなんて言わない、今までだって大変だったんだ。でもこれからが本当の本番なんだ。

 七十二柱の悪魔の中でも最強の奴らが俺達を襲ってくる。今まで以上に血生臭くなるんだ。想像すらできないくらいの恐怖が襲い、俺は無意識に唇をかんだ。きっと俺には何もすることができない。でもそれでも何かしたいんだ。



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