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水没エリア42番地区『Japan:東京』

作者: こっこ治郎
掲載日:2026/02/01

短編です。一人称視点です。久々に書きました。

対戦よろしくお願いします。

 幾度となくこの景色を見ただろうか。

 その景色には人はいなくて、静かで、恐ろしいほどに広大な見渡す限りの海とほとんど全てが沈んだ廃ビル。


 そして朝日。朝焼けに海の色が変わり一日の始まりとこの世界はたしかに終わったことを告げる。


 高度に発展しすぎた世界で沈んでしまった地上に住む者はいなくなり皆海中か地中、または宇宙(そら)へと行ってしまった。


 私のような昔の地上の世界を知っている人間にとって今の地上は少し楽園のようにも思えてしまう。

 今、地上にいる私は何ものにも縛られることなくただただ世界を満喫している。それは前までなら有り得ないことだった。


「行ってきます」


 昔ながらの手こぎボートを使い私は街へと出る。

 なぜって?それは風情があるから。

 沈んでしまった世の中で機械の音がしてしまっては少しあれだし、私は楽して生きたいのではなく今を生きたい。


 ボートを漕ぐのは苦ではない。それが今を生きる私にとっての日常であって理想でもあるから。

 そして私はボートから釣り針と釣り糸を垂らす。


 魚が釣れることはない。餌という餌は沈んだ時にすべてが死んでしまったから。海上に残っているのは高層ビルの上から3つ目くらいまでの階のみ。

 大地は無くなり、酸素が無くなるかとも思っていたが海中植物によって今でもこの世界で息を大きく吸える。


 そして海底に残っているのはあの日から何も変わらない…いや変わったが変わらない。前までの風景だけが残っている。


 ザバッ――という音とともにサメが海上へと姿を見せる。……今日はあれでいいか。


「ごめんね」


 ――パン

 機械によって作られた恐ろしい音だが私はこの音は嫌いではなかった。というより聞きすぎたせいか特に何も感じなくなった。


 お昼ご飯を食べ終わると私は持参のシュノーケルセットをつける。こればっかりは機械に頼らないとできないことだから。

 そして目を閉じ背中から自分の身を海へと投げる。


 無気力に、無意識に、その体は海底へと沈んでいく。私はこの瞬間が好きだ。

 世界から切り離され、よく聞くフレーズだと世界に自分しかいない感覚。これがそれなのだろう。


 目を開けて上を見ると日が真上まで来ているのがわかる。けど眩しくない。この感覚が大好きだ。

 ――コツン

 頭の後頭部が何かに当たった感覚がする。それと同時に背中、太ももの後ろ、かかとにも何かが当たった感じを得る。


 起き上がり地面に足をつける。顔を上げ前を見る。そこは昔通っていた地面。いつもの道。思い出の中にある道。

 地面はひび割れ、とこどころに穴が空いている。

 かつての面影はあってもそれではない変な感覚。


 そのまま道すがらに歩くと……


「――ただいま」


 見慣れた家へと着く。

 何も気にせずに開いている扉から中に入り慣れた足並みで階段を登り、ある部屋へと入る。


 そこには本や漫画、おもちゃなどが宙に浮いており高校生の部屋だというのが見て取れる。

 机のうえには乱雑に書かれたノートがなぜかとどまり続けている。中身はひどくぐちゃぐちゃだがその人の努力が分かってしまう。


「今日も借りてくよ」


 宙にある本を何冊か手に取って私は家を出る。


「――じゃあ、またね」


 上を見上げると日が沈みかけてるのがわかった。最近になって時間の進みが早く感じてしまうようになった。

 これは年をとったということなのだろう。もしくは……


「うわ!デッカ〜」


 クジラが私の真上を飛んでいた。その横ではクラゲが漂い、魚たちも立派に泳いでいた。

 何を意味するわけでもないただの水中での景色。

 色褪せてしまった街と、色褪せることのない風景が同じ空間に存在している。そんな感じの…


 ――ハッと目を大きく開ける。海中のなかでボーッとしてしまう癖は早く直したい。


「さて戻ろうかな」


 泳ぎはもともと苦手だったがこの世界で住んでいくうちに得意になった。昔はクロールすらできなかったのにな…

 そんな事を考えてたらいつの間にか海上へと着いていた。昔は海上に出るのにどれだけ苦労したか…


 ボーッとしてしまったからだろう。海から出て辺りを見回すとすっかり夜になっていた。

 夜ご飯を食べ終えたら必ずする日課がある。

 手こぎボートを再度海へと出して体を乗せる。


 そしてしばらく漕いだあと辺りを見回す。

 そこには宝石があった。

 夜空という箱のなかに入っている宝石よりも輝き、常に光っている星々があった。


 星を見ると昔のことを少し思い出す。

 世界が沈む前。私が世界に縛られている時のこと。


 家から拝借して乾かした本をペラペラと捲る。

 ずっと海にあったせいで所々ひっついている部分や薄くなって読みづらい部分があるが破れてはおらず読めはする。

 辺りは暗いが星明かりで本の内容は分かる。


 今日手に取ったのは私にとって馴染みのある本。

 昔は時々読んでは泣いていた本。

 今読んでも泣けてくる。……いやこの涙はきっと――



 本を読み終わり辺りを見回すとさっきまであった星がいくつか消えていく。その変わりに新しい星が別方向から出てくる。

 夜に時の流れを感じるにはこの方法しかないと思う。それ以外は何も変わらないのだから。そしてそれすらも昔と何ら変わらないのだから。


 夜はまだまだ続く。その夜は想いを強制的に巡らせる。


 もしもあの日。世界が沈んだあの日に彼を救い出せてたら……

 もしもあの日。家族に黙って海中を飛び出さなかったら……

 もしも、もしも、もしも。


 「そんな事を考えてもしょうがない」そんなことは分かっている。

 「希望を持ったところで誰も来ない」そんな当たり前のことを今更言われても……


 後悔はあるが未練はない。だってこの道を選んだのは自分自身であり自分の欲だ。

 私は不変をいつも期待する。私は飽き性だから。

 私は孤独をよく大事にする。私は一匹狼だから。

 そして私は誰かが来ることを期待する。

 なぜなら私は寂しんぼうだから。


「あ~あ。暇だな〜」


 何か面白いこと……いや面白い人でも来てくれないかな〜

対戦ありがとうございました。

指摘部分があったら教えてください。たぶんすぐ直します。


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