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第9章 変化する見慣れた景色

朝の通学路は、いつもより静かだった。




 音がないわけじゃない。


 公共ロボットの稼働音も、誘導音声も、いつも通り流れている。




 それなのに——




 違和感だけが、はっきりとあった。




「……多くない?」




 アイラが小さく言うと、リオは即座に首を振った。




「見るな」




「え?」




「ランプ、見ない方がいい」




 アイラは思わず足を止めそうになる。




 通学路沿いに配置された公共ロボット。


 本来なら、青・黄・赤のいずれかのランプを灯しているはずだった。




 けれど、そのうちの一体。




 色が、重なっていた。




 ——紫。




 ありえない色。


 規格上、存在しない状態。




 リオは、そのロボットの視界に入らないよう、


 ほんのわずかに進路をずらして歩いていた。




「……あれ、異常なの?」




「異常」


 即答だった。


「中身が、違う」




 それ以上、リオは何も言わなかった。




 




 教室に入ると、空気は一変した。




「おはよー!」




「昨日のカスタム、マジ楽しかったな」




「ダニー、あの立ち回り神だったわ」




 次々と聞こえてくる声。


 ゴーグルを外した顔が、あちこちに見える。




 ダニーが手を振ってきた。


 金色がかった髪に、少し日焼けした顔。




「なあアイラ、リオ」


「また今度、クラス全員でカスタムルームやろうぜ」




「うん」


 アイラは笑って頷いた。


「楽しかったね」




 本心だった。




 ZERO HAVENのカスタムルーム。





ZERO HAVENには、あらかじめ知っている相手だけで遊べる「カスタムルーム」という仕組みがある。


通常の対戦は、不特定多数のプレイヤーが自動で集められ、

知らない誰かと戦うことになる。


けれどカスタムルームでは違う。


ルームを作った人が「鍵」をかけ、

フレンド登録している相手や、

事前に招待した人だけが入れる空間になる。


外からは見えない。

勝手に参加されることもない。

完全に閉じた、小さな世界だ。


だから、

練習用に使われたり、

友達同士でふざけて遊んだり、

勝ち負けを気にせず楽しむために使われることが多い。




昨晩、クラスメイト全員参加でカスタムルームで遊んだ。


ZERO HAVENが得意な人、やった事ない人、当分やってなかった人、全員が参加した。


 リオの炎上がきっかけで、


 皮肉なほど、クラスは一つになっていた。




 ゴーグルを外して話すこと。


 相手の表情を見ること。




 それが、こんなにも心地いいなんて。




 ——ここは、居場所だったんだな、と思えた。









 昼前。




 担任教師が、教室に入ってきた。




 スピーカー越しではない。


 実体として、そこに立っている。




「こんな顔だったっけ?」


 ざわめきが走る。






「……リオ君、アイラさん」


「少し、来てください」




 二人だけ。


 理由は、告げられなかった。




 




 廊下の端。


 人の気配が途切れる場所。




 教師は、周囲を確認してから、声を落とした。




「正式な理由は、言えません」


「ただ……在学の許可が、取り消される通達が来ています」




「……え?」




「君たちが何かをした、という話ではない」


「それだけは、信じてほしい」




 教師の指が、わずかに震えていた。






「“適合者”と呼ばれる存在は知ってるね?埋め込みデバイスの適合者」




「彼らが何かを探している」




 断片的な言葉。


 それでも、線がつながっていく。




 ウマハラの炎上。


 R10という名前。


 学生に向けられた視線。




「……大人の社会に紛れ込んでいると思われてたらしい」


「でも、違った」


「最近のネットの炎上から、学生に紛れた存在に気付いたみたいだ」

た。




 教師は、そこで言葉を切った。



「ここまでです」


「これ以上は、話せない」




 それでも最後に、小さく付け足す。




「私は、生徒の味方です」




 




 放課後。




 校門を出たところで、セナとユウトが待っていた。




「……マジかよ」




 セナは、笑おうとして、失敗した。




「もう、学校来れないって?」




「うん」


 アイラは、できるだけ軽く言う。


「でも、すぐじゃないし」




「クラスのみんなには?」


 ユウトが聞く。






「心配しないでって伝えておいて」




「また一緒にゲームできるしね」


 アイラは冗談めかして言った。


「家で暇になったら、配信でも始めよっかなー」




 セナが、苦笑する。




「相変わらず、そういうとこだな」




 一瞬、沈黙。




 言葉にしなくても分かっていた。


 ここで区切りが生まれていることを。




「……また連絡する」


 ユウトが言う。


「絶対」




「うん」




「追われるとか、そういうのじゃないよな?」


 セナが念を押すように聞く。




「可能性はある」


 リオが答えた。


「でも、出来る限り手を打ってみる」




「ええ、お前達何に立ち向かおうとしてんだ、、、」


心配そうなユウトの顔は見てられなかった、、、。




 四人は、校門の前で立ち尽くした。




 それぞれ、違う方向へ帰る。


 いつもと同じはずなのに。




 今日は、少しだけ重かった。




 振り返らずに歩き出したセナとユウトの背中を、


 アイラは、しばらく見送っていた。







 通学路に戻ると、


 紫のランプを灯すロボットが、少し増えていた。




 リオが、低く息を吸う。




「これから何が起こっても僕の判断を信じてくれますか?」




「なんで?」




「最悪の事態を想定して、、、」




 アイラは、答えなかった。




 夕方の光の中で、


 街はいつもの見慣れた景色だ。




 それが、何より怖かった。





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