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第5章 静かな余波


結局、そのマッチでチャンピオンを取ることはできなかった。




ウマハラを倒した直後、

リオは倒れていた三人を、順に蘇生しながら言った。




「いやー、この人めちゃくちゃ強かった。危なかったよー」




「……助かった」


「ほんとに、生き返った……」




セナとユウトは、まだ興奮が抜けきらない様子だった。

声は上ずり、操作もどこかぎこちない。




だが、それ以降のリオの動きは、明らかに精彩を欠いた。




遮蔽物の少ない場所へ進む。

詰める必要のない距離で、前に出る。

判断が、さっきまでよりも雑だった。




「あっ……」

「え、リオちょっと待って!」




数発の銃声。

リオのキャラクターは、あっさりと倒れる。




観戦画面に切り替わった。




「また良いとこ見せようとしてー!」

セナが笑う。




「さっきは助けてもらったけど、さすがに今のは助けられないー!ごめーん」

ユウトも笑いながら言った。




「いやー、やりすぎた」

リオは軽く肩をすくめる。




それでも、最終順位は三位。

終盤まで生き残り、アイラのレートは上がっていた。




——目的は、果たされていた。















マッチ終了後、四人はロビーに戻った。




「はー……」

セナが大きく息を吐く。

「さすがに疲れた。情緒が追いつかねえ」




「めっちゃ楽しかった!」

ユウトは素直だった。

「映画じゃん。あれ生で見ていいやつじゃないでしょ」




「……ねえ」




アイラが、少し間を置いて言う。




「リオ、カッコよすぎでしょ」

「でも、その後の動きはマジであり得ない」

「わざと突っ込んで行ってない?」




「分かるわー!」

セナが即座に乗る。

「調子いい時に突撃して自滅するやつ」

「リオも人間らしいとこあるじゃん」




笑い声が重なる。




「何言ってんの? 人間だよーだ」

リオは、わざとらしくおどけた。




空気は、そこで一度、和らいだ。




——アイラ以外は。













終盤のリオの動き。

あれは、ミスじゃない。




(……わざとだ)




今までも、似た試合はあった。

強さを見せた直後、急に雑になる。

勝てる局面で、踏み込まない。




ただ今回は、

ウマハラという“本物”を相手にしたせいで、

差がはっきりと浮き彫りになった。




完璧な制圧。

その直後の、不器用な自滅。




同じプレイヤーのものとは、思えなかった。




アイラの中で、生まれていた疑念が、

確信に近い感情となり、形を持ち始めていた。










「なあ、さっきの動きさ」

ユウトが目を輝かせる。

「ニュースで見る、公共ロボットの鎮圧シーンに似てなかった?」




「あー!」


セナが身を乗り出す。

「無駄が一切ないやつだろ?」

「最短で詰めて、最短で倒す感じ」




「そうそう!」

「リオ、あれだったよな!」




二人は、ただ楽しくて仕方がないという顔で笑う。

ヒーローの話をする子供みたいに。




その無邪気さが、

アイラの胸に、小さな違和感を残した。













この社会では、暴動やテロは珍しくない。




だが、それを「人間」が鎮圧する光景は、

埋め込みデバイスの暴走以降、ほとんど見られなくなっていた。




街角の公共ロボット。

駅の案内機。

清掃用、警備用、配送用。




普段は無害なそれらが、

ある瞬間、同時に動きを変える。




人を囲み、押さえ込み、制圧する。




ニュースは、それを淡々と伝える。

——「秩序は回復しました」。




それを操っているのは、

ごく限られた「埋め込みデバイス適合者」だと囁かれている。




彼らは英雄と呼ばれ、

時に、神のように扱われる。




一方で、大人たちの間には、消えない疑問もあった。




本当に、悪かったのは誰なのか。

ロボットは、誰の判断で動いているのか。

反対意見を持つ人間を、排除してはいないのか。




だが、それは噂に過ぎない。




確かめる術はなく、

口にすれば、厄介者扱いされる。




——だからこそ。

一般人がロボットを私的に所有することは、重罪だった。




誰もが薄々、理解している。




あれは、力だ。

社会を支えるための、

支配の、根幹だと...















「……ねえ、リオ」




「?」




「もし、バレたら……」




「大丈夫」




即答だった。




「この前も公共ロボット来たし」

リオは、何でもないように言う。

「異常なしで帰って行ったよ」




「検査、されたんでしょ?」




「されたよ」


「じゃあ……」


「データを書き換えただけ」



あまりにも、簡単そうに。



アイラは、言葉を失った。




——この人は。


自分が思っているより、ずっと遠い。












その夜。




セナの配信アーカイブで、

問題のシーンが何度も再生されていた。




『【切り抜き】ウマハラ vs 謎のR10』




再生数は、まだ多くない。




だが、確実に増え始めている。




——静かな余波は、

もう、逃げ場を失いつつあった。


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