第4章 ウマハラ視点
「はいどうもー、ウマハラビースTVです」
軽い挨拶と同時に、コメント欄が一気に流れはじめる。
『きたー』
『待ってた』
『今日なにやるん?』
「今日は恒例ね。視聴者参加型の野良マッチ行きます。
ランクは……ダイヤ帯か。いいね、歯応えある」
ロビーを眺めながら、ウマハラは少しだけ口角を上げた。
「じゃ、行ってみよっか」
カウントダウンが始まる。
「わー、結構激戦区選ぶねえ」
降下中、視界の端で複数のパラシュートが開く。
「まあまあ、俺が前出るから大丈夫。
後ろの二人、足音立てないで隠れてて」
着地直後、銃声。
「あー……ごめん、今のフォロー届かなかったな。
チョロさん、確殺入れられたわ。ごめんね」
『切り替え切り替え』
『ドンマイ』
「大丈夫大丈夫。
ちょっと周辺片付けるから、残りは待ってて」
そう言って、迷いなく前へ出る。
近距離戦。
遮蔽の使い方も、詰める角度も、すべてが速い。
パンッ、パンッ
「はい一人。
もう一人……っと」
銃声が重なる前に、相手が倒れる。
「よし、ワンパ終了」
『はや』
『一瞬じゃん』
『魅せプきた?』
「まだまだ。
AKMと、スナ欲しいなー……」
物資を漁って、ふと手が止まる。
「あ、あったわ」
スナイパーライフル。
「はい勝ちセット」
『うお』
『それ引いたら終わりでしょ』
少し移動した先、小さな集落。
「ん?
撃ち合いやってるねえ。見に行こ」
丘の陰から覗く。
四人編成。
動きは綺麗だが、判断が一瞬遅い。
「いるいる」
スコープ越し。
ダンッ
「はい一人」
車のエンジン音。
「あー、逃げる判断は早いね」
狙いを定める。
ダンッ
umamama sniper ▶︎ down A1ra
「おー、落とした」
『うわ』
『今のヤバ』
『運転席抜いた!?』
「ちょっと出来すぎだな今のは。
ごめんねー」
車が止まる。
「運転席ヘッショか。
マジで綺麗に入ったな」
『確殺いけない?』
『遠くね?』
「距離あるね。無理はしない」
一息つく。
「そろそろ場所変えつつ移動するか」
そう言った、その瞬間。
視界が弾ける。
R10 sniper ▶︎ down umamama
「……え?」
一瞬、思考が止まる。
次に、笑った。
「ヤッベ。落とされた」
『え!?』
『今のなに!?』
「ダイヤ帯だよね?
支配者混じってたかー」
キルログを見る。
「R10……聞いたことない名前だな」
ほんの少し、胸が高鳴る。
「いや、でも今の一発は納得だわ。
敵ながら、あっぱれ」
『一般人に落とされたwww』
『草』
「いや、一般人じゃないでしょ今の」
少し考えてから、笑う。
「正直さ。
このまま蘇生されずにキルカメラで相手のリプレイ見たいくらいだったよ」
『それはダメw』
『起きろw』
「はいはい」
ウマハラは、気楽な声で言った。
「カワムラくん、ごめんねー。起こせる?」
だが内心では、はっきりと理解していた。
——さっきのは、運じゃない。
ダイヤ帯に紛れ込んだ“何か”がいる。
配信画面の向こうで、コメント欄はさらに速度を上げていく。
この試合は、
もう“ただのキャリー配信”では終わらない。
車はしばらく、銃声の少ない方向を選んで走り続けた。
「いやー、危なかった……」
セナが息を吐く。
「あのまま追われてたら終わってたね」
アイラが言う。
「一旦、過疎地回って物資集めよ。立て直そう」
「もうあんなのと接敵したくねぇ……」
ユウトが本音を漏らす。
少し沈黙が落ちた、その時。
「……ちょっと待って」
セナが言った。
「リオのスナイパーさ、
スコープ付いてなくない?」
一瞬、空気が止まる。
「え?」
「マジだ……」
ユウトが画面を凝視する。
「等倍じゃん、それ」
リオは、少し間を置いて答えた。
「……無我夢中だった。
狙って撃ったというより、来ると思った所に合わせただけ」
「マグレってこと?」
セナが聞く。
「そう、だと思う」
ユウトが、小さく笑った。
「それ、もう一回接敵したら分かることじゃね?」
全員の視線が、一瞬だけリオに集まる。
「少なくともさ」
ユウトが続ける。
「俺の目から見て、
どっちが強いのか、まだ分かんねえもん」
アイラが、静かに言った。
「……集落、そこそこ漁ったら強ポジ行こう」
「え?」
セナが声を上げかける。
「私も、知りたい」
アイラの声は落ち着いていた。
「リオが、どれくらいなのか」
一拍。
「いつも一人だけ生き残った時、
私たちに気を遣って、
わざと落ちてるように見える時あるんだよね」
リオは、何も言わなかった。
「乗り気じゃなさそうだね」
セナが苦笑する。
「……勝ちたいなら、今はそうするのが最善」
リオはそれだけ言った。
「よっしゃ、またアンチ入った!」
セナの声が上ずる。
「この建物が一番強ポジだな。
アイラ、読みすげえ!」
だが、すぐに声のトーンが落ちる。
「……そんな事言ってる場合じゃねえ」
キルログ。
消えない名前。
「ウマハラ、ずっと途絶えてない」
アイラが頷く。
「タイミング的に……
ここ、凸って来る」
その瞬間。
「うわっ!」
ユウトの叫び。
umamama sniper ▶︎ down U_610
「やられた!気絶!」
「ヤバい、ウマハラだ!」
セナが言い切った、その足元。
金属音。
「え?」
ボォン!
umamama BOM ▶︎ down S-ena
「……は?」
アイラが息を呑む。
「こんなに簡単にダウン取れるものなの……!?」
即座に判断する。
「スモーク炊く!
二人は隅に隠れてて!」
「俺たちはいい!」
ユウトが叫ぶ。
「相手に集中して!」
白煙が広がる。
足音。
早い。
「……はっや」
「もう二階まで来てる……!」
アイラは、最強ポジションに構えた。
「この建物、立ち回り有利。
正面から来るなら……」
リオが低く言う。
「アイラ、ポジキープ」
「無理に撃たず、牽制だけして」
「その隙に、僕が落とす」
「オッケー!任せて!」
次の瞬間。
「きゃっ——!」
umamama AR ▶︎ down A1ra
「うっそ……」
アイラの視界が沈む。
「顔だけ出して撃って来ると思ったのに……
一気に駆け上がって来た……」
***
──ウマハラ配信。
「おっ」
キルログを見て、声が弾む。
「ビンゴ。
やっぱこのパーティだ」
コメント欄が荒れる。
『きたw』
『因縁のやつらw』
「残る一人……」
「お前がR10、だよな?」
少し、楽しそうに笑う。
***
煙の中。
リオは、一人立っていた。
「……」
あえて確殺は入らない。
時間だけが、静かに削られていく。
「わざとか……」
気絶したまま、セナが呟く。
「猛者のマナーってやつか、
早くしないと蘇生出来なくなっちゃうよってプレッシャーか——」
リオは、スナイパーライフルからウージーに持ち替えた。
無駄に身を隠れない。
煙の中から、正面に立つ。
逃げではなく、撃ち合いの体勢。
──次の瞬間。
リオが、反射的に飛び退いた。
同時に。
壁から、黒い影。
顔だけが一瞬現れ、引っ込む。
また現れ、消える。
ダダダン、ダン、ダダダダダン——!
四発、五発。
正確で、速い。
「早い……!なんで今の避けられた!?」
ウマハラの声が、半ば笑いに変わる。
リロードする余裕はない。
リオは下がりながら、壁に跳ね返るように手榴弾を投げる。
カラン
転がったそれは、
ウマハラ自身を通り越し、背後へ。
爆発まで、四秒。
一瞬の空白。
ウマハラは、歯を食いしばった。
「なんだよ、俺にプレッシャーかけてくるの?!」
突進。
ジャンプ。
空中で、AKMを撃ちながら距離を詰める。
虚を突かれたリオは、一発、被弾する。
だが、止まらない。
そのまま、ウージーで応戦。
近距離。
火花と反動。
そして——
カチ
AKMが弾切れ。
ウマハラは即座にスナイパーへ持ち替え、
引き金を引く。
だが、
その僅かな瞬間。
ウージーの弾丸が、
確実に、残りの体力を削り切った。
R10 SMG ▶︎ kill umamama
一瞬、世界が静かになる。
「……?」
次いで、歓声。
「うおおおおお!!」
「勝った!!」
「スゲー!!」
ウマハラは、床に倒れた画面を見ながら、
笑った。
「やるなぁ、彼」
コメント欄が爆発する。
『神』
『今の判断えぐい』
『R10確定』
『コイツつえええ!』
「やっぱお前か」
ウマハラは、楽しそうに言う。
「R10だと思ったよ」
「……さすがにツッコミすぎたな、俺」
「でも、いいもん見せてもらったわ」
煙が晴れていく。
リオは、武器を下ろした。
息は、乱れていない。
ただ一言だけ、マイクに落とす。
「……ありがとうございます」
それだけだった。
だがその一戦で、
誰が“本物”かは、十分すぎるほど伝わっていた。
アイラ達にも、、、




